今回のコラムでは、離婚したい夫とまだ夫を愛している妻の事例をご紹介します(あるあるを詰め込んだ架空の事例です。)
自分は離婚したいのに相手が応じてくれないという方も、自分は離婚したくないのに相手に離婚を迫られて困っている方も、双方の方にご覧いただければと思います。
夫婦不和の経過
夫:35歳 会社員
妻:32歳 パート勤務
夫婦は結婚7年目。比較的若いころに社内結婚し、結婚を機に妻は退社。ごくごく普通の円満な夫婦生活でした。
しかし、徐々に、子どもに恵まれないことが妻のプレッシャーになりました。夫はそのことを責めたりせず、「まだ若いんだから、焦らなくても大丈夫だよ」と優しい言葉をかけてくれました。
しかし、妻は、子どもができないのは自分のせいだと自己嫌悪に陥り、せめて少しは家庭の役に立つようにとパートに出るようになりました。
夫も、妻が家にこもりきりで、鬱々とした日々を過ごしていることが心配だったため、社会との接点が増えることはよいことだと、パートに出ることに賛成してくれました。
しかし、妻にとって、久しぶりの仕事はそんなに甘いものではありませんでした。年下のアルバイトに怒られたり、ミスをしてお客さんに怒鳴られたりしました。
元気を出すつもりで働きに出たのに、結局、心身が疲弊するだけの結果になってしまいました。
妻は、夫が帰ってくると、その日あった辛かったこと、不満だったことを夫にぶちまけるようになりました。最初は優しい気持ちで聞いていた夫も、段々疲れてきてしまいました。
妻があまりにもマイナス思考で、他人の言動を悪く解釈しすぎなところがあったため、「もう少し楽観的に受け止めてみたら」、「〇〇さんは、悪気があったわけじゃないと思うよ」などとアドバスをしたこともありました。
しかし、妻は納得せず、「私の気持ちを分かってくれていない」と却って話が長くなるため、夫はただ黙ってその場をやり過ごすことだけを考えるようになりました。
そんな日々が続く中、夫は妻を避けたい気持ちが強くなりました。妻がいる家に帰りたくなくなり、帰宅恐怖症になってしまったのです。
妻に申し訳ない気持ちもありましたが、家に帰ると不平不満を聞かされ、楽しい時間もない生活に限界を感じ、夫は妻に離婚したいと伝えました。
離婚危機をなかったことにしたい妻
夫から離婚を切り出されたことは、妻にとっては晴天の霹靂です。
妻は、頭が真っ白になってしまい、夫が何を言っているのか理解できませんでした。妻は、泣き叫んだり、「絶対に離婚はしない」と怒鳴ったりするわけではありませんが、ひたすら「なかったこと」にしようとしたのです。
離婚を切りだしたその瞬間、妻は、一瞬固まった後、何も言わずに部屋を出ていきました。そして、その夜は、何事もなかったように夕飯の支度をし、「ご飯、できたよ。」と夫に声を掛けました。
面食らった夫ですが、数日後、再度意を決して離婚を話題にしました。
しかし、妻は、「その話は今はしたくない」と聞く耳を持ってくれません。
その後も、「もうちょっと落ち着いたときに聞くから」、「今は仕事が忙しいから勘弁して」と話し合いにすら応じてくれません。
それよりも、いつも以上に家事をこなし、まるで円満な夫婦のように振る舞うのです。
その状況に耐えかねた夫は、当センターの相談に訪れました。
離婚したい夫の決意
夫の言い分は次のような内容です。
妻のことが嫌いだとか、憎いとか、そんな積極的な理由ではないんです。ただ、もう人間としての魅力を感じないというか…。毎日、帰宅すると愚痴ばかり聞かされて、嫌になっちゃうんですよ。
このまま一緒に生活していると、自分の気持ちも落ち込んでいきそうで…。
すでに妻を女性としてみることもできないし、夫婦生活もする気になれません。なので、まだお互い若いし、子どももいないので、新しい生き方を探した方がお互いのためだと思っています。
妻は子どもを望んでいるので、離婚するなら早くしないと、というのはエゴかもしれませんが、でも、妻のためにも再出発は早い方がいいと思っているのは本当です。
夫は、静かに語りますが、その意志は固そうです。そして、次のように続けました。
でも、別に争って離婚したいわけではないんです。
僕らには少なくとも7年の結婚生活の歴史がありますし、感謝していることもあります。
ただ、今の妻は、現実から逃げているというか、話し合いにすら応じてくれない状況です。
そのため、今は家を出るしかないと思っています。その前に、きちんと話し合っておきたいんです。
そんな夫は、ADRによる調停を申し込み、申立書には「夫婦としてはやっていけないと感じている。家を出ることを考えているが、その前に話し合っておきたい」といったことが書かれていました。
ADRでの話し合い
当センターからの連絡を受けた妻は、「2人で話し合えばいいでしょう。どうして他人を入れる必要があるの?」と不応諾の意思を示していましたが、夫は、二人では話が進展しないこと、妻がADRによる話合いに応じない場合、勝手に家を出るしかないこと、そうなると妻は金銭的に困るだろうから、そんなことはしたくないことを冷静に伝えました。
そうしたところ、2日後には妻からADRに応じる旨の回答がセンターにありました。
そして、第一回期日です。
夫は、これまでの心の変化や現時点で考えていることを冷静に話し、離婚を望んでいると主張しました。
それに対し、妻は、離婚したくない理由として次のように語りました。
「家計の足しになればと思い、慣れない仕事も頑張っています。もちろん、浮気もしたことがありませんし、浪費家でもありません。家事もこなしていますし、なぜ離婚を切り出されなければならないのでしょうか。」
調停者からの「離婚をしたくない積極的な理由はあるか」との質問に対しては、少し考えた上で、「ひとりで生きていくことに不安しかありません。精神的にも経済的にも。それに、夫に頼りたい気持ちもあります。」と話しました。
調停人は、少しの間、過去の出来事や気持ちに関するやり取りを促した後、再度、夫婦に現時点での気持ちを確認しました。
夫は「離婚の意志は固い、応じてくれなくても家は出る。」、妻は「離婚はしたくない。家も出ていってほしくない」と平行線です。
妻の気持ちが簡単に変わらないことを悟った夫は、「いくら嫌だと言われても、僕はもう君と同じ家で生活をするつもりはない。愛情もない。ただ、戸籍上の夫婦の関係が続いている間は、最低限の婚姻費用は支払う。」と強い口調で話しました。
調停人からは、いくら別居してほしくないと言っても、縄で縛りつけておくこともできず、夫が出ていくことを阻止するのは難しいこと、そうなると少なくとも別居中の生活費については話し合っておく必要があること等を妻に伝えました。
妻は、別居前提の話し合いに乗り気ではありませんでしたが、確かに困窮すると困るため、最終的には算定表通りの金額で婚姻費用を決定して終了となりました。
振り返り
第三者を入れたとしても、必ずしも離婚が成立するわけではありませんし、同じく、必ずしも離婚を思いとどまってくれるわけではありません。
しかし、法的知識のある調停者を介入させ、冷静に話し合うことで、自分の気持ちを伝えきること、そして相手の気持ちも十分に理解することが可能です。
当センターでは、ADRのみではなく、事前の相談としてカウンセリングもお受けしておりますので、ぜひおひとりで悩まずお気軽にご相談ください。
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