離婚と子ども

親権と監護権の分離ー子の利益の観点からー

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昨今、父母の離婚後も共同親権にすべきか否かの議論が活発になっています。

しかし、現状では、子どもの親権者を父母のどちらか一方に定めなければ、離婚することはできません。

そのため、離婚の際、どちらが親権者になるかでもめることがあります。

また、もめた結果、もしくはもめることを避けるため、親権と監護権を分けることもまれにあります。

今回は、未成年の子どもを連れて離婚をする場合、必ず直面する親権について、

「『親権』とはどういった内容なのか」

「『監護権』とは親権とどう違うのか」

「『親権』と『監護権』を分けてもいいのはどんなときか」

といった内容に子どもの福祉の視点を加えてご説明いたします。

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親権に関する法律

まず、親権に関する民法の条文は以下の通りです。

民法第819条 
共同親権者である父母が離婚した場合は父又は母のみが親権者となる

民法第820条 
親権者は、子の利益のために子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負う

民法第766条 
父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者、父又は母と子との面会及びその他の交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない 

では、民法820条で定める「親権者の権利・義務」の具体的な内容はどんなものなのでしょうか。

親権の内容

身上監護権

監護・教育の権利義務

監護とは、身体上の監督、保護をすることです。

子の世話をすることのほか、パスポートの申請、戸籍の手続き、医療同意などがこれに当たります。

一方、教育は、精神発達を図ることです。

教育の自由は、憲法上の権利です。

その内容・方法・程度等は親権者が自由に決めることが出来ます。

一方、義務の側面において、保護者は、子の教育を受ける権利を奪うことはできません。

9年間の義務教育を受けさせる義務を負うことが学校教育法に定められています。

ちなみに、監護と教育は分けることはできません。

監護と教育を総合してはじめて、子どもを心身共に健全な社会人に養育することができるとされているからです。

また、ここで大切なのは、監護・教育はあくまで子の利益のために行わなければならないということです。

監護・教育を怠ったり、権限を不当に行使して子の利益を害すれば、親権の濫用として親権の停止や喪失の原因となります。

居所指定権

子どもは、親権者が指定した場所に居所を定めなければなりません。

これは親の権利ですが、子の福祉に反する居所指定は権利濫用になります。

懲戒権

親権者は、監護及び教育に必要な範囲内で、その子を懲戒することができます。

懲戒とは、子の非行や過誤についての教育のために、その身体または精神に苦痛を与える懲罰手段です。

児童虐待が増加の一途をたどっている昨今、削除すべきという声がありますが、今のところ削除されていません。

ただ、監護及び教育に必要な範囲を超えて制裁を加えた場合、親権喪失や停止の原因になり、犯罪と認定され刑罰が与えられることもあります。

職業の許可権

子は親権者の許可を得なければ職業を営むことができません。

財産管理権

親権者は、子の財産を管理し、その財産に関する法律行為についてその子を代理します。

親権者が子どものためにする財産管理は、自己のためにするのと同一の注意義務をもって行わなければならないとされています。

身分法上の行為の同意権・代理権・取り消し権等 

身分行為は、本人の意思によるべきで、代理は制限されています。

しかし、子が幼い場合、身分行為についての判断能力を持っていません。

そのため、次の身分行為は法定代理人である親権者の代理を認めています。

  1. 嫡出否認の訴えの被告になること
  2. 認知の訴えの提起
  3. 15歳未満の子がする子の氏の変更許可の申立て
  4. 15歳未満の子がする縁組の代諾
  5. 未成年が養親の場合の縁組の取消し
  6. 15歳未満の子がする協議離縁(ただし親権者になるべき者として)
  7. 15歳未満の子がする離縁の訴えの提起
  8. 相続の承認または放棄

なお、民法第737条では、未成年の婚姻に「父母」の同意を得なければならない(一方の同意で足りる)と規定されていますが、この同意権は親権に含まれるとする説と、条文上は「父母」なので親権とは無関係だとする説で対立しています。

また、上述の4について、親権者が養子縁組の代諾をする場合は監護者の同意を得ることが必要です。

責任無能力者の監督義務者の責任

未成年者は、他人に損害を与えたとしても、自己の行為の責任能力を備えていない場合、賠償責任を負いません。

責任能力を備えているか否かは、加害者行為ごとに個別に決められますが、おおむね、小学校を卒業する12歳~13歳程度の知能が備わっている場合、責任能力があると見なされます。

このような場合、責任能力のない子どもに代わって賠償責任を負うのが親権者です。

親権者は、子どもを監督する法定義務を負っているからです。

なお、監督義務を怠っていなかった場合と監督義務を怠らなくても損害が生ずるであろうときは責任を負いません。

監護権の内容

子の監護は、親権の一部分であり、親権者が子を監護することが原則です。

しかし、例外的に親権者と監護者が異なることを認めています。

子の監護者は「監護について必要な事項」として父母の協議で定めることができます。

では、どんな場合に例外的に親権者と監護者を分けることが考えられるのか、その例を以下に挙げてみます。

親権と監護権を分ける例

  1. 親権者が常に監護者として適正であるとは限らない
  2. 子の身上監護者としては適任であるが、財産管理その他親権全体を行うには不適任なので財産管理その他親権全般を行う者として親権者を定める
  3. 父母双方に子に対する愛情を満足させるために分属させる必要がある
  4. 父母いずれかが子を監護することが出来ないなどの事情がある場合に第三者を監護者と定める必要がある
  5. 離婚後も父母の共同監護を実現するために監護者制度を活用できる
  6. 現実に子を監護するものを直ちに親権者に指定することに不安があり監護の実績を見る必要がある
  7. 子の親権者に指定した者のもとで直ちに生活できない事情がある場合に他方の親を監護者と指定する必要がある
  8. 父母の離婚前の別居状態に対処するために監護者指定が必要になる

