養育費

養育費はいつまで? 支払終期の3つのストーリー

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離婚条件として養育費を取り決める際、ついつい養育費の「金額」にばかり注目してしまいがちですが、もう一つ大切なことがあります。それは、養育費をいつまで支払ってもらうのか、ということです。今回は、養育費の支払終期について、事例を用いてご説明したいと思います。

養育費支払終期の事例

とにかく払いたくない夫

夫:35歳 会社員
妻:38歳 会社員
長女:1歳

夫婦は、結婚相談所で出会い、交際3カ月で結婚を決めた。結婚相談所から「交際したら3カ月で結論を出して!」と言われていたことや、短期間での成婚退会が望ましいという風潮があったことから、双方共にスピード婚に違和感はなかった。特に、妻は年齢的な問題もあり、とにかく早く結婚して子どもを作りたいと願っていた。また、夫も年上の女性なら頼りになるのではと期待する気持ちもあった。

しかし、結婚してすぐに妻の妊活が始まった。夫としては、まずは、自然な夫婦生活が前提だろうという気持ちもあったが、年上の妻の事情も理解できたため、協力することにした。その甲斐あって、すぐに子どもを妊娠し、無事出産。順調な滑り出しかのように見えた。

しかし、子どもが生まれて間もなく、夫婦の気持ちはすれ違うようになった。妻は、高齢出産やその後の育児に疲れ果て、育児ノイローゼ気味に。仕事に復帰した後は、さらに疲れがたまり、育児に協力的でない夫にいら立ちが募るばかりであった。一方、夫は、妻が常にカリカリと怒りっぽかったり、自分を罵倒してくることに嫌気がさしていた。子どもも自分に懐かず、休日も一人外出することが増えた。そんな状況の中、妻が子どもを連れて実家に戻り、離婚協議が開始。養育費の終期でもめることに。

:算定表通りの養育費は支払うけど、18歳までしか払わないよ。
:なぜ18歳なの。そこからが一番お金がかかるときなのに!
:だって、養育費は成人するまでだろ。高卒で働くかもしれないし。
:今どき、高卒より大学進学の方が断然可能性が高いわ。
:とにかく、そんな先のこと、誰にも分からないよ。
:分からないからこそ、ちゃんと決めておきたいのよ。
:俺はまさにその逆なんだよ。現時点で遠い将来の義務を負わされたくないから、できるだけミニマムに決めたい。
:あなた、それでも子どもの父親なの!自分のことばっかり!
:仕方ないだろ。ほとんど子育てもしていないし、正直言って、父親の自覚なんてないよ。

18歳まで、その後は協議

結局、この夫婦は、まずは支払の終期を18歳になった後の最初の3月までと決め、そのときに大学進学が予定されている場合、再度双方で協議をする、という内容で合意した。妻としては不満だったが、確かにかなり先過ぎる話だし、父親としての自覚も育っていない夫とこれ以上協議をすることに疲れてしまった。一方、夫は、18歳以降も責任を負わされる可能性を残すことに不安を感じたが、「再協議」という決め方をすることで、一方的に義務を負わされる懸念が払しょくされ、合意に至った。

大学生を抱えた夫婦の養育費

夫:55歳、会社員
妻:53歳、専業主婦
長男:19歳(大1)
長女:14歳(中2)

外からみるとごく一般的な夫婦に見える二人だったが、実は、必要最小限の連絡事項しか話さない仮面夫婦だった。妻は、自分のことを家政婦のようにしか思っておらず、何かとマウントしてくる夫の言動に苦しめられたが、子どもが大学を卒業するまではと我慢してきた。しかし、長男が大学に入学し、ひとまずは安心した一方で、長女の大学卒業までは持ちこたえられないという絶望感にも似た気持ちを味わう毎日の中で、ついに離婚を決意した。夫としては、憤慨する気持ちもあったが、家族の中で母子連合から疎外され、ただ金を稼いでくる存在として扱われていることに不満を感じていたこともあり、離婚に応じることに。

:親の勝手で離婚するけれど、子どもたちには迷惑をかけたくないの。なので、養育費だけはしっかりとお願いしたいと思っています。
:子どもに肩身の狭い思いをさせたくないのは僕も同じだが、「離婚はしたいです、お金もお願いします」は虫が良すぎるんじゃないのか。
:確かに離婚を切り出したのは私ですけど、そこに至った原因には双方の責任があると思っています。私もパートで働き始めましたが、到底学費を賄う経済力はありません。子どもたちが大学を卒業するまで、もしくは進学を希望するなら大学院まで、きちんと月々の養育費や学費ををお願いしたいです。
:それは無理だよ。僕は後数年で退職だ。再雇用の可能性もあるが、給料が激減することは目に見えている。そんな状況が予想されるのに、とにかく子どもたちが学業を終了するまで払い続けてほしい、というのは酷だよ。

22歳になった後の最初の3月まで

結局、支払の終期は「22歳になった後の最初の3月まで」という記載になった。妻としてはどんな状況になろうと最後まで保証してほしいという気持ちが強かったが、確かに夫の収入が激減することは目に見えており、「22歳まで」という明確な終期があった方がかえって安心なようにも思えたのである。

