離婚と子ども

親の離婚に対する子どもの気持ちを聞く難しさ

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 子どもがいる夫婦の離婚の場合、そうでない夫婦の離婚に比べて、考えることが多かったり、心配なことが多かったりします。

例えば、親の離婚が子どもに及ぼす影響を心配する親御さんもおられると思います。また、親の離婚を子どもにどんな風に説明すればいいのか、といった悩みを持つ親御さんもいます。そんな悩みの中でも、今日は「親の離婚に対する意見を子どもに聞く難しさ」について書いてみたいと思います。

子どもに意見を聞いていいのか

そもそも、親の離婚に関して子どもに意見を聞いていいのか、また、聞く必要があるのか、という疑問があります。

子どもは「蚊帳の外」の文化

昔ながらの日本の考え方だと先の疑問に対する答えは「ノー」なのだと思います。離婚はあくまで親の問題であり、子どもに相談すべきでないという考え方です。相談することによって子どもを悩ませたり、傷つけたりしたくないという親心でもあります。

そのため、大抵は、離婚や別居が決まってから、「既に決まった事実」として、「パパとママは一緒に住めなくなったから、明日、パパはお引越しするからね。」と告げられることになるのです。

もっとひどい場合などは、「何泊かおばあちゃんちにお泊りにいく」という説明しかせず、なし崩し的に子どもを連れて家をでる人もいます。そして、子どもが疑問に思い始めた頃合いを見て、「もう薄々気付いていると思うけど」という体で別居を説明したりします。

しかし、親の別居や離婚というのは、子どもにとっても一大事なのです。子どもは、本能的にその事の重大さを感じ取ります。また、実際に生活においても、転居や転校が伴う場合は、大きな環境の変化が待っています。

そのため、突然結果のみを告げるのではなく、子どもにも適切に説明をした上で、子どもの意見も聞きつつ、その意見を取り入れつつ、離婚協議を進めるというのは、子どもにとっても意味があると思います。

諸外国では当たり前の「子どもの意思表明権」 

諸外国では、子どもには「意思表明権」があるとされており、子どもだって当たり前のように親の離婚に関して意見を言います。また、子どもの代理人制度も日本より断然進んでいて、知識と経験が豊富な弁護士が子どもの代理人となって、子どもの気持ちを代返してくれます。

また、きちんと意見を言うには、正しい情報を与えられている必要があるということで、子どもに親の離婚を多方面から説明する工夫もされています。例えば、行政が子ども向けのパンフレットを作成しており、法的なことも含めて、子どもに分かりやすく説明していたります。

親が説明するしかない日本の現状とは大きく異なっています。

子どもから話を聞く時の注意点

では、子どもからも意見を聞いた方がいいとして、どのように聞けばいいのでしょうか。大人とは違う、子どもならではの難しさがありますので、次にご紹介したいと思います。

被暗示性の強さ

家庭裁判所では、親の離婚や面会交流に関して、家裁調査官が子どもの気持ちを聞くことがあります。その際、子どもから語られた内容が別居親の納得する内容ではなかった場合、よく言われる批判があります。

それは、「同居親が言わせている。」という批判です。つまり、同居親の言動が、子どもの意見に影響を及ぼしているという主張です。確かに、一般的・常識的に考えても、幼い子どもが一緒に住んでいる親の影響を受けやすいということは十分に理解可能です。

影響の受けやすさというのは、少し難しい言葉でいうと「被暗示性の高さ」ということになるのですが、ここで、子どもの被暗示性の高さを思わせる実験を一つご紹介します。

事件の被害者や唯一の目撃者になった子どもから話を聞く技法として「司法面接」という聞き方があります。この技法は、いかに子どもに先入観や被暗示性なく、本当のことをたくさん語ってもらえるかを追求した技法です。そして、司法面接の第一人者である仲真紀子教授(北海道大学)が行った実験を一つご紹介します。

幼稚園児と担任の先生が向かい合い、話をします。先生が、「〇〇くん、この前行ったお芋ほり、楽しかったよね。」というと、幼稚園児は、お芋ほりで楽しかったことや思い出に残っていることをいろいろ話してくれます。そして、次に、先生が、実際は行っていない行事について、さも行ったかのように聞きます。「〇〇くん、そういえば、ブドウ狩りも楽しかったよね。」もちろん、実際には行っていない行事ですので、幼稚園児は一瞬戸惑った顔を見せます。しかし、先生がいろいろと話題を膨らませるうちに、「うん。楽しかったね。」、「ぼく、いっぱいぶどう食べたよ。」、「こうやって、手でたくさん取ったんだ。」と身振り手振りで話し始めました。

