離婚一般

離婚公正証書における養育費の記載事項

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養育費を公正証書にて取り決める際、どのようなことを記載する必要があるでしょうか。みなさんのイメージでは、「月々〇万円を支払う」といったようなシンプルな条項がイメージされるかもしれませんが、色々な工夫や詳細な取り決めをすることで、将来のもめごとを減らしたり、不履行なく最後まで支払ってもらうことが可能です。そんな工夫や知識についてお伝えしたいと思います。

基本的な記載事項

支払の始期

意外と抜けがちなのがいつから支払うかです。「令和〇年〇月から」といった具体的な日にちを入れることもありますし、「離婚届を提出した月から」といった書き方も可能です。明確な日にちを記載した場合、その日にちを過ぎてしまってからの作成はできませんので(例えば「令和2年8月から」となっている場合、必ず令和2年8月末日までに作成が必要です)、段取りが間に合わなかった、ということがないよう注意しましょう。

支払の終期

18歳まで(成人になるまで)

「18歳まで」とする人の根拠は「養育費は成人まで」という考え方です。ただ、この考え方は根本的に適切ではありません。というのは、養育費の支払いは「未成年」かどうかの基準ではなく、「未成熟子」かどうかが基準になるという点です。

そのため、高卒で仕事に就けば、未成熟子ではありませんし、21歳の大学生であれば、未成熟子として養育費の支払いの対象になります。

20歳まで

20歳までというのは、これまでの成人年齢であったこともあり、現在も裁判所では支払終期を20歳までにすることが多いようです。ただ、前述のように、子どもが大学に進学した場合、20歳以降の養育費については、再度協議しなおす必要が出てきます。大学進学率が6割近い昨今、親の学歴などから考えても子どもが大学に進学する確率が高いようであれば、20歳で区切るのは何とも中途半端です。

22歳まで(大学を卒業するまで)

22歳までと取り決める場合、正しくは「22歳になった後の最初の3月まで」といったような決め方をします。これは、浪人も留年もせず、ストレートで大学に入学・卒業した場合の大学卒業見込みの時期を終期としているものです。この点、もっと分かりやすいように「大学卒業まで」と記載してはどうか、という考え方もあります。ただ、このように決めた場合、義務者にとって酷な結果となることがあります。例えば、子どもが浪人したり留年したりするとどうでしょうか。いつになったら支払が終了するのか分からず、適切ではありません。

ちなみに、法務省では、以下のような見解が示されています。

また,養育費は,子が未成熟であって経済的に自立することを期待することができない場合に支払われるものなので,子が成年に達したとしても,経済的に未成熟である場合には,養育費を支払う義務を負うことになります。このため,成年年齢が引き下げられたからといって,養育費の支払期間が当然に「18歳に達するまで」ということになるわけではありません。例えば,子が大学に進学している場合には,大学を卒業するまで養育費の支払義務を負うことも多いと考えられます。
 なお,今後,新たに養育費に関する取決めをする場合には,「22歳に達した後の3月まで」といった形で,明確に支払期間の終期を定めることが望ましいと考えられます。

また、「22歳に達した後の最初の3月まで」としておいて、高校卒業後に就職した場合や大学を中退した場合は支払義務はその時点までといった内容を付記することで、「無駄に長く払わされるのでは」という不安や不満を払しょくできます。

支払の金額

もちろん、養育費の金額も記載が必要です。養育費は月払いが基本ですので、1カ月の養育費の金額を記載します。時折、複数のお子さんに対して、まとめて「養育費〇〇万円」という決め方をしようとする人がいます。養育費を受け取る側としては、それぞれの子どもに別々に使うというより、子ども〇人を育てるための養育費が〇〇万円、といったような感覚を持ちますので、このような記載方法が思い浮かぶのも分かるような気がしますが、お子さんが双子でない限り、それぞれの支払の終期は別々にやってきます。そのため、1人につきいくらの養育費か、という記載になります。

そして月々の金額については、必ずこう決めなければならないというルールはありません。ただ、もめてしまって金額が決められないときは「算定表」という目安を使う方法があります。この算定表は、裁判所で養育費を決める際に使用される表で、広く周知されています。

