離婚の問題が持ち上がったとき、みなさんならどこに相談にいくでしょうか。
区役所の家庭相談、家庭裁判所の手続相談、離婚カウンセリング、ネットでリサーチなど、色々な方法があります。そんな中でも、一番多くの方の頭に浮かぶのが、「弁護士」ではないでしょうか。
今回は、離婚問題と弁護士について、「離婚に弁護士は必要か」という視点で書きたいと思います。
1 離婚協議には段階がある
「離婚するときに弁護士を頼んだ方がいいか?」
この質問に一言で答えるのは難しく、どのようなステージで離婚するのか(協議離婚か、調停離婚か、訴訟離婚か等)、また、当事者の紛争の度合いや財産の多少、離婚原因などによって異なってきます。
1-1 協議離婚の場合
日本では、離婚全体の約9割が協議離婚だと言われていますので、ほとんどの離婚は裁判所外の協議で行われています。
そんな大部分を占める協議離婚ですが、まずは、当事者同士で話し合い、それでもだめな場合は弁護士に依頼 するというステップが必要だと思っています。
「そんなこと、当たり前でしょ。」と思うかもしれませんが、意外とその当たり前が難しかったりするのです。
例えば、妻がいきなり家を出て行ったと思えば、弁護士から書面が届いたなんてことがあります。受け取った夫としては、まだ夫婦の話合いもできていないのに、「今後は、本人への連絡を控え、当職を通してください」などと書かれた書面に戸惑ってしまいます。
また、離婚の話合いをしたいのに、取り合ってもらえず、協議にならないという事例も結構多かったりします。
何か問題が起きたときや相手の態度に不満を感じたとき、最初は、それらの解消のために話し合いができたとします。
しかし、話合いをしても「いくら話しても通じない」、「話せば話すほど関係がこじれる」という経験が積み重なっていくと、話合いをしても無駄ではないのか、と考えるようになってきます。そのうち、話し合って解決すべき問題や不満を放置するようになり、日常の生活に埋没していくのですが、それが積み重なり、知らない間に夫婦の間に大きな溝が存在し始めるのです。
そのため、離婚前の夫婦というのは、驚くほど「話し合って決める」という機能が落ちていることがあるのです。
以前、別居しているわけでもないのに一切口を利かず、必要事項はメールでやり取りをしている夫婦がいました。 この夫婦はまさにこの典型で、その上、別居をするという能動性もないわけです。
「話し合いができるくらいなら離婚しない。」という人もいるかもしれません。しかし、最初は「死ぬまで一緒にいたい。」という思いで結婚した相手なのですから、最後くらいは相手と向き合って結論を出してほしいと思います。それでもダメなら弁護士に相談というステップを踏んでください。
1-2 調停離婚の場合
夫婦で話し合って協議離婚ができない場合、家庭裁判所に離婚調停を申し立てることになるのですが、この場合、弁護士に依頼した方がいいのでしょうか。
実際には、特に東京、大阪、名古屋などの大都市では、家事事件に代理人弁護士がつくことが多くなってきたように思いますが、実は、そんなに必要ではなかったりもするので、みなさんが不安に感じる点について、以下にまとめてみました。
1-2-1 法律が分からない
弁護士に依頼する理由の一つとして、自分では法律のことが分からないから、という理由があります。
確かに、普通の生活をしている限り、裁判所には縁のない方たちがほとんだと思います。また、調停では、日常生活では聞かない「婚姻費用」といった法律用語が出てきたりします。そのため、法律を知らないと、まともに話合いすらできないのではないかと、不安になったりします。
しかし、話の中身は夫婦関係のことです。日々の生活のこと、相手との関係性のことなど、自分の言葉で話せば十分なのです。
調停委員や裁判官も、やたらに難しい言葉を使うことはなく、なるべく分かりやすく話してくれます。また、分からない用語があれば、説明もしてくれます。
そのため、「法律の話をしにいく」というより、「夫婦の今後について話し合いに行く」という程度の認識でよいのではないでしょうか。
1-2-2 書類が書けない
「家庭裁判所で調停」というと、手続きがとても面倒だったり、難しい書面をたくさん書かなければならないというイメージを持つ方もいると思います。
