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DV加害者更生プログラムの実際ーDVは治るのかー

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夫婦間の問題としてDVが取り上げられる際、大抵は、「DVからどう逃れるか」という被害者視点の切り口です。

しかし、すべてのDV被害者がDV加害者から逃れることを望んでいるのではなく、夫婦としてやり直すことはできないかと思い悩んでいる人もいます。

また、DV加害者も、自分自身のDVに悩み、家族の崩壊に何の手立てもできないことに無力感を感じていたりします。

そんなご夫婦が考えることは、「DVは治すことができるのか」という課題です。

そこで今回は、「DVを治す」という視点から、DV加害者更生プログラムについてお伝えしたいと思います。

1 国のDV施策

まず、DV加害者更生に関する、日本の政策の現状はどうなっているのでしょうか。

被害者援助のためのDV加害者更生プログラム―内閣府HPより

1999年 男女間における暴力に関する調査(内閣府)
2001年 DV防止法施行
2001年 配偶者等からの暴力に関する調査
配偶者からの暴力の加害者更生に関する研究カナダ・米国の視察(内閣府)
「配偶者からの暴力に関する加害者向けプログラムの満たすべき基準および実施に関しての留意事項」作成(内閣府)
2004年 DV加害者更生プログラムの試行と効果研究委託事業(東京・千葉)

ご覧の通り、現在、DV加害者に対する法的な枠組みとして存在するのは、DV防止法のみで、DV加害者向けプログラムは研究の段階で止まっています。

欧米の先進国では、裁判所命令による加害者プログラムが実施されていますが、なぜ日本では行われていないのでしょうか。

その理由は簡単ではありませんが、一部は内閣府のHPに記載されています。ご興味のある方はご覧になってみてください。

兎にも角にも、DV加害者をDV被害者から引き離すことを中心とした法律になっていますので、DV加害者の行動様式は変わらないままです。

行動が変わらなければ、いくらDV被害者と引き離したとしても、第2、第3のDV被害者を生むだけなのです。

そんな現状を変えようと、現在、幾つかの民間団体が、DV加害者更生プログラムを実施しています。

多くは、米国のモデルを参考にアレンジを加えた独自のプログラムです。そして、対象者は、自発的に参加する加害者であり、「DVをやめたい」、「変わりたい」と思っている人たちです。

2 DV加害者更生プログラムとは

では、民間団体で行われている加害者更生プログラムとはどのようなものなのでしょうか。

インターネットで検索していただくと分かるのですが、プログラムを実施している団体の方針や実施内容は様々で、まだまだ統一されたメソッドがありません。

その中でも、今回は、NPO法人女性人権支援センターステップのDV加害者更生プログラムについてお伝えしたいと思います。

取材も兼ね、当センターの女性スタッフ3人で見学し、プログラムに参加させていただきましたので、その様子も併せてご覧ください。

2-1 活動の概要

はじめに活動の概要をお伝えします。

2-1-1 場所

横浜市内の事務所にてプログラムを実施しています。

2-1-2 実施日

DV加害者更生プログラム「金継ぎの会」
土・日:14時~16時 17時~19時
水:14時~16時

女性DV被害者支援プログラム「ダイヤモンドの会」
毎月第2土曜日 10時~12時
毎月第4水曜日 10時~12時

グループ討議形式を取ります。参加希望者はプログラム受講開始前に個人面談を3回、パートナーも1回受けなければなりません。個別面談(個人面談・夫婦面談・親子面談)も随時実施されます。 

2-1-3 プログラムの対象者

・DVをやめたいと思っている男性(重度の精神疾患のない方)
・ファシリテーターが直接パートナーに連絡をとっても良い方

2-1-4 プログラムの期間

1年間(週1回、1回2時間、全52回)
1時間目は学び、2時間は振り返り。52回の学びの内容は構成メンバーに応じて決められます。

2-1-5 料金

個人面談 2時間10,000円
グループワーク 2時間3,000円

2-2 プログラムの目的

プログラムの主な目的は以下のとおりです。

①DV被害者を守る
②DV加害者の行為に対する責任の自覚
③DV加害者の認知行動の変容
④不健全な価値観や考え方に気づき、思考を変えていく

加害者は、プログラムを通じ、人間関係を破壊する7つの習慣をやめ、人間関係を良くする7つの習慣の取得を目指します。

2-2-1 人間関係を破壊する7つの習慣
  • 文句を言う   
  • 責める     
  • 罰する     
  • ガミガミ言う  
  • 脅かす     
  • 批判する    
  • 褒美でつる   
2-2-2 人間関係を良くする7つの習慣
  • 支援する
  • 励ます
  • 傾聴する
  • 受容する
  • 信頼する
  • 尊敬する
  • いを交渉する

