離婚と自宅(不動産)

離婚時財産分与、持ち家に関する6つのストーリー

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離婚時の財産分与でもめがちなのが持ち家の分与についてです。今回は、よくある事例をご紹介したいと思います(実例ではありません)。

夫名義の家に妻子が住む場合

夫:45歳 会社員
妻:43歳 パート
長女:8歳 小学3年生

持ち家:9年前に3500万円で購入。夫名義。住宅ローン残高1500万円

夫婦は10年前に結婚。子どもが生まれた頃からいわゆる産後クライシスで夫婦関係が悪化。夫は、妻との離婚を考える日々だったが、子どものためにと関係を継続してきた。しかし、子どもの前での夫婦げんかが絶えず、かえって子どもによくないとの結論に達し、夫が離婚を決意。妻は、渋々であったが、離婚後の生活の保障を条件に離婚に合意。

離婚にあたって、持ち家の分与が問題となったが、妻子の生活保障の観点から、妻子が継続して住み続けることとし、夫が家を出ることになった。不動産の他には大した財産はなかったが、夫としても子どもの生活を守ってやりたかったし、離婚できるならという気持ちもあった。一方で、自分が住んでいない家の住宅ローンを返済し続けるのは金銭的にも心情的にも困難であったため、名義も住宅ローンも妻が引き継ぐことを希望した。

ただ、調べた結果、パートである妻が住宅ローンを組むのは難しく、名義変更もできないとのことであった。そのため、妻は離婚を機に正社員として就労することとし、3年後を目途に住宅ローンの借り入れと不動産の名義変更を目指すこととなった。

夫は、3年間という期間限定であること、夫が住宅ローンを支払っている間は養育費を減額することを条件に合意した。

解説:この事例のように、妻子が継続して居住するけれど、不動産の名義も住宅ローンの契約者も夫というケースがあります。妻に住宅ローンを借り換える経済力がある場合、離婚と同時に不動産の名義変更と住宅ローンの借換えができます。しかし、妻の経済力が十分ではない場合も多く、夫の名義のまま住み続けることになります。この場合、夫の住宅ローン支払いが滞ったり、売却のために退去を求められたりといったリスクが伴います。そのため、この事例のように、離婚時には名義変更が難しかったとしても、変更を目指して正社員として就労することをお勧めします。

オーバーローンの場合

夫:35歳 会社員
妻:34歳 パート

持ち家:5年前に4500万円で購入。フルローンだったため、ほとんど残高が減っておらず、離婚時の住宅ローン残高は4200万円。査定は4000万円。

夫婦は5年前に結婚。結婚してすぐにマンションを購入。名義は夫、住宅ローンも夫であった。子どもを持つか否かで夫婦の意見が一致せず、子どもが欲しかった妻は離婚を決意。

夫も離婚に応じる意思を見せたが、居住用不動産の扱いに悩むこととなった。購入当時より景気が悪くなっていることもあり、オーバーローンが予想されたからである。ただ、夫婦ともに、心機一転のため転居を希望しており、住み続けたいとは思っていなかった。

どちらも住みたいとは思っていない、しかし売却しても損が出る、という状況で二人が選択したのは、夫が取得した上で住宅ローンの支払を継続し、オーバーローンが解消された時点で売却するというものであった。

夫も転居を希望していたものの、オーバーローン解消がそう遠い未来ではなく、それまで家賃を支払っているつもりで住宅ローンを返済すればいいと考え、納得した。

解説:オーバーローンの場合、この事例のようにどちらかがオーバーローンではない状況になるまで住み続けるという選択肢の他、預貯金など他のプラスの共有財産や親からの援助などを充当する方法や任意売却という方法があります。ただ、任意売却は様々なリスクや不利益もありますので、注意が必要です。

ペアローンの場合

夫:48歳、会社員
妻:45歳、会社員
長男:12歳
二男:9歳

持ち家:10年前に妻の両親名義の土地に2000万円で戸建てを建築。ローンはペアローン、名義は共有名義。

共働きだった夫婦は、子育ての援助が得られ、かつ建物だけの費用で自宅が持てることから、妻の両親が住む敷地の一角に自宅を建てた。しかし、徐々に夫が疎外感を感じるようになり、妻の両親との関係が悪化、離婚に至った。

夫が家を出ていく形となったが、建物の名義とペアローンが問題となった。夫の希望としては、家を出ていく以上、自分の持分を妻に分与することで異論はなかったが、自分の住宅ローンは解消したいと考えていた。

