別居(婚姻費用)

高額所得者の婚姻費用に関する考え方

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婚姻費用とは、婚姻関係にある夫婦が別居している際に発生する生活費のことで、原則的には収入が多い方が少ない方に支払うものです。

婚姻費用は、養育費と同じく算定表を利用して決めることが一般的なのですが、支払う側があまりに高収入だと、算定表を使えない場合があります。今日は2000万円以上の高収入を得ている方のための算定方法などについてお伝えします。

本コラムは「婚姻費用・養育費等計算事例集」の「Q10義務者の収入が算定表の上限を超える場合」を参考にしています(著者の許可を得て掲載しています。)。

超早わかり「標準算定表」だけでは導けない
婚姻費用・養育費等計算事例集
著者:婚姻費用養育費問題研究会

 

高額所得者の婚姻費用の算定方法

2000万円で算定

まずは、算定表の上限である2000万円(自営業者は1567万円)を限度にする方法をご紹介します。

この考え方は、上限を超える部分の収入については、資産形成に充てられるとする考えです。しかし、上限を超える部分が全て資産形成に回されるわけではありません。

所得が高ければ、それなりに人と交流し、交際費も高くなります(ゴルフや飲食費等)。そういった生活を送ってきたのに、別居によって、「2000万円を限度に算出した婚姻費用で生活してください」と言われても困ってしまう人もいます。

そのため、2000万円を限度に算出する方法は、所得が2000万円を大幅に超えない方にお勧めです。

基礎収入割合を修正

養育費算定表にあてはめるのは総収入ですが、算定表のもととなっている計算式では、総収入から基礎収入を算出し、文字通りその金額を基礎に養育費の金額を決定していきます。

基礎収入は、総収入から、どうしても必要な以下の3つの費用を引いたもので、言わば養育費の捻出の基礎となる金額です。

・公租公課(税金や社会保険料等)
・職業費(その仕事をするために必要な経費)
・特別経費(住居費や学習費用等の固定費)

ただ、これらの経費を実際に計算して差し引くのではなく、総収入(給与所得者であれば源泉徴収票の支払金額)に以下の割合をかけて算出します。

収入(万円) 割合(%)
~100 42
~150 40
~250 39
~500 38
~700 37
~850 36
~1350 35
~2000 34

収入が高くなればなるほど、基礎収入割合が小さくなっていくのがお分かりになると思います。これは、高額所得者になると、公租公課の割合が高くなるからです。

そのため、2000万円を超える高額所得者の場合、通常と同じ計算方法で算出するけれど、基礎収入割合を34%より低く設定するという方法があります。

例えば、過去には、6200万円の総収入に対し、基礎収入割合を27%とした裁判例もありました。(福岡高決平26・6・30)

貯蓄率を控除

総収入が2000万円を大きく上回るけれど、億単位ではないような場合、貯蓄率を控除する方法もあります。

一般的な収入より多い部分について、すべて消費するわけではなく、貯蓄率が高くなるという考え方です。

同居中の生活レベルから算出

総収入が1億を超えるような場合、同居中の生活レベルに合わせた考え方が必要になります。例えば、住んでいる家の家賃も桁違いに高額かもしれません。著名人の場合、警備費用等も必要かもしれません。

このように、収入が1億を超えるような場合、通常の生活と異なる経費が掛かり、算定表の計算式に当てはめることが不自然な場合があります。

一方で、高所得による浪費(高級ブランドを買いあさるなど)の部分まで生活のための経費とは見られません。

そのため、同居生活中の生活費支出状況から必要な部分を加え、浪費部分を除く方法により婚姻費用を算定する考え方もあります。

従来方式で計算

従来方式とは、算定表ができる前の考え方で、公租公課や特別経費などを実費で計算する方法です。

そもそも、養育費算定表は、実費計算の煩雑さをなくすことをひとつの目的として作られた表ですが、2000万円をはるかに超える高所得の場合、従来の考え方に戻って計算するのが適しているという考え方もあります。

高額所得者夫婦の落とし穴

婚姻費用を支払う側の落とし穴

高額所得者の場合、上述のどの計算方法を採用したとしても、婚姻費用は相当程度、高額になります。これまで、夫婦円満だったからこそ支払っていた生活費ですが、夫婦不和による別居後も、相当額の婚姻費用を支払う義務が発生するのです。

例えば、支払う側の要因で別居する場合、高額な婚姻費用もやむなしの側面があります。また、相手側が有責(不貞等)の場合、養育費相当程度を支払えばよいとされることが多く、相手の生活費まで負担しなければいけないわけではありません。そのため、この場合も過度な負担にはなりません。

