夫(妻)はアルコール依存症かもしれないと疑ったときの相談先

このコラムではこのコラムではアルコール依存症と離婚に関連して、以下の3点についてお伝えします。

  • アルコール依存症の診断基準とよくあるエピソード
  • アルコール依存症の一般的な治療
  • アルコール依存症の相談先

 

アルコール依存症の診断基準

日本では、治療の必要なアルコール依存症の人は80万人いると推測されていますが、自分がアルコール依存症であることを認め、治療につながる人は2万人程度しかいません(厚労省)。

つまり、ほとんどのアルコール依存症の方は、まさか自分がアルコール依存症だとは思わず、肝臓をはじめとする内臓疾患で亡くなったり、事故死や自死しているという生々しい現実があるのです(アルコール依存症の方の平均寿命は50~54歳だと言われています。)。

そんなにたくさんの人が罹患している可能性があるアルコール依存症ですが、いったいどのようなお酒の飲み方をしている人が当てはまるのでしょうか。

医学的な診断基準

WHO(世界保健機関)が定めているアルコール依存症の診断基準は、下表の6項目です。過去1年の間に、6項目のうち3項目以上が同時に1ヶ月以上続いた、または繰り返し出現した場合には、アルコール依存症と診断されます。

①渇望 飲酒したいという強い欲望あるいは切迫感がある。
②飲酒行動のコントロール 飲酒行動(飲酒の開始・終了、飲酒量の調節)に関して、自分の意志で制御することが困難である。
③離脱症状 断酒あるいは減酒したときに、離脱症状(手が震える、汗をかく、眠れない、不安になる等)がある。
④耐性の増大 お酒を飲み続けるうちに、次第にお酒に強くなった、あるいは高揚感を得るのに必要な飲酒量が増えた。
⑤飲酒中心の生活 飲酒のために本来の生活(仕事、家族との交流、友人との付き合い、趣味等)を犠牲にする。
アルコールの影響からの回復に要する時間(=酔いからさめる時間)が長くなった。
⑥有害な使用に対する抑制の喪失 心身に明らかに有害な結果が起きているにもかかわらず、飲酒を続ける。

新久里浜式アルコール症スクリーニングテスト

新久里浜式スクリーニングテスト(新KAST)といって、本人やその関係者が簡単にインターネットなどで情報を得て実施できるものもあります(久里浜医療センターという国立のアルコール依存症病院が作ったので「久里浜」の名前がついています)。

この新KASTは、診断の補助的な役割を果たしています。そのため、新KASTでアルコール依存症が疑われたら、医療機関を受診する(受信させる)というような方法で利用できます。

男性版と女性版があり、8~10の項目で簡単に実施することができます。以下、久里浜医療センターのHPからの抜粋です。

最近6ヶ月の間に次のようなことがありましたか?

男性版

  1. 食事は1曰3回、ほぼ規則的にとっている
    はい  いいえ
  2. 糖尿病、肝臓病、または心臓病と診断され、その治療を受けたことがある
    はい  いいえ
  3. 酒を飲まないと寝付けないことが多い
    はい  いいえ
  4. 二曰酔いで仕事を休んだり、大事な約束を守らなかったりしたことが時々ある
    はい  いいえ
  5. 酒をやめる必要性を感じたことがある
    はい  いい
  6. 酒を飲まなければいい人だとよく言われる
    はい  いいえ
  7. 家族に隠すようにして酒を飲むことがある
    はい  いいえ
  8. 酒がきれたときに、汗が出たり、手が震えたり、いらいらや不眠など苦しいことがある
    はい  いいえ
  9. 朝酒や昼酒の経験が何度かある
    はい  いいえ
  10. 飲まないほうがよい生活を送れそうだと思う
    はい  いいえ

合計点が 4 点以上: アルコール依存症の疑い群
合計点が 1 ~ 3 点: 要注意群(質問項目 1 番による 1 点のみの場合は正常群。)
合計点が 0 点: 正常群

 

女性版

  1. 酒を飲まないと寝付けないことが多い
    はい  いいえ
  2. 医師からアルコールを控えるようにと言われたことがある
    はい  いいえ
  3. せめて今日だけは酒を飲むまいと思っていても、つい飲んでしまうことが多い
    はい  いいえ
  4. 酒の量を減らそうとしたり、酒を止めようと試みたことがある
    はい  いいえ
  5. 飲酒しながら、仕事、家事、育児をすることがある
    はい  いいえ
  6. 私のしていた仕事をまわりの人がするようになった
    はい  いいえ
  7. 酒を飲まなければいい人だとよく言われる
    はい  いいえ
  8. 自分の飲酒についてうしろめたさを感じたことがある
    はい  いいえ

合計点が 3 点以上: アルコール依存症の疑い群
合計点が 1 ~ 2 点: 要注意群(質問項目 6 番による 1 点のみの場合は正常群。)
合計点が 0 点: 正常群

どうでしょうか。割と簡単に「アルコール依存症の疑い郡」に入ってしまうと思いませんか?

