別居中の児童手当の受給者を夫から妻に変更する方法

このコラムでは、子どもを連れて別居した(もしくは夫が家を出ていった)けれど、児童手当の振込先が夫になっており、実質的に養育している妻に振り込まれるように変更したい、という方への情報提供です。

誰が受給するか

離婚を前提に別居している場合、所得に関わらず、児童と同居している親に優先的に支給されます。「所得に関わらず」という点がポイントで、通常(夫婦円満の際の単身赴任時も含む)と異なる点です。

受給のための要件

その際の支給要件は以下のとおりです(以下のすべてを満たすことが必要です。)。

住民票と居住実態の一致

現受給資格者と配偶者の住民票が別世帯となっており、かつ、配偶者の方が対象児童と同居していることが必要です。

離婚を前提とした別居であること

単なる単身赴任ではなく、離婚を前提とした別居であることを示す必要があります。そのため、自治体ごとに書式は異なりますが、元々の受給者(所得が多い方の親)である別居親から、受給者の変更に同意する旨の書類(3-2記載の「監護事実の同意書」とは異なります)を提出することが必要です。

ただ、上述のように「同意していないのに勝手に出て行った」などと別居親側が不満を持つこともあり、その書類の提出に協力が得られないことがあります。

そのような場合に、同居親(監護親)に提出を求められるのが以下の書類のいずれかです。

①離婚調停中であることがわかる書類
 ・調停期日呼出状(通知書)の写し
 ・事件係属証明書
 ・調停不成立証明書の写し
②弁護士等により作成された書類
③内容証明郵便 

①については、離婚のための調停であることがわかる記載が必要です。調停の内容が「婚姻費用分担」の場合や「夫婦関係調整」のうち「円満」と記載のあるものは受付できません。

また、②は、少なくとも一方に離婚の意思があり、相手方(現受給資格者)にその意思が表明されていることが客観的に確認できる書類が必要となります。

③の内容証明郵便については、送付者の名前・日付・離婚手続きの意思・誰に向けて送ったものか相手の名前が明記されていることが必要です。

児童手当の支給開始月は、原則として申請月の翌月分からとなりますが、上記(2)の書類の日付が申請日より後の場合、支給開始が遅くなることがあります。

具体例

少し話がややこしくなってきましたので、ここで事例を使って説明したいと思います。

例えば、千代田区にて家族3人で暮らしていた家族がいたとします。夫の方が高収入で児童手当受給者です。そして、夫婦関係が悪化し、離婚を前提に妻が子どもを連れて港区の実家に帰ったとします(住民票も異動)。この時点で、子どもは千代田区にいませんから、これまで夫が受け取っていた児童手当は一時差し止めになります。

しかし、港区にしてみれば、夫の方が収入が高いのですから、千代田区から夫に児童手当が支給されるはずということになるのです。それを港区から妻に児童手当を支給してもらうために必要になるのが、先ほどご説明した夫が受給者変更に同意する旨の書面(事情を書いた上申書)や、夫の協力が得られない場合の係属証明等の書類です。

ADR(裁判外紛争解決手続き)という選択肢

離婚を前提に別居を開始しているけれど、児童手当受給者の変更手続が円滑に行えない夫婦というのは、意外と多かったりします。

別居親が明確に変更手続きに反対している場合もありますが、連絡をしても返信がない、「やっておく」と言いながらなかなか手続きをしてくれない、変更をお願いすると嫌な顔をされるなど、何となく気がのならいという理由で後回しにされることもあります。

そんな場合、上記の係属証明等が必要になるのですが、家庭裁判所に申立てたり、弁護士に依頼するほど大げさにはしたくないという方、しかしながら、当面の婚姻費用や離婚条件について話し合うニーズもあるという方は、ADR(裁判外紛争解決手続)という方法もあります。

ADRによる仲裁(調停・仲介)
離婚の新しい方法―ADR活用術活用術-
ADR調停 よくある質問集

ADRの係属証明や不成立になった証明書でも「離婚」のための調停であることがわかれば、4-2-2記載の書類の代替になります。

DVの場合

夫婦間にDVがあり、すでに子どもを連れて家を出ているけれど、追跡されないように住民票を異動しないままにしているような場合はどうでしょうか。

基本的には、離婚前提の別居の場合は所得に関わらず、児童と同居している親に優先的に支給されます。また、届出は児童と同居親の居住地の区市町村に行います。

ただ、住民票は同一世帯になっているけれど、実は居住地は違い、別居していることを証明しなければなりません。そのため、保護命令やシェルターや母子生活支援施設の入所証明等の提出が必要です。

児童手当の本来の趣旨に沿った活用を

児童手当は、子どもの健全な成長を社会全体で見守ろうという趣旨で作られた制度のひとつです。支給額は生活費の一部に過ぎませんが、手続きを行えば滞りなく、確実に支払われるところが魅力です。

ぜひご夫婦それぞれに、制度の目的を思い、子どもの健全な育成のために児童手当を有効活用して頂きたいと願っています。

※提出書類等は区市町村によって異なります。特に,DVケースは特例で、慎重に取り扱われます。届出前に必ず、居住地の市区町村担当課にお問い合わせをお願いします。