問題は、有責とまでは言えないけれど、夫婦関係が破綻した原因が相手にあると思われる場合です。

事例

夫:外資系金融機関勤務、年収2500万円
妻:専業主婦
長男:15歳
長女:8歳

妻は、子どもたちに手が掛からなくなったこともあり、日中はママ友と贅沢なランチを繰り返しています。空いた時間で家事をするわけでもなく、趣味やお付き合いに忙しいため、炊事や家事もおざなりです。

また、教育方針についても、夫婦間で意見が一致しません。夫は、地道な勉強こそが将来のためになると考えていますが、妻は、お金さえあれば海外に留学させられるし、その経歴があれば何とかなるという考え方です。

夫婦は性格の不一致により喧嘩が増え、ついに妻は子らを連れて実家に帰りました。夫は、算定表上の婚姻費用として44万円を請求されました。加えて、家族で住んでいた賃貸マンションの賃料は月額35万円もします。

そんなこんなで、夫は手取りの3分の1も手元に残らなくなり、ついにワンルームマンションに転居することにしました。

こんな場合の夫の気持ちはどうでしょうか。もちろん、妻にしてみれば、子育てが一段落し、楽しんで何が悪いということになります。また、教育方針についても、どちらが悪いというわけではありません。

しかし、夫にしてみれば、一生懸命稼いだお金を好き勝手に使われ、家事や育児も満足にしてくれないとなれば、嫌になっても仕方がなさそうです。その上、高額な婚姻費用を請求され、何のために働いているのか分からない、そんな状態に陥るのです。

婚姻費用を受け取る側の落とし穴

婚姻費用を受け取る側の立場にしてみれば、相手が高額所得者であることは幸運なことです。しかし、落とし穴がないわけではありません。

生活の変化を余儀なくされる

いくら婚姻費用が高額だったとしても、同居当時の生活に比べると、どうしても制限や制約が出てきます。そんな中、日頃の生活様式を変えるのはそう簡単ではありません。

特に困るのが住居費です。配偶者が高所得者の場合、賃貸にしろ持ち家にしろ、住環境が恵まれていることがほとんどです。しかし、別居となれば、その住環境を変えざるを得ないこともあります。また、配偶者の方が家を出て行くとしても、現在の住環境を婚姻費用で賄った場合、その他の生活費を大きく圧迫することになるでしょう。

そして、もっと辛いのは交際関係の変化を余儀なくされることです。これまで家族ぐるみでお付き合いをしていた友人たちとの関係が継続できないことがあります。比較的高額所得者が多い地域に住んでいる場合、家族ぐるみのお付き合いにかかる交際費もばかになりません。加えて、片方の親が欠けていることに引け目も感じます。

こうして、生活の中の様々な変化に心身ともに疲弊してしまうことが考えられます。

配偶者の高収入は続かないかもしれない

高所得者の中には、安定的に高所得なわけではない人たちがいます。外資系の金融機関に努めている人は、終身雇用ではありません。自営業の方もいつ何が起こるか分かりません。中には、意図的に収入を下げる人もいます。

そのため、婚姻費用をあてにした生活自体が安定しないのです。

婚姻費用は永久ではない

相手が有責配偶者(不貞やDV等)だったとしても、永遠に離婚が成立しないのではなく、いつかは別居が解消され、離婚へと至ります(もちろん、相手が裁判を提訴しない場合はこの限りではありませんが)。

そうなれば、お子さんがいれば婚姻費用は養育費へと切り替えられ、大幅な減額となります。また、その養育費も永遠ではなく、お子さんの自立と共になくなるものです。

そうなったとき、自分自身の生活を支えていくのは自分の収入しかありません。夫が高額所得者の場合、妻は専業主婦のことも多く、就労には様々な苦労が伴います。婚姻費用に余裕があるうちに、就労計画を立て、いつかは自分の稼ぎで生活できる目途を立てることが大切です。

高所得夫婦こそ計画的な別居を

算定表の上限を超えるような高額所得者であれば、別居という事態になっても、経済的余裕があり生活への影響が少ないと思われがちです。

しかし、高所得者だからこそ、生活の変化や高額な支払に心身ともに疲弊することもあります。また、お子さんがいる場合、お子さんへの影響も大きくなってしまいます。衝動的・無計画に別居を開始するのではなく、夫婦でよく話し合い、別居後のそれぞれの生活に無理のない金額での合意を目指しましょう。

夫婦のみではなかなか合意が難しい、でも裁判所で争うことはしなくない、そんな場合はADRという民間調停をご利用いただくことも可能です。

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