「一般的」な終期で決めたい夫

夫:42歳、会社員
妻:42歳、専業主婦
長男:8歳

夫婦は社内恋愛で結婚。妻は、出産後、一度は仕事に復帰したが、育児との両立が難しいという理由で辞職。それ以降、家計の負担は全て夫の肩にかかってきた。夫は、仕事から疲れて帰っても、妻から労いの言葉もなく、反対に「いつまでも給料が上がらない」、「あなたと結婚したのは間違いだった」等と否定的な評価ばかりをあびせられる毎日に精神的にまいってしまった。家族に内緒で心療内科に通い、思い悩む中で一方的に別居を開始。当初、妻は絶対に離婚しないの一点張りだったが、精神的に弱っていく夫を見かね、「金銭面の条件によっては離婚してもよい」との意向に変わった。

:あなたの離婚したいという願いをかなえてあげるのだから、金銭面の保証はしっかりしてよね。特に、養育費は子どものためのお金だから、ちゃんと支払ってほしい。
:もちろんきちんと支払う気持ちはある。僕にとっても大切な一人息子だし、不憫な思いはさせたくない。ただ、現在のメンタルでは、過度な期待や要求はストレスでしかない。悪いけど、結局働けなくなって迷惑をかけるより、今回はごく一般的な形で決めたいと思っているんだ。
:ごく一般的っていうのは?
:20歳になるまで、算定表どおりの養育費を支払うよ。
:20歳までって、大学生で一番お金がかかるときに養育費をストップするつもりなの?
:そのときになってみないと分からないし、子どもが頑張っているのにお金を出し惜しんだりするつもりはないよ。ただ、今は、10年以上先のことを確約することが負担なんだ。

20歳まで

妻は、夫の弱腰にいら立ちを感じたが、これ以上追い込んでもいい方向には進まないと思えた。また、色々調べてみても、夫の主張が大きく外れてはいないことも理解できた。一方、夫は、とにかく諸々の負担を避けたかった。支払が少なくて避難されるのも負担だし、相場より多く払うのも負担だった。そのため、「一般的」な終期として20歳にこだわっていたのである。

支払終期の考え方

18歳まで(成人になるまで)

「18歳まで」とする人の根拠は「養育費は成人まで」という考え方です。ただ、この考え方は根本的に適切ではありません。というのは、養育費の支払いは「未成年」かどうかの基準ではなく、「未成熟子」かどうかが基準になるという点です。

そのため、高卒で仕事に就けば、未成熟子ではありませんし、21歳の大学生であれば、未成熟子として養育費の支払いの対象になります。

20歳まで

20歳までというのは、これまでの成人年齢であったこともあり、現在も裁判所では支払終期を20歳までにすることが多いようです。ただ、前述のように、子どもが大学に進学した場合、20歳以降の養育費については、再度協議しなおす必要が出てきます。大学進学率が6割近い昨今、親の学歴などから考えても子どもが大学に進学する確率が高いようであれば、20歳で区切るのは何とも中途半端です。

22歳まで(大学を卒業するまで)

22歳までと取り決める場合、正しくは「22歳になった後の最初の3月まで」といったような決め方をします。これは、浪人も留年もせず、ストレートで大学に入学・卒業した場合の大学卒業見込みの時期を終期としているものです。この点、もっと分かりやすいように「大学卒業まで」と記載してはどうか、という考え方もあります。ただ、このように決めた場合、義務者にとって酷な結果となることがあります。例えば、子どもが浪人したり留年したりするとどうでしょうか。いつになったら支払が終了するのか分からず、適切ではありません。

ちなみに、法務省では、以下のような見解が示されています。

また,養育費は,子が未成熟であって経済的に自立することを期待することができない場合に支払われるものなので,子が成年に達したとしても,経済的に未成熟である場合には,養育費を支払う義務を負うことになります。このため,成年年齢が引き下げられたからといって,養育費の支払期間が当然に「18歳に達するまで」ということになるわけではありません。例えば,子が大学に進学している場合には,大学を卒業するまで養育費の支払義務を負うことも多いと考えられます。
 なお,今後,新たに養育費に関する取決めをする場合には,「22歳に達した後の3月まで」といった形で,明確に支払期間の終期を定めることが望ましいと考えられます。

また、「22歳に達した後の最初の3月まで」としておいて、高校卒業後に就職した場合や大学を中退した場合は支払義務はその時点までといった内容を付記することで、「無駄に長く払わされるのでは」という不安や不満を払しょくできます。

養育費支払終期に対する基本姿勢

ここまで、養育費支払の終期について、細かく検討してきました。しかし、終期に限ったことではありませんが養育費には変更の要素がたくさんあります。収入の大幅な増減も変更の要素ですが、同居親の再婚が最たる変更です。この場合、再婚相手と子どもが養子縁組をすることが一般的で、そうすると、実父の支払義務はなくなります。また、将来、一体子どもはどんな進路を選ぶのか、これもまた未知数です。

もちろん、お子さんが既にある程度成長していて、将来の進路が見えている場合は明確に決めるメリットは大きいですし、あまり相手の反発もないことが予想されます。しかし、まだ1歳の子どもの養育費の終期について、「20歳まで」「いや、22歳まで」と争うのは不毛な感じもします。それぞれが納得のいく妥協点をうまく見つけていただければと思います。

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ADRによる仲裁

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