離婚の前段階として、別居を選択する人も多いと思います。今日は、その別居について、相手の同意を得ずに勝手に家を出るのがいいのか、同意を得た上で別居をするのがいいのか、別居ではどんなことを決めておけばいいのか、についてお伝えします。
同意別居を目指すか、勝手に別居するか
相手の同意を得ず勝手に別居するメリット・デメリット
会社から帰ると家の中がもぬけの殻だった、という話を聞いたことがある人もいるかと思います。このように、相手の同意を得ず、勝手に家を出ていくという選択肢もあります。以下では、そんな場合のメリットとデメリットをお伝えします。
勝手に別居のメリット
自分のペースで進められる
別居の時期やどこに転居するかなど、別居に際して色々と決めておくことがあります。相手の同意を得た上で別居する場合、自分はすぐにでも別居したくても、相手から「せめて〇〇までは待ってほしい」と説得されるかもしれません。また、相手と関係のない場所に転居したくても、「徒歩圏内に転居することを条件に同意する」などと言われてしまうかもしれません。
相手の同意を得ずに勝手に別居する場合、こういった別居に関する様々なことを自分の希望通りに進められるというメリットがあります。
妨害行為にあわない
中には、別居の同意を得ようと相談したことで、妨害行為にあってしまう人もいます。大の大人が自分の意思で家を出ようとしているのを実力行使で阻止するのは難しいのですが、例えば、子どもを取り込んで「ぼく(私)、ずっとこの家でみんなで暮らしたい」などと言わせたりします。
また、別居日が近づくにつれて、暴言が増えたり、夜な夜なモラハラ行為が繰り返されたりと、精神的に追い込む形で妨害してくる人もいます。
この点、相手の同意を得ずに勝手に家を出るのであれば、あらかじめ相談する必要もないので、相手から妨害されることもありません。
勝手に別居のデメリット
別居後の生活費がいくらになるか分からない
別居後の生活費のことを婚姻費用と言いますが、本来であれば、事前に金額を話し合って決めておくほうが望ましいと言えます。
しかし、勝手に別居するわけですので、婚姻費用をあらかじめ決めておくことができず、別居後の生活への不安を払拭することができません。
紛争性が高まる
相手の同意を得ずに勝手に別居するわけですから、相手が大きなショックを受けたり、強い怒りを感じたりします。その結果、紛争性が高まってしまい、別居後の諸々の協議がスムーズにいかなくなってしまいます。
また、子どもを連れ去ったと非難されるかもしれません。
事前に子どもに説明できない
子どもに秘密を守らせるのは難しいため、必然的に子どもにも別居の時期については内緒にしておくことになります。そのため、子どもは突然、「荷物をまとめなさい。今からおばあちゃんの家に行くわよ。」などと伝えることになります。
行先が実家ならまだましですが、知らない土地だったり、転校が伴ったりすると、子どもの衝撃は大きなものになります。
相手に出ていってもらうという選択肢がなくなる
親の別居に際して、子どもの住むところを変えたくないと考える人も多いのではないでしょうか。しかし、当たり前ながら、相手の同意を得ずに勝手に子連れで別居するということは、自分が子どもを連れて出ていくしか仕方がなくなります。
相手の同意を得た上で別居するメリット・デメリット
合意の上で別居を目指すメリット
婚姻費用などを決めておける
同意の上で別居するメリットは、事前に決めておくべきことを決めてから別居できるので、別居後の生活がスムーズにスタートできることです。
特に大切なのが別居後の生活費である婚姻費用についての取り決めです。毎月いくらの生活費をもらえるのかによって、どのくらいの家賃の家に住めるのかなど、様々な生活設計が変わってきます。
また、別居後の子育ての分担や面会交流についても相談しておくことができますので、いきなりワンオペになって大変ということも避けられます。
子どもに説明できる
あらかじめ、いつ、どこに転居するのか、転校の必要があるのか、といったことを子どもに説明し、納得を得ておくことが可能です。
残念ながら転校が伴う場合などは、お友達ときちんとお別れができたかどうかが、新しい学校での適応にも大きく影響します。
相手が出て行ってくれるかもしれない
離婚や別居に消極的な相手であっても、あなたが本気で別居したいと考えていることが伝われば、「子どもの住む場所が変わらない方がいいのでは」と考え、相手が自ら家を出てくれることがあります。
合意の上で別居を目指すデメリット
