離婚一般

円満離婚のための年金分割

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家裁調査官時代、離婚案件では当たり前になっていた年金分割ですが、裁判所外の離婚、特に弁護士さんがかかわっていない場合、案外年金分割が知られていないことに驚きました。細かい知識や手続きの内容は、法律事務所のHPなどでとても分かりやすく説明されていますので、そちらを参考にしていただければと思います。今回は、年金分割制度の背景などに触れつつ、離婚テラス的年金分割の考察をお伝えしたいと思います。

年金分割とは

年金分割の背景

年金分割とは、離婚後に一方配偶者の年金保険料の納付実績の一部を分割し、それをもう一方の配偶者が受け取れるという制度です。ごく簡単に言ってしまうと、夫が受け取る年金を妻に分ける制度と言えます(婚姻期間中、夫の方が妻より収入が高かった場合)。この制度は比較的新しく、平成19年に始まりましたが、その数年前から離婚率がやや減少するほど、熟年離婚を希望する妻たちには待望の制度だったといえます。

そもそもこの制度は、さかのぼれば、2000 年に厚生省が設置した「女性のライフスタイルの変化等に対応した年金の在り方に関する検討会」が,「女性自身の貢献がみのる年金制度」として検討を始めたものでした。というのも、会社勤めの夫と専業主婦の妻という夫婦が離婚した場合、年金分割の制度を利用しなければ、夫は20万円前後(例えば)の年金を手にし、妻は10万円にも満たないということが起こってしまい、熟年離婚が妻にとって大変不利なものになっていたからです。この趣旨を踏まえて、以下の全体像を見ていきましょう。

分割の方法

年金分割の話をしていると、「3号分割」、「合意分割」という言葉を必ず耳にすることになりますが、ここがややこしくも大切な部分です。

3号分割とは、婚姻期間が平成20年4月以降のみの方の分割をいいます。この場合、分割のために夫婦の合意はいりません。分割割合は0.5と決められており、一人でも手続を済ませることができます。

一方、合意分割というのは、平成19年3月までの婚姻期間の分割をいいます。この期間については、分割割合を夫婦で決める必要が出てきます。ただ、調停や審判になれば、この部分についても0.5と決められることがほとんどですので、分割割合の結果としては3号分割と何ら変わりません。ただ、合意が必要な点において、手続きがやや煩雑になったり、相手と協議する必要が出てくる点が面倒です。

年金分割のための情報通知書

年金分割の制度は、実はそんなに難しいものではないのですが、対象となる年金が限られていたり、婚姻期間の時期によって分割方法が違っていたりとややこしく感じられたりします。よく分からない場合は、とにかくお近くの年金事務所に連絡し、「年金分割のための情報通知書がほしい」と言ってみてください。そうすれば、必要な書類や手続きを教えてくれます。そして、「年金分割のための情報通知書」には、対象期間など必要な情報が書かれていますので、その内容によって手続きを進めていくことができます。
年金分割のための情報通知書の読み方等の説明についてはこちらをご参考ください。

年金分割の注意点

すべての年金が分割対象ではない

分割対象となるのは厚生年金と旧共済年金です(平成27年10月に旧共済年金が厚生年金に一元化されました)。 婚姻期間中,配偶者がずっと国民年金だけに加入していて、厚生年金や共済年金に入っていない場合は,年金分割ができません。例えば、配偶者が自営業者の場合、残念ながら分割対象となる年金はありません(自営業であっても、有限会社にしていたり、株式会社などの会社組織の常勤役員として報酬を得ている場合は別です。)。
養育費等の強制執行時に給料を差し押さえたりしますが、自営業者の場合は、いくら所得があっても差押えが難しいという現実があります。交際当時は、自由になる時間とお金が比較的多い自営業者がいいと思いがちですが、夫婦仲が悪くなったとき、配偶者が自営業者というのはあまりいいことがありません。

話を元に戻しますが、国民年金のほかにも、国民年金基金、厚生年金基金の上乗せ給付部分(付加部分・加算部分)、確定給付企業年金、確定拠出年金(401k)は年金分割の対象とはなりません。また、私的年金(民間の生命保険会社の年金保険など)も年金分割の対象とはなりません。

少しややこしいですが、分割対象となる年金があるかどうかが不明な方は、お近くの年金事務所で教えてもらうことができます。

離婚してすぐ受給できるわけではない

これもありがちな誤解なのですが、離婚してすぐに受給できるわけではありません。例えば55歳で離婚し、年金分割の手続を済ませたとしても、実際に受給できるのは60歳(もしくはそれ以降)からです。

年金分割で妻の受給が増えるとは限らない

年金分割というと、妻に有利な制度だと思われがちですが、一概にそうとも言えません。妻の方が収入が多い場合、妻の納付実績の一部を夫に分割することになります。

対象は婚姻期間

例えば、夫が35歳のときに婚姻し、50歳で離婚するとします。この場合、分割対象となるのは夫の35歳から50歳の納付実績です。夫が20歳から35歳の間に納付した実績は分割されません。晩婚化が進んでいる昨今、40代で婚姻なんてことも少なくありません。この場合、分割対象となる部分が意外と少なくなります。

請求に期限がある

離婚後、年金を受給する頃に分割手続きを行えばいいと思っている方がいますが、これでは手遅れになります。年金分割は離婚後2年の間にしなければならないと決められています。また、元配偶者が死亡した場合、死亡から1か月の間に請求が必要です。

離婚テラス的年金分割の考察

長年連れ添った夫婦が離婚した場合、妻にとって年金は老後を支える大切なお金となります。また、現役時代、夫を支えるという形で社会に貢献してきた証でもあります。ですので、年金分割については、是非手続きを忘れずに行ってほしいと思います。

しかし、3号分割のみの場合、年金分割について相手に一言言っておくかどうかという問題があります。3号分割であれば、自動的に分割割合が0.5になりますので、夫婦で合意する必要がありません。そのため、離婚後、妻一人で手続きを済ませることができるのです。確かに、離婚時の紛争を少なくするため、離婚をしてしまってから手続を取るという方法もあります。しかし、いくら権利とはいえ、年金を分割される方にとっては、大問題です。また、養育費の支払いなどがある場合、いきなり年金分割の手続をされた夫が難癖をつけて養育費を支払わないなんていう事態も起こりかねません。もちろん、年金分割と養育費は全く別の問題ですし、3号分割は相手の合意を前提としていない制度です。しかし、別れる結果になったとはいえ、一時は家族だった相手です。離婚後に一人で手続きをする際も、元配偶者にお知らせの一言があってもいいのではないかと思います。

一方、分割で受給額が減る側の方(多くは夫)についても、年金分割の趣旨を理解していただければと思います。年金分割を「損をする制度」だと考えず、妻の当たり前の権利であると考えてほしいのです。合意分割部分について、「俺は半分にはしない!」とごねてみたところで、調停や裁判で認められる可能性は限りなく低いのが現実です。余計な紛争を招くより、気持ちよく分割に応じていただければと思います。

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