別居(婚姻費用)

夫婦双方が子を監護している場合の婚姻費用

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複数の子どもがいる夫婦が別居する際、大抵は一方の親が子ども全員を監護することになります。ただ、子どもの年齢が高い場合等、学校の都合や本人の希望により、兄弟姉妹が別々に暮らすことになる場合もあります。その場合、単純に養育費算定表に当てはめることができません。今回は、そんな場合の婚姻費用について算出方法をお伝えしたいと思います。

ある夫婦の別居事例

 

父:55歳、会社員
母:54歳、パート
長女:16歳、高校1年生
長男:14歳、中学2年生

母は父のモラハラに耐え兼ねて離婚を考えるように。ただ、自分のパート収入だけでは子どもたちを大学に進学させてあげることができないと離婚を躊躇していました。一方、父は、自分だけが悪者にされているようで離婚に納得ができず、だからといって妻とうまくやっていきたいという積極的な気持ちにもなれませんでした。

そのため、二人は当面別居をしながら様子を見ることにしました。妻は、自分と子どもたちが家に残り、夫に家を出ていってほしいと考えていましたが、夫は、「なぜ、自分が住宅ローンを支払っているのに出ていかなければならないのか。離婚したい方が家を出ていくべきだ」と取り合ってくれません。

妻は、子どもの生活環境を変えたくないことを伝えましたが、日頃から比較的家事・育児を分担してきた夫にしてみれば、「子どもは僕が面倒をみるから、君が一人で実家に帰ればいい」となってしまうのです。そのため、妻は仕方なく隣県の実家に戻ることにしました。

ここで問題になるのが子どもたちの生活の拠点です。妻は、2人の子どもの親権者及び監護権者になるつもりでした。しかし、長男は私立中学に通っていて、母親についていくことになれば公立中学に転校を余儀なくされてしまうのです。そこで、妻は、長男の気持ちを聞いてみました。すると、長男は、「がんばって受験勉強をして入った中学だし、仲のいい友達とも離れたくない。転校は嫌だから、僕はこの家に住み続けたい」と言ったのです。妻も、長男が充実した学校生活を送っていることを理解していましたし、応援してあげたい気持ちもありました。また、家事についても、多少の不便は予想されるものの、夫と長男で乗り切れそうな気もしていました。

一方、公立高校に通う長女は、転校は気乗りしないけれど、母親がいない生活は想像できないとのことで、妻と一緒に実家に転居することを望みました。妻としても、社交的な長女なら、すぐに転校先に馴染めそうだと思いましたし、年頃の長女が母親抜きで父親や長男と生活を共にすることも想像できませんでした。

そのため、結果的に妻が長女を監護し、夫が長男を監護することになりました。

実際の婚姻費用の計算

次に、上述の事例のように父母双方が子どもをそれぞれ監護している場合の婚姻費用について、実際に計算していきたいと思います。計算は、「婚姻費用・養育費等計算事例集」の「Q13 夫婦双方が子を監護している場合の婚姻費用」を参照しました(著者の許可を得て掲載しています。)。

超早わかり「標準算定表」だけでは導けない
婚姻費用・養育費等計算事例集
著者:婚姻費用養育費問題研究会

前提となる知識

基礎収入

養育費算定表に収入をあてはめる場合、双方の年収(税込)を使用します。しかし、その表の元となっている計算式を使って実際に計算する場合、年収そのものではなく、年収から算出した「基礎収入」という金額を使用します。基礎収入は、実際の収入から公租公課や職業費等を差し引いた、養育費捻出の基礎となるものです。基礎収入は、収入の金額によって決まっている一定の割合(給与所得者の場合54%~38%、自営業者の場合61%~48%)をかけることによって算出します。今回の場合、義務者(父)の基礎収入が250万円ですので、給与収入は620万円前後のイメージです。また、権利者(母)の基礎収入が100万円ですから、給与所得250万円くらいのイメージです。

生活費指数

大人を100とした場合の子どもの生活費割合です。15歳以上は85、14歳以下は62です。大人が1年間生活するのに100万円かかるとすると、小学生は62万円ということになります。

父と母の収入を合算

権利者と義務者の基礎収入を合算し、家族全員の生活費指数に対する権利者及び権利者と同居する子どもの生活費指数の割合を乗じて計算したものから権利者の基礎収入を差し引く方法をご紹介します。

婚姻費用=
(母の基礎収入+父の基礎収入)×(母と長女の生活費指数)÷(母と長女の生活費指数+父と長男の生活費指数)-母の基礎収入

これを実際に計算すると以下のようになります。

(100+250)×(100+85)÷{(100+62)+(100+85)}-100

そうすると、婚姻費用は86.6万円となり、月額に換算すると7.2万円となります。つまり、夫から妻に支払う婚姻費用は月々7万2千円ということになります。ただ、私学に通う長男の学費をどちらがどのように支払うかなど、特別出費に関する協議も必要となってきます。

私立学校や大学学費と養育費

別居は計画的に

別居は、大きな生活の変化であり、場合によっては親の離婚と同じくらい大きなショックを子どもに与えます。特に、子どもの転居や転校を伴う場合はなおさらです。

そのため、婚姻費用や面会交流等、お子さんにかかわる大切なことを十分に話し合って決めた上で別居を開始できるのがベストです。

ただ、なかなかお二人では話合いが難しいという場合もあるかと思います。その場合は民間の調停であるADRのご活用をご検討いただければと思います。

ADRによる調停・仲裁
ADR調停 よくある質問

 

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