離婚するのに「円満」なんてないもんだと思われるかもしれませんが、意外とそうでもありません。当センターを訪れる方のほとんどが、「むやみに争わず、円満に離婚したい」と仰います。また、「もめずに」、「穏便に離婚したい」という方もたくさんおられます。
このコラムでは、円満離婚のメリットや円満離婚のためのポイントをお伝えします。
円満離婚とは
円満離婚と聞くと、「離婚する相手と仲良くなんてできない」と思われるかもしれませんが、円満離婚はけして相手と仲良くしましょうとか、笑顔で離婚しましょうということではありません。円満離婚の定義は人それぞれですが、むやみに紛争性を高めず、お互いが納得の上で離婚することと言えます。
円満離婚のメリット
円満離婚にはメリットがたくさんあります。なるべく事実を公平中立に伝えるのがこのコラムの趣旨ですので、メリットと併せてデメリットもお伝えしようと思ったのですが、そのデメリットが思いつかないくらい、円満離婚はいいこと尽くしです。以下、主なメリットをご紹介します。
早期離婚が可能
紛争性が高まり、関係がこじれてしまうと、夫婦で協議して離婚条件等を合意するということができなくなります。そのため、家庭裁判所の調停や裁判を利用することになりますが、調停だけでも1年かかったということが少なくありませんし、裁判になった結果、離婚成立までに2年も3年もかかったとう人もいます。
この点、円満離婚は2人の話合いで解決することも可能ですので、時間があまりかからないというメリットがあります。
精神状態が安定する
離婚したいくらい嫌いな相手ですので、悪口のひとつやふたつ言ってやらないとストレスがたまると思うかもしれませんが、意外とそうではありません。
一番ストレスなのは、相手を嫌ったり憎んだりしなければいけない状態のときです。強い負の感情を持ち続けるというのは、自分自身の気持ちもずっと疲弊し続けているのです。
そのため、過度に相手を責めたりせず、感情より理性を大切にした話合いができれば、あなた自身も楽になります。
費用がかからない
紛争性が高まってしまうと、双方が弁護士に依頼して家裁の裁判で争う、といった事態になります。そうなると、100万円近い費用(成功報酬の金額によってはそれ以上)がかかってしまいます。
もちろん、弁護士に依頼することが必要な案件もありますが、できれば、離婚後の生活のためにも、高額な弁護士費用を支払わずに納得のいく結果が得られるのが一番です。
第二の人生を気持ちよくスタートできる
一度は愛して結婚した相手と徹底的に争って離婚した後、あなたはすぐに前を向いて生きていくことができるでしょうか。
きっと、心身ともに疲弊し、そんな相手を選んでしまった自分自身も嫌いになってしまうかもしれませんし、前向きに生きていく気持ちになるまで、長い時間がかかってしまうかもしれません。
この点、円満離婚は時間、費用、そして心身の疲弊が最小限で済みますので、次のステップに進む気力・体力が十分に残っています。そして何より、自分自身を責めたり、嫌いになってしまうことを避けることができます。
円満離婚のための心得
そんなメリットだらけの円満離婚ですが、いくつか心得がありますので、以下にご紹介します。
過去にこだわらない
離婚協議をしていると、ついつい過去の夫婦生活の中で起こったあれこれを責めたり、あんなことを言った、言わないの争いになってしまったりします。
その議論が財産分与や慰謝料といった離婚条件に結び付くのであれば意味もあるのですが、大抵は離婚条件に影響するような事柄ではないのがほとんどです。
円満離婚のための協議は、「未来」に視点を持ち、離婚条件の取決めに特化して行うのがポイントです。
最初から本音ベースで協議する
どうせ協議の中で妥協していかなければいけないのだから、最初から高めの金額で要求しようという戦力を立てる人が少なくありません。
