今回のコラムでは、家庭内別居とリアル別居について、そのメリット・デメリットなどを考えていきたいと思います。
家庭内別居とは
離婚準備として別居生活を選択する人もいますが、中には金銭的な事情や子どもの学校の関係などで、簡単には別々に住めない人もいます。そんな人が選ぶのが、家庭内別居です。
家庭内別居とは、一つ屋根の下に住んでいながら、一緒に食事をとらない、話もしない、もちろん、寝室も別々。夫婦としては成立していない、そんな生活のことをいいます。
完全な形の家庭内別居は、家計も完全に別だったり、何か月も顔を見ていない、というほど生活が別々だったりするのですが、中には、顔を合わせばあいさつ程度はする、一緒に食事はしないが作って置いておく、といった緩い形の家庭内別居もあります。
あなたも家庭内別居予備軍??
家庭内別居といえば、夫婦の仲が悪いことが大前提です。しかし、最近増えているのが、特に不仲であるとは認識していないけれど、知らず知らずのうちに、家庭内別居に近付いていってしまう夫婦です。
みなさんは、どうでしょうか。以下に挙げたチェック項目にあてはまるものはありますでしょうか。
☑生活のリズムが違うので、めったに食事は一緒にとらない
☑見たいテレビ番組が違うので、別の部屋でそれぞれが好きなテレビを見ている
☑夫のいびきがうるさい(もしくは子どもが夜泣きするので)、夫婦の寝室は別々だ
☑用事がないかぎり、これといった会話はない
☑休日は、それぞれやりたいことをやっている
3つ以上にあてはまるご夫婦は、関係性が希薄になっていますので、意識的に会話をしたり、一緒に外食をする機会を作るなどしてみましょう。このまま放っておくと、本当の家庭内別居に移行してしまうかもしれません。
そして、次のチェック項目はどうでしょうか。
☑夫が帰宅すると、何となくリビングから自室に戻る
☑直接会話をするのが面倒なので、必要事項はメールで連絡する
☑夫の食事を作ったり、夫の汚れ物を洗濯するのが嫌になってきた
☑気付いたら、何日も顔を見ていなかった
☑家を売ったらいくらになるのだろうと査定をしたことがある
こちらの項目に3つ以上チェックが入った人は、既に「家庭内別居」状態だといっていいでしょう。ここまできてしまっていると、おそらく改善の意欲さえ湧かず、離婚を考える方が自然だったりします。
家庭内別居かリアル別居か
家庭内別居は、意図せずとも自然に進行していく場合がほとんどですが、一方、どちらかが自宅を出てリアルに別居を開始するのはそう簡単ではありません。どうすればいいか迷っている方にそれぞれのメリット・デメリットをお伝えしたいと思います。
家庭内別居のメリット
経済的メリット
家庭内別居は、家計が2つに分かれるわけではないので、家族としての経済的スケールメリットは保たれます。
世間体
家庭内別居は、外からは分かりません。そのため、「あのご夫婦、仲が悪いのかしら」と勘繰られたり、世間体が悪いということもありません。
子どもへの影響が小さい
リアルに別居するとなれば、子どもはどちらかの親と一緒に暮らすことができなくなります。場合によっては、子ども自身が転居することになり、転校をはじめとする環境の変化は免れません。しかし、家庭内別居であれば、少なくとも転居や一方の親との別居という変化は避けられます。
家庭内別居のデメリット
精神衛生上のデメリット
顔を合わしたくない相手だからこそ家庭内別居に至るわけですが、同じ屋根の下にいると、知らず知らずのうちに影響を受けてしまいます。例えば、
「あの人が扉を開け閉めする音を聞くだけで存在を思い出して不快」
「玄関ドアが開く音を聞くと動悸がする」
「顔を合わせないように生活するのが不便」
「どこに居ても気配を感じる」
といった具合です。
実際に顔を合わすことや会話をすることはほとんどないけれど、「存在」にストレスを感じるということがあるようです。
離婚話が進まない
将来的には離婚したいけれど、相手が応じてくれないという状況だったとします。そして、さらにどちらにも不貞やDVといった有責性がないとします。そんな場合、最終的に裁判になったとすると、すでに夫婦としては破綻しているとして離婚を認めてもらうためには、ある一定の別居期間が必要となってきます。基本的には家庭内別居では足りません。
