離婚公正証書

離婚公正証書と離婚協議書の違い

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このコラムでは「離婚協議書と公正証書の違い」について、その共通点や相違点について説明します。また、離婚公正証書を作成しておいた方がいいケースや離婚協議書で足りるケースについても触れます。

離婚協議書と離婚公正証書の共通点と相違点

作成の目的

共通点

取決め内容を記載し、将来の争いを防ぐ

離婚協議書と公正証書は、将来の紛争を防ぐために作成する「契約書」だという点で共通しています。「そんなこと言ってない」とか「いいや、言った」という水掛け論になることや、暗黙の了解があったと思っていたのに、ふたを開けてみると考えていることが全然違ったということを防ぐことができます。

「終止符を打つ」という気持ちの整理

離婚に付随する各項目を洗い出し、協議していくという作業は、気持ちの整理にもつながります。これについては、あまり意識している方はいないかもしれませんが、とても大切な過程だと思っています。離婚を求める方は「とにかく早く離婚したい。」という気持ちになりがちです。

離婚を求められた方も、不本意ながら離婚せざるを得ない現実に目をそむけたくなります。また、金額などでもめてしまうと、夫婦間の紛争性が高まる危険性もあります。しかし、どんなに短い期間であっても、夫婦として過ごしたわけです。

きちんと向き合い、納得のいく形で婚姻生活に終止符を打つことが、次のステップにもつながるのではないでしょうか。

相違点

書類の法的性質にも関係してきますが、公正証書と離婚協議書の作成目的の中で大きく異なるのが、「万が一、支払いが滞った場合の強制執行」を目的にしているかどうかです。

例えば、養育費の取り決めをしたとして、お子さんの年齢によっては、支払い期間が20年近くになる場合もあります。公正証書は、万が一、支払いが滞った場合、給料や預貯金を差し押さえて未払い分を回収することを目的にしています。

一方、離婚協議書は、支払いが滞ったとしても、そのままでは強制執行ができません。作成した離婚協議書を証拠として、家庭裁判所の養育費請求調停を申し立てる必要があります。そして、調停内で合意できたり、審判で認められれば、その調停調書や審判書をもとに強制執行ができるようになります。

記載内容

共通点

構成

離婚協議書も公正証書も「前文+本旨+本旨外要件」という3部構成にするのが基本です。

前文の定型

「夫〇〇〇〇(以下「甲」とする。)と妻〇〇〇〇(以下「乙」とする。)は、本日、協議離婚すること及び、乙においてその届出を速やかに行うことに合意し、その届出にあたり、以下のとおり契約を締結した。」

「甲」、「乙」という記載が出てくると、堅苦しくて難しく感じる方がおられるかもしれませんが、文章全体を短くしたり、何回も同じ名前が出てくるのを避けるために使用しますちなみに、届出をするのが乙(妻)になっているのは、妻が氏を婚姻前に戻す手続を行うことが多いからです。別に夫が届けてはいけないわけではありません。

本旨

まさに大事な中身の部分です。慰謝料や養育費、財産分与といった金銭に関する項目や親権者や面会交流といった子どもに関する項目について取り決めていきます。書き方としては、法律のように「第1条 養育費、第2条 慰謝料」といった具合に項目ごとに条建てしていきます。具体的な離婚条件については、以下のコラムをご参照ください。

離婚公正証書を自分で作成する人が知っておくべき全体像

本旨外要件

契約成立年月日の記載、当事者の署名押印をする箇所です。おまけのような場所ですが、離婚協議書の場合は、有効性を左右する大切な部分ですので、きちんと作成してください。離婚協議書の場合は、後になって「勝手に作成された。身に覚えがない」と言われないように名前と住所は自署にしましょう。

記載しても無効な内容

離婚協議書は私文書、公正証書は公文書という違いはありますが、両者とも契約書である点は共通しています。契約書ですので、契約者双方が合意していれば、どんなことでも取り決められそうですが、実際はそうではありません。

公序良俗に反するものや明らかに不可能なものは無効とされます。例えば、「養育費が支払えなくなったら臓器を売ってでも支払う」とか月収が20万円の人に対して「慰謝料は一億円にする。」といった約束です。

「面会交流を求めないので養育費も請求しない。」という約束も問題があるでしょう。

相違点

強制執行認諾条項

万が一、支払いが滞った際は強制執行されても仕方がないと認める条項のことを強制執行認諾条項と言います。離婚協議書は強制執行ができませんので、この条項を記載することはないのですが、公正証書作成の際には欠かせない条項です。

法律事項とは異なる条件

例えば、離婚をしても、互いの両親が亡くなった際は連絡するとか、二人が一緒に写っている写真は処分するといった条項です。これらの条項は公正証書に書けないというわけではありませんが、法律事項とは異なる「約束」のようなものです。そのため、離婚協議書にはこういったことも含めた約束事を網羅的に記載し、そこから強制執行が必要な条項だけを抜き出して公正証書にするという人もいます。

法的効果

法的効果は異なることばかりですので、相違点をお伝えします。

相違点

執行力の有無

さきほど、作成の目的でも記載しましたが、強制執行認諾条項付きの公正証書は執行力があり、離婚協議書は執行力がありません。

そのため、支払いが滞った場合、公正証書は給与や財産の差し押さえの手続きに進むことができますが、離婚協議書の場合は一旦家裁の調停を挟む必要があります。

保存性

離婚協議書は、なくしてしまうと誰も再発行してくれませんが、公正証書であれば公証役場に20年間保存されますので、閲覧したり謄本を発行してもらうことができます。作成当時は、「そんな大切なもの、紛失するわけがない。」と思っていても、時間の経過とともに思いも薄れていきますし、転居の際に紛失したり、他の書類に紛れてしまったりということが大いにあり得ます。

