離婚後、子どもの生活費として受給できるのが児童扶養手当です。以下では、制度の成り立ちや受給条件等について詳細にお伝えしたいと思います。
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児童扶養手当の制度について
制度の目的
離婚・死亡・未婚・遺棄などの理由で、父親又は母親と生計を同じくしていないひとり親世帯等の生活の安定と自立を促進するために設けられた手当です。
制度の歴史
1961年 創設
年金制度の経過措置として死別母子家庭には母子福祉年金が支給開始となり、生別母子家庭との公平を保つために創設されました。児童扶養手当額は全額支給か支給無の2段階です。手当支給終期は子どもが満18歳に到達までとされました。
1985年 児童手当同様の社会手当に
事前に保険料などの支払いが必要なく、要件に当てはまれば現金が支給される手当となりました。一方、母子福祉年金は、年金保険料を支払った人しか受給できない遺族年金に移行しました。児童扶養手当額は、全額支給・ほぼ半額支給・支給無の3段階になりました。
1994年 手当支給終期が18歳に到達した最初の3月までに
児童の多くが高校に進学をしている実態から、年度途中で差を設けることは不公平になるという議論が起こった結果、支給終期が18歳に到達した後の最初の3月までとなりました。
1998年 未婚の母の子も父親の認知の有無にかかわらず、支給に
これまで、未婚の母の子どもは、父親に認知されると対象にならなかったのですが、認知されたとしても父の養育を欠いている事実に変わりがないため、支給対象となりました。
2002年 所得額に養育費の8割を加えることに
所得額の算定の際、養育費の8割を加えることになりました。また、児童扶養手当は、ひとり親家庭への「経済支援」から「就業自立に向けた総合的支援の一環」に位置づけが変更され、それに伴って、児童扶養手当は離婚等による生活の激変を一時的に緩和する給付金となりました。
そして、受給5年後から最大半額を減額にするかどうか議論がされた結果、減額対象を「障害や疾病などで就業が困難な事情がないにもかかわらず、就労意欲がみられない者に限る」としました。そのため、受給開始から5年を経過する1か月前までに「一部支給停止適応除外事由届出書」を提出しなければならず、その後、毎年提出を求められます。この手続きを怠ると、減額となります。
2010年 父子家庭も支給対象になる
父子家庭であっても経済的に困窮している家庭はあるにもかかわらず、これまで「男なんだから働け」と対象とされていませんでしたが、2010年にようやく対象となりました。
2012年 保護命令の場合も対象に
児童扶養手当の支給要件に、配偶者からの暴力(DV)で「裁判所からの保護命令」が出された場合が加わりました。
2014年 公的年金と児童扶養手当の併給が可能に
公的年金を受給中で、年金額が児童扶養手当より低い場合、差額が支給されることになりました。
2015年 第2子目以降の加算が増額に
これまで、第2子目5千円・第3子目3千円が増額となり、第2子目最大1万円・第3子目最大6千円に変更されました。手当月額は全国消費者物価指数の変動に伴い改定されます。
2019年 支給回数が年3回から6回に変更
年3回だった支給回数が、1月・3月・5月・7月・9月・11月の年6回の支給に変更となりました。前月2ヶ月分が支給されます。
支給対象
児童扶養手当の支給対象は以下のとおりです。
・父母が婚姻を解消(事実婚の解消含む)した後、父又は母と生計を同じくしていない児童
・父又は母が死亡した児童
・父又は母が政令で定める障害の状態にある児童(父障害の場合、受給資格者は母又は養育者、母障害の場合、受給資格者は父又は養育者)
・父又は母の生死が不明である児童
・父又は母が母又は父の申し立てにより保護命令を受けた児童
・父又は母から引き続き1年以上遺棄されている児童
・父又は母が法令により引き続き1年以上拘禁されている児童
・婚姻によらないで生まれた児童
・父母が不明な場合(棄児等)
受給資格者
該当する18歳に達する日以降の最初の3月31日までにある児童(一定以上の障害の状態にある場合は20歳未満)を監護している母又は監護しかつ生計を同じくする父、もしくは父母に代わってその児童を養育している方に支給されます。