もちろん、妥協や譲歩が必要になる場面もありますが、過度に高額な設定をしてしまうと、最初の段階で「話にならない」と協議から降りられてしまったり、「こんな無茶苦茶な金額を言うなんてとんでもない」と紛争性が高まるおそれがあります。
また、最初に高額な金額を設定し、ずるずると譲歩を続けていると、他の離婚条件においても、同じように譲歩を求められ、「もう1万円養育費を上げてほしい(下げてほしい)」、「財産分与をもう100万円増やしてほしい(減らしてほしい)」といった金額闘争になってしまいます。
こういった状況を避けるためにも、最初からファイナルアンサーに近い条件を提示することをお勧めします。つまりは、「かけひき」の雰囲気をなくすことが大切です。
法律に沿った解決を目安にする
もちろん、夫婦が同意すれば、どんな離婚条件でも可能です。しかし、離婚条件の多くは金銭に関することですので、どちらか一方が多くもらおうと思うと、もう一方が多く支払わなければなりません。
このような関係性にありますので、「落としどころ」を用意しておくことが大切です。双方の主張が異なる場合、「財産分与は2分の1ずつ」、「養育費は算定表」といった具合に、法律に沿った解決を目安にしましょう。
自分の中で優先順位を明確につける
円満離婚に大切なのは、「納得」という要素です。そのため、いくら円満のためとはいえ、全ての離婚条件で譲歩や妥協が必要なわけではありません。
これだけは譲れないというものがあれば、それを主張することが自分自身の納得には大切です。ただ、あれもこれも譲れないとなると話が前に進まなくなってしまいますので、自分の中で優先順位をつけておくと、相手の理解も得られやすく、自分自身の納得にもつながるでしょう。
円満離婚のための離婚協議のポイント
円満離婚のための心得を理解できたら、次は実際の離婚協議についてです。
場の設定を工夫する
協議場所
もし可能であれば、自宅ではなく、ファミレス等のある程度人目がある場所を選びましょう。こういった場所であれば、「自分が周囲からどう見られているか」といったことに意識が向きますので、怒鳴り合いになったりせず、冷静に話し合えます。
時間帯
仕事が終わった後の夜間の時間は疲労がたまり、思考がネガティブになりがちです。また、感傷的になったりしやすい時間帯でもあります。エンドレスで話してしまうと、話が脱線したり、集中力が欠けてしまったりします。
そのため、休日の日中など、明るい時間帯に「何時から何時まで」と時間を決めて話し合いましょう。
話し合いの仕方を工夫する
互いの話を最後まで聞く
幼稚園の先生が園児にするような話ですが、実は、「互いの話を最後まで聞く」という姿勢が円滑に協議を進める上で欠かせない要素です。
自分の認識とは違うこと、本位ではないことを相手が話し始めると、「それは違う」と遮りたくなりますが、まずは、最後まで聞くというルールをお互いに共有した上で話合いをスタートさせましょう。
相手を過度に非難しない
過去を清算し、前を向いて進んでいくためには、過去のつらかった気持ちを相手に吐露し、理解してもらうことが必要な場合もあります。
しかし、それはあくまで自分の気持ちの整理のためであって、相手を傷つけたり、やり込めたりするためではありません。相手を過度に非難する行為は、双方から理性を奪い、法律事項の取決めが困難になります。
相手への感謝の気持ちを伝える
嫌いになった相手に感謝の気持ちを伝えるのは難しいかもしれませんが、必ず、何か感謝すべきことがあるはずです。
相手と出会って恋愛関係になり、結婚し、場合によっては子どもも生まれているかもしれません。そんな経過の中で、良かったこと、楽しかったこともあったはずですが、それは相手がいたからこそです。
離婚となれば、嫌だったことやつらかったことにフォーカスしがちですが、是非、良かったことにも焦点を当て、言語化してみてください。きっと、相手だけではなく、あなた自身も前向きな気持ちで離婚協議に臨めると思います。