偽造防止

公正証書は、公証役場で保存されるため、相手に偽造される心配がありません。しかし、離婚協議書は、偽造される危険性があります。例えば、協議書が複数枚にわたるけれども契印を忘れていた場合などは、署名押印のないページを書き換えられても反論証拠がありません。

手間や費用

共通点

双方の合意が必要

離婚協議書も公正証書も、記載内容について合意しなければなりませんので、財産分与や慰謝料、養育費や面会交流といった項目について双方で話合い、合意に到達するという手間がかかります。

この点、公正証書は、公証人が二人の間に入って調整してくれると思っている人がいるのですが、そうではありません。公証役場は、合意済みの内容を公正証書に落とし込む場所ですので、「合意してから来てください」と言われてしまいます。

相違点

作成の費用

離婚協議書は、夫婦2人だけで作成できる点でお手軽です。行政書士や弁護士に作成を依頼しなければお金もかかりません。一方、公正証書は、取り決める内容に応じて、手数料がかかってきます(詳細は公証役場のHPを参照してください。)

目的の価額 手数料
100万円以下 5000円
100万円を超え200万円以下 7000円
200万円を超え500万円以下 11000円
500万円を超え1000万円以下 17000円
1000万円を超え3000万円以下 23000円
3000万円を超え5000万円以下 29000円
5000万円を超え1億円以下 43000円
1億円を超え3億円以下 4万3000円に5000万円までごとに1万3000円を加算
3億円を超え10億円以下 9万5000円に5000万円までごとに1万1000円を加算
10億円を超える場合 24万9000円に5000万円までごとに8000円を加算
作成の手間

離婚協議書は、時間があるときに自宅にて作成が可能です。しかし、公正証書は、平日の日中に二人そろって公証役場に出向いて作成するという手間があります。

また、行ってすぐに作成できるというものではなく、まずは、公正証書の作成を依頼した上で、記載したい内容を伝えたり、公証人が作成した公正証書原案を確認して加筆修正の要否を伝えたり、といった過程が必要になります。

相手を説得する手間

養育費や慰謝料を支払う側としては、やはり離婚協議書の方が抵抗感がなく、公正証書は「万が一、強制執行されたらどうしよう」という気持ちになります。

そのため、離婚協議書なら作成してもいいけれど、公正証書は作成したくないという人もいて、説得するのに苦労することもあります。

ただ、支払う側にとっても、公正証書を作成するメリットがあります。それは、「清算条項」を入れることです。清算条項とは、今後、お互いに離婚に関して何ら債権債務の関係がないことを確認する条項です。

離婚後何年か経ってから、「やっぱり、これでは足りない。」、「やっぱり、これも請求したい。」と五月雨式に金銭を要求されることを防ぐことができます。

公正証書と離婚協議書の使い分け

公正証書の作成が必要なケース

養育費の取り決めがある

子どもが幼い場合、養育費の支払いは長きにわたります。その間、何が起こるか誰にも分かりません。離婚当時は、「きっとこの人は子どものためなら払ってくれる」と思っていても、時間と状況によって変化しえます。

そのため、養育費の取り決めのある人は、必ず公正証書を作成しておきましょう。

慰謝料や財産分与の分割払いがあるケース

通常、慰謝料や財産分与は離婚時に一括で支払うことを多いのですが、場合によって分割払いになることがあります。

例えば、分与対象の中に不動産があり、その代償金を支払うような場合です。不動産の価値の半分を現金で相手に支払う必要がありますが、何千万円という現金を持っている人はそう多くはありません。

また、慰謝料に関しても、決まった金額を一括では支払うことができず、数年に分割して支払うこともあります。

そのような場合、一括支払いに比べて、不履行のリスクが高まりますので、公正証書の作成が必要になります。

不動産の持ち分を分与する場合

例えば、財産分与の中に持ち家があり、不動産の持ち分を譲渡するような場合です。住宅ローンが既になく、登記を変更するだけで足りる場合はいいのですが、住宅ローンの借り換えが伴うケースは要注意です。例えば、夫の持ち分を妻に譲渡する代わり、妻が夫の住宅ローンを完済するために、妻名義で新たに住宅ローンを借りる必要がある場合などです。

こんな場合、銀行から審査のために離婚公正証書を求められます。銀行によっては、離婚協議書では足りず、公正証書の作成を求める銀行もあります。

離婚協議書で足りるケース

継続給付の取り決めがないケース

養育費や財産分与等の分割払いの取り決めがなく、強制執行の必要がない場合、離婚協議書で足ります。

強制執行が期待できない場合

養育費や財産分与の分割払いの記載があったとしても、強制執行が期待できないケースがあります。例えば、相手が自営業者の場合です。また、海外で働いていて、日本の会社ではなく、海外の会社から給与を得ている場合も同様です。このような場合で、不動産や預貯金などの強制執行先もないとなれば、不払いが発生したとしても、差し押さえるものがありません。そのため、執行力がある公正証書を作成しても、宝の持ち腐れになってしまいます。


以上、公正証書と離婚協議書の相違やどのような場合に公正証書の作成が必要になるかという点についてご説明しました。

当センターでは、将来の紛争を未然に防ぐための公正証書作成サポートを行っております。自己作成がご心配な方はぜひご相談ください。
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