昨日(令和元年12月23日)、養育費算定表の改訂版が発表になりました。その概要と以前との違いをご紹介しつつ、養育費の本来の意味合いや役割、そして養育費の取決めの方法について考えていきたいと思います。
算定表(令和元年版)の概要
基本の考え方
双方の年収と子どもの人数及び年齢といった4つの要素から養育費の金額を算出する点においては、従来の算定表と同じです。
また、表に当てはめるのは年収(税込)ですが、その表のもととなる計算式に使われるのは、「基礎収入」という概念で、年収から公租公課や必要経費を引いたものを言います。この点についても従来のものと同じです。
変更点
今回、養育費算定表が改定されたことにより、1万円~2万円程度、養育費が上がる人が多いと言われています。このような増額の原因となった変更点について司法研究概要を参考に、以下でお伝えします。
基礎収入
給与所得者の基礎収入の割合が以下のとおり変更となりました。変更内容を見ていただくと、年収が高くても低くても、以前より基礎収入割合が高くなっていることがお分かりになると思います。この変更については、税金や保険料の見直し、通信費の増額などを反映させた結果のようです。
改定前 | 改定後 | ||
収入(万円) | 割合(%) | 収入(万円) | 割合(%) |
0~75 | 54 | ~100 | 42 |
~100 | 50 | ||
~125 | 46 | ~125 | 41 |
~175 | 44 | ~150 | 40 |
~275 | 43 | ~250 | 39 |
~525 | 42 | ~500 | 38 |
~725 | 41 | ~700 | 37 |
~1325 | 40 | ~850 | 36 |
~1350 | 35 | ||
~1475 | 39 | ~2000 | 34 |
~2000 | 38 |
生活費指数
以前の表では、0歳~14歳は大人が100に対して55、15歳上は大人100に対して90の生活費がかかるとされていました。
この点、今回の改訂では、0~14歳が62、15歳以上が85になっています。ざっくりと解釈すると、年齢が低い場合の生活指数が上がり、年齢が高い場合の生活指数が下がっています。
小中学生だからといって、高校生より生活費が低いわけではない、ということなのでしょうか。
改定の背景
以前使用していた算定表は、16年前に大阪家裁の裁判官が中心となって作成されたものでした。そして、16年間、様々な事情が変化し、養育費が低すぎるとの批判も常々聞かれていました。
そんな中、2016年には、弁護士会から新算定表が発表されました。しかし、この新算定表は、家裁の手続きの中で標準的に使われることはありませんでした。
一方で、ひとり親家庭の子どもの貧困化が社会問題として認識され、養育費の不払い問題などが注目されるようになってきました。実際の生活の変化や社会からの要請もあり、今回の改訂に至ったのではないでしょうか。
今後の運用
既に令和元年12月23日から家裁での運用が始まっています。
法律であれば、新しい法律が施行されるまでに、ある一定の準備期間があります。しかし、今回の改訂では、詳細が公開されると同時に運用が始まっています。
今回は、その影響の大きさに鑑み、運用開始の1か月前である11月には、12月23日に改訂算定表が公開になることを発表していました。
養育費額算定の方法
今回は、改訂算定表を紹介しましたが、必ずしも算定表を使わなければならないわけではありません。養育費の金額を定めるに際し、いくつか、お勧めの考え方をご紹介したいと思います。
実際の生活実態に即して考える
現在、実際にお子さんにかかっている費用をベースに考える方法があります。
メリット
お子さんに実際にかかった費用をベースに話し合いますので、お互いの納得度が高いという利点があります。
また、お子さんの年齢が高く、進学塾や私立の学校に通っていたりすると、教育費が高額になっています。そのような場合、高額の養育費を請求しなければ生活が成り立ちませんが、実費ベースだと、支払う側にとっても高額請求に対する納得がしやすかったりします。
デメリット
お子さんが小さく、特に費用があまりかかっていない場合、どんなに相手の収入が高くても、あまり養育費がもらえないことになります。そして、その後、教育費が高額になったとき、再度決めなおす必要も出てきてしまいます。
また、実費であるが故に、双方の連絡頻度が上がったり、請求する側にしてみれば「いちいち相手の許可を得ないと支出できない」といった煩わしさを感じるかもしれません。
そのため、ある程度の幅の中では養育費を固定することとし、大きく変化があったときのみ協議して金額を定めるようにしておくといったような工夫が必要になってきます。
養育費+教育費
算定表の金額の中にも教育費費が含まれていますが、公立高校程度の学費を想定した教育費となっています。そのため、私立の学校や大学の費用に関しては、到底算定表の金額から捻出するのは難しいのです。
家庭裁判所で取り決める際も、月々の養育費〇万円と決めた上で、高額な学費や事故や大病をした場合の医療を「特別出費事項」として、そういったものが発生した際は双方で協議して負担割合を定めるという条項を加えます。
ただ、この条項は、「双方で協議する」ということしか記載していないので、問題の持ち越しのようなものです。
また、おそらく発生しない可能性の方が高い高額医療費と、大学進学の際の学費を同列に扱うことにも問題があります。
そのため、既に私立学校に通っているとか、近い将来大学に進学するというような場合、学費はお互いの収入比で按分するなどと決めておくといいでしょう。この決め方だと、互いの納得が得やすく、また、再度の決めなおしも必要ありません。
養育費の話合いの方法
養育費の金額を決定するためには、何らかの形で話合いをもたなければなりません。以下では、話合いの方法についてご紹介したいと思います。
夫婦で話し合う
まだ関係性が完全に悪化していない夫婦であれば、二人のみで話合いが可能なこともあるでしょう。このように専門家を介さない話合いの場合、算定表のような目安が大変役に立ちことと思います。
親や友達に間に入ってもらう
2人だけだと喧嘩になってしまうということで、比較的冷静な第三者を間に入れて話し合う人もいます。
しかし、実は、この方法はあまりお勧めではありません。なぜなら、親族や友人といった第三者は、法的知識がなく、また、どちらか一方に近い存在であることが多いため、かえってもめることになってしまうからです。
家裁の調停
養育費請求の調停を家庭裁判所に申し立てることができます。養育費のみですと、相手方が不出頭であったとしても、審判といって、裁判官が金額を決める手続きに自動的に移行します。
そのため、夫婦関係が相当に悪化していて、話合いにすら応じてもらえなさそうな場合や、葛藤が相当程度高まっているような場合、家裁の調停や審判という手続きも選択肢に入れましょう。
ADRによる調停
ADRは、法務大臣による認証制度が確立された民間の調停機関です。
家裁よりも敷居が低く、平日の夕方以降や土日の利用が可能だったり、メールが利用できたりと利便性が高いのも特徴です。
何より、紛争性をむやみに高めないというメリットがありますので、2人ではなかなか話が進まないけれど、なるべく争いたくない、穏便に進めたい、という方にはお勧めです。
ADRについては以下をご参照ください。
養育費の本来の意味
養育費は、子どもが成長していく過程で欠かせないものです。もちろん、経済的なサポートの役割も大きいのですが、何より、心のサポートの側面も忘れてはいけません。
毎月、決まった金額が離れて暮らす親から振り込まれている。その通帳を見たときの子どもの気持ちはどうでしょうか。
きっと、親からの関心や愛情を感じ、自分が求められて生きているのだということが実感できるのではないでしょうか。
その実感が自己肯定感への高まり、人生の困難を乗り越え、新しいことにチャレンジしていく原動力につながっていくのです。
今回の養育費算定表の改訂を契機に、養育費の本来的な意味合いが再度確認され、離婚現場に子の福祉の視点が広がることを願っています。
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