 

エピソードでみるアルコール依存症

次に、上述のような診断基準が生活の中でどのようなエピソードとして表れてくるのか、実際の相談の現場で聞かれる「アルコール依存症あるある」をお伝えします。

自制できない

アルコール依存症は、端的に言うと、「お酒の飲み方がコントロールできない状態」だということができます。

飲みすぎる夫(妻)に、1週間に1日かは休肝日にしてほしいとか、飲んでもいいけど1杯だけにしてほしいとお願いしたとします。すると、夫(妻)本人もそうしたい気持ちがあり、「わかった」というものの、結果的に毎日飲んでしまったり、1杯だけと思っていても泥酔するまで飲んでしまったりします。

アルコールの買いだめ

アルコール依存症の方は、アルコールがきれることに潜在的な不安が強かったりします。そのため、夫(妻)は買い物にいくためにストックのお酒を買います。また、旅行や出張先でも深夜でも買いに行ける店を調べていたりします。

朝からの飲酒

仕事がない日は、朝から飲酒が始まり、一日中飲んでしまう人がいます。こうした人たちも立派なアルコール依存症予備軍です。

飲み会に関するあるある

また、宴会時の行動として、次のようなことをやりがちな方も要注意です。

  • 宴会に行く前に「0次会」と称してあらかじめ飲んでから行く
  • 「最初の一杯」ではすぐ飲んでしまうため、「最初の2,3杯」を一度に注文しておく
  • 飲み会の最初から最後までずっと飲んでいる
離脱症状を抑えるために飲む

アルコール依存症の人は、体内のアルコール成分がなくなってくると、手の震えや発汗、不眠や焦燥感など、いろいろな離脱症状が出てきます。その離脱症状を抑えるためにお酒を飲んでしまうと、立派なアルコール依存症だということができます。

アルコール依存症による身体症状

会社の健康診断でγ-GTP(ガンマーGTP)の数値が高いと指導を受けた人も少なくないと思いますが、自覚症状がなくても、アルコールが体を蝕んでいます。

また、もっと分かりやすく、身体的な症状が伴うことも多く、肝機能障害、糖尿病、脳の萎縮などの症状があります。

「アルコールで脳の萎縮?」と思うかもしれませんが、認知症患者と同じような収縮、症状が見られま す。

また、アルコールが抜けたときの離脱症状としては、不眠、寝汗、手の震え、むくみ、不安感や焦燥感、などがあります。

アルコール依存症と言えば、お酒が抜けると手が震える、という場面を思い出す人も多いと思いますが、それ以外にもたくさんの離脱症状があるのです。

また、摂食障害やうつ病といった精神的な病を併発している人もたくさんいます。

さて、あなたの夫(妻)はアルコール依存症の疑いが強いでしょうか。

このコラムを読んでくださっている方は、「うちの夫(妻)はアルコール依存症かもしれない」という疑問を抱えておられると思います。その疑問は、単なる疑問ではなく、背景にはあなたの「お困り」があるのだと推察します。

例えば、お酒を飲んで暴れる、暴言をはくといったことかもしれません。もしくは、酒代が家計を圧迫しているのかもしれません。はたまた、お酒を飲んでけんかをする、飲酒運転をする、仕事にならない、健康に支障が出ている等、様々なお困りごとにつながっているはずです。

そんなお困りごとの解決方法が大きく分けて2つあります。ひとつは、アルコール依存症の治療です。そして、もうひとつの解決策は、あなたが夫(妻)から離れること(別居・離婚)です。

多くの方は、治るものであれば別居や離婚という選択肢ではなく、治療を選択したいとお考えになると思いますので、以下では、治療についてお伝えしたいと思います。

 

アルコール依存症の治療

外来通院

現在、厳密な意味でのアルコール依存症の薬はありません。

アルコールを飲むと脈拍が早くなったり、猛烈な吐き気に襲われるなど、しんどい思いをする抗酒薬はありますし、また、アルコール依存症に付随してあらわれる内臓疾患や精神障害を治療するということもあります。

しかし、「お酒が飲みたい」という気持ちを抑える薬や、一口飲んだとしても適量で抑えらえるようになる薬はありません。

そのため、まずは、外来に通院をすることになります。

外来では、抗酒剤を処方してもらったり、血液検査などで飲酒をしていないことの確認をしてもらいます。また、離脱症状の相談などもできます。

しかし、通院そのものが任意であり、当たり前ながら飲んだら気まずくなって通院しなくなってしまうため、ある程度の自制心が求められます。

アルコール専門病院(通院)

