実は、アルコール依存症と夫婦の離婚問題は、切っても切り離せない関係にあります。
「あの人、飲むと人が変わるんです。いつもは穏やかなのに、飲むと暴言や暴力がひどくて・・。」という直接的なお悩みはもちろん、意外と、間接的に関連していることが多かったりします。
例えば、「夫は、記憶がなくなるまで飲んでしまいます。そして、接待の席で失敗を繰り返した挙句、会社をクビになってしまったんです。明日からどうやって生活していけばいいのか分かりません。」といった経済面に関連した訴えでお酒が出てくることがあります。
また、「主人は、お酒を飲むと気が大きくなって、すぐに女性をくどいてしまうのです。」といった具合に、女性問題に発展する人も多かったりします。
今日は、そんな「意外と身近な問題」であるアルコール依存症と夫婦の問題についてお伝えしていきたいと思います。
アルコール依存症とは
アルコール依存症の診断基準
日本では、厚労省の基準(純アルコール60グラム)を超える多量飲酒の人は860万人、アルコール依存症の疑いのある人が440万人、治療の必要なアルコール依存症の人は80万人いると推測されています。
しかし、自分がアルコール依存症であることを認め、治療につながる人は2万人程度しかいません。
つまり、ほとんどのアルコール依存症の方は、まさか自分がアルコール依存症だとは思わず、肝臓をはじめとする内臓疾患で亡くなったり、事故死や自死しているという生々しい現実があるのです(アルコール依存症の方の平均寿命は52歳です)。
そんなにたくさんの人が罹患している可能性があるアルコール依存症ですが、いったいどんなお酒の飲み方をしている人が当てはまるのでしょうか。
「自分はアルコール依存症かも?!」、「夫(妻)は依存症かもしれない。」と心当たりがある方は、是非読み進めてみてください。
医学的な診断基準
ICD-10というWHO(世界保健機構)による診断ガイドがあり、医療の現場では、この診断基準が使われています。
アルコール依存症の確定診断は、通常過去1年間のある期間、次の項目のうち3つ以上が経験されるか出現した場合に下される。
1.飲酒したいという強い欲望あるいは強迫感。
2.飲酒の開始、終了、あるいは飲酒量に関して、自らの行動を統制することが困難。
3.飲酒を中止もしくは減量した時の生理学的離脱状態。アルコールに特徴的な離脱症候群の出現や、離脱症状を軽減するかさける意図でアルコール(あるいは近縁の物質)を使用することが証拠となる。
4.はじめはより少量で得られたアルコールの効果を得るために、飲酒量を増やさなければならないような耐性の証拠。
5.飲酒のために、それにかわる楽しみ興味を次第に無視するようになり、アルコールを摂取せざるをえない時間や、その効果からの回復に要する時間が延長する。
6.明らかに有害な結果が起きているにもかかわらず、依然として、飲酒する。たとえば、過度の飲酒による肝臓障害、ある期間物質を大量使用した結果としての抑うつ気分状態、アルコールに関連した認知機能の障害などの害。使用者がその害の性質と大きさに気づいていることを(予測にしろ)確定するよう努力しなければならない。
ただ、この基準は、お医者さんが使う診断基準なので、少し難しく書かれています。これではよく分からないという方は、次のスクリーニングテストを参考にしてみてください。
新久里浜式アルコール症スクリーニングテスト
新久里浜式スクリーニングテスト(新KAST)といって、本人やその関係者が簡単にインターネットなどで情報を得て実施できるものもあります(久里浜医療センターという国立のアルコール依存症病院が作ったので「久里浜」の名前がついています)。
この新KASTは、診断の補助的な役割を果たしています。そのため、新KASTでアルコール依存症が疑われたら、医療機関を受診する(受信させる)というような方法で利用できます。
男性版と女性版があり、8~10の項目で簡単に実施することができます。以下、久里浜医療センターのHPからの抜粋です。
最近6ヶ月の間に次のようなことがありましたか?