身内を巻き込まない
なかなか夫婦二人では話合いができず、両親や兄弟姉妹に仲裁をお願いしたいと考える人もいるかもしれませんが、あまりお勧めではありません。
親族は、いくら中立的な方でも究極的には身内の味方です。また、偶然にも弁護士や行政書士の資格を持っていない以上、法律の知識もありません(ネット検索等で得た中途半端な知識で仲裁されると、さらに厄介です・・)。
そのため、夫婦二人だけでは協議が難しい場合、以下に記載する「夫婦だけではもめそうな場合の協議方法」を参考にしていただければと思います。
離婚条件を工夫する
離婚協議の中身は様々ですが、大抵は、以下のような離婚条件の中から必要な項目を合意していくことになります。
- 離婚時期
- 親権
- 財産分与
- 養育費
- 慰謝料
- 面会交流
それぞれの項目によって注意点は異なりますが、共通なのは、自分の利益を最大限にすることだけを考えない、ということです。親権・養育費・面会交流は、大人の利益より、子どもの幸せを第一に考える必要がありますし、その他の項目も相手の主張や気持ちを考慮する必要があります。
まずは、「法律上は〇〇」というルールを知った上で、そのルールから大きく離れない範囲で協議するのが円満離婚のポイントです。
夫婦だけではもめそうな場合の協議方法
本来は、夫婦二人でしっかりと話し合い、双方が納得の上で離婚ができるのが理想です。しかし、なかなか難しい場合も多く、そんな場合の協議方法をお伝えします。
家庭裁判所の離婚調停
家裁の離婚調停は、双方が納得しなければ成立しない点が裁判と異なり、裁判よりは穏便な協議方法と言えます。
しかし、やはり「家裁」というだけでどうしても紛争性は高まりますし、申し立てられた側は「訴えられた」というような被害感情を持ったりします。家裁の調停離婚は離婚全体の10分の1程度しかいないのは、まさにその「ハードルの高さ」故だと思われます。
ただ、夫婦だけでは話し合えない場合、次に進める一つの選択肢となります。
弁護士に依頼する
円満離婚を望むのであれば、実は弁護士はあまりお勧めではありません。あなたが弁護士に依頼した場合、相手も弁護士に依頼することが多く、そうなれば、弁護士対弁護士の戦いになってしまい、当事者同士の気持ちが置き去りになってしまうからです(もちろん、気持ちをきちんとくみ取って、穏便に進めてくれる弁護士もいますが)。
しかし、相手と自分で交渉する体力や気力が残されていないという場合、弁護士はあなたの代理人となって全面的に交渉の矢面に立ってくれます。
ADR(民間調停機関)を利用する
円満離婚に一番お勧めなのが、ADR(民間の調停機関)です。家裁と違って民間の機関ですので、相手の受け止めも幾分ソフトです。また、弁護士は、一方の味方として弁護活動をしますが、ADRは二人の間に入り、中立の立場で話を進めます。
そのため、円満に離婚したけれど、夫婦だけでは話し合えないという場合は、まずはADRで協議をしてみて、それでもだめなら家裁、それでもだめなら弁護士に依頼して裁判、という流れがお勧めです。
離婚協議は「負けて勝つ」
「ローズ家の戦争」(1989年)という離婚を題材にした映画をご存知でしょうか。内容は現実離れしたブラックコメディーなのですが、名言が散りばめられています。その名言の一つに、「離婚戦争に勝利はない。大事なのはいかに負けるかだ」というセリフがあります。
まさに離婚が戦いのようになってしまっては、勝者はいません。双方が傷付いて疲弊していくだけです。
そのため、円満離婚を目指すのであれば、「負けて勝つ」の精神で、目先の利益や感情に振り回されないことが大切です。
優先順位の高いことはしっかりと主張し、それ以外は多少は妥協し、お互いをむやみに傷付けず、そんな離婚協議を目指していただければと思います。