慈友クリニック(高田馬場)
さいとうクリニック(麻布十番)
周愛利田クリニック(北区)
榎本クリニック(池袋、飯田橋、大森など)

入院治療

症状がもっとひどくなると、入院治療が必要になってきます。アルコール依存症の症状がひどくなると、連続飲酒の状態になりますので、起きているときはずっと飲んでいるということになります。

そのため、仕事もできない、食事もろくに食べない、昼夜逆転の不健康な生活に陥ってしまいます。そんな場合、入院した上でお酒を抜き、規則正しい生活を取り戻していくのです。

また、アルコール依存症専門の入院病棟を持っている数少ない病院である成増厚生病院では、「教育入院」といって、入院中にアルコール依存症について学習をします。

3か月間の教育入院の間、まずはお酒を抜き、体調を回復させます。そして、毎日様々な学習(アルコール依存症に関する知識、飲酒欲求の落ち着け方、作業療法など)のプログラムが組まれ、また、次で説明しますAAや断酒会といった自助会への参加を習慣化させます。

入院治療というと、隔離病棟をイメージすると思いますが、病院によって異なります。先ほどの成増厚生病院では、基本的に開放病棟で、いつでも近くのコンビニでお酒を買うことができます。

しかし、せっかく入院したんだから、みんな頑張っているから、もう二度と同じことを繰り返したくないから、という気持ちで、飲酒欲求をこらえるのです。

飲酒して退院になってしまう人もいます。また、退院後、すぐに再飲酒して戻ってきてしまう人もいます。

そんな風に断酒と再飲酒を繰り返しながら、治療をしていくのです。

自助会

お酒をやめる上で、大変大きな役割を果たすのがAA(アルコホリックアノニマス)や断酒会といった自助会です。

自助会は、同じアルコール依存症の人が集まる会で、全国どこでも、毎月、毎週のように開催されています。

自助会では、まずは、自分がアルコール依存症であることを認め、アルコールに対して無力であることを認めることから始まります。

そこから、これまでの人生を振り返ったりもするのですが、おそらく再飲酒防止に役立っているのは、同じ病を抱えて苦しむ仲間と頻繁に会い、共感しあうことなのではないかと思っています。

特効薬のないアルコール依存症にとって、自助会に行っているかどうかで、回復率に大きく違いがでるようです。

 

アルコール依存症を疑ったときの相談先

ここまでは、アルコール依存症の治療についてご紹介しましたが、夫(妻)がすんなりと治療に応じるとはかぎりませんし、また、すぐに治療が功を奏してお困りごとが解消するということもあまり期待できません。

そのため、以下では、あなたのお困りごとが解消されない場合の相談先について、問題の深刻度や本人の認識の違いによる最適な相談場所についてご案内したいと思います。

警察や弁護士

飲酒すると暴力を伴うなど、緊急性が高い場合は、まずは、自分や子どもの身の安全を確保することが大切です。そんな場合は、警察や弁護士に相談しましょう。

病院

飲酒後、失神したり、意志の混濁が見られる場合、もしくは、飲酒により幻聴や幻覚がある場合は、まずは救急医療に繋げる必要があります。

また、本人に治療意欲がある場合も、医療機関につなげるのがいいでしょう。

依存症は、精神科の領域になりますが、内臓疾患などの身体症状は内科の範疇になります。現在は、一般の内科の先生でも、アルコール依存症の知識が広まっているので、ある程度の規模の病院であれば、専門の病院につなげてくれると思います。

精神保健福祉センター、保健所

どこに相談にいけばいいか分からない、いろいろな問題が複雑に絡んでいる場合は、まずは、精神保健福祉センターや保健所に相談に行くことをお勧めします。相談を通じて、相談者自身がアルコール依存症の人との付き合い方が分かったり、医療につなげる方法を学ぶことができます。保健所は、精神保健福祉センターに比べて専門性が低かったりしますが、自治体に必ず一つはあるので、まずは保健所に相談にいくというのでもいいかもしれません。

ただ、アルコール依存症に付随する問題は複雑に絡み合っていて、まずは何から取り掛かればいいか分からない、医療的・法的な解決だけではなく、心情も含めて聞いてほしい、そんな場合も多いのではないかと思います。

当センターでは、そういったお悩みのご相談をお受けしておりますので、おひとりで悩まず、ぜひご相談ください。

ご相談は以下のページよりお申込みをお願いいたします。

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