男性版
- 食事は1曰3回、ほぼ規則的にとっている
はい いいえ- 糖尿病、肝臓病、または心臓病と診断され、その治療を受けたことがある
はい いいえ- 酒を飲まないと寝付けないことが多い
はい いいえ- 二曰酔いで仕事を休んだり、大事な約束を守らなかったりしたことが時々ある
はい いいえ- 酒をやめる必要性を感じたことがある
はい いい- 酒を飲まなければいい人だとよく言われる
はい いいえ- 家族に隠すようにして酒を飲むことがある
はい いいえ- 酒がきれたときに、汗が出たり、手が震えたり、いらいらや不眠など苦しいことがある
はい いいえ- 朝酒や昼酒の経験が何度かある
はい いいえ- 飲まないほうがよい生活を送れそうだと思う
はい いいえ合計点が 4 点以上: アルコール依存症の疑い群
合計点が 1 ~ 3 点: 要注意群(質問項目 1 番による 1 点のみの場合は正常群。)
合計点が 0 点: 正常群
女性版
- 酒を飲まないと寝付けないことが多い
はい いいえ- 医師からアルコールを控えるようにと言われたことがある
はい いいえ- せめて今日だけは酒を飲むまいと思っていても、つい飲んでしまうことが多い
はい いいえ- 酒の量を減らそうとしたり、酒を止めようと試みたことがある
はい いいえ- 飲酒しながら、仕事、家事、育児をすることがある
はい いいえ- 私のしていた仕事をまわりの人がするようになった
はい いいえ- 酒を飲まなければいい人だとよく言われる
はい いいえ- 自分の飲酒についてうしろめたさを感じたことがある
はい いいえ合計点が 3 点以上: アルコール依存症の疑い群
合計点が 1 ~ 2 点: 要注意群(質問項目 6 番による 1 点のみの場合は正常群。)
合計点が 0 点: 正常群
どうでしょうか。割と簡単に「アルコール依存症の疑い郡」に入ってしまうと思いませんか?
アウトオブコントロール
アルコール依存症は、端的に言うと、「お酒の飲み方がコントロールできない状態」だということができます。
例えば、「一週間に何日かは休肝日にしよう。」と思っていても、結果的には毎日飲んでしまったり、「ちょっと飲みすぎてしまうだけ。」、「飲みすぎると記憶をなくしてしまうことが時々あるだけ」といった認識にとどまっているのです。
昔、青島幸男さんの歌で、「ちょいと一杯のつもりで飲んで、いつの間にやらはしご酒」という歌詞がありましたが、まさにあれはコントルールができていない状態を歌っているのです。
また、アルコール依存症の方は、アルコールがきれることに潜在的な不安が強かったりします。そのため、かならずお酒を家においていたり、深夜でも買いに行ける店を調べていたりします。
社会とのずれ
また、飲酒の時間や場所がその人の住んでいる社会の常識から外れてくるのも危険ポイントです。
例えば、高速道路の夜間工事を請け負っている人が、仕事が終わり、朝寝る前に一杯飲むのは問題ありません。しかし、普通のサラリーマンが朝からお酒を飲んでしまっては、明らかに問題があります。
また、休日に「たまには昼から」と友人とランチに行った際に、お酒を楽しむことに何ら問題はありません。しかし、平日の昼間に職場で飲酒してしまっては、問題があります。
よく、テレビコマーシャルなどで、青空の下、おいしそうにビールを飲むシーンが出てきますが、実はあれは好ましくないのです。
飲み会に関するあるある
また、宴会時の行動として、次のようなことをやりがちな方も要注意です。
1 宴会に行く前にあらかじめ飲んでから行く
2 「最初の一杯」ではすぐ飲んでしまうため、「最初の2,3杯」を一度に注文しておく
3 飲み会の最初から最後までずっと飲んでいる、
離脱症状を抑えるために飲む
アルコール依存症の人は、体内のアルコール成分がなくなってくると、手の震えや発汗、不眠や焦燥感など、いろいろな離脱症状が出てきます。その離脱症状を抑えるためにお酒を飲んでしまうと、立派なアルコール依存症だということができます。
酒量による目安
酒量は人それぞれなので、どのくらい飲めばアルコール依存症であるという定義はありません。しかし、一般に、毎日日本酒5合程度のアルコールを摂取していると、アルコール依存症になりやすいといわれています。