2-3 プログラムの内容

①ジェンダーバイアス(社会に決めつけられた男らしさ・女らしさ)に気づいてやめていく学びをします。

②DV行動は犯罪であり人権侵害という意識を深めていきます。

③相手を自分の思い通りに動かすための手段として、自分自身がDVを選択したという事実に気づき、その責任を取ることを目指します。

④怒りや不愉快を感じた時には、DVでなく他の方法を使い解決することを学びます。

⑤選択理論心理学に基づき、人間の欲求充足の方法を考えます。

選択理論心理学とは

選択理論では、すべての行動は自らの選択であると考える心理学です。自らの行動を選択できるのは自分だけなので、自らの行動は他人に選択されないし、他人の行動を選択させることもできないと考えます。そのため、問題が発生した時には、相手を受け入れ、自分との違いを交渉することで解決します。その結果、良好な人間関係を築くことができると選択理論では考えます。

従来の心理学(外的コントロール心理学)では、人間の行動は外部からの刺激に対する反応であると考えられてきました。 そのため、問題が発生したときには怒る、罰を与えるなどの強い刺激を相手に与えることで、相手を思い通り動かして解決しようとします。 しかし、その結果人間関係は破壊されてしまいます。

2-4 実際のプログラムの様子

2-4-1 DV被害者プログラム「ダイヤモンドの会」

「ダイヤモンドの会」の命名は、以下のような素敵な由来があります。

夫たちによって
傷つけられた心(ダイヤモンド)は光を失ってしまいました。

もう一度プログラムで回復して
失った光を取り戻し、

あなたがあなたらしく
光輝けるよう

『ダイヤモンドの会』と名付けました。

この日は参加者が少なく1名でしたが、通常はもっと大勢の方々で賑わうそうです。

ファシリテーター、ステップ代表の栗原さん、見学者の私たち3人も加わり、6人のグループでスタートです。

参加女性:うちの主人は、DV加害者更生プログラムに参加して暴力のスイッチを押さなくなりました。家庭の中に暴力がなくなって、穏やかに暮らせるようになりました。だけど、主人は52回のブログラムを終了しただけで満足している感じがして・・・。DVへの理解とか、深いところにある自分への気付きには達していない感じがして・・・。

ファシリ:今度、夫婦面談をやるのですよね。これまでの夫婦の振り返りですけど、そのあたりの〇〇さんの気持ちをどのように伝えますかね。

見学者:対等な関係を築くための1つの方法は、お互いをなんと呼び合うかですよね。「おまえ」ではなく、名前で呼ぶと相手を尊重する意識向上につながるのではないでしょうか。夫婦面談でそのことを話題にしてみたらどうでしょう。

これはほんの1コマでしたが、「家族のことをあきらめたくない」という理由で会に参加しているDV被害者の気持ちがとてもよく理解できました。

2-4-2 DV加害者更生プログラム

DV加害者の会には「金継ぎの会」という名前が付けられており、由来もあります。

「金継ぎの会」命名の由来は・・・

金継ぎの器は

壊れた個所に漆を塗り、金粉をかけた器のことで、以前の器より高価なものになる。

『元には戻らないかもしれないけど、金継ぎの器のようになればいいんだよ』

漆は学び、金粉は実践、前よりもっと味わいのある夫婦になれますように・・・

そんな思いを込めて、『金継ぎの会』と名付けました。

この日の参加者は10名、少数ですが女性の参加もありました。

ファシリテーター、ステップ代表栗原さん、見学者の私たち3人、グルーブには参加しませんが、観察者のスタッフ数人でスタートです。

1時間目は、学びの時間です。 

今回は、傾聴のロールプレイで「魔法の言葉・さ行であいづち」を学びます。

前回は、傾聴についてプリント学習を終えたそうで、今回はその実践です。

魔法の言葉―さ行-

さ行のあいづちは相手に人として尊重された実感を与えます。

さすがだね
すごいね
その通り
それで?
そうなんだ
それから?
素晴らしい

一方、だ行のあいづちは悪いあいづちです(だから、だって、でも)。

まず、スタッフが良いロールプレイと悪いロールプレイを行います。

【悪いロールプレイ】

妻:ねえ、今度の休みの日に庭の草むしりやってくれない?
夫:だめだ。できないよ
妻:どうしてよ。やってもらわないと困るの
夫:だってゴルフの約束があるんだ。だめなんだ

【良いロールプレイ】

妻:ねえ、今度の休みの日に庭の草むしりやってくれない?
夫:そうなんだ。草むしりやった方がいいんだね。でも、今度の休みの日は予定があるんだ。別の日でもいいかな
妻:もう、予定があるのね。別の日でも大丈夫よ。なるべく早くやってほしいの
夫:わかったよ。なるべく早くやるよ