支払の方法

支払の方法として、毎月の支払期限や振込先の口座、または振込手数料はどちらが負担するか、といったような細々したことも記載します。振込先の口座については、「〇〇銀行○○支店・・・」と口座そのものを指定することもあれば、「乙の指定する金融口座」と記載することもあります。どちらの書き方でも効力は同じです。

また、支払の期限について、「毎月末日」とすることが多いのですが、「毎月20日」などと給料日に近い日程で決めることも可能です。

特別出費事項

「毎月〇万円」と記載されるのが通常の養育費だとすると、毎月は発生しないけれど、〇〇のことがあれば、その費用についても分担する、と取り決めるのが特別出費事項です。

特別出費事項の種類

学費

昨今、算定表を参考に月々の養育費を決める人が多いように思いますが、算定表の金額の中には教育費が含まれるか否か、ということが話題になることがあります。答えは「含まれる」です。ただ、算定表に含まれる教育費は、公立の高校までです。そのため、私立の高校に行ったり、私立か否かにかかわらず大学以上に進学した場合の学費は養育費の中に含まれていないことになります。そのため、高額な学費についても特別出費事項として扱うことになります。

ただ、実は、教育費については、毎月の養育費の金額を凌駕するほどのインパクトがあり、子どもの年齢によっては、一番重要な取り決めの部分でもあります。(以下の表は「女性とシングルマザーのお金の専門家」HPより出典)

お子さんが既に私立の学校に通っていたり、もしくは年齢が大きかったりすると、教育費として大きな金額が必要になることが相手に理解されやすく、「子どものためには出すよ」と言ってもらいやすかったりします。

ただ、お子さんの年齢がまだ小さく、将来の姿がイメージしにくい場合、「子どものために出す」という気持ちになりにくく、金額の大きさのみに注目しがちです。また、夫婦双方の学歴と子どもの進路が大きく異なっている場合も同様です。このような違いがありますので、一概に「〇〇の決め方がいい」と言えないとことではありますが、よくよく考えておく必要がある部分です。

医療費

そのような事態が起こらないにこしたことはないのですが、子どもが事故に遭ったり、大病をして入院や手術が必要になったりと、予期せぬ医療費がかかってしまうこともあります。通常の通院費は算定表の中に含まれますが、予期せぬ大きな医療の負担については、特別出費の扱いになります。

特別出費の取り決め方

その時に協議

一番オーソドックスな決め方は、「お互いに誠実に負担額について協議する」といったような文言になります。ただ、この文言、結局のところ何も決まっていないのと同じです。このような出費があった場合、「知らない」とは言わせないよという趣旨なのですが、支払の金額や割合が決まっていませんので、何とも心もとない感じがします。

医療費については、高額の医療費が必要になる可能性は低く、また、どの程度の金額が必要になるのか、皆目見当がつきません。そのため、このような決め方でも致し方がないところですが、高額な学費については、大学の進学率が6割近い現在、もう少し明確に負担の方法を決めておきたいところです。そのため、以下では教育費についての取決めについて、ほかの方法をご紹介します。

負担額を決める

特別出費は、あらかじめ金額が決まっているわけではありませんので、あらかじめ負担額を決めておくのは難しいように思われます。ただ、学費については、ある程度の目安があることから、「国公立に入学した場合は〇〇万円、私立の大学に入学した場合は〇〇万円」といったように、最初から決め打ちで金額を記載することもできます。

このように、金額を決めておくことのメリットは、その時期が来ても再協議する必要がなく、入学時には〇〇万円もらえる、といったような目安があることです。ただ、将来の見えない金額に対して負担額を決めることになるので、結果的にどちらか一方に大きく不利益な結果になるリスクがあります。

負担割合を決める

「双方で折半する」、「甲が7割を負担する」といったように、負担割合を決めておくこともできます。公正証書作成時点では、具体的な金額が分かっていませんので、金額が書けず、強制執行の対象にはなりません。ただ、実際にかかった金額を既に決めている割合で負担しますので、再度協議する事項はほとんどなく、もめる要素が少ないのがメリットです。

