離婚一般

円満離婚のための交渉術ーハーバード流交渉術をヒントにー

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離婚の交渉

離婚条件の交渉というと、弁護士に依頼する方法を思いつく方も多いと思いますが、弁護士に依頼せずとも、自分で交渉することが十分に可能です。

このコラムでは、ハーバード流交渉術を参考に、円満に協議離婚するための交渉の7つのポイントについてお伝えします。

文章よりも動画で、という方は以下の動画をご覧ください。

交渉とは

「交渉」と言うと、何だか欲深い感じがしたり、ずるがしこイメージがあるかもしれませんが、良い交渉は、自分の利益のみを最大にするのではなく、自分と相手の間に横たわる問題をより良く解決することを目指すものです。

ハーバード流交渉術

交渉は日常生活の色々な場面で日々繰り返されているものですが、アメリカの大学を中心に学問としても発展してきました。その中で、一番有名と言っても過言でないのがハーバード流交渉術です。

ハーバード流交渉術では、交渉は相手と自分の利害を調整し、双方が利益を分かち合える合意に達するための相互コミュニケーションであると位置付けています。

日本でも、一部の弁護士やビジネスマンがこういった交渉術を学んでいますが、仕事に役立つだけではなく、日々の生活でも使える交渉術がふんだんに盛り込まれています。

Win-Winの関係

交渉には、分配型交渉と統合型交渉があります。分配型交渉は「10あるものを5ずつ分けましょう」という交渉の方法です。

一方、統合型交渉は、双方の主張をうまく組み合わせて(統合して)、win-winの結果を生み出そうとする交渉の方法です。

分配型の交渉と統合型の交渉の違いについて、交渉を学ぶ際によく出てくるオレンジ事件を以下に紹介して説明したいと思います。

オレンジ事件

姉が母親からもらったオレンジをテーブルに置いて何かを始めようとしているところに弟がやってきました。そして、「僕もほしい!お姉ちゃんだけずるい!」と二人で取り合いになってしまいました。結局、姉の提案で半分ずつすることにしました。

半分のオレンジで、姉と弟はそれぞれどうしたでしょうか。

姉はオレンジの皮をむき、細かく刻んでオレンジピールを作りました。弟は、皮は捨てて、中の果実を食べました。        

この事例のように、オレンジを半分ずつ分けるのが分配型交渉です。もし、この姉と弟が統合型の交渉をできていれば、姉は皮を、弟は実をもらうことで、10あるものを5ずつ分けるのではなく、それぞれにほしいものを10ずつ得る、という結果になっていたのです。

離婚協議の際の7つの交渉のポイント

次に、ハーバード流交渉術の中で有名な「より良い交渉をするための7つの指針」を以下に紹介します。この指針は、ビジネスの場でもよく学ばれる視点で、様々な交渉の場面で役立つとされています。

人と問題を切り離す

交渉の相手は、仲の良い相手ばかりではなく、見知らぬ相手やときには嫌いな相手であることもあります。

そんなとき、その相手のことを憎んだり、嫌ったり、偏見の目で見ていては良い交渉はできません。交渉の相手に注目するのではなく、何が問題になっているのか、という解決すべき課題を相手と一緒になって解決するという視点が大切です。

この指針のメリットは、嫌いな相手や信頼のおけない相手とも良い交渉ができるという点です。

離婚協議の場合、多くは、相手はまさに嫌いで信頼できない相手です。そんな相手ではありますが、諸々の離婚条件を取り決めるという課題に向かって、相手と一緒により良い解決を目指すという視点をもってみてください。

立場ではなく利害に焦点を合わせる(相手の利害をさぐってみる)

立場という言葉を「主張」と置き換えてみると分かりやすいかもしれませんが、相手の主張を表面的に理解するのではなく、相手がそう主張する理由や真意を探ってみるということが必要です。

離婚協議でも度々このような場面が出てきます。

例えば、どうしたって負け戦だと分かっていても、親権を譲らない夫がいます。その夫の主張を表面的に理解すると、まさに親権がほしいということになります。しかし、そう主張する理由や真意はもしかしたら以下のようなことがあるかもしれません。