また、最近は、アルコール度数が普通のものよりも高い缶チューハイなども売られていて、ジュース感覚での飲んでいるうちに過剰摂取になっている場合もあります。
前アルコール依存症(プレアルコホリズム)の診断基準
ここまで読み進めてみて、やはり当てはまらなそうだからといって安心はできません。
実は、アルコール依存症になる前段階のプレアルコホリズムという状態があるのです。
ICD―10の「依存症」の診断に当てはまらない場合に使用されるのが、「有害な使用」です。例えば、アルコールでいろいろな問題は生じているものの、連続飲酒の経験や離脱症状がない場合をいいます。
周囲を見渡してみると、この状態にある人が大変多いことに気付くと思います。
アルコール依存症の症状
会社の健康診断でγ-GTP(ガンマーGTP)の数値が高いと指導を受けた人も少なくないと思いますが、自覚症状がなくても、アルコールが体を蝕んでいるのです。
また、もっと分かりやすく、身体的な症状が伴うことも多く、肝機能障害、糖尿病、脳の萎縮などの症状があります。
「アルコールで脳の萎縮?」と思うかもしれませんが、認知症患者と同じような収縮、症状を見せるのです。
また、アルコールが抜けたときの離脱症状としては、不眠、寝汗、手の震え、むくみ、不安感や焦燥感、などがあります。
アルコール依存症と言えば、お酒が抜けると手が震える、という場面を思い出す人も多いと思いますが、それ以外にもたくさんの離脱症状があるのです。
また、摂食障害やうつ病といった精神的な病を併発している人もたくさんいます。
アルコール依存症の治療
外来通院
現在、厳密な意味でのアルコール依存症の薬はありません。
アルコールを飲むと脈拍が早くなったり、猛烈な吐き気に襲われるなど、しんどい思いをする抗酒薬はありますし、また、アルコール依存症に付随してあらわれる内臓疾患や精神障害を治療するということもあります。
しかし、「お酒が飲みたい」という気持ちを抑える薬や、一口飲んだとしても適量で抑えらえるようになる薬はありません。
そのため、まずは、外来に通院をすることになります。
外来では、抗酒剤を処方してもらったり、血液検査などで飲酒をしていないことの確認をしてもらいます。また、離脱症状の相談などもできます。
しかし、通院そのものが任意であり、当たり前ながら飲んだら気まずくなって通院しなくなってしまうため、ある程度の自制心が求められます。
アルコール専門病院(通院)
慈友クリニック(高田馬場)
さいとうクリニック(麻布十番)
周愛利田クリニック(北区)
榎本クリニック(池袋、飯田橋、大森など)
入院治療
症状がもっとひどくなると、入院治療が必要になってきます。アルコール依存症の症状がひどくなると、連続飲酒の状態になりますので、起きているときはずっと飲んでいるということになります。
そのため、仕事もできない、食事もろくに取らない、昼夜逆転の不健康な生活に陥ってしまいます。そんな場合、入院した上でお酒を抜き、規則正しい当たり前の生活を取り戻していくのです。
また、アルコール依存症専門の入院病棟を持っている数少ない病院である成増厚生病院では、「教育入院」といって、入院中にアルコール依存症について勉強をしてもらうのです。
3か月間の教育の入院の間、まずはお酒を抜き、体調を回復させます。そして、毎日何かしらの勉強(アルコール依存症に関する知識、飲酒欲求の落ち着け方、作業療法など)のプログラムが組まれ、また、次で説明しますAAや断酒会といった自助会への参加を習慣化させます。
入院治療というと、隔離病棟をイメージすると思いますが、病院によって異なります。先ほどの成増厚生病院では、基本的に開放病棟で、いつでも近くのコンビニでお酒を買うことができます。
しかし、せっかく入院したんだから、みんな頑張っているから、もう二度と同じことを繰り返したくないから、という気持ちで、飲酒欲求をこらえるのです。
飲酒して退院になってしまう人もいます。また、退院後、すぐに再飲酒して戻ってきてしまう人もいます。
そんな風に断酒と再飲酒を繰り返しながら、治療をしていくのです。
自助会
お酒をやめる上で、大変大きな役割を果たすのがAA(アルコホリックアノニマス)や断酒会といった自助会に参加することです。
自助会は、同じアルコール依存症の人が集まる会で、全国どこでも、毎月、毎週のように開催されています。