しかし、実際はそれほどでもありません。
申立ての手続自体はとてもシンプルですし、申立書についても、書き方のサンプルを見せてもらうこともできます。事情を説明するような書面や住民票などの資料の提出も求められますが、これも特段難しいものではありません。
また、実際の調停が始まった後も、口頭での説明だけではなく、「主張書面」や「陳述書」といって、言いたいことや主張したいことを書面にして出してくださいと言われることがあります。
これについても、特に「こう書かなければいけない」というルールはありませんので、まずは、自分でチャレンジしてみてください。
1-2-3 交渉が下手
「相手は口がうまいから」、「自分は交渉下手だから」という理由で、不安を感じる人もいます。
交渉が相手のペースで進んでしまい、口下手な自分は不利な条件をのまされるのではないかという不安です。
これに対しても、それほど心配はいりません。
調停は、「調停委員」という仲介役がいます。また、話合いの進行によっては、裁判官から「調停案」というのを出してもらうこともできます。この調停案は、「審判や裁判になったら、裁判官はこういう結論を導く可能性が高いですよ。」というものです。
また、調停委員や裁判官は、一方当事者の味方はしてくれませんが、「妥当な落としどころ」についてはアドバイスをくれますので、弁護士を依頼しなければ不利になる、というものでもないのです。
調停委員や裁判官は、中立の立場で調停に参加しますので、いくら相手が交渉上手だからといって、あまりに偏った結論を導くことはないので安心してください。
1-3 裁判の場合
裁判になると、やはり弁護士を依頼することになるのではないでしょうか。
裁判が調停と大きく違う点は、「もはや話合いではない。」ということです。また、職権主義ではないので、自分で主張し、証拠を提出しない限り、事実として取り上げてもらうことはできません。そうすると、やはり弁護士を依頼した方が、自分が思ったとおりの主張ができると思います。
2 弁護士を依頼するメリットが大きいパターン
次は、そうはいっても、こんな場合は弁護士に依頼するのが有効なのでは、というバターンについてお伝えしていきたいと思います。
2-1 相手との力関係の差が大きい場合
相手との関係において、極端に立場が弱い場合で、協議離婚を想定しているのであれば、やはり弁護士への依頼が有効です。
例えば、DVやモラハラが原因で離婚する場合、面と向かって相手と協議するのはとても難しかったりします。また、対面での協議ではなく、メールや電話でのやりとりだったとしても、やはり、間に入ってくれる人の存在が必要です。なぜなら、婚姻生活を通して一方的に抑圧されてきた人は、そもそも自己主張ができなくなってしまっているからです。
2-2 財産分与が複雑な人
分与対象の財産が預貯金だけで、しかも双方が家計を把握しているような場合、財産分与はとても簡単です。
しかし、預貯金のほかにも、株式や債券、積立型の保険などがあったり、自営業者で会社の持ち株があったりすると、財産分与がとても複雑になります。
更に、相手が所有している財産をあまり把握できていかなったり、口座を隠されたりしている場合、もっと面倒な手続きが必要になってきます。
そんなときこそ、弁護士の出番です。弁護士さんなら、どんなにややこしい財産関係も、目録を作ってきちんと整理してくれるので安心です。
2-3 メンタルに不安がある人
心の健康に不安を抱える人も、やはり弁護士さんにお任せするのが有効です。 病院で診断名がついていなくても、うつっぽいとか、不眠傾向が強いといった人たちもしかりです。
離婚は思った以上に長く険しい道のりで、精神的な負担が大きいものです。有名企業に勤めるエリート夫が、妻からの執拗な攻撃に耐えきれず辞職した上にうつ病で入院したとか、夫からの執拗なモラハラ行為が原因で夫と同じ車がそばを通っただけでも呼吸が早くなるといった類の話がよく聞かれます。
そのため、心の健康に不安がある人は、少しでも負担を軽減するためにも、弁護士依頼を検討してもよいかと思います。
弁護士費用は高すぎる、かといって一人で立ち向かうのにも限界がある、といった方は、是非ADRもご検討ください。