  • そもそも離婚したくない
  • 子どもを取られる辛さを分かってほしい
  • できるだけ子どもと長く一緒にいたい

この点を理解することによって、「離婚したくない、子どもを取られて辛い」という相手の気持ちに寄り添うことで、相手の譲歩につながるかもしれませんし、なるべく多くの面会交流を取り決めることで双方納得の合意点が見つかるかもしれません。

双方にとって有利な選択肢を考え出す

交渉というと、自分の利益を最大にするような話合いだと思いがちですが、良い交渉とは双方の利益(Win-win)、ときには第三者の利益(三方よし)も考慮した結果を導き出すことです。

そのためには、最初から二者択一で話をするのではなく、両者が様々な選択肢を挙げ、その中から絞り込んでいくような方法が有効です。

離婚協議に置き換えてみても同様のことが言えます。

例えば面会交流です。なるべく多く会いたい別居親となるべく少ない回数に抑えたい同居親が以下のようなやり取りをしていたとします。

別居親:少なくても週に1回は会わせてほしい
同居親:そんなに頻回には応じられない。月1回にしてほしい

これでは、週に1回か、月に1回か、という回数闘争になってしまい、最終的には間を取って「月に2回」のような解決をせざるを得なくなります。

このような交渉を想定すると、「どうせ譲歩させられるのだから、最初から多め(少なめ)に言っておこう」とまさに駆け引きのようなやり取りになってしまいます。

それでは、どのようなやり取りが「双方にとって有利な選択肢を考える」ような交渉になるのでしょうか。

別居親:子どもと離れるのは寂しいからなるべく多く会いたい

同居親:気持ちは分かるけれど、私と子どもの生活も考えてほしい。あなたはどういう風に子どもと会いたいの?

別居親:ただ遊ぶだけじゃなくて、親として子どもの成長を見守りたい。ちなみに、「私と子どもの生活も考えてほしい」というけれど、具体的にはどういうこと?

同居親:私だって仕事があるから、そんなに頻繁に面会交流のための送迎はできない。子どもだって習い事や学校の行事もあるから、毎週末会うのは難しい。

別居親:じゃあ、例えば、子どもの習い事の送迎を面会交流に組み込むのはどうだろうか。

同居親:そうしてくれると助かる。それに、学校行事や習い事の発表会も見に来てもらってもいい。そうすれば、あなたとしても子どもの成長を見守ることができるし、子どもも喜ぶと思う。

こんな風に、回数だけにこだわるのではなく、具体的に案を出し合っていくことで、双方にとって有利な選択肢を見つけることができます。

客観的基準を強調する

話合いの種類によって客観的な基準は異なりますが、例えば、「法律」がそれにあたります。私的な交渉の場面ですので、双方が同じ価値観や同じ基準で話ができていれば法律や「一般的な」、「客観的な」という視点にこだわる必要はないのですが、利害関係が絡む話合いの場では、それが難しかったりします。

そのため、法律をはじめとする誰でもが認めざるを得ない世間一般のルールが役立つことが少なくありません。

離婚協議の場では、この方法が特に有効です。

養育費や財産分与といった金銭がからむ離婚条件については、どうしても双方の利害が対立しがちです。そんな場面で、法律では(裁判所では)こういう解決になるという基準があれば、それに沿って話し合うことが可能です。

最善の代替案(BATNA)を用意する

もし合意ができずに交渉が決裂したらどうする、という代替案を考えておくことも大切です。例えば、離婚協議の場合、二人で話し合っても合意が難しい場合、家庭裁判所の離婚調停を利用するといった具合です。

また、ADRの話合いの場でも同様のことが言えます。どうしてもADRで合意する必要はなく、「合意できなければ家裁の調停や裁判に進む」という選択肢を用意できることで、無理な合意や理不尽な条件を飲まずにすみます。

約束(取決め)の仕方を工夫する

決めたことを実際にはどのような行動で実現するのか、という点も相手を納得させたり、安心してもらうという点では大切なことです。

例えば、養育費について「毎月間違いなく振り込まれるよう、自動振込の手続きをしておくよ」という一言も安心感につながりますし、協議離婚の場合、決めたことを公正証書で残しておくという方法が一般的です。