相手に辛くあたられる
別居を切り出した後、相手の態度が豹変し、実際に別居するまでの間、辛い思いをすることがあります。急に無視をされて針のむしろ状態だったり、毎晩のように出ていくことに対して不満をぶつけられたり、といったことが考えられます。
別居を阻止される
相手が別居に反対の場合、あなたが別居するのを阻止しようとするかもしれません。大の大人が家を出ていくことを物理的に止めるのは難しくても、子どもを使って思いとどまらせようとしたり、「お前の会社の上司に相談する」などと脅しめいたことを言われるかもしれません。
お勧めは同意別居
それぞれのメリット・デメリットを見ていただきましたが、いかがでしょうか。DVやひどいモラハラがある場合、事前に相談するこで危険な目にあったり、精神的に大きなダメージを負う恐れがありますので、まずは、心身の安全の確保が第一です。
しかし、そうでない場合は、事前に別居の意思を伝え、別居に関する様々な約束事を話し合っておくことをお勧めします。
別居の際に決めておくこと
では、相手に別居意思を伝えることができたとして、一体どんなことを話し合っておけば、円満な別居生活を送れるのでしょうか。
婚姻費用
別居中、お金のやり取りはどうするのか(婚姻費用はいくらにするのか)、しっかりと話し合っておくことが大切です。
勝手に別居しておいてお金がほしいとは言いづらいと思う人もいますが、婚姻費用は、請求時にさかのぼって支払い命令が出されます。
そのため、婚姻費用についてはなるべく早く話合いをしておきましょう。
面会交流(育児分担)
面会交流は離婚をしてからだと思っている人がいますが、そうではありません。子どもにとっては、離れて暮らす親ともちゃんと会えることで、寂しさや喪失感を癒すことができます。
別居中の生活上のルール
どちらが児童手当を受給するか
同居の場合、収入が高い方の親が児童手当の受給者になっていますが、別居になると、収入の多い少ないにかかわらず、実際に子どもを育てている側の親に受給の権利があります。
婚姻費用のほかにも、こういった手当関係をどちらが受給するかについても話し合っておきましょう。
親族や共通の友人にはどう説明するか
周囲に別居を知られたくないという人もいますし、どうせ離婚に至るのであれば、最初から正しく知っておいてもらった方が子どもたちのサポートもしてもらいやすいという人もいます。
こういった説明が食い違ってしまうと、あらたな火種になってしまいかねませんので、あらかじめ合意しておきましょう。
荷物のやり取りはどうするか
別居の際、すべての荷物を持ち出すことができればいいのですが、そうできないこともよくあります。そんな場合は、荷物のやり取りでもめないよう、取り決めておきましょう。
例えば、留守中に勝手に入ってほしくないとか、着払いで送ってほしいといった具合です。併せて、自宅の鍵の返還のタイミングについても話し合っておくことがお勧めです。
連絡方法
意外と大切な取り決めが連絡方法についてです。せっかく別居できたのに、毎日何通もラインで連絡がきたり、精神的に乱されるような長文のメッセージがくるようでは困ってしまいます。
そのため、連絡はメールに限るとか、面会交流に関するやり取りに限定するなど、負担にならないためのルール作りをしておきましょう。
そのほか、取決めについての詳細は以下のコラムをご参照ください。
夫婦で別居に関する合意ができない場合の協議方法
色々合意してから別居した方がいいとしても、夫婦だけではなかなか合意できない場合もあります。次は、そんな場合の話合いの進め方として3つの方法をご紹介します。
家庭裁判所の調停を利用する
家庭裁判所で婚姻費用の分担(クリックすると裁判所のHPに移動します)についてや面会交流について話し合うことができます。以下に、メリットとデメリットをお伝えします。
家裁利用のメリット
費用が安価
申立時に数千円かかりますが、その後は何回話し合っても無料です。
調停が不成立でも審判に移行する
相手が調停に参加しなかったり、もしくは参加しても理不尽なことばかり言って合意に至らなかったとしても、審判という手続きに自動的に移行します。
審判では、裁判官が適切な金額を決めてくれますし、その決まった金額に対して支払いがない場合、強制執行の手続きに進むこともできます。
デメリット
解決まで時間がかかる
家裁の調停は、解決までの時間が長くかかるのがデメリットです。最終的には、申立時に遡って支払われることがほとんどですが、既に別居生活を開始しているのに、生活費をもらえない期間が長引いてしまうと、生活に支障が出てきてしまう人もいるでしょう。
