離婚時に知らないと損をする制度の代表格が「離婚時年金分割」です。
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知らないと損する離婚の常識―年金分割-
ただ、年金制度全般がそうであるように、離婚時年金制度も「将来どのくらいもらえるのか」という具体的な金額が分かりにくかったりします。そのため、今回は、実際の数字をあてはめつつ、ご説明したいと思います。
サラリーマンと専業主婦の例
サラリーマンとしてバリバリ働く太郎さんと、専業主婦として子育てや家事に努めた花子さんのご夫婦。
長年、夫婦関係がぎくしゃくしたまま、何とかやってきましたが、子どもが独立したのを機に離婚することにしました。
しかし、妻は、離婚後の経済問題がとても心配でなりません。
せめて、年金分割だけは約束してもらいたいと思っていますが、夫の機嫌を損ねるのが心配で言い出すことができません。夫の「年金定期便」を見ることができれば、比較的簡単に計算できそうですが、すでに別居して数年が経っており、夫の受給見込額を知ることもできません。
そこで、花子さんは、年金事務所にて「年金分割のための情報通知書」を取得することにしました。
ポイント 離婚前に一方が申請した「年金分割のための情報通知書」は、請求した人にだけ送付されます。そのため、配偶者に請求したことを知られる心配はありません。
請求までの道のり
まずは、自宅の近くにある年金事務所を探しました。しかし、花子さんは、知り合いに会うのが嫌だったため、隣町の年金事務所に行くことにしました。
ポイント 年金分割のための情報通知書は、どこの年金事務所でも取得できます。住民票の有無も関係ないため、例えば、勤務の合間に職場の近くの年金事務所にいくという方法もあります。
まずは、必要書類などを聞いてみようと年金事務所に問い合わせてみた花子さん。申請自体が予約制だと言われてしまいました。さらに、申請から2週間も待たなければ、年金分割のための情報通知書は手元に届かないとのことです。花子さんは、その場でもらえると思っていたので、時間がかかることにびっくりしました。
ポイント 年金分割のための情報通知書は、申請から送付まで、平均2週間程度かかります。離婚時期や公正証書の作成を急いでいる方は、逆算して必要な時に手元に届くよう申請しましょう。申請の書類や必要な添付書類はこちら
そして、2週間後、やっと年金分割のための情報通知書が手元に届きました。
しかし、それを見て花子さんは唖然としました。
訳の分からない言葉や数字が並んでいるだけで、年金分割によって、一体いくら年金が増えるのか、まったく分からないのです。
情報通知書さえ見れば、将来の生活設計が立てられると思っていたのでがっかりです。
ポイント 50歳以上であれば、希望すると、年金分割のための情報通知書に目安の金額が記載されています。しかし、50歳未満は、情報通知書にも受給見込額が記載されていません。
そこで花子さんは、知り合いの社会労務士に頼んで、年金分割のための情報通知書に記載されている数字のみで試算してもらえるよう頼むことにしました。
情報通知書を利用した計算方法
そして、社会労務士は、次のように計算を進めていきました。
年金分割の実際の計算
第1号改定者 太郎 対象期間標準報酬総額 127,600,000円
第2号改定者 花子 対象期間標準報酬総額 0円
按分割合 0,5
太郎と花子の標準報酬総額の合計額を求める
127,600,600円+0円=127,600,000円
按分割合を0.5で太郎と花子の標準報酬総額を求める
分割後の花子の標準報酬総額
127,600,000円×0,5=63,800,000円
分割後の太郎の標準報酬総額 (太郎の持ち分も1-0,5で0,5)
127,600,000円×0,5=63,800,000円
分割後の太郎と花子の老齢厚生年金額を求める
花子 63,800,000円×5,481/1000=349,688円≒349,700
太郎 63,800,000円×5,481/1000=349,688円≒349,700
(5,481/1000の部分は、年齢によって乗率が決まっています。乗率の詳細については日本年金機構のHP記載の表をご覧ください。)