良い伝え方(コミュニケーション)を工夫する

良い交渉のためには、良いコミュニケーションが必須です。

コミュニケーションを単純化すると、聞くこと伝えることの2つに分けられます。まず、聞くことにについては、相手の話す内容について偏見や思い込みを持たずに聞くこと、ときには頷いたり相槌をうったりしながら「聞いていること」が相手に伝わるように聞くことなどが大切です。

一方、伝えることについては、相手を説得したり言い負かすことを目的にするのではなく、相手の立場も考え、より理解されやすい説明を心掛けることなどが大切です。

このような伝え方を実現するためには、原則として「同席の場」で交渉をすることが大前提です。そのため、家裁の離婚調停のように、第三者を介してのコミュニケーションになってしまうと、どうしても誤解が生まれたり、「相手の気持ちが分からない、自分の気持ちも伝わらない」と感じたりします。

特に、既に別居している場合、同席で話し合うことが難しいかもしれませんが、できれば同席での話合いにチャレンジしていただければと思います(DVがある場合は例外です。同席での話合いではなく、まずは身の安全を確保してください。)

7つの指針を使った離婚協議

より具体的に7つの指針を理解していただくため、以下では、7つの指針を典型事例を使った具体的な離婚協議を通してご紹介します。なお、最善の代替案(BANTA)と約束(取決め)の仕方については、共通しているので、それぞれ一度のみ紹介しています。

典型事例の紹介

家族構成

夫:42歳、会社員
妻:40歳、会社員
長女:6歳、保育園年長

生活状況と夫婦不和の経過

夫婦は共働きで子育てをしてきたが、妻に家事・育児の負担が偏り、度々夫婦喧嘩に発展していた。妻としては、せめて土日くらいは分担してほしいと思っていたが、仕事で疲れているからと昼前まで起きてこず、起きてきても携帯を見てばかりで子どもの相手もしない夫に不満が募っていた。

それでも、子どものためにと夫婦生活を続けていたが、家事や育児の分担を依頼するたびに「俺の方が稼いでいるのだから、偉そうな口をきくな」「誰のおかげで今の生活ができていると思うんだ」と怒鳴られることや、何か不機嫌になると無視をされることなどが続き、こんな思いをするくらいなら、経済的に苦しくなったとしても、離婚して子どもと楽しく過ごしたいという気持ちになった。

別居から離婚協議までの流れ

妻は、夫に別居や離婚を切り出しても同意が得られないばかりか、精神的な圧力をかけられることが目に見えていたため、夫に相談せず、実家に戻る時期や転職の段通りを整えた。

そして、夫には数日で戻ると伝えて実家に帰った後、実は離婚を考えていると夫に切り出した。当初、夫は、妻から離婚を切り出されたことに驚き、プライドが傷付く思いだったが、既に妻が転職の上、子どもを連れて実家に帰ってしまったことから、妻の意志の強さを感じ、離婚協議に応じることにした。

離婚時期について

双方の主張

妻:なるべく早く離婚したい
夫:子どもがある程度大きくなるまで待ってほしい

使える指針

立場ではなく利害に焦点を合わせる

それぞれになぜそのように主張するのかを聞いていくことで、その理由が見えてきます。例えば、妻は、長女の小学校入学に合わせて、諸々の手続きを完了させたいと考えていたとします。また、夫は、子どもが小さいうちは、夫婦が揃っていることが子どもにとっては好ましいと考えていたようです。

そうであるならば、例えば、離婚が入学に間に合わなかったとしても、「通称使用」という形で乗り切ることができるかもしれませんし、ケンカばかりしている夫婦の姿を見せることは子どもにとって好ましい状況とは言えないという議論も可能になってきます。

客観的基準を強調する

いくら妻がすぐに離婚したいと言っても、夫に有責性がない以上、離婚裁判をしても、今すぐには離婚は認められないという法的な基準があります。

また、一方で、別居期間中には夫から妻に婚姻費用の支払いが発生し、養育費よりも高い金額を支払う必要が出てきます。

こういった客観的基準(この場合は法律)を強調した話合いも有効です。

よい伝え方(コミュニケーション)を工夫する

妻としては、なぜ小学校入学前がいいと思っているのか、「大体分かるでしょう。」という態度ではなく、具体的に丁寧に説明することで、夫の理解を得ることができるかもしれません。

