離婚カウンセリングでよく相談を受けるのが、相手との離婚協議の進め方についてです。どうすれば早期に、かつ紛争性を高めず話合いができるか、難しい問題です。特に、離婚公正証書や離婚協議書を作成する場合は、お互いの利害関係が浮かび上がってきますので、穏便に話し合いを進めるのが難しかったりします。
協議の進め方や交渉の仕方は、人それぞれ方針がありますし、相手の性格にもよります。そのため、どの方法が一番ベストということは難しいですが、以下に、私が思う「ベスト」をお伝えしたいと思います。
決めるべき項目を確定
まずは、離婚公正証書や離婚協議書に記載すべき項目を決定します。夫婦によって、決めるべき項目は違いますが、まずは、何について取り決めたいか、考えておくことが大切です。以下に例を書いておきました。
財産分与
子どものあるなしや不貞のあるなしにかかわらず、ある程度の婚姻期間の長さがある方全員に関係してくるのが財産分与です。財産分与とは、婚姻期間中の夫婦共同財産について分割することを言います。
分与対象財産
分与の対象となる財産は、離婚時(別居時)の財産から夫婦のそれぞれが独身当時に獲得した財産(特有財産)をひいたものです。例えば、夫がいくら資産家であっても、婚姻期間が短ければ、あまり財産分与は期待できません。また、独身時代の預貯金で購入した株が値上がりした結果増えた財産も特有財産となり分与の対象にはなりません。
争いそうなものは細かく決める
預貯金や不動産、株券、保険、自動車などが分与の対象になることは皆さん想像がつくと思います。しかし、他にも、宝石や高価な家具など、よく考えてみれば「財産」と呼ばれるものが意外と多かったりします。一方は「これは自分がもらったもの。」と思っているものでも、もう一方にとっては夫婦共有財産だったりもします。そのため、公正証書を作成した後になって、「これは私の」、「いや、俺のだ」と争いにならないよう、あらかじめよく考えて財産をリストアップしておきましょう。
婚姻期間が長くなればなるほど、財産関係が複雑になり、すべての財産を明確に把握することが難しくなります。なるべく別居前に全財産を把握しておいた方がいいでしょう。
分与の割合
分与の割合は自由に決められますが、裁判所の審判で決定する場合は、財産の名義が誰になっているかに関係なく、半分に分けられることが多いため、一つの基準として知っておいていただければと思います。
「自分が外で稼いでいる間、妻は家でのんびりしていただけなのに。」とか、「共働きなのに、私一人が家事・育児をやっていた。」という不満から、夫婦共有財産を半分ずつに分割することに抵抗を感じる人もいるかもしれません。しかし、一方が有名スポーツ選手であるなど、財産の増加がもっぱら個人のタレントによる場合以外は、「半分ずつ」だと思っておいた方がいいでしょう。
慰謝料
慰謝料は、いわば、心に負った傷に対するお金です。そのため、その内容は様々ですが、中でも多いのが、不貞、DVを理由とする慰謝料です。
婚姻期間中の不貞やDVによる心の傷をお金に換算すること自体が難しいものです。しかも、思っている以上に慰謝料の相場金額が低いことにもがっかりされることと思います。
養育費
養育費は、子どもを育てている方の親がもう一方の親に請求するお金です。基本的には、毎月いくらという形で決めますが、将来の不払いを防ぐため、一括払いで定めるウルトラCもあります。この場合、もらう方のメリットばかりではなく支払う方にもメリットがないと成立しませんので、毎月払いの合計金額より相当程度低い金額で合意することが多いようです。また、その際は、贈与税がかかる場合もあるため、注意が必要です(離婚と税金の関係についてはこちらをご覧ください。)。
養育費については、そのほかにもたくさん知っておいてほしいことがありますので、よければ下の文章も読んでみてください。
幸せ養育費のすすめ
養育費が足りないわけとその解決方法
養育費における本当の勝ちとは?
養育費が支払われない場合の完全マニュアル!