収入比で按分

そのときの互いの収入比で按分するというのは、実は、一番公平な決め方だったりします。ただ、そうなると、特別出費があった時点で、お互いの収入を開示し、計算をしていかなければなりません。既に離婚して長い年月が経っている場合など、源泉徴収票を互いに開示して話し合う、といったこと自体が億劫になっているでしょうし、どちらかの収入が大きく変化していると、もめごとの種になったりします(そもそも、そのような場合はあらかじめ伝えておく必要があるのですが・・。)

また、算定表上の金額で決めている月々の養育費の中には、公立の教育費相当分が含まれていますので、「算定表上の金額+収入比で按分した教育費」とすると、幾分もらいすぎ、ということになります。

養育費をもらいきるための条項

ご存知の方も多いと思いますが、日本の養育費の支払い率は3割前後にとどまっており、最後まで養育費をもらいきることができる人はほんの一握りです。もちろん、公正証書で養育費を取り決めておけば、強制執行ができますし、改正民事執行法により、強制執行の実効性も高まりました。

ただ、できれば強制的な手続きをとらずとも、安定的に支払われるにこしたことはありません。そして、養育費の不払いは、みなさんが思っている以上に「些細な事」が原因で発生しているのもまた事実です。その些細なことが起こらないよう、ちょっとした工夫をお伝えしたいと思います。

自動振替手続の約束条項

養育費が滞る理由の一つに「忘れた」というのがあります。このような理由の場合、悪意があるわけではないですし、金銭的に苦しいわけではありません。なので、「今月分がまだ入っていませんが、どうされましたか」とメールを打てば、「ごめん、忘れてた」といって入金してくれることと思います。

ただ、受け取る側にしてみれば、決まった日にちに入金されないのは困りますし、「入金してください」というメールをするのも精神的な負担になります。

このような事態を避けるためには、自動振替の手続きが一番効果的です。ただ、自動振替の手続きはネット上ではできなかったり、口座のある支店でないとだめだったりと、銀行が開いている時間に働いているサラリーマンには割とハードルが高かったりします。そのため、「できればやっておいて。」といった程度では、結局忘れられてしまったりします。この点、公正証書で「自動振替の手続きを〇〇までに行う」といった文言があれば、速やかな手続きにつながることが期待できます。

両親による連帯保証

いくら強制執行ができるような条項を作成したとしても、強制執行先(預貯金や給与所得など)がなければ、ない袖は振れないということになってしまいます。

そんな場合、相手の両親に連帯して債務を負ってもらい、もし本人の支払が滞れば、相手の両親にも請求できるような条項を記載しておくことが考えられますが、このような連帯保証債務の記載は一般的ではありませんし、相手も「両親を巻き込みたくない」と反発することも多いでしょう。

ただ、離婚理由が相手の借金で、家族が迷惑をかけられたような経過があったり、仕事が長続きせず、すぐに無職になってしまうなどの状況があり、義務者本人も「自分には信用がない」と自覚している場合や申し訳ない気持ちが強い場合は、合意が得られることもありますので、チャレンジしてみてください。

養育費の保証会社を入れる

最近、いくつかの民間会社が養育費保証サービスを始めています。多少保険料はかかりますが、このようなサービスを利用することも可能です。また、最近、自治体によるこうった保険料の補助も広がってきていますので、もしご興味のある方は、お住まいの自治体(多くは市区町村役場の子ども家庭課)に問い合わせをしてみてください。

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(番外編)面会交流

面会交流を養育費の項目に記載する方はいないでしょうし、もちろん、面会交流をしていないから養育費を支払わなくていい、というものではありません(養育費はいらないから面会交流もさせない、というものでもありません。)。ただ、深く関係しているのも、また事実です。

養育費の支払いがなぜ滞るのか、その理由の一つに「優先順位が下がる」という事情があります。お金がないという理由で支払わない人がいますが、けして、「お金が全然ない」のではなく、「養育費を支払うお金がない」ということなのです。離婚当時は優先順位が高かった養育費が月日が経過するにつれて、下がっていき、自分の娯楽費を優先させたり、貯蓄に回したくなってくるのです。

しかし、面会交流をきちんと実施していれば、「優先順位が下がる」ということはあまり起こりません。目の前にいる子どもの生活を守る義務を実感しますし、また、子どの人生を応援してあげたい気持ちにもなってきます。そのため、面会交流についても取決め、公正証書に残しておくことをお勧めします。