例えば、名字ひとつとっても、色々なことが考えられます。入学前に名字を変えることができれば、子どもが学校生活の途中で名字が変わり、気まずい思いをしなくて済みますし、持ち物に書いた名字を全て書き直す必要もありません。

そういった子どもの利益の目線で丁寧に説明することで、相手に伝わることもあります。

親権

双方の主張

妻:これまで、自分が子どもの面倒を見てきたので、当然に親権は譲れない
夫:経済的なことを考えると、妻が親権者になるのは不安だ

使える指針

人と問題を切り離す

妻にしてみれば、まさに自分が離婚理由だと思っている育児不参加の夫と親権について話し合う際、どうしても「あれだけ育児を手伝わなかった人がよくそんなことが言えるわね」と腹立たしく感じることと思います。

また、夫としても、勝手に子どもを連れて実家に帰ってしまった妻との信頼関係は崩壊しており、そんな妻に子どもを任せられないと感じるかもしれません。

しかし、それでは、話合い自体が成立しません。まずは、相手の人格や言動に焦点を当てるのではなく、「親権問題をどう解決するのか」という問題に集中して考えてみる必要があります。

立場ではなく利害に焦点を合わせる(相手の利害をさぐってみる)

夫は、「妻が親権者になるのは不安だ」と述べていますので、自分が親権者になりたいという立場とも考えられます。

しかし、夫がそう述べる理由はどこにあるのでしょうか。相手の利害を探ってみると、「親権を譲った途端、長女に会わせてもらえなくなるのでは」という不安があるのかもしれません。

そんな場合は、面会交流を充実させることで親権問題が解決できるかもしれませんので、相手の上辺の主張だけではなく、その真意を探ってみることも必要です。

客観的基準を強調する

協議離婚が成立しない場合、最後は離婚裁判を行うことになります。その場合、どんな客観的基準があるでしょうか。

例えば、親権者に関しては、以下のような基準が考えられます。

  • 過去の主たる監護者
  • 今後の養育環境
  • 子どもとの愛着関係
  • 子どもの意見
  • 面会交流に対する許容性

夫婦の意見が食い違った際、このような基準を出して考える方法もあります。

最善の代替案(BANTA)を用意する

どうしても夫が納得してくれない場合、妻としては家庭裁判所の調停を利用するという代替案を用意することができます。

その代替案があることで、妻は無理な合意を強いられることはありませんし、家裁の調停という次の手段が見えていることで、夫の反応も変わってきます。

よい伝え方(コミュニケーション)を工夫する

妻が「自分が親権者になって当然」という伝え方をするのか、夫の立場や気持ちも配慮した伝え方ができるかで交渉の結果は変わってきます。

例えば、「これまで経済的に我が家を支えてくれたことには感謝しているけれど」という前置きを加えるだけで、夫の受け止めは変わってくるのではないでしょうか。

財産分与

双方の主張

妻:法律通りに2分の1を分与してほしい
夫:自分が稼いだお金を半分も分与するのは納得できない

使える指針

双方にとって有利な選択肢を考え出す

財産と一言に言っても現金(預貯金)、不動産、株式・債券、保険、自動車など多岐にわたります。2分の1か、それ以外かという二者択一ではなく、双方が納得できる選択肢がないかどうか話を広げていくことができます。

例えば、妻としては長女のためにも住環境を変えたくないという気持ちが強く、不動産を分与してもらえるなら、その他の財産は多少譲歩してもいいと思っているかもしれません。

一方、夫は、現在調子のいい株を売却したくないという気持ちから分与を拒んでいるとしたら、分与時期を調整することで合意できるかもしれません。

客観的基準を強調する

法律上、夫婦が共同して得た財産は2分の1ずつ分与すると定められており、相当の理由がない限り(一方が世界的に有名なタレントであるなど)、そのルールは覆りません。

そのため、夫がどのような主張をしたとしても、妻としては、「法律はこうなっている」という点を強調することで合意に至ることもあります。

よい伝え方(コミュニケーション)を工夫する

妻は「夫が外で稼げたのは自分が家事・育児をしていたから」という思いがあります。一方、夫は夫で、外で大変な思いをして働いてきたことを理解してほしいという気持ちがあるでしょう。