年金分割
次は年金分割についてです。これも忘れず記載しておきましょう。ただ、平成20年以降に婚姻した夫婦については、離婚後、分割してもらう側の単独の手続のみで足りますので、記載は不要です。
意外と新しい年金分割の制度
夫が外で働き、妻が家庭で子育てをしているようなご夫婦の場合、夫の定年後どのような形で年金を受け取ることになるのでしょうか。多くの場合、夫の年金が20万円前後、一方妻は10万円以下、という程度の差が生じます。
以前は、この年金受給額の差がネックとなり、熟年離婚を踏みとどまっている妻たちがいました。いくら財産分与をしてもらっても、この先何年生きるか分からない中で、月額数万円程度の年金で生活していくのは不安なものです。
しかし、平成19年にそんな妻たちのためにできたのが、年金分割の制度です。年金分割制度ができる数年前から離婚率が抑制される結果となるほど、熟年の妻たちには待ち望んだ制度だったのです。
分割の対象となる年金
全ての年金が対象となるのではなく、対象となるものが決まっています。制度の趣旨からすると、すべての年金を対象にしてもらいたいという気持ちもありますが、残念ながら、今のところは一部の年金が対象外になっています。
年金分割の対象となるのは、厚生年金と旧共済年金(平成27年10月に旧共済年金が厚生年金に一元化されました。)です。そのため、配偶者が自営業で国民年金にしか加入していないような場合は対象にはなりません。ただ、自営業であっても、有限会社にしていたり、株式会社などの会社組織の常勤役員として報酬を得ている場合は、厚生年金に加入しているはずですので、対象となります。
分割割合
分割割合については、「合意分割」や「三号分割」と言った言葉を使って説明されることになります。若干ややこしい説明になりますので、詳しくはこちら「円満離婚のための年金分割」を読んでいただければと思います。基本的には、分割割合は半分ずつです。
親権
夫婦の間の子どもがまだ未成年の場合、親権者を指定することになります。日本は共同親権ではない上に、親権者を決めなければ離婚できませんので、離婚の際の大きなハードルになることがあります。
現在の日本では、母が親権者となる場合が約9割と非常に高い割合となっています。しかし、社会の変化に伴い、親権者の争いにも少しずつ変化が見られるようになってきました。
女性の社会進出やイクメンの増加は、それ自体はとても歓迎すべきことなのですが、親権争いを激化させる要因になることがあります。ただ、やみくもに親権を争うのは、将来の親子関係にひびを入れることにもなりかねません。
ましてや、親権争いをほかの離婚条件との駆け引きに使うなどは持ってのほかです。どちらの親と暮らすことが、長い目で見て子どものためになるのか、という視点で話し合ってほしいと思います。
面会交流
子どもと別居している親が会うことを面会交流といいます。親と子どもが会うために、わざわざ公正証書で定めることが必要なのかと不思議に思う方がおられるかもしれませんが、一部の夫婦や親子にとって、自然な面会交流がとても難しかったりします。
家庭裁判所でも、面会交流調停の件数がここ数年うなぎのぼりです。裁判所で調停などしなくて済むよう、父母それぞれが「子どものため」という同じ目的のために協力してほしいと思います。
面会交流については、子どもの予定や体調に合わせて臨機応変に行えるよう、「月に1回程度」などと、緩やかに決めておくのが基本です。しかし、緩やかであるがゆえに紛争の種になることがありますので、「ここはもめそうだな」というポイントについては、あらかじめ細かく決めておくことがいいでしょう。
決めるポイントは、①連絡方法、②会う頻度、③時間、④キャンセルの場合の取り扱い、などです。
それに加えて、各ご夫婦独自の必要な項目を追加していきます。財産分与の内容は、一般的な不動産や預貯金のほかに、様々なものが考えられますし、学資保険はかけ続けるか、解約して分与するか、面会交流は祖父母の同席を許可するか、など様々なことが考えられます。
各項目について自分の希望を決める