自助会では、まずは、自分がアルコール依存症であることを認め、アルコールに対して無力であることを認めることから始まります。
そこから、これまでの人生を振り返ったりもするのですが、おそらく再飲酒防止に役にたっているのは、同じ病を抱えて苦しむ仲間と頻繁に会い、共感しあうことなのではないかと思っています。
特効薬のないアルコール依存症にとって、自助会に行っているかどうかで、回復率に大きく違いがでるようです。
アルコール依存症を始めて勉強する方にお勧めの本です。
アルコール依存症と家族への影響
ここからが本題のアルコール依存症と夫婦や家族の問題についてです。
アルコール依存症の相談は、まずは、家族が電話相談やメールで問い合わせることが多いといわれていて、困っているのは患者本人よりも家族、ということが少なくありません。
また、一人のアルコール依存症患者の周囲には、数人の酒を飲まない病人が出るともいわれており、アルコール患者は周囲の人間関係をも壊していくことがよくわかります。
そのため、「お酒の飲みすぎ→夫婦不和」という流れに陥りやすいのです。
一方、夫婦の仲がうまくいかなくなり始めると、飲酒の機会が増え、アルコール依存症になりやすいとの統計もあり、「夫婦不和→アルコール依存症」という流れもありうるのです。
そのため、ニワトリが先か卵が先かは分かりませんが、とにかく、アルコール依存症と夫婦の関係は密接にかかわっているといえます。
以下では、飲酒によりどのような影響があるのかをみていきましょう。
暴言・暴力
飲酒をすると、暴言や暴行が配偶者に向かう人も少なくありません。
いつもはおとなしい人に限って、お酒を飲むと気が大きくなったり、乱暴になったりします。また、いつ被害が及ぶかとびくびくして過ごさなければならないのも、とてもストレスフルです。
ここで、典型的な事例を使って、飲酒による暴言・暴力の特徴をお伝えしたいと思います。
夫52歳 会社経営者
妻45歳 専業主婦
子18歳 高校3年生夫は、昔からお酒が好きだったが、ここ数年、特に酒量が増えていた。
経営する会社が傾き始めたのがきっかけだ。
夫は、生真面目な性格で、仕事至上主義者だったため、会社がうまくいっていないというのは、とても大きな精神的ダメージだった。元々、夫は専業主婦の妻を見下す傾向にあり、「誰のおかげで食べられてると思うんだ」、「稼がないなら家事くらいしっかりやれ」とモラハラ発言があった。
そして、お酒が入ると、その傾向が強くなり、大声で怒鳴ったり、物にあたることがあった。
最近は、妻への直接的な身体的暴力が始まり、何か気に食わないと、押したり、時には殴ることもあった。
妻は、暴力の原因がお酒であることは分かっていたが、お酒を家に常備していないと、余計に暴力を振るわれそうで怖かった。飲んで帰ってくることが予想される日は、ベッドに入って寝たふりをしつつ、震えていた。家で飲む日は、とにかく怒らせないよう、子どもとビクビクして過ごした。
こんな生活はもう嫌だと思うこともあったが、子どものことを考えると、大学を卒業するまでは何とか我慢しなければと思うのであった。
アルコール依存症と酒乱は別です。そのため、アルコール依存症だからといって、必ずしも飲酒すると暴言・暴力につながるとはかぎりません。
ただ、やはり、アルコール依存症の人が飲むお酒の量は大量で、理性を失うのに十分な量です。少し上機嫌になるだけ、見た目はそんなに変わらない、という人もいますが、やはり、お酒によって、もともとあった問題傾向強くなったり、理性で抑えていた部分が出やすくなったりする人が多いようです。
間接的影響
飲酒により、暴言や暴力といった直接的な影響がなかったとしても、間接的な影響を受けることが考えられます。
飲酒するとすぐに店員に絡んだり、クレーマーになったりするので、恥ずかしくて外では一緒に飲めないという人もいます。
また、帰宅してから就寝までずっと飲酒しているため、夫婦の会話もままならない、子どもの世話もしてもらえない、ということもあります。
大切な接待の席で失敗して会社に居づらくなり、挙句の果てには辞職してしまったということになれば、計り知れない経済的影響を及ぼすことになりますし、そもそも酒代が家計を圧迫することもあります。