また、裁判までしなかったとしても、別居は、離婚を渋っている相手に覚悟を見せることになります。加えて、実際に離れてみることで離婚後のイメージができ、離婚に踏み切れるということもあります。
家庭内別居のままだと、「単に仲が悪い夫婦」にとどまり、離婚話は促進されません。
家計が分離できない
一緒に住んでいるわけですから、光熱費や住居費(住宅ローンや家賃など)を分離して考えることができません。
また、極力顔を合わせないように生活をしているくらいですから、休日は何をしているのか、何にお金を使っているのか、そんなことは知ったこっちゃありません。
しかし、法律的にはまだ夫婦関係が継続しています。別居もしていませんので、夫婦の共有財産の概念が続いています。そのため、相手が好き勝手にお金を使ってしまうと離婚の際の財産分与の金額が減ってしまうことになります。
相手が何にお金をどのくらい使っているのか、本来であれば考えたくもないけれど、利害関係があるうちは考えざるを得ない、そんな煩わしさがあります。
リアル別居のメリット
精神的メリット
実際に別居する一番のメリットは、物理的な距離が絶対的になることです。これは家庭内別居では決して得られない距離感で、その距離感が精神面にも大きく影響します。
物理的に距離を置くことで、心も離れることができ、夫婦のいざこざも客観的に見ることができます。別居に踏み切った皆様からは、
「ずっとイライラしていた気持ちが晴れた」
「体調までよくなった」
「なぜもっと早く別居しなかったのか悔やまれる」
といった言葉が聞かれたりします。
経済的分離
通常、別居をすると「婚姻費用」という生活費のやりとりのみで、その後の夫婦の財産を分離します。そのため、自分で稼いだお金は自分のもの、自分で消費するものは自分で負担する、といったシンプルな関係になります。
そのため、相手とのお金のやりとりやそれをめぐる口論や気疲れが減るというメリットがあります。
離婚へのシミュレーションができる
誰だっていきなり離婚をするのは不安だったり怖かったりします。今の生活は耐え難いけれど、本当に一人でやっていけるのか、自分の本心はどこにあるのか、そんなことが分からなくて混乱することもあります。
しかし、実際に離れて生活をすることで、疑似離婚体験をすることができます。その体験を通して、自分の気持ちが明確になったり、生活への不安が払しょくされたりします。
リアル別居のデメリット
金銭的デメリット
先ほど別居のメリットとして、家計が分離されることですっきりするとお伝えしましたが、やはり全体的にはスケールメリットは失われます。
特に、これまで夫の給料のほとんどを預かって家計を回していた妻などの場合、決められた婚姻費用の中で生活するのはとても苦しかったりします。
やはり、別居できない理由として経済的な不安を挙げる方が一番多いように思います。
手間と労力がかかる
家庭内別居であれば、特に何かを準備する必要はありませんが、リアル別居はそうはいきません。別居先を探したり、諸々の転居手続きも煩雑です。まだ離婚をしていないということで、お子さんの保育園の転園手続きをさせてもらえなかったり、そもそも専業主婦では賃貸アパートの契約ができなかったりと心が折れそうになります。
相手との話合いが必要
家庭内別居はなし崩し的にスタートさせられますが、リアル別居は話合いが必要です。どちらが出ていくのか、子どもはどうするのか、婚姻費用はいくらにするのか、など、決めておくことがたくさんあるからです。
中には、まともに話合いができない状態になっていて、ある日突然別居を慣行する人もいますが、やはり、少しでも事前に伝えておくほうがいいように思います。
家庭内別居とリアル別居が子どもに及ぼす影響
最後にみなさんにお伝えしたいのは一番大切なことです。それは、家庭内別居やリアル別居が子どもにどのような影響を及ぼすのかということです。
先ほど、家庭内別居のメリットとして、子どもへの影響が小さいということを書きましたが、子どもは親の家庭内別居をどう感じているのでしょうか。
敏感な子は、両親の間に流れる微妙な空気を感じ、「あれ、これは単に生活がすれ違っているだけではないのかも」と感じることでしょう。
そして、親の間を取りもとうとし、伝書鳩の役割をしたり、両方の顔色をうかがいながら生活することになるのです。
また、子どもが「家庭内別居状態」を「普通」だと感じてしまうことにも問題があります。年齢が幼ければ幼いほど、子どもは自分の家庭以外の家庭がどんなものだか知りません。