養育費の一括払い

養育費は、子どもの成長に合わせて月々支払っていく性格のお金です。また、様々な変動要素があり(後述します)、事前の前払いをしてしまうことで不公平が生じることもあります。加えて、課税対象になるおそれもありますし、通常、一括払いの場合は月々払いの総額よりも割引になるのが相場です。

そのため、養育費の一括払いは例外中の例外なわけですが、ときに有効なときがあります。例えば、義務者に借金癖があったり、浪費癖があったりする上に、就労も安定せず、継続的な養育費の支払いが全くもって期待できないという状況にプラスして、離婚時の財産分与で自宅を売却し、義務者にも相当額の現金が分与されたというような場合です。つまり、現時点であれば、まとまった現金を有しているが、間違いなくその現金は近い将来浪費され、かつ就労による給与も見込めないような場合です。

このような場合は、多少合計額が下がったとしても、養育費の一括払いを検討する余地があるでしょう。

養育費の2つの落とし穴

ここまでは、基本の養育費の条項、特別出費の条項及び最後までもらいきるための条項について述べてきましたが、次は、よく陥りがちな「落とし穴」についてお伝えします。

強制執行が可能な記載になっているか

公正証書に記載している約束事は、全て強制執行が可能だと思っていないでしょうか。この点、意外と誤解している人が多いのですが、実際にはそうではありません。強制執行が可能なためには、金額支払期限が明記されていることが必要です。

月々の養育費については、「毎月末日限り〇〇万円」といった記載が定番ですので、きちんと金額と支払期限が記載されており、特に問題はありません(もちろん始期と終期の記載は必要ですが)。気を付けなければならないのは特別出費の記載についてです。

例えば、「大学の入学金は半額ずつ負担する」と記載していてもだめなのです。この問題をクリアするためには、おおまかに金額を決めておくことで対処が可能です。例えば、「令和〇年3月末日限り、大学入学準備金として金30万円を〇〇の口座に振り込む」といったような記載です。

前述のとおり、医療費に関する特別出費については、どうしたって強制執行が可能な書き方はできません。ただ、学費については、何を優先するのか(強制執行が可能な記載か、実際に必要になる金額に忠実に決めるのか、支払発生時の協議事項を極力少なくしておくのか、など)によって、記載方法が変わってくることを意識しておきましょう。

養育費は変動がつきもの

ここまで、いかに最後まで養育費をもらいきるかという視点やそのための細かな工夫をお伝えしてきました。もちろん、公正証書の記載はそれらの情報を是非盛り込んでいただきたいと思うのですが、反面、真逆とも思われる心構えが必要です。それは、養育費には変動がつきもの、という考え方です。以下では、養育費の変動要素をお伝えしたいと思います。

互いの身分関係の変化(再婚)

通常、養育費を受け取る側が再婚し、その再婚相手と子どもが養子縁組をした場合、その時点で実父(実母)の支払義務はストップします。また、養育費を支払う側が再婚したり、その再婚相手との間に子どもができた場合も、減額の要素となります。多くの皆さんは、離婚時に再婚のことなんて考えていません。しかし、2,3年もすれば、考えも変わってきます。互いの再婚という養育費変動要素があることを念頭に置いておきましょう。

互いの収入の増減

お互いに収入が大幅に増減すれば、養育費の増減の要素となります。毎年の給料が微増微減するたびに決めなおすというよりは、百万単位での給与の変動やどちらかが失業・就職したときなどが目安です。

このように、養育費は、結局のところ、どんなに一生懸命細かく決めたとしても、諸事情によって変更せざるを得ない状況がやってきます。決めるべきことや決められることは決めた上で、後は事情に応じて柔軟に対応する、といった程度の姿勢を持っておくことが養育費に振り回されないコツかもしれません。

養育費の本来の意義

公正証書で養育費を定めることの意義は、万が一不払いが発生したとき、強制執行が可能だという点につきます。ただ、養育費の本来的な意味はそれだけではありません。養育費は、子どもの生活費でもありますが、毎月お父さん(お母さん)から定期的に振り込まれるということは、愛されていることや関心を持ってもらっていることを実感でき、子どもの心の糧にもなり得ます。金額のみに注目せず、是非、養育費の本来の意味をお子さんに伝えてあげていただければと思います。

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