この実験から分かるように、行ってもいない行事についてあたかも言ったかのように答えてしまうほど、子どもというのは、被暗示性が強いのです。大好きな先生に聞かれたことをちゃんと答えたいという思いから、一生懸命話します。そして、話しているうちに、それが本当にあったことのように感じたりもして、「嘘を言っている」という感覚さえないのだと思います。

私も、実際にこの実験の映像を見せてもらったことがあるのですが、とても衝撃を受けました。子どもというのは、大好きな人に喜んでもらいたい、「知らない」と言ってがっかりさせたくない、という優しくて健気な存在だと感じたのを覚えています。

子どもは親の顔色を見ている

また、同居親が積極的に影響を及ぼそうと思っていなくても、どうしても影響を及ぼしてしまうという現状もあります。なぜなら、子どもは親の顔色を見る天才だからです。

ここでも、子どもがいかに親の顔色をうかがっているかという実験をご紹介したいと思います。

子どもの発達を勉強したことのある人にとっては馴染みのある実験だと思うのですが、ソース(Sorce et al,1981)という人が視覚的断崖という実験装置を使った実験があります。


この実験では、ガラス張りの向こう側に親に立ってもらいます。赤ちゃんは、ガラスの床の前でハイハイをとめ、このまま進んでいいものか、それとも危険だから止まった方がいいのか、判断ができません。そのため、前にいる親の顔を見ます。そして、親がニコニコしていれば、行ってもいいと判断し、前に進みます。逆に、怖い顔や悲しい顔など、負のイメージの表情をすると、子どもは前には進みません。

この実験から分かるのは、ハイハイの時期の子どもであっても、親の表情をみごとに読み取り、そこから読み取った指示通りに行動しているということです。

子どもは、親の気持ちを読み取る天才です。そのため、子どもに先入観を与えずに何かを聞くというのはとても大変なのだと思います。

「よくない聞き方」の具体例

決めつけた聞き方

ついついやってしまうのが、自分が思っている想定に沿った聞き方です。例えば、あなたが母親で、子どもは自分と住みたいと思っているに違いないと考えているとします。

そんなとき、「〇〇ちゃんは、ママと住みたいよね。」と確認的な聞き方をしてしまうのです。

このような質問されると、子どもは、「あ、ママは、『うん』って言ってほしがってる」と瞬時に察知します。この質問にノーの意思表示ができる子どもはそう多くはないでしょう。

余分な情報を入れた聞き方

例えば、「お父さんは、〇〇と一緒に住みたいと思っているんだけれど、〇〇はどう思う?」とか、「ママは〇〇ちゃんはママと住んだ方が幸せになれると思うんだけど、〇〇ちゃんはどう思う?」と言った聞き方です。

この聞き方は、始めに自分の意見を言ってしまっているので、被暗示性どころから、親の気持ちを明示していることになります。この聞き方も、先の聞き方と同様、ノーの意思表示をするのは大変勇気がいるでしょう。

詳しすぎる質問

夫婦不和に至った経過を長々と説明した上で、子どもに「で、〇〇ちゃんは、お母さんとお父さんが離婚することについてどう思う?」と聞いた場合はどうでしょうか。おそらく、その長い説明の中には、聞いた親の一方的な批判や相手に対する負の感情が入っていることと思います。また、そんな細かいことまで説明されてしまうと、今更「やっぱり家族みんなで暮らしたい」とは言えなくなってしまいます。

まとめ

今日は、子どもに親の離婚に対する意見を聞く際の注意点について、子どもの「被暗示性」や大人の表情をよく見ているといった点に注目して書いてみました。

子どもは、大好きな親の顔色を必ず見ます。そして、その親が喜んでくれるような言動を取ります。これは、子どもの本能であり、心穏やかに生きる術なのではないでしょうか。

別居親の方にお伝えしたいのは、同居親が明らかに別居親批判をしているのでない限り、「同居親が言わせている」という批判をしても、どうしようもないということです。どうしたって子どもは同居親の意向に沿う言動をしますので、そこを批判し続けても、問題の解決には至りません。

また、同居親の方にもお願いがあります。子どもは、あなたが思っている何倍も、あなたのことが大好きで、あなたの気持ちを読み取っています。きっと、隠そうと思ったって、ばれてしまうくらいです。

そのため、別居親のことがどんなに憎くて、どんなに嫌いでも、それを必死に隠してあげてください。そうでなければ、子どものほんとうの気持ちを聞き出すことはできません。

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