次に該当する場合は受けられません。
- 児童が児童福祉施設などに入所したり、里親に預けられたとき
- 父又は母が婚姻届を提出していなくても、事実上の婚姻関係(内縁関係など)があるとき
- 父母または養育者の住所が国内にないとき
- 子の住所が国内にないとき
- 「支給要件に該当するに至った日」が平成15年4月1日時点ですでに5年を経過しているとき(受給者が母の場合)
手当受給について
手当月額
令和2年4月から児童扶養手当額が変わります。全国消費者物価指数の変動により、4月分からの児童扶養手当額が改定され、0,5%引き上げられます。
対象児童 |
支給区分 |
令和2年4月分から |
1人目 |
全部支給 |
43,160円 |
一部支給 |
43,150~10,180円 |
|
2人目加算額 |
全部支給 |
10,190円 |
一部支給 |
10,180~5,100円 |
|
3人目以降加算額 |
全部支給 |
6,110円 |
一部支給 |
6,100~3,060円 |
手当額の決定
受給資格者の所得額や子どもの人数に応じて、全部支給、一部支給、支給停止のいずれかに決定されます。手当額は児童扶養手当を申請すると区市町村で認定されますが、計算方法にご興味のある方は実際の計算をご覧ください。
支給の手続き
住所地の区市町村担当課で手続きを行います。受給資格者本人が出向く必要があり、郵送による手続きはできません。申請時に持参するものは以下のとおりです(念のため申請前に担当課に確認お願いします)。
・印鑑
・申請者及び児童の戸籍謄本
・受給資格が「障害」の方は「児童扶養手当障害認定診断書」
・公的年金受給の方は年金証書・年金決定通知書・支払額変更通知書
・マイナンバー確認書類
・本人確認書類
・手当を振り込む銀行口座が確認できるもの(受給資格者名義)
児童扶養手当受給者への優遇制度
児童扶養手当を受給している方は手当の支給だけでなく、優遇を受けられる制度があります。以下をご参考ください。
・都営交通無料乗車件の発行
・JR通勤定期券の割引
・都営水道料金免除
実際の計算
実際の児童扶養手当額の計算は以下の通りです。
令和2年4月以降の一部支給の手当額計算式
第一子手当額=
43,160-((受給者の所得額-[全部支給の所得制限額])×0.0230559[10円未満四捨五入]+10)
第二子手当額=
10,190-((受給者の所得額-[全部支給の所得制限額])×0.0035524[10円未満四捨五入]+10)
第三子手当額=
6,110-((受給者の所得額-[全部支給の所得制限額])×0.0021259[10円未満四捨五入]+10)
一部支給の計算式に用いる所得制限係数
- 本体額:0230559
- 第2子加算額:0035524
- 第3子以降加算額:0021259
所得制限係数である「0.0230559」「0.0035524」「0.0021259」は物価変動等の要因により、改正される場合があります。手当額も物価変動により改正されます。
受給者の所得額とは
就労等による所得の額から諸控除を引いたものです。受給者が父又は母の場合、養育費の8割相当額を加算する必要があります。
受給者の所得額=
年間収入金額
-必要経費又は給与所得控除額(※1)
+養育費の8割(※2、受給者が父または母の場合のみ)
-8万円(社会保険料相当額)
-諸控除額(※3)
※1源泉徴収票の「給与所得控除後の金額」または、「確定申告書の所得金額―合計」の欄の額をそのまま入れる
※2原則自己申告制(必要に応じで証明の提出を求められる)
※3控除額一覧
控除項目 |
控除金額 |
一律控除(社会保険料相当額) |
8万円 |
雑損・医療費・小規模企業共済等掛金・配偶者特別控除 |
控除相当額 |
障害者・勤労学生 |
27万円 |
寡婦(夫)控除 (申請者が父又は母の場合を除く) |
27万円 |
特別障害者控除 |
40万円 |
特別寡婦控除(申請者が母の場合を除く) |
35万円 |
これ以外に扶養義務者等への寡婦(夫)控除見なし適用があります(詳しくは区市町村担当課にお問い合わせください)。
所得制限額一覧
扶養親族等の数 |
本人(全部支給の所得制限) |
本人(一部支給の所得制限) |
孤児等の養育者・配偶者・扶養義務者 |
0人 |
490,000 |
1,920,000 |