それぞれが自分の気持ちを分かってほしいと主張を繰り返していても、結局、お互いに気持ちは伝わりません(双方ともに自分の説明に精一杯になっていますので)。

そのため、自分の気持ちを伝えることも大切ですが、相手の気持ちにも理解を示し、一旦は受け止めることが必要です。

例えば、相手が話している際、「この人は何を言っているんだ」という気持ちで聞いてしまうと、自然と不満そうな顔になったり、首を傾げたりしてしまいます。

そうではなく、「まずはこの人の言っていることを理解してみよう」という気持ちで聞いてみてください。きっと、相手の顔や目を見て話を聞く、頷きながら聞く、という態度に表れることと思います。

相手を理解しようとすることと、相手の言う通りに合意することは大きく異なります。一旦は、相手の心情や言い分を理解しようという気持ちでコミュニケーションを取ってみてはどうでしょうか。

養育費

双方の主張

妻:子どもが困らないよう、なるべく高額な養育費をもらいたい
夫:子どものためのお金は惜しまないつもりだが、妻の求める通りには払えない

使える指針

立場ではなく利害に焦点を合わせる(相手の利害をさぐってみる)

妻は、「子どもが困らないように、なるべく高額の養育費を」という立場ですが、そう求める背景には将来の大学学費への懸念が強く影響しているかもしれません。

また、夫は、子どものために支払うのは構わないが、妻の生活の足しにされてはかなわないという真意があるかもしれません。

その真意を探ることで、「子どもの学費は夫が全額支払う」といった条件で合意する可能性も出てきます。

双方にとって有利な選択肢を考え出す

例えば、金額だけで争ってしまうのではなく、支払いの時期や支払いの方法も含めて話し合うことで、双方にとって有利な選択肢が出てくることがあります。

例えば、夫は、直接学費や月謝を支払う方法であれば、子どものためのお金であることが明確になり、気持ちよく支払うことができるかもしれません。

また、支払い時期や取決めの時期についても、妻が心配している高額な教育費は遠い将来のことだとすると、今決めてしまうのではなく、再協議事項として明記しておくことで、妻が安心できるかもしれません。

客観的基準を強調する

養育費には、算定表という明確な基準があります。そのため、話し合っても合意が難しい場合、算定表に基づく金額で合意することも可能です。

約束(取決め)の仕方を工夫する

離婚条件全般に言えることですが、特に養育費のような継続給付の約束事は、どういった形で取り決めておくかが重要です。

この点、万が一、支払いが滞った際には強制執行ができる状態にしておくことが妻にとっては安心材料となります。そのため、夫は自分の誠意を見せるために自分から公正証書の作成を提案することもできますし、妻としては、作成してくれなければ家裁の調停で取り決めるという強い代替案(BANTA)を提示し、夫に作成を求めることもできます。

養育費協議の詳細についてや、取決めの手順については以下のコラムをご参照ください。

養育費取決めの手順ー実現したい4つのことー
円満離婚のための養育費協議のポイント

面会交流

双方の主張

妻:会わせてもいいけど、離れているので頻繁には難しい
夫:なるべく頻繁に会いたい

使える指針

人と問題を切り離す

親権の問題と同様に、面会交流も相手への感情が話合いに大きな影響を及ぼします。妻としては、これまでお世話をしてこなかった夫に会わせてやるものか、という気持ちになりがちです。

一方、夫は、勝手に実家に連れていかれた恨みがあったり、離婚させられることへの腹立ちから「相手を困らせたい」と考えてしまうかもしれません。

しかし、それでは良い解決ができませんので、「いかに三者(妻・夫・長女)のメリットになる面会交流を行うか」という問題に注目して話合いをしていただければと思います。

双方にとって有利な選択肢を考え出す

面会交流というと回数に注目してしまいがちですが、例えば、なぜ会いたいのか、どのような会い方なら可能か、会って何をするのか、といったことにまで幅を広げて色々と話しているうちに、三方よしの解決に至ることがあります。