しかし、妻の収入では夫の住宅ローン分も含めた金額での借換えが難しかったことから、妻の両親の収入も合算し、何とか夫の住宅ローンを解消することができた。

もう一点、夫としては、これまで住宅ローンを返済してきた自宅の自分の持分を無償で妻に分与するような形になるため、できればその分現金で分与を受けたいという気持ちがあった。しかし、大した預貯金もなかったことと、土地の所有者が夫婦ではないことから、建物の価値といっても正しい査定が難しいこともあり、現金での分与は諦めた。

解説:この事例では、難しい点が2点あります。まずは、土地と建物の所有者が異なるいう点です。この場合、建物のみで売ることができず、「売却したらいくらになるか」という査定が困難になります。どちらかの両親の名義の土地に家を建てるということは、リスクがあるということを覚えておきましょう。

また、ペアローンについても、一方の名義で借り換える経済力(信用力)がない場合、離婚をしても、名義も住宅ローんもそのまま変えられないという事態になってしまいます。そのため、土地を所有している両親と収入合算するなどして、居住する側が住宅ローンを借り換え、不動産の持分を変更できるようにしましょう。

住宅ローン完済の場合

夫:56歳 会社員
妻:53歳 専業主婦
長男:18歳
二男:15歳

持ち家:16年前に郊外に一軒家を購入。名義は夫、住宅ローンは完済。

婚姻期間のほとんどが単身赴任であった夫が役職定年を機に自宅に戻ってきたが、冷めきった夫婦の同居は苦痛でしかなく、夫は離婚を希望。一方、妻は、夫への愛情はないものの、専業主婦が故の生活の不安が大きく、離婚に踏み切れずにいたが、自宅を分与してもらうことを条件に離婚に合意。

夫としても、これまで家庭を守り、子どもを育ててくれた妻への感謝の気持ちもあり、専業主婦の妻が将来に不安を感じることも理解できたため、分与に応じることにした。

解説:住宅ローンを完済している場合、不動産に関し、経済力がない妻への名義変更も可能になり、分与の選択肢の幅が広がります。

売却して分与する場合

夫:42歳、自営業
妻:35歳、専業主婦
長女:8歳
二女:5歳

持ち家:5年前に都心のマンションを購入。住宅ローンも不動産の名義も夫。

夫のモラハラが原因で妻が実家に戻る形で別居が開始。離婚協議の際、夫としては、子どもと頻繁に会いたかったことから、妻子が継続して自宅に住み、自分が出ていくことを提案。その代わり、養育費は多少減額してほしいと主張した。しかし、妻としては、実家に戻れば家賃は無料なので、養育費を減らされる方がデメリットであるし、夫の支配下から抜け出せないような気がして拒否。

夫としては、妻が戻ってこない以上、自分が世帯用の大きなマンションに住む必要は全くなく、売却した上で、売却益をそれぞれ2分の1ずつ取得することにした。

解説:持ち家に住み続けるかどうかは、金銭面のみではなく、心情面も大きく関係してくることがあります。このケースのように、「清算」の意味合いから家を出ていくことや売却を望むこともあります。

他の財産がなくやむを得ず売却する場合

夫:65歳、無職
妻:62歳、パート

持ち家:25年前に3800万円で購入したマンションは既に住宅ローンを完済済み。名義は夫名義。

既に子どもが独立し、世帯用マンションに夫婦ふたりだけで住んでいたが、夫の定年退職後、妻が離婚を決意。既に夫との関係は冷えきっていたが、毎日家に居て高圧的な態度を取る夫との生活に我慢ができなくなった。

夫も離婚自体には渋々応じたものの、自宅を取得することを希望。夫にとって、家はこれまで自分が働いてきた証のような存在であり、また、この歳になって住み慣れた家から転居することが考えられなかった。

既に購入から25年が経過しているものの、売却すれば3000万円程度になったため、夫が不動産を取得するためには、妻に1500万円を支払う必要がある。しかし、2人の子どもを育てあげた夫婦の財産は、住宅ローンのなくなった不動産のみであり、夫はどこからも費用を捻出することができなかった。

当初、夫はそんなことならと離婚に反対していたが、妻が家を出てしまったこともあり、離婚裁判になるくらいなら、結果的に自宅の売却に同意し、売却益を2分の1ずつ取得した。

解説:住宅ローンを完済している場合、分与の方法について選択肢が増えると前述しましたが、住宅ローンがない分、不動産価値が上がることにもなります。そのため、その他の財産に余裕がない場合、不動産を取得する側がしない側に支払いができなくなり、売却せざるを得ないこともあります。

このように、離婚時の持ち家の処分について、様々なケースが考えられます。ご夫婦だけでは解決が難しい際は、是非、ご相談いただければと思います。まずは、お1人でご相談になられたい場合は離婚カウンセリングにお申込みください。お二人のお話合いの仲介をご希望の方はADRをご利用いただければと思います。

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