このように、按分割合を0.5とすると、年金分割後の分割対象期間中の老齢厚生年金額(報酬比例部分)は、二人そろって年額約349,700円になります。
花子は、年金分割を請求しなければ、婚姻期間中(分割対象期間中)の標準報酬総額(厚生年金報酬比例部分)が0円だったところ、請求したことで63,800,000円になったことになります。そして、これに、独身の時の分や今後の加入状況に応じたデータをプラスした厚生年金保険料納付記録を基に花子の老齢厚生年金(報酬比例部分)の受給額が決まります。
年金分割の現実
花子は、社会労務士が導き出した数字を見て、なんとも言えない気持ちになりました。月額にすれば、約3万円の増加が見込めるということなのですが、この数字をどう考えればいいのか分からないのです。
あんなに尽くして、我慢の連続の毎日だったのに、月額3万円しか増えないとなると、やるせなさや将来の不安しかありません。
しかし、仮に85歳まで生きていたとすると、約700万円増加したことになり、けして小さい数字には見えないのです。
花子は、粛々と離婚の手続きを進めながら、「頼れるのは自分しかいない」という境地に達し、長い長いブランクを経て、再び働くことを決意したのでした。
共働き夫婦の年金分割
共働きの夫婦でも、給料に差があれば、将来受給する年金の金額が変わってきます。
次は、次郎と道子の共働き夫婦についての計算を見ていただければと思います。
第1号改定者 次郎 対象期間標準報酬総額 127,600,000円
第2号改定者 道子 対象期間標準報酬総額 24,000,000円
按分割合 0,5
次郎と道子の標準報酬総額の合計額を求める
127,600,000円+24,000,000円=151,600,000円
按分割合を0.5で次郎と道子の標準報酬総額を求める
分割後の道子の標準報酬総額
151,600,000円×0,5=75,800,000円
分割後の次郎の標準報酬総額 (次郎の持ち分も1-0,5=0,5)
151,600,000円×0,5=75,800,000円
分割後の次郎と道子の老齢厚生年金(年額)を求める
道子 75,800,000円×5,481/1000=415,460円≒415,500円
次郎 75,800,000円×5,481/1000=415,460円≒415,500円
按分割合を0,5とすると年金分割後の分割対象期間中の老齢厚生年金額(報酬比例部分)が同じ、年額約415,500円になります。
道子は、年金分割を請求しなければ、婚姻期間中(分割対象期間中)の標準報酬総額(厚生年金報酬比例部分)が24,000,000円だったところ、請求により75,800,000円になったことになります。
これに、独身の時の分や今後の加入状況に応じたデータをプラスした厚生年金保険料納付記録を基に道子の老齢厚生年金(報酬比例部分)の受給額が決まります。
まとめ
年金分割は、とても大切な制度でありながら、まだまだ分かりづらい制度です。
誰から誰に分割されるのか、夫が自営業だったらだめなのか、受給前に夫が死亡したらどうなるのか、分割割合でもめたらどうすればいいのか、分からないことを挙げたらきりがありません。
しかも、厚生労働省のデータによると、離婚相手から年金分割をしてもらった人のうち、すでに年金受給をしている人の受取増加額の平均は、月3万円程度です。
月3万円増えたからといって、生活が楽になるとは思えません。しかし、受給年齢に達したときから、死亡する前での間、間違いなく受給できる年金が増えるというのは、総額にすると相当な金額になるかもしれないのです。
そのため、しっかりと年金分割を行った上で、仕事を中心とする収入源の確保が大切なのではないかと感じる今日この頃です。
なお、年金分割は、婚姻時期や3号受給者であるかによって異なりますが、現時点(令和元年)で婚姻期間が10年以上である人や、夫婦共働きでどちらも扶養に入っていないような場合(3号受給者でない場合)、夫婦そろって年金事務所に手続きに出向かなければなりません。
一方、公正証書で年金分割を定めておけば、夫婦そろって年金事務所に出向く必要はなくなります。ほかの離婚条件も含め、離婚時の約束事は、是非公正証書に残しておきましょう。
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