「離婚したいけれど、自分ひとりの経済力では大学に進学させてあげられない」
「離婚が原因で子どもが現在の学校を中退せざるを得なくなったらどうしよう」
子連れ離婚の際、一番頭を悩ませるのが教育費の確保です。今回は、養育費における教育費の位置付けについてお伝えしたいと思います。
学費は養育費算定表の金額に含まれるか
養育費算定表に含まれるもの
養育費算定表には、子どもの基本的な生活に必要なものが全て含まれています。そのため、衣食住に限らず、教育費や習い事の費用なども含まれています。
養育費算定表に含まれないもの
突発的かつ高額な医療費
基本的な生活費のほかに、特別に必要になる費用を「特別出費」として請求することも可能です。特別に必要になる費用の代表格としては、医療費があります。子どもが思わぬ事故に遭って手術費用が高額になるとか、重い病のために長期間の入院を余儀なくされたなど、突発的に高額な医療費がかかった場合、特別出費になります。
同じ医療費でも、風邪をひいた、捻挫をしたといった程度で、治療費に数千円かかったというような場合は特別出費にあたりません。
また、最近よく問題となるのが歯の矯正費用です。こちらも特別出費といえそうですが、支払義務があるかどうかについては、後述します。
高額な教育費
先ほど、算定表の金額には教育費が含まれると書きました。しかし、ここでいう「教育費」というのは、公立の高校までです。そのため、私立学校や大学や専門学校に進学した際の入学金や授業料は、算定表の教育費には含まれず、特別出費にあたります。
また、通常、教育費の中に通学のための交通費や下宿した際の家賃は含まれず、入学金・学費・施設費等が特別出費にあたるとされています。ただ、これは諸事情によって判断が異なるようです。
特別出費の支払義務
次に、特別出費の支払義務についてです。「子どもが大学に行きたいと言っているのなら・・」と支払う側の親がすんなりと養育費の上乗せに合意してくれればいいのですが、残念ながら、特別出費は高額になりがちですので、支払う側に難色を示されることもあります。
親同士で話ができない場合、家庭裁判所で養育費の増額請求を行うことになります。調停で合意できなければ審判に移行し、父母の収入や学歴、入学への同意の有無等を総合的に判断し、決定がなされます。
当事者同士では合意できないけれど、裁判所まではちょっと…、という方はADRをご利用ください。
請求が認められやすい場合
親が高学歴
例えば、両親が大卒(もしくは大学院まで出ている等)だったり、親も私立学校卒の場合、その親の子どもが親と同等の教育を受けようとするならば、その親は費用を負担すべきと判断される可能性が高くなります。
親が高収入の場合
それなりに収入がある場合、夫婦が離婚していなければ、子どもの進学に際して親がお金を出し渋るということはあまり考えられません。そのため、離婚をしたとしても、支払う側に十分な経済力があれば、養育費増額が認められやすくなります。
既に通っているもしくは同意あり
離婚前から既に私立学校に通っていたり、進学について義務者も同意しているような場合は増額が認められる場合が多くなります。かけた梯子をはずすようなことをされては、子どもは困ってしまいます。
請求が認められにくい場合
義務者の収入が低い
支払う側の親の収入が低い場合、学費を払ってほしいと請求したところで、請求された方は支払う能力がありません。こんな場合、父母が離婚していなかったとしても、父母による学費の負担が難しく、奨学金をもらうという選択肢になるのでしょう。
進学への同意がない
進学に関し、何ら相談も報告もせず、突然に「〇〇が大学に入学しました。入学金を支払ってください。」と請求がきたらどうでしょうか。面会交流もさせてもらえない、どこの大学に入ったのかも分からない、そんな状況で授業料だけ負担しろというのは酷です。
注:実際には、裁判官がこれらの事情を総合的に判断し、支払義務の有無やその金額について決定することになります。
教育費の具体的な計算
次は、事例をもとに、実際に計算をしてみましょう。
前提となる知識
基礎収入