お酒の飲みすぎで体を壊し、働けなくなったり、医療費がかさむこともあります。飲酒の上、交通事故を起こして、損害賠償を求められるかもしれません。
このように、お酒の間接的な影響は多岐に渡り、例示しきれません。
子どもへの影響
夫婦に子どもがいる場合、子どもにも大きな影響があります。
毎日飲んだくれた親の姿を目にし、時には、暴言や暴力の対象になってしまうのです。
親がろくに仕事もしないので、このまま学校に通えるのか心配、昼間から飲んでいるので、家に友達も呼べない、酔ってお母さんにびどいことをするお父さんを見たくない、お母さんは台所でお酒を飲んでいるみたいだけど、何となく指摘できない、でもこんなこと誰にも相談できない、自分も将来こんな風になってしまうのか心配。
子どもたちは、色々な思いを抱えています。
また、アルコール依存所が母親の場合、日常の世話が困難になります。そうすると、散らかった家の中でろくにご飯も作ってもらえず、ネグレクト状態になるのです。
そのうち、子どもはいろいろな形でSOSを出すようになります。不登校、非行、リストカット、自己肯定感の低下、パニック障害など、症状は様々です。
いわゆるAC(アダルトチルドレン)になってしまうのです。
アルコール依存症の親をもつ子どもたちに、親の病気を説明する本がこちらです。
この本は、自分の親がどういう状態にあるのか、子どもの目線で分かりやすく書かれています。特に、悪いのは自分でも親でもなく、お酒であることが説明されているので、自分を責めてしまうお子さんにとってはとてもよい本です。
加えて、この本は、アルコール依存症の配偶者を持ち、離婚するかどうか迷っている方にも読んでほしい本です。
子どもがどんな気持ちで毎日を過ごしているのか、気付きが多いと思います。
また、アルコール依存症の親の治療だけでなく、その子どものケアをしてくれる病院もあります。例えば、成増厚生病院のアルコール依存症病棟には、思春期外来というのありますので、そこで子どもの不登校などを相談することもできます。
子どもは、親より弱い立場にあります。
何よりも優先的に考えてあげて欲しいと思います。
アルコール依存症を疑ったときの相談先
アルコール依存症かもしれないと思っても、いったいどこに相談に行けばよいか分からないという人も多いのではないでしょうか。
以下では、問題の深刻度や本人の認識の違いによる最適な相談場所についてご案内したいと思います。
警察や弁護士
飲酒すると暴力を伴うなど、緊急性が高い場合は、まずは、自分や子どもの身の安全を確保することが大切です。そんな場合は、警察や弁護士に相談しましょう。
病院
飲酒後、失神したり、意志の混濁が見られる場合、もしくは、飲酒により幻聴や幻覚がある場合は、まずは救急医療に繋げる必要があります。
また、本人に治療意欲がある場合も、医療機関につなげるのがいいでしょう。
依存症は、精神科の領域になりますが、内臓疾患などの身体症状は内科の範疇になります。現在は、一般の内科の先生でも、アルコール依存症の知識が広まっているので、ある程度の規模の病院であれば、専門の病院につなげてくれると思います。
精神保健福祉センター、保健所
どこに相談にいけばいいか分からない、いろいろな問題が複雑に絡んでいる場合は、まずは、精神保健福祉センターや保健所に相談に行くことをお勧めします。相談を通じて、相談者自身がアルコール依存症の人との付き合い方が分かったり、医療につなげる方法を学ぶことができます。保健所は、精神保健福祉センターに比べて専門性が低かったりしますが、自治体に必ず一つはあるので、まずは保健所に相談にいくというのでもいいかもしれません。
アルコール依存症の治療と夫婦関係の修復
夫(妻)がお酒の問題を抱えていたとき、あなたならどんな結論を出しますか?おそらく、何とか治療して、元の夫婦に戻りたいと願う人も多いのではないでしょうか。
以下では、夫婦関係の修復の過程について書きたいと思います。
本人との話し合い
アルコール依存症は、本人が自覚していなかったり、薄々自覚していても、それを認めないことが多かったりします。しかし、本人がアルコールに関して問題があると認め、飲酒行動を変えなければ、症状が改善することはありません。もちろん、飲酒を原因とする夫婦間のいろいろな問題も解決しません。
