「ママは、おまえより自分のことが大事なんだって」
「お父さんがお金をくれないから、もうピアノはやめなきゃいけないのよ」
離婚や別居の渦中で、つい子どもにこぼしてしまう妻・夫に対する愚痴。だれだって一度や二度はあるのではないでしょうか。
ただ、その悪口の内容が深刻だったり、頻度が高かったりすると子どもの心に深い傷を残すかもしれません。
本コラムでは、親が子どもに相手の悪口を言ってしまう心理、その影響、そして今すぐできる対策について解説します。もし、今まさに家庭内に「子どもを巻き込んだ夫婦の葛藤」があるなら、ぜひ最後までお読みください。

よくある悪口
経済面に関する悪口
「お父さんはケチだから、みんなで遊びにいくお金もない。」
「お父さんのお給料が少ないから、うちは〇〇くんのほしいものを買ってあげられない。」
日々、このようなことを母親から吹き込まれた子どもは、きっと「お父さんってケチなんだ・・・。」、「お父さんって稼げないんだ・・・。」と考えるようになるでしょう。
また、別居後や離婚後によくあるのは、次のような悪口です。
「お父さんがお金をくれないから、習い事は続けられないかもしれない。」
「お父さんに見捨てられてしまったから、貧乏な生活になるよ。」
きっと、子どもは、これまでの生活を維持できなくなったのは父親一人のせいだと考え、父親のことを憎むでしょう。
夫から妻に向けての金銭・経済面に関する悪口もあります。
「ママはお金の管理ができないから、家計を任せられない。」
「お父さんは十分なお金を渡してるのに、お母さんがすぐに使ってしまう。」
「ママが働いてくれないから生活が苦しい。」
こう聞かされた子どもは、金銭管理のできない頼れない母親だと思ったり、自分たちの養育費を使い込まれている、そんな風に思ってしまうかもしれません。
関心がない
仕事や付き合いに忙しい場合、家族への関わりが薄いことを指摘される場合があります。
「お父さんは、私たち家族に関心がないのよ。だからお休みの日も寝てばっかり。」
「ママは、〇〇ちゃんのことより仕事の方が大切なんだって。だから夜遅くまで帰ってこないんだよ。」
こうした悪口は、家事育児の分担に関する不満から口にされることが多いかもしれません。
また、別居や離婚に際しては、以下のような悪口が考えられます。
「お父さんは私たちを捨てて出て行った。」
「ママは、俺たちのことが嫌いだから、一人になりたいんだって。」
確かに、夫や妻は相手のことが嫌いで、関心がないかもしれませんが、子どもに対しては別の感情があったりします。
しかし、親が「わたしたち」、「俺たち」という表現を使い、子どもも巻き込んだ言い方をしてしまいますので、子どもにしてみれば、お父さんは自分のことも嫌いだ、関心がないのだ、と感じてしまいがちです。
不貞(浮気・不倫)
夫や妻が浮気をした場合、大変許せない気持ちになります。
そして、その怒りや憎しみを自分の中だけにはとどめておけず、それを子どもに伝えてしまったり、子どもの前で話題にしてけんかをしてしまうのです。
「パパはよそに女を作って出て行った。」
「ママは、〇〇のママでいるより、女として生きたいんだって。」
このように言われた子どもの気持ちはどうでしょうか。
一生、心に傷を負うのではないでしょうか。
家事ができない
家事ができないことに対する悪口もあります。
この類の悪口も、妻からも夫からも両方あり得ます。
「ほんとママはいつも掃除ができないね。こんな埃だらけの家に住んでると病気になっちゃうね。」
「ママはいつも手抜き料理や買ってきた料理が多いね。子どもの健康とか気にしないのかな」
「パパってどうして手伝ってくれないんだろう。家のことはどうでもいいのかな?」
こういった悪口は、直接的ではなく、間接的に「ママ(パパ)は君のことを大事に思っていないよ」というメッセージになってしまいます。
子どもへの影響
嫌いになる
毎日のように、父親や母親の悪口を聞かされた子どもはどう考えるでしょうか。
既に子どもの年齢が大きく、外部からの情報や知識を使って判断できるのであれば、
「パパが言っていることはおかしい。」
「パパの悪口を言うママの方がおかしい。」
と考えることができます。
しかし、多くの子どもたちは、親のいうことを疑いません。また、年齢が幼いと、判断能力が備わっていません。その結果、「悪口」を「真実」として受け止め、悪口を言われている方の親を嫌いになるのです。
自己肯定感の低下
片方の親を嫌いになった子どもに次に起こるのが「自己肯定感」の低下です。というのも、子どもの半分は父親、もう半分は母親からできています。そのため、その半分を嫌いになったり、憎んだりすると、自ずと自分の半分を否定することになるのです。
ときに、自分も一緒になって悪口を言うことで、親との連帯感を強め、何だか元気を取り戻したように見える子どももいます。しかし、その元気や強がりは、長くは続きません。思春期や反抗期、いろいろな場面で子どもの成長に暗い影を落とします。
いじめ
自己肯定感の低い子どもが取りがちな思考は「どうせ私(僕)なんて」、です。そのため、友達からいじめられたり、誰かに不当に扱われたりしても、「やめて」と声を上げることができません。