養育費算定表に収入をあてはめる場合、双方の年収(税込)を使用します。しかし、その表の元となっている計算式を使って実際に計算する場合、年収そのものではなく、年収から算出した「基礎収入」という金額を使用します。基礎収入は、実際の収入から公租公課や職業費等を差し引いた、養育費捻出の基礎となるものです。基礎収入は、収入の金額によって決まっている一定の割合(54%~34%)をかけることによって算出します。今回の場合、義務者(父)は年収1000万円、権利者(母)は250万円くらいのイメージです。
生活費指数
大人を100とした場合の子どもの生活費割合です。15歳以上は85、14歳以下は62です。大人が1年間生活するのに100万円かかるとすると、小学生は62万円ということになります。
生活費指数のうち教育費の占める割合
15歳以上で生活費指数が85の場合は25、14歳以下で生活指数が62の場合は11と決められています。先ほどの100万円の例ですと、子どもの生活費全体が62万円となり、そのうちの11万円が教育費、残りの51万円が衣食住等のその他の費用ということになります。
では実際に計算していきましょう。
ステップ1 子の生活費を算出
子の生活費=
義務者の基礎収入×子の生活費指数÷義務者と子の生活費指数
これを計算すると、「400×62÷(100+62)≒153.1(年額)」となりますので、子どもの生活費は1年で153.1万円ということになります。
ステップ2 教育費の占める割合を算出
子の生活費が153.1万円だとして、そのうちのいくらが教育費なのでしょうか。これは以下のように計算できます。
公立学費相当分
=子の生活費×(11/ 子の生活指数)
(「11」という数字は子どもの年齢が15歳以上だと「25」になります)
これを計算すると、153.1×11÷62≒27.2
つまり、この27.2万円(年額)は、既に算定表上の養育費の金額の中に教育費として組み込まれていることになります。
ステップ3 不足分の学費を算出
実際にかかっている学費が60万円ですので、そこから27.2万円をひいた32.8万円が不足分となります。
ステップ4 義務者が負担すべき不足分の算出
不足分の32.8万円のうち、義務者である父親はいくらを負担すべきでしょうか。以下の計算により算出できます。
不足分×義務者の基礎収入/(義務者の基礎収入+権利者の基礎収入)
これを計算すると、32.8×400×(400+100)≒26.2万円
これに加えて、そもそも父親が負担すべき子の生活費は、ステップ1で算出した153.1万円を父母それぞれの基礎収入比で按分するので、以下の計算となります。
153.1×400/(400+100)≒122.5
なので、父親が支払うべき養育費の全体は、122.5+26.2=148.7(年額)となります。月額でいうと、12で割って、12.4万円です。
その他にも、平均収入に対する公立学校教育費相当額(15歳未満の場合、約131千円、15歳以上の場合約259千円)を控除する方法や義務者の負担が公平になるような方法もあります。詳細については、以下の本を是非ご覧になってみてください(本コラムの事例はこの本からの出典で、ご著者様から掲載許可をもらっております)。
超早わかり「標準算定表」だけでは導けない
婚姻費用・養育費等計算事例集
著者:婚姻費用養育費問題研究会
養育費の具体的な決め方
一般的な決め方
家庭裁判所の調停や裁判で養育費を定める際、月額〇万円といういわゆる基本の養育費と「特別出費については双方で協議して負担する」といった二段階の取決めになっていることがほとんどです。
1 乙は、甲に対し、丙の養育費として、令和2年〇月から丙が22歳に達した後の最初の3月まで、1か月金〇万円を、毎月末日(支払期日が金融機関の休業日に該当するときには、翌営業日とする。)限り、甲の指定する金融機関の口座に振り込む方法により支払う。振込手数料は乙の負担とする。
2 本条前項記載の養育費の支払いとは別に、丙について、進学、病気、事故等特別の出費を要する場合は、甲及び乙は誠実に協議して相応の費用をそれぞれ分担するものとする。
お勧めの決め方
