令和元年5月、養育費の支払いに関して大きな影響を与える法改正が成立しました。
今回は、養育費の支払が滞った場合の手続きについて、法改正を中心におさらいしたいと思います。
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養育費が滞る理由
せっかく養育費を取り決めても、その支払いが滞ってしまうことがあります。
以下で、不払いの理由として多いものをご紹介します。
義務者の生活の変化
養育費を支払う側の生活の変化により、養育費が滞ることがあります。よくあるのは、再婚により、扶養家族が増え、養育費に回せる金額が減少してしまうというケースです。加えて、金銭的な事情というより、新しい配偶者への気兼ねがあり、支払いが滞ってしまうこともあります。
また、退職や転職により、収入が著しく減少もしくは無収入になってしまうパターンもあります。
モチベーションの低下
離婚当初は、子どもへの思いもあり、親として子どもの生活費を負担する責任を感じていたりします。
しかし、月日が経つにつれ、その当時の気持ちが薄れてきてしまいます。そうなると、養育費の優先順位が低くなり、これまでと収入状況は変わらなかったとしても、自身の遊興費やその他の費用を優先させた結果、養育費の支払いが滞りがちになります。
親権者との葛藤
そもそも、夫婦仲が悪いから離婚するのですが、離婚後も、関係が悪化し続けることがあります。特に、お子さんの面会交流をめぐり、約束通りに会わせてくれないなどの状況が発生した場合、その報復として、養育費の支払いが止まる場合があります。
面会交流と養育費はバーターの関係ではなく、二つともが子どもの権利です。親の視点からすると、養育費の支払いがない分会わせなくて済む、もしくは、会わせてもらえない代わりに養育費の支払いをしなくてよい、といったプラマイゼロの考え方になりがちですが、子どもにとっては、別れて暮らす親にも会えず、また、養育費も支払ってもらえず、踏んだり蹴ったりの結果になります。
義務者が身を持ち崩す
義務者である別居親が仕事を辞めてしまうパターンに少し似ていますが、離婚や親権を譲ったことがショックで、うつ病になったり、その結果、仕事を辞めてしまう人がいます。
次の仕事を探す気力もなく、そのうち音信不通になってしまったりと、義務者自身が前向きに生きる気力をなくしてしまうと、養育費の支払いどころではありません。
養育費の支払いが滞った場合の対処法
メールで請求する
これが一番オーソドックスなはじめの一手だと思いますが、まずは、ご自身でメールなどで連絡してみましょう。
その際、「どうして入金が遅れているのか」といった詰問調ではなく、「いつも養育費をありがとうございます。今月は、まだご入金がないのですが、何かありましたでしょうか。お忙しい中すみませんが、ご連絡をお待ちしています」といった感じで、まずは日頃の謝意を伝えた後、お問い合わせをしてみましょう。
何事もそうですが、自分のことばかりを主張するのではなく、相手の状況を想像したり慮ったりすることが大切です。養育費も然りです。最初から悪意で推察するのではなく、「どうして滞ったのだろう。」、「何かあったのかな」といった具合に、フラットな気持ちで考えてみましょう。一番の目的は、相手に勝つことではなく、養育費を支払ってもらうことです。
裁判所での手続き
任意で支払いが確保できない場合、履行勧告や強制執行といった、裁判所での手続きに進むことになります。
こちらの手続きについては、以下のコラムに詳細を記載していますので、是非ご参考いただければと思います。
強制施行の実際
養育費が支払われない場合の最終手段が強制執行です。強制執行というと、その名のとおり、強制的にお金を回収できるイメージがあり、強制執行さえすれば無敵な感じがします。
しかし、意外とそうでもありません。なぜ無敵ではないのか、強制執行先の財産別にお伝えしたいと思います。
給与の差し押さえ
義務者が勤め人の場合、給料を差し押さえるのが一番簡単です。しかし、義務者が転職し、転職先が分からなくなってしまうと、打つ手がありません。
また、自営業の場合、給与の支払者と義務者が一体だったりするので、このような場合も実効性がありません。
さらには、給与の差し押さえにより、義務者が会社にいづらくなり、辞職してしまうかもしれないというリスクもあります。
預貯金通帳の差し押さえ
義務者が管理している口座を把握していれば、その口座を差し押さえることができます。しかし、一旦、別の見知らぬ口座に移されてしまうと、手も足もでません。
土地や建物などの不動産
義務者が土地や建物などの不動産を所有している場合、その不動産を競売にかけ、その利益から未払い分を取得することもできます。
しかし、実際のところ、不動産の競売はそう簡単ではありません。
その不動産に抵当権がついている場合や、税金の滞納がある場合、そちらが優先になってしまいます。また、何より大変なのが、競売の手続きを申し立てる場合の高額の予納金です。この予納金、不動産の価値によって異なりますが、60万円~の予納が必要になってきます。
また、うまく手続きが進んだとしても、実際に養育費を手にするまで1年もかかったということもざらにあり、一般的にそんなに高額でない養育費の強制執行としては、あまり現実的でないとも言えます。
改正民事執行法
ここからが本題ですが、本年5月に改正民事執行法が成立し、強制執行の手続きに大きな影響を及ぼすことが考えられます。以下、主な変更点2点についてご説明します。
預貯金口座に関する情報提供
これまで、義務者名義の預貯金通帳について、〇〇銀行の△△支店といった情報を権利者が把握しておく必要がありました。
しかし、先ほど書きましたように、義務者が確信犯的に預貯金口座を移してしまえば、手も足も出ないということになります。
しかし、今回の改正により、権利者は地方裁判所に義務者の預貯金口座に関する情報提供を申し立てることができるようになります。
申立てを受けた地方裁判所は、該当の金融機関に照会をかけ、地方裁判所を経由して権利者に情報が届けられることになります。
勤務先の情報提供
強制執行がしやすい給与ですが、勤務先が分からない場合、手続きができませんでした。
しかし、今回の改正により、地方裁判所を介して、年金事務所や市町村役場に義務者の勤務先を照会できるようになりました。
まとめ
この改正民事執行法により、強制執行が実効性の高いものになることが期待されています。また、実際に強制執行がしやすくなるのとは別に、心理的効果も期待できます。
と言いますのも、これまで、「逃げ得」のような状態だったのが、「転職しても、口座を隠しても追いかけられる」と思うと、支払う側の認識も変わってくるからです。
子どもが無事に大きくなるまで、お金を支払ってもらうことは、そう簡単ではありません。
しかし、成長した子どもに定期的に入金されている口座を見せてあげられることは、実際の経済的メリットと同じくらいの大切な効果があります。
子どもが、「僕・私は、二人の親から愛され、育てられた」という感覚を持てるよう、親権者である親も、非親権者である親も、できるかぎりの努力をしていただければと思います。
また、養育費の番外編として、「養育費保証制度」もあります。この制度は、まだ新しい制度でありながら、各地の自治体が取り入れるなど、効果が期待されています。
養育費保証制度についてご興味のある方は、以下のサイトをご参考になさってください。
その他、養育費に関するコラムはこちらをご参考ください。
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