どうせ私(僕)は〇〇だからいじめられても仕方がない、先生に言っても解決できない、と諦めてしまうのです。また、自己肯定感があまりに低いと、自分が不当に扱われていることにすら気が付かないことがあります。
異性関係の問題
親の離婚を経験した子どもの離婚率が高いというようなことを聞いたことがあると思います。
色々な原因が複雑に絡み合った結果だと思いますが、適切な男女関係を学べない、ということも理由の一つではないでしょうか。
一方の親がもう一方の親の悪口を言ったり、非難したり、ということが日常的に繰り広げられているとすると、その子どもが成長したとき、同じことをしてしまうのかもしれません。
悪口を言う心理
子どもにデメリットばかりの悪口。それなのに、どうして言ってしまうのでしょうか。
次は、その理由について考えてみたいと思います。
感情の爆発
腹の立つことがあったとき、怒りの気持ちを抑えきれず、ついつい近くにいる子どもを巻き込んでしまうことがあります。
特に、その腹立たしいことがメールや電話で伝えられたとき、また、伝えた本人が姿を消してしまったとき、怒りの気持ちをぶちまける相手がいないことになります。
そこで、ついつい「お父さんは、どうしていつも〇〇なの!」とか、「ママは今日もまた家族よりも友達を優先させるんだって」などと言ってしまうのです。
子どもを自分に懐かせたい
親権や監護権を争っている場合はもちろんですが、そうでなかったとしても、子どもには自分に懐いてほしいという感情があります。
そもそも、「3人」というのは、いじめやいびつな力関係が発生しやすい人数だと言われています。
「父親-母親-子ども」という3人の三角関係も同様です。
特に、夫婦仲が悪い場合、父親と母親がそれぞれ子どもを自分の方に引き寄せようとするため、その手段として悪口が使われることになります。
さらに、親権や監護権を争っている場合、子どもが「ママ嫌い」、「パパ怖い」と言ってくれれば、大きな決め手となるのですから猶更です。
感情と理性を分けられない
大抵の場合、「子どもの前で親の悪口を言ってはいけない。」ということは理解していたりします。
しかし、頭では理解していても、気持ちが抑えられないという人がいます。
以前のブログでも触れましたが、「自己分化度」の低い人は、この傾向にあります。
自己分化度にご興味のある方は以下のコラムもご参考ください。
円満離婚に欠かせないたった一つの大切なこと
現状に不満な人
夫婦不和の状態ですので、夫婦のどちらにも不満はあると思います。
ただ、より不満が強かったり、現状を打破する力のない人が、悪口という手段を使って、自分を納得させようとするのです。
「誰からも自分の頑張りを認めてもらえない」、「自分はこんなにひどい目に合っているのに、どうして子どもたちは相手に懐こうとするのか」といった心情で、悪口を重ねてしまいます。
子どもを巻き込まない方法
それでは、どうすれば、子どもへの悪口の吹き込みを止めることができるのでしょうか。
黙って聞いてくれる相手を持つ
子どもの代わりに、悪口や不満を黙って聞き続けてくれる人を探すことが大切です。
自己分化度の低い人が「憎い妻」、「嫌いな夫」への感情を子どもに隠すのはとても難しかったりします。
そのため、その隠しきれない思いを誰かに聞いてもらい、すっきりした状態が継続していれば、子どもへの悪口の吹き込みも減っていくでしょう。
ママ友や職場の友人でもいいですし、自治体の相談窓口でもいいと思います。もう少し専門的な相手としては、カウンセラーに相談する方法もあります。
自分が幸せになる
現状に満足できなかったり、不満が多い人ほど、人のことを悪くいったり、それを身近な人と共有しようとしてしまいます。そのため、その人自身が幸せになり、満足のいく人生を送れていることがとても大切です。
自分に置き換えて考えてみる
これは、とても原始的ですが、何事も、自分のこととして考えられなければ、正しい判断はできません。例えば、悪口を言われる親の立場になってみるのです。
自分の手の届かないところで、間違ったことを子どもに吹き込まれているとします。そして、いつその誤解を解く機会があるかもわからず、子どもに嫌われていくことを想像すると、居ても立っても居られない心境になるのではないでしょうか。
また、子どもの立場になってみて、自分の両親が仲が悪く、お互いの悪口を自分に言われたとするとどうかでしょうか。
「やっぱり、親は仲良くしてほしい。」「せめて、悪口くらいは聞かせないでほしい。」という気持ちになるのではないでしょうか。
相手から離れる
相手との間で様々なストレスを抱えると、感情をコントロールすることができなくなってきます。そうすると、やってはいけないと思いつつ、抱えきれない気持ちの発散のために悪口が口をついて出てしまうのです。
そんなときは、相手から離れるのが一番です。
そうはいっても、別居や離婚は大きな変化で決断が怖い問題でもあります。
当センターでは、カウンセリングにて皆様のお悩みに寄り添い、また、今後の進むべき道を一緒に模索します。相手との生活に疲れ、ついつい子どもによくない事を言ってしまう。そんな方はぜひご相談ください。