親権と監護権の境界線

では、親権と監護権を分けた場合、権限の境界線はどこなのでしょうか。
以下で詳しくみていきたいと思います。

監護者の権限

監護者は、親権の主たる内容である監護及び教育、子の居所指定権、懲戒権、職業許可権を中心とする身上監護権を持ちます。

子の引き渡し請求権も含まれます。

親権者の権限

親権者は、子の財産につき管理及び代理する権限ないし養子縁組等の身分上の重大な法的効果を伴う身分行為について代理する権限を持ちます。

子の氏の変更申立の代理は、親権者の権限であり、監護権者には権限がないとされています。

親権者決定のポイント

ここまで、親権と監護権についての基礎知識をお話しました。

ここからは、子どもの利益を優先して親権者を決めるためのポイントをお話します。

安易に親権者と監護権者を分けない

離婚に際し、父母双方が親権者になることを強く希望する場合、妥協案として、親権者と監護者を分けることが提案されることがあります。

しかし、安易に分けることは避けるべきです。

離婚紛争で対立関係にあった父母は、多くの場合、相手に対立感情を持っています。

そのため、冷静に子の利益を考え、協力し合う関係を構築することが難しいのです。

そうなると、離婚後の子の監護に支障を来す恐れがあります。その例を以下に少し書いておきます。

再婚相手との養子縁組

監護者が再婚し、その再婚相手と子どもが養子縁組をする場合、親権者の代諾が必要です。

しかし、親権者がそれをよしとしない場合、困った状況になります。

子どもにしてみれば、養子縁組ができない限り、監護権者やその新しい配偶者と同じ戸籍に入ることができません。

ということは、氏が違ってしまうのです。

いくら生活をともにしていたとしても、親と名字が違うというのは、実生活上はもちろん、子どもの心情面にも悪影響を及ぼします。

もちろん、親権者が養子縁組を認めないことによって、子どもの福祉が害されている状況があれば、それを理由に親権者変更を申し立てることは可能です。

しかし、やっと離婚が成立し、新しい家族と次のステップを踏み出そうというときに、

子どもが再度紛争に巻き込まれる事態になってしまうのです。

医療行為

まれに、父母で子どもの医療・治療方針に関する意見が対立することがあります。

通常、緊急を要する事態において、医療行為に関する親権者と監護者の意見が合わないということはあまり想定されません。

しかし、父母の葛藤が高く、子の福祉が歪められているような状況があるとすれば、子どもにとって、取り返しのつかない悪影響を及ぼす危険性があります。

親権と監護権を分けてもいい場合

父母が協力体制をとることが可能であれば、親権者と監護者を分けることも可能です。

親権と監護権を分けるということは、親権者が単独である場合より、双方で関わらなければならない場面が多くなることが想定されます。

その際、お互いに自分の権利を主張するのではなく、子どもにとっての幸せは何なのかに視点を置き、冷静に話し合い、決定していく理性が必要です。

子どもの意思を代理できるのは??

子どもの意思に沿った代理を果たせるのがどちらの親なのか考えることも大切です。

生活の中で、どうすることが子の利益なのかを考える際、重要なのは子どもの意思を汲み取ることです。

一般的に、子どもと生活を共にしている親の方が子どもの意思に沿った代理権の行使が期待できます。

そのため、同居親と親権者が一致している方が子どもの利益にかなうとされています。

一方で、別居親だったとしても、面会交流を通じて子どもの状況や意思をよく把握し、また、同居親と問題なく意思疎通が取れている別居親であれば、子の意思に沿った代理権の行使は可能だということになります。

そのため、親権者と監護者を分けるかどうかについては、関係性が良好か否かがポイントなのです。

親権者になる親の心構

離婚後も親権者であろうとする親にもっておいていただきたい心構えは、

「親権者にならなかった親を子の親としていつまでも大切にする」

ということです。

親権者にならなかったとしても、子どもの親であることには変わりありません。

親権者になった親は、特別な場合を除き、親権者にならなかった親を子どもから切り離さないでほしいのです。

そして、自分が親権者だからといって、子どものことを自分一人で決めてしまわないでください。

むしろ、子どもにとって大切な事ほど、親権者でない親に相談して決める、そんな良好な関係を築くことを心掛けてほしいと思います。

そういった心構えが親権者とならない親に伝われば、親権決定の場面でもめることも少なくなるのではないでしょうか。

非親権者の心構

親権者にならない親も、是非、離婚後も誠実に子どもに対しての親責任を果たしてほしいと思います。

子どものことはもう自分には関係ないと投げやりにならず、いつまでも子どもの親であることを自覚し、子どもや親権者になった親が子の養育において助けが必要になったとき、心よく手を差し伸べてあげてほしいのです。

また、当然のことですが、別居親は養育費を払っていくことも親としての責任です。

さいごに

戸籍上に「親権者」と自分の名が刻まれることよりも、

「子どもとの信頼関係がどれだけ築かれているか」

「自分はどれほど子どもを愛しているか」

に視点を変えれば、夫婦間の争いが少なくなるのではないかと思います。

また、子どもへの愛情の表し方も様々です。

「子どものため」と枕詞をつけて自分の考えを正当化するのではなく、時には、「待つ」ことも愛情です。

親権者でなくても、子どものことを大切に思っている親の気持ちはいずれ子どもに伝わるはずです。

親の離婚問題の渦中の子どもの気持ちは、

「両親に争はないでほしい」
「両親から愛されたい」

です。

この子どもの気持ちに常に立ち返り、離婚の話合いを行うことが「子どもの利益優先の離婚」なのではないでしょうか。

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