モデルに習って、参加者の皆さんが良いロールプレイと悪いロールプレイを2人一組になってやってみました。

参加者は、悪いロールプレイを通し、ヒートアップする自分に気づき、良いロールプレイを通し、こうすれば気持ちが良いこと、そして会話を早く終えられることを経験しました。

そして、2時間目は、前回から今回までの一週間の振り返りの時間です。この一週間にあったことや考えたことをみんなで話し合います。

参加男性A:自分は子どもに暴力を振るってしまいました。妻にも暴言を吐きました。現在保護命令中です。金継ぎの会に参加していかに自分の言動が相手を傷つけていたかがわかりました。とにかく今は妻と子どもに謝りたいです。自分は変わりたいです。でも変われるだろうか・・・

参加男性B:それは、僕も同じです。みんな自分が変われるか、家族と上手くやっていけるか不安なんだと思います。でも、100%変われると信じてやっていくしかないです。必ず君だって変われるさ。

参加女性A:子どもが夏休みでずっと一緒にいてイライラするんです。

ファシリ :皆さん、思考をどう変えたら良いと思いますか?

参加男性C: 子どもの成長を楽しめばいいんじゃないかな。

多くの自助グループは匿名性で言いっぱなし、聞きっぱなしのルールで進行しますが、ステップの自助グループは違います。実名で参加し、互いに考えを伝え、励まし合います。

参加者の方は、家庭内で会話が上手くいかなかったのは、自分の家族に対する甘えが原因なのだと話してくれました。また、自分を変え、家族とやり直したいと願うのは、家族を心から愛しているからです、という言葉も聞かれました。

2-5 栗原代表の思い

最後に、栗原代表にお話をうかがいました(写真左下)。

「ステップを訪れる方々の多くは、これまでの人生でいじめや親からの虐待といった深い傷つきを体験しています。そして、成長過程で健全な人間関係の結び方を獲得する機会がなく大人になってしまった方がほとんどです。

加害者は、パートナーから愛されることを求めて暴力を振るい、パートナーを愛することに焦点が当たっていないのです。

これは、加害者の周りに他人を愛する良いモデルがいなかったためだと考えられます。

DVは夫婦の関係性が対等ではなく、支配関係になってしまうことによって起きます。

相手を変えられると思うが故に起きる暴力ですが、実は、他人と過去は変えられません。変えられるのは、自分と今だけです。

相手を変えようとして振るう暴力は、支配関係を生み、関係を壊し、その先にあるのは離婚です。

これまで、DV被害者を救う方法は、加害者から被害者が逃げる、離婚するという選択肢しかありませんでした。

被害者支援の第三の方法として、加害者が変わっていくことを目指し2011年4月からプログラムが始まりました。

加害者が変われば、被害者も安心して幸せに生きられるのです。

ステップのプログラムに参加して思考を変えることで感情が変わり、言動が変わります。

これまで、20代から70代の方がプログラムを受講し、その8割の方がDVから抜け出しています。52週のプログラムの後に夫婦の新しいスタートがあります。被害者は加害者の弱さに出会います。

ステップの目的は、怒り行動を選択しないこと、そして、相手を尊重することです。」

3 最後に

ステップの見学をさせていただいて、自分の人生選択の結果から逃げず、周りの助けを借りながら、やり直そうとする人たちの姿に出会いました。

誰しも、自分の思い込みで間違った行いをしてしまうことがありますが、ステップに足を運ぶ人たちは、自分の過ちを素直に認め、生き直そうとしているのです。

しかし、そういった人たちに対し、社会の目はあまりにも冷たいのが現状です。

児童虐待、薬物依存・・・皆同じサイクルの中でもがいています。

罰を与えて罪を自覚させ「向こう側の人」と選別し終わるのではなく、その先の健全な生き方を身に付けるための回復への支援がなければ、社会は変わりません。

一方で、DV加害者であることを認めず、同じ過ちを繰り返す人もいます。

そのため、DV被害者は、「家族であることを諦めない」という考えに縛られず、「家族であることにこだわらない」という勇気も持っていただければと思います。

DV被害者に大切なことは、自分らしい生き方を取り戻すことです。

その方法がDV加害者と治療の道を歩むのか、それともDV加害者との決別を選ぶのか、どちらでも構わないのです。

私たち「家族のためのADRセンター」も家族間の争いをお互いに認め合うことで解決し、誰ひとりとして排除されない寛容な社会になるための一助として機能していきたいと願っています。

そのほかのDVに関するコラムもご参考ください。

DVから逃げる―保護命令―
DVの3つの特徴と望ましい離婚時期

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