そのため、まずは本人と話し合い、受診の意志の有無を確認しましょう。
ここで受診の意志がないとなれば、夫婦関係の修復は難しいかもしれません。
アルコール依存症の治療
受診し、アルコール依存症だと診断されたとしましょう。
多くの人は、診断にショックを受けるというより、ほっとするようです。
「お酒を飲んで暴れてしまう、それでもお酒をやめられないというのは、本人のせいではなく、病気なんですよ。」と聞いた時点で、胸のつっかえがとれたようになるのです。なぜなら、「病気だから仕方がない。本人が悪いわけではない」との気持ちがわいてくるからです。
しかし、本人が悪いわけじゃないからといって、日常生活における問題が解決したわけではありません。やはり、治療をしなければ、大変さに変わりはないのです。
ここで、もし、あなたが婚姻生活を維持するという決心をするのであれば、次のことに気を付けましょう。
アルコール依存症は治らない
実は、アルコール依存症は、治ることはないといわれています。覚せい剤などと同じで、何年経っても、「依存脳」は「依存脳」のままです。そのため、一度アルコール依存症になった人は、上手にお酒と付き合いながら飲酒するということが二度とできなくなってしまい、断酒しかないのです。
しかし、依存症から回復することは可能だと言います。とくに、断酒が2年続けば、そのまま飲まずに一生を終えられる可能性がぐっと高くなります。
先ほど書きましたように、アルコール依存症を根本的に治療するお薬はありません。
しかし、通院やデイケアなどで医療的なアドバイスを受けつつ、断酒会やAAといった自助グループに参加することで、治療的な効果があり、最終的には断酒につながるということがあります。
まずは、アルコール依存症の特徴を理解し、やめられる環境作りや関係作りに協力してあげましょう。
世話をやきたい思いにブレーキをかける
アルコール依存症の夫(妻)をもつ妻(夫)は、とても面倒みがよくて、世話焼きなタイプが多かったりします。
例えば、お酒が原因で作った借金の肩代わりをしてあげたり、勤務先に遅刻や欠席の連絡をしてあげたりします。また、人から聞かれれば、夫(妻)がアルコール依存症だということを隠す人も多いかもしれません。
そういう人のことを「イネイブラー」と言います。知らず知らずのうちに、問題行動を起こすお手伝いをしてしまう人たちのことです。
こうなってしまうと、なかなか本人が病気を認めなかったり、認めたとしても、治療効果が上がらなかったりします。
修復するという選択をしたのであれば、毅然とした態度でアルコール依存症と戦う必要があります。
お酒を飲んでしまったら別居する、お酒が抜けるまで相手にしないなど、夫婦間でルールを決め、きちんとルールを守りましょう。
家族にもサポートが必要
最初に書きましたように、アルコール依存症の患者さんの周りには、複数の病人がでるというくらい、近くにいる人は心身ともに大変な目にあいます。
そのため、患者さん本人だけではなく、家族も治療が必要なのです。
しんどいな、と感じたら、早めに心療内科を受診しましょう。
アルコール依存症専門の病院の中には、家族会や家族入院といった制度をもった病院もあります。上手に利用し、心身の疲れをためないようにしましょう。
また、AAの家族版もあります。
自助会のいいところは同じ境遇の人と話せることです。ご近所さんやママ友には打ち明けられなくても、同じ境遇にある人であれば、辛い思いを吐露できるはずです。
離婚という決断
アルコール依存症は、心身の健康を奪うだけでなく、夫婦や家族の絆をも壊しかねない病気です。加えて、仕事ができなくて満足な収入がなかったり、治療にお金がかかったりします。
また、治療そのものが長期にわたり、そもそも完治することはありません。さらには、子どもにも影響の大きい病気でもあります。そのため、「離婚」という選択肢があっても不思議ではなく、ときには、それがベストな選択になる場合もあります。
次は、離婚の手順や話合いの方法について書いていきたいと思います。
話合いはしらふのときに
当たり前のようで意外とできていないのが、「お酒を飲んでいないときに話し合う」ということです。アルコール依存症の人は、酒量だけでなく、飲んでいる時間そのものも長いため、なかなかしらふの状態がなかったりします。