そのため、一緒に食事をしない、用事がない限り話さない、ほとんど顔も合わさない、そんな夫婦生活が当たり前になってしまうのです。もちろん、反面教師で幸せな家庭を築くことができるかもしれませんが、大きくなって結婚したら、同じように会話のない家庭を築いてしまうかもしれません。
では、いっそのこと別居した方がいいのでしょうか。残念ながら、問題はそんなに簡単ではありません。実際に一方の親と生活を別にするという喪失感、「もしかしたら離婚してしまうのかもしれない」という現実的な不安感、そして何より環境の変化も子どもの心を大きく揺さぶります。
そう考えると、不自然なまま同居しているのがいいのか、それとも思い切って別居してしまうのがいいのか、答えがないように思います。
しかし、大切なことがいくつかありますので、それをお伝えしたいと思います。
説明をすること
夫婦がどういう状態なのか、シンプルに説明をしましょう。
どちらが悪いとか、何が原因かまで知らせる必要はありません(もし子どもさんが聞いてきたら節度のある範囲で教えてあげてください。)。ただ、現状を丁寧に説明しましょう。
家庭内別居であっても「なんかおかしいの、気付いてるかな。お父さんとお母さんは一緒に過ごすとけんかになってしまったり、つらくなってしまうから、なるべく家の中でも会ったり話したりしないようにしているんだよ。」といった具合です。
生活の変化に関する説明
家庭内別居の場合は、「だからと言ってすぐに離婚や転居はないから、今は心配しなくていいよ。」というような説明をしてあげることで、子どもはひとまず安心することができます。別居の場合はさらに丁寧な説明が必要です。特に、転居や転校の有無は必ず伝えましょう。
夫婦関係と親子関係は別だという説明
夫婦が仲が悪いからといって、子どもをその紛争に巻き込んではいけません。子どもがどちらかの親の肩をもってどちらかを嫌ったり、一方の親の顔色をうかがって、もう一方の親と自由に会えないようなことがあってはかわいそうです。
お父さんとお母さんはうまくいかないけど、あなたは両方の親と仲良くしていいし、両親もあなたを愛しているということを説明してあげましょう。
意見を聞く
子どもには「意思表明権」という権利があります。そのため、幼い子どもだからとないがしろにせず、きちんと説明をした上で、意見を聞いてあげてください。
もちろん、その場で何か言える子は多くはありません。しかし、自分の意見を尋ねてもらえたという経験自体が大切です。また、意見を聞く際、あなたの意見は参考にするけれど、最終的に決める責任は親にあることも説明してあげましょう。子どもにとっては、言いたいことを言えて、でも責任は負わないというのが一番楽です。
夫婦の問題をタブーにしない
もちろん、親の不和は子どもにとってショックなことです。お互いの悪口なんて聞きたくないでしょうし、巻き込まれたくないと思っている子も多いでしょう。しかし、子どもが望んだときには、自由に親について発言できる雰囲気を作ることが大切です。
例えば、別居したばかりの頃は、別居親のことが気になったりします。「今ごろパパは何をしてるのかな」なんて思ったとき、ママを気にせず口にできるような雰囲気を心掛けましょう。
また、子どもは、「何でも聞いていいよ」と言われたときにきちんと質問ができるわけではありません。夫婦不和の話題をタブーにせず、いつでも子どもが聞きたいことを聞けるような雰囲気が大切です。きっと、ふとした瞬間に「そういえば、なんでお父さんは家を出て行ったの?」とか「どちらが僕たちを育てるかはどうやって決めたの?」といった質問が出てくることと思います。
まとめ
家庭内別居で我慢した方がいいのか、それともリアル別居に踏み切るべきか、そう簡単に答えがでないこともあるでしょう。そんなとき、一つだけ大切にしてほしいのが、あまり我慢をしすぎないということです。限界まで我慢をしてしまうと、正しい判断ができなくなったり、前に進む気力がなくなってしまうことがあります。自分が楽に自分らしく生きられるのはどちらか、そんな基準で考えていただければと思います。
一人では何をどう考えればいいかわからない、ぐるぐる同じことばかりを考えてしまった答えがでない、そんなときはぜひご相談ください。あなたにとっての「自分らしい生活」はどんな生活なのか、一緒に考えたいと思います。