紛争性が高まる
家庭裁判所に申し立てられた方は「訴えられた」ような気持ちになったりします。また、裁判所というだけで、「そっちがその気なら」と戦闘モードになる人もいます。その結果、紛争性が高まる恐れがあり、穏便に解決したいという人にはあまり向いていません。
事前に話し合うことができない
相手が合意していれば、同居中であっても、未来の別居に関する協議を行うことができますが、原則として、別居してから婚姻費用請求を申し立てることがほとんどです。そのため、あらかじめ金額を決めておいて、安心して別居に踏み切るということができません。
弁護士に依頼する
弁護士という法律の専門家に依頼し、婚姻費用の請求やその後の離婚協議についても代理してもらうこともできます。
弁護士に依頼するメリット
専門性の高さ
弁護士の中でも特に離婚案件に特化している弁護士は法的知識のみならず、交渉の方法等についても実体験から蓄積したノウハウや専門性を有しています。
自分の味方をしてもらえる
家庭裁判所は中立の立場として間に入りますが、弁護士に依頼した場合、自分の代理として自分の利益を最大にするために動いてくれます。そのため、気持ちが疲れていて、自分では交渉できそうにないという人には安心感があります。
デメリット
料金が高い
依頼料が数十万円~100万円程度と高額になるのが大きなデメリットです。法テラスを利用することもできますが、生活保護レベルでない限り、分割払いになるのみで無料利用はできません。
紛争性が高まる
家裁利用と同様、弁護士が間に入ることによって紛争性が高まり、かえって相手の怒りを買ってしまう恐れがあります。また、あなたの弁護士から受任通知を受け取った相手は、きっと自分も弁護士に依頼するでしょう。そうなれば、弁護士対弁護士の争いになってしまいます。
民間の調停機関(ADR)を利用する
ADRは、いわゆるADR法に基づいて、法務省が管轄している制度です。管轄は法務省ですが、調停の実施機関自体は民間の機関になりますので、家裁の調停とは様々な点で異なります。
ADRを利用するメリット
利便性が高い
民間ならではの利便性があり、土日や平日の夜間の利用が可能だったり、オンライン調停が可能な機関も増えています。
紛争性が高まりにくい
民間の機関ですので、裁判所や弁護士に比べて、相手の受け止めもソフトな側面があり、紛争性が高まりにくいというメリットもあります。
迅速性
何より大きなメリットは迅速性です。婚姻費用は日々の生活費ですので、既に別居を始めている場合、1日でも早く婚姻費用を払ってもらいたいという状況になるものです。この点、ADRは家裁の調停より解決までの時間が随分と短い(法務省の統計によると家裁の約半分以下です)のがメリットです。
ADRを利用するデメリット
費用がかかる
家裁と異なり、一定の利用料がかかる点がデメリットと言えます。弁護士に依頼する費用の10分の1程度ですむ機関が多いと思いますが、それでもやはり家庭裁判所を利用するより割高ですので、その点はデメリットと言えます。
審判という制度がない
家庭裁判所の調停は不成立で終了すると審判という手続きに移行し、裁判官が判断するフェーズに上がっていきます。
しかし、ADRは民間の調停機関ですので、当事者双方の合意なく何かを決定することができません。
まとめ
別居は、離れることで気持ちが楽になるだけでなく、親の喧嘩を子どもに見せなくて済むというメリットもあります。
また、今後のことを冷静になって考える機会になったり、自分の気持ちを整理する時間になったりと、たくさんのメリットがあります。
一方で、大きな生活の変化を伴うため、事前の準備を怠ると別居後の生活が大変になってしまいます。
そのため、できれば夫婦でしっかり話合い、離婚後の諸々を決めておくことがお勧めです。
しかし、DVやモラハラで話合い自体が難しかったり、話し合ったとしても、合意できないことも十分に考えられます。そのため、まずは、合意別居を目指すものの、だめであれば、自分の計画で別居を進め、家裁やADRなどを利用して必要なことを取り決めていただければと思います。
当センターは、カウンセリングを実施しております。別居に向けて何から始めたらいいか分からない、別居するかどうか悩んでいるという方はぜひご相談ください。
また、別居は合意したけれど、婚姻費用等の話合いができないという方はADRをご利用いただければと思います。