しかし、飲酒状態で話をしてしまうと、すべて「覚えていない」と逃げられてしまいます。必ず素面の時に話し合いましょう。
暴力があるときはとにかく逃げる
飲酒時の暴力がある場合は、話合いなんて悠長なことは言っていられません。まずは、実家に帰る、別居する、女性センターに保護してもらう、病院の家族入院を利用するなどして、物理的距離を取りましょう。
また、暴力はなくても、暴言がひどいときも同様です。毎日のようにひどい暴言を浴びせられていると、正常な判断力がなくなってきます。自分が精神的に参ってしまい、うつ病やパニック障害になってしまうこともあります。
言葉だけだからと我慢せず、早めの行動が肝心です。
話合いの方法
離婚に関する話会いの方法は以下の通りです。
夫婦だけで話し合う
飲酒していないしらふの状態で話合いができるなら、夫婦で話合いをもつことも可能です。アルコール依存症というどうしようもないことを理由にするのではなく、それに付随する問題を具体的に示し、気持ちを伝えましょう。
その際、「今度こそお酒をやめるから」という決まり文句が出てくることが予想されます。この言葉に対し、ラストチャンスを与えるかどうかは、あなた次第です。ただ、一度チャンスを与えると、二度目があると思ってしまうのが人間です。初志貫徹もまた大切です。
結局、話合いが決裂したとしても、実は、この過程がとても大切だったりします。きちんと話をせずに第三者を仲介に入れた場合、「直接相手の気持ちが聞きたい」、「何を考えているのかよくわからない。」という気持ちがいつまでも消えなかったりします。そうなると、話合いが前に進みませんので、まずは、ダメもとでも、夫婦で話し合う機会をもってみましょう(ただ、この場合も、暴言や暴力が予想される場合は、夫婦のみでは危険ですので、以下の3つの方法にしておきましょう。)。
弁護士を入れて話し合う
夫婦で話し合うことが困難な場合、もしくは、話し合っても合意できなかった場合、弁護士に依頼するのも一つの方法です。弁護士さんが間に入ってくれれば、直接やりとりをしなくて済むので、暴言・暴力が心配な場合、依頼するのもいいかもしれません。
ただ、やはり、弁護士さんが間に入ると対立構造が明確化します。穏やかに話し合いたい場合、安易に依頼するのは考えものです。
家庭裁判所で話し合う
家庭裁判所の調停を申し立てるのも一つの方法です。家庭裁判所も同じく、相手と顔を合わさずに済むので、暴言・暴力がある場合にはお勧めです。だた、時間をずらしたり、階を変えてくれたとしても、やはり同じ建物にはいなければなりません。また、家裁の調停は往々にして長引きますので、早い解決を望む方には向いていないかもしれません。
ADR(民間調停)で話し合う
私が一番お勧めするのが、ADR(裁判外紛争解決手続)を利用しての調停です。ADRであれば、早期に穏やかな解決が可能です。また、web会議システムなどを利用することも可能ですので、暴言・暴力が心配な場合は、完全に違う場所で調停を行うこともできます。費用的にも、弁護士に依頼するよりはるかに負担が軽くて済みます。
まとめ
アルコールは、人間関係の潤滑油でもあり、節度を守って飲酒している分には特に問題はありません。しかし、飲み方を間違えると、依存症に陥る怖い飲み物です。
日本は比較的お酒に優しい国です。24時間お酒が飲めるお店も少なくありません。お酒を飲んでいれば、何でも無礼講ですし、記憶をなくすほど飲んで何か失敗をしても「武勇伝」のように語られたりします。
そのため、夫(妻)のお酒の飲み方に多少違和感があっても、あまりそれ自体を問題として話し合うことはありません。
しかし、夫婦の時間がもてない、暴言・暴力がある、経済的に困窮している、家事・育児に参加してくれないといった、様々な問題の後ろにアルコールがあるかもしれません。
アルコールの問題は、そんなに簡単には解決しません。治療に寄り添うという判断もありですが、離婚という選択肢もあります。
この長い文章を最後まで読んでくださった方は、きっと、配偶者のアルコール問題に悩んでおられる方だと思います。大切なのは、「自分の幸せ」を大切にした解決です。判断に迷ったら、自分はどっちが幸せになれそうかを考えてみてください。