上記のような一般的な決め方だと、結局のところ何も具体的に決まっておらず、問題を先延ばしすることになりかねません。もちろん、子どもがまだ小さい場合、先のことを細かく決めすぎても意味がないこともあります。例えば、双方の親がそれぞれに再婚するかもしれませんし、収入の増減も含め、生活状況が大きく変化することもあります。そもそも、0歳や1歳の子どもが18歳になるころ、どんな社会になっていて、学費はどのくらいかかるか、想像もできません。
しかし、高額な学費がかかる可能性が高い場合や、すぐ先にその可能性が待っているような場合、もう少し具体的に取り決めておくことによって、もめごとの種を少なくすることが可能です。
収入比で按分
先ほどのような教育費の計算を自分たちでするのはなかなか難しいものです。そのため、高額な教育費が必要となったときの双方の収入の比率に応じて、教育費を負担するという負担の方法のみを決めておくのです。
このように決めておくことで、具体的な金額は分からないにしても、負担金額を算出する目安が示されることになります。また、収入比で按分というのは、平等かどうかという観点からも及第点です。ただ、前述のとおり、算定表の養育費の中には公立分の教育費が含まれていますので、この点にも注意が必要です。
折半
双方の収入の比率にかかわらず、一律に半分ずつ負担することを条項に定めることができます。このような取り決めは、双方の収入が似通っている際に有効です。また、再度、その時点の収入を開示しあったり、比率を計算しなくてもいい手軽さもあります。ただ、父が高収入で母が低収入の場合、結局母が払いきれなくなってしまうため注意が必要です。
養育費以外で学費を賄う方法
ここまで、義務者である親に養育費を増額してもらうことによって高額な教育費を賄う方法について記載してきましたが、そのほかにも「方法」があります。
学費の無償化
2020年4月から国による私立高校の授業料の実質無償化や大学等高等教育の無償化が進んでいます。ほかにも自治体が独自に設けている支援などもあります。
奨学金をもらう
無償化の対象にならない場合、奨学金をもらうという方法もあります。奨学金は、将来的に返済を求められるものも多く、子どもの将来に大きな負担となることが懸念されます。
ただ、一方で「子どもの力を信じる」ということも大切です。
以前、あるお母さんが教えてくれました。その方は、お子さんが大学進学を考えたとき、家の経済状態を伝え、志望校への進学を実現するための方法をお子さんと一緒に調べたそうです。お子さんも自分で厚労省や自治体のHPを調べ、どのような支援策や奨学金があるのか、一生懸命考えました。結果として、お子さんは返済が必要な奨学金を借りることになりましたが、アルバイトをしながら、将来をしっかりと見据え、充実した学生生活を送っているそうです。
親が離婚することによって子どもに不憫な思いをさせたくない、そんな風に思いがちです。ただ、そんな逆境も乗り越える強さを身に着けることができれば、お子さんは不憫なんかではないかもしれません。
自分の収入をアップさせる
離婚前後の不安定な時期に一生懸命働いてしまうと、子どもに寂しい思いをさせることになったり、また、自分自身も心身ともに疲れ切ってしまいます。ただ、生活が落ち着いてきたら、お子さんのためだけでなく、あなた自身のためにも収入アップやキャリアアップを目指すのはどうでしょうか。給料のためだけではなく、仕事へのやりがいも感じられるようになれば、なお良しです。
子どもの幸せは養育費の金額では決まらない
このコラムを読んでくださっている方の中には、シングルになった後の貧困やその結果、子どもの将来の可能性が制限されることを心配されている方が多くおられると思います。
でも、あまり悲観しないでください。養育費や学費に関する問題は、以前に比べて随分改善されています。また、どんな状況になろうとも、親が子どものために力を尽くしてくれたことを理解し、また、親自身が前向きに生き生きと生活している姿を見ることができれば、子どもは頑張って生きていってくれます。自分ひとりで背負い込まず、色々な力を借りながら乗り切っていただければと思います。
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