2,360,000 |
1人 |
870,000 |
2,300,000 |
2,740,000 |
2人 |
1,250,000 |
2,680,000 |
3,120,000 |
3人 |
1,630,000 |
3,060,000 |
3,500,000 |
4人 |
2,010,000 |
3,440,000 |
3,880,000 |
5人 |
2,390,000 |
3,820,000 |
4,260,000 |
扶養親族等が6人以上の場合、1人につき38万円を上記表の金額に加算した金額となります。
事例
では、事例に基づいて計算してみます。1~3の順番に確認します
1.所得を計算する
2.所得制限限度額表で全部支給か一部支給か確認する
3.月の支給額を計算する
【ケース1】
給与所得控除後の金額108万円
養育費年間0円
扶養人数1人
子ども1人
諸控除額なし
まず、所得を計算します。
108万円+0円−8万円−0円=100万円
受給者の所得 100万円
その次に、所得制限限度額で全部支給か一部支給かを確認します。
扶養親族1人、87万円以上、230万以下にあてはまる
一部支給
そして、月の支給額を計算します。
43、160円−{(100万円−87万円)×0.0230559[10円未満四捨五入]+10円}=40,150円
手当月額 40,150円
【ケース2】
給与所得控除後の金額108万円
養育費年間0円
扶養人数3人
子ども3人
諸控除額なし
ます、所得を計算します。
ケース1と同じ100万円
受給者の所得 100万円
次に所得制限限度額表で全部支給か一部支給かを確認します。
163万円以下で
全部支給
そして、月の支給額の計算です。
43,160円+10、190円+6,110円=59,460円
手当月額 59,460円
【ケース3】
給与所得控除後の金額200万円
養育費年間100万円
扶養人数3人
子ども3人
諸控除額なし
ます、所得の計算です。
200万円+(100万円×0,8)−8万円−0円=272万円
受給者所得 272万円
次に、所得制限限度額表で全部支給か一部支給かを確認します。
扶養人数3人、306万円以下にあてはまる
一部支給
そして、月の支給額を計算する
第一子手当額=
43,160円–{(282万円-163万円)×0.0230559[10円未満四捨五入]+10円}
=15,750円第二子手当額=
10,190円-{(282万円-163万円)×0.0035524[10円未満四捨五入]+10円}
=5,980円第三子手当額=
6,110円-{(282万円-163万円)×0.0021259[10円未満四捨五入]+10円}
=3,600円15,750円+5,980円+3,600円=25,330円
手当月額 25,330円
子どもに対する親の責任を大切に
児童扶養手当の歴史を見ると、日本の家族観の移り変わりが反映されているのがわかります。時代とともに家族の在り方が変わることは自然なことですが、それに流されてうやむやにしてはいけないのは、子どもに対する親の責任です。
某役所に養育費8割の証明は何を提出するのか問い合わせたことがあります。「自己申告です。」という回答でした。申請者を信頼するこれは悪いことではありませんが、証明を出す必要がなければ、申請者がごまかすこともできてしまいます。
また、養育費の支払いを「手当をもらえばいいじゃないか」と軽んじてしまうことにも繋がり兼ねません。諸外国では、手当支給後、養育費の支払い義務者から、相当額を徴収する仕組みがあります。
手当は子どもを貧困から守る大切な制度ですが、まずは、親としての責任を認識し、お金や愛情をかけて子どもを育てる義務を果たしていただければと思います。離婚によって、一人親で子どもを育てなければならない方も、子どもと一緒に暮らせない方も、それぞれに辛さがあると思います。ただ、親としての義務をきちんと果たしていく過程の中で、親としての喜びを感じられるのもまた事実です。社会の力も借りながら、頑張っていきましょう!
当センターでは、養育費や面会交流、そしてお子さんのメンタルケア等、離婚時に知っておいた方がいいことについて、無料オンラインセミナーを実施しております。
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