記載すべき項目が決まれば、次はその項目に自分の希望を具体的にのせていきます。例えば、「財産は二分の一ほしい」とか「養育費は〇〇円ほしい」「面会交流は月に〇回会いたい。」などです。
まずは、自分の希望を具体的に考えなければ、前には進めません。例えば、養育費の金額について「なるべく多くもらいたい。」とか「あちらから金額を提示されてから考える。」では相手に気持ちが伝わりません。
自分の主張の妥当性を確認する
このステップが一番大切で、でも難しいところです。自分の希望が明確になったところで、その希望が一般的に通るものなのか、それとも無茶を言っているのか、という判断が必要です。また、「一体、相場はどうなんだろう。」と気になる場合もあるかと思います。
そんな場合は、弁護士さんの法律相談や法テラスでの相談がお勧めです。まだ離婚に迷いがあったり、いろんな相談ごとが未整理のまま頭にある場合、法律相談は思わぬ方向に導かれてしまったりしてお勧めではありませんが、聞きたいことがはっきり具体化している場合はとても有効です。
相談の際は、ご夫婦の状況や自分の主張を明確にした上で(メモにまとめるなどするとベストです)、専門家の意見を聞いてみてください。そして、できれば、2,3か所は相談に行くことをお勧めします。より答えが明確になりますし、最終的に弁護士に依頼するときも、再度法律事務所を探しなおさなくて済みます。
自分の主張と相場を併せて相手に書面で伝える
このステップも相手と交渉する上での肝になります。まずは、自分が希望する離婚条件を伝えた上で、相場とその根拠も一緒に伝えます。そして、主張はできれば書面で行ってください。口頭で伝えきれる内容ではありませんし、あやふやになってしまいます。また、メールやLINEで送るにはあまりに軽すぎます。きとんと紙に書いて伝えましょう。場合によっては、内容証明郵便で伝えてもいいと思います。
あなたの交渉の基本姿勢を示す
離婚交渉を始めると、お互いに疑心暗鬼になり、「自分は払わされすぎてるんじゃないか。」「自分は損するんじゃないか。」といった思考に陥ります。そうなると、何を主張されても反論したくなったり、決断できなくなったりします。
ですので、だましあいや駆け引きではなく、「妥当な線で収めたいのだ」という点を強調する必要があります。また、「妥当な線」ではなく、特別な思いがあるのであれば、それを伝えることも大切です。以下に例文を書きます。
妥当な線で収めたい場合
私は、「最初は高めに提示して段々譲歩する」というような交渉をしようとは思っていません。最初から妥当だと思われる金額を示しているので、あたなも、あなたなりに相場を調べ、お返事がほしいと思っています。最後ぐらい、誠実な話合いをしたいです。
想いを伝えたい場合
私が要求している養育費は相場より2万円高いのは百も承知です。しかし、あたなの不倫で離婚せざるを得なくなり、そのために子どもに不自由な思いをさせることになりました。この上乗せの2万円で、あなたの子どもたちへの謝罪の気持ちを示してほしいと思っています。
まとめ
離婚公正証書に記載する離婚条件に関する話合いを円満に進める秘訣は、何と言っても①妥当性と②具体性です。
妥当性は上述のとおり、「自分は無茶を言っていない、相場を主張しているだけだ。」ということです。
そして、具体性とは、金額や面会交流の回数など、具体的な数字で表す必要があるということです。具体性がない交渉は前に進みませんし、そもそも、相手に気持ちが伝わりません。
ただ、このステップを自分ひとりで進んでいくのは難しかったりします。離婚テラスでは、まずはカウンセリングにてご事情をうかがった上、ADR調停(民間調停)にてお相手との協議をサポートし、最終的には公正証書作成のお手伝いをするというフルサポートが可能です。ADR調停では、離婚に詳しい弁護士が相談役となっていますので、わざわざ自分で法律相談に行っていただく手間も省けます。
きちんと離婚条件を公正証書で取り決めておきたけれど、専門家に道案内してほしいという方は、ぜひお問い合わせください。