例えば、妻は遠方であることを理由にしているのであれば、LINE電話など、オンラインでの交流を頻繁にすることが可能かもしれません。

また、面会の際に相手と顔を合わせるのが嫌だという理由であれば、支援機関や親族に手伝ってもらうことで解決ができるかもしれません。

面会交流は、離婚条件の中でも一番決め方の選択肢が広く、三方よしの解決が可能な項目です。是非、色々な選択肢を出し合って、より良い面会交流の方法を導き出していただければと思います。

面会交流の具体的なパターンや取決めの基礎知識については以下のコラムをご参照ください。

離婚後(別居中)の面会交流、決め方の基礎知識と具体例

離婚協議で大切なこと

権利主張は「強欲」なことではない

円満離婚のためには、自分の主張はしない方がいいのではないか、理不尽に感じても、相手の言うことを黙って聞いていた方がいいのではないか、と考える人がいます。

しかし、それは本当に円満離婚と言えるでしょうか。もちろん、相手を怒らせたくないというのが第一優先順位で、大抵の離婚条件は気持ちよく譲歩できるという人は問題ありません。

しかし、大抵、自分の主張を押し殺すことは、婚姻生活の自分の頑張りや我慢を認めてもらえないような気持ちになり、納得できないものです。

後々後悔が残らないよう、適切な方法で自分の権利を主張してほしいと思います。

相手を打ち負かせば「勝ち」ではない

例えば、相手から1円でも多く財産分与を受け取れたり、相手が嫌がるほどに頻繁な面会交流を取り決めることができれば、それが「勝ち」なのでしょうか。

きっと、相手との関係がさらに悪化し、紛争性の高い協議に心身ともに疲れきっていることと思います。また、一度は愛して結婚した相手と徹底的に戦うことは、自分の過去を否定することにもなり、何とも後味の悪いものです。

離婚条件に関する交渉は、勝ち負けではなく、相手も自分も納得のいく結果こそが「成功」です。

きれいごと」こそ大切

ここまで読んでくださった皆さんは、きっと読んでいる最中に一度は「そんなきれいごとではすまされない」と感じる箇所がいくつかあったと思います。

例えば、人と問題を切り離すと言っても、目の前にいる相手は辛い過去の原因となっている人物であり、そう簡単に切り離すことはできません。

また、良いコミュニケーションについてもそうです。これまで、良いコミュニケーションが取れなかったからこそ離婚するのであって、いざ離婚協議となった際、互いの利害が対立する難しい話合いの場で、相手の話をよく聞くのは難しいように感じるかもしれません。

そのように感じるのはもっともですし、実際、そう簡単に良い交渉はできません。大抵は感情が先走り、相手への憎しみや恐れでwin-winの関係なんて考える余裕はありません。

しかし、本来あるべき交渉の姿を知っているだけで、ずいぶん違います。迷ったり、立ち止まったときの指針になりますし、軌道修正にも役立ちます。

だれしも最初から良い交渉ができるわけではありません。せっかくコラムをお読みいただきましたので、まずは、知識として交渉の7つの要素を知っていただき、ご自分の協議の際に頭の片隅に置いていただければと思います。

そうは言っても、なかなか紛争の渦中にいる当事者のみなさんには自己解決が難しいこともあります。また、法的な知識が十分でなかったり、相手との力関係に偏りがあり、対等に交渉ができない場合もあります。

そんな場合は、民間調停であるADRをぜひご利用いただければと思います。

ADRは、法務大臣の認証を得た機関が民間の調停機関として、もめごとの解決をお手伝いする制度です。ご興味のある方は、ぜひ以下のコラムもご参照ください。

離婚の新しい形、ADR調停活用例
ADR調停(仲裁)よくある質問集
ADR調停のお申込み

当センターは、離婚に関するカウンセリングも実施しています。離婚するかどうかを迷っている方や、どのように進めたらよいか分からない人などは、ぜひおひとりで悩まず、ご相談いただければと思います。

離婚カウンセリング

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