不貞(浮気・不倫)されたら知っておきたい基礎知識9

妻や夫が不貞(浮気・不倫)した。その事実を知ったとき、「やっぱり」と納得する人もいるかもしれませんし、「まさかうちの夫(妻)が」と青天の霹靂という人もいるかもしれません。

いずれにしましても、自分が不貞相手に慰謝料請求する日が来るなんて…。そんな気持ちの人も多いのではないかと思います。

今回のコラムでは、不貞(浮気・不倫)に関して知っておきたいことを動画と合わせてご紹介します。

少し長いですが、これを読み終わり、動画を見終わるころには、不貞に関する基礎知識が身に付き、今後について冷静に判断できるようになっていると思いますので、がんばって読んでみてください。

キスも不貞になる?慰謝料請求は??

法律の世界では、どこからが「不貞」に当たるのでしょうか。

法律上、不貞行為とは「配偶者のある者が、自由な意思に基づいて配偶者以外の者と性的関係を持つこと」とされています。

つまり、たとえ手をつないだり、キスをしたり、甘い言葉を交わしていたとしても、それだけでは法的な意味での「不貞」とは言えません。不貞と認められるには、性交渉の事実が必要になるのです。

では、性交渉を伴わない関係であれば問題はないのでしょうか。

必ずしもそうとは言えません。

民法では「婚姻を継続しがたい重大な事由」も離婚原因として認めています。

たとえば、性的な行為に至らなくても、頻繁に愛情を伝えるメッセージのやり取りや、恋愛関係に準じるような付き合いがあった場合などが該当します。

このように、法律は「不貞」という言葉に明確な定義を設けていますが、現実にはその周辺にもさまざまな問題が存在します。

感情的には許せない行為でも、法律上の不貞とはならないこともありますし、逆に、本人に悪気がなくても、その言動が結果として夫婦関係の破綻につながれば、離婚や損害賠償に発展することもあります。

ぜひ、以下の動画でもう少し詳しく勉強してみてください。

慰謝料は2種類ある⁈ー不貞慰謝料と離婚慰謝料の違い

実は、慰謝料には「不貞慰謝料」と「離婚慰謝料」があります。

まず、「不貞慰謝料」とは、不貞行為そのものによって精神的な苦痛を受けたことに対する慰謝料です。

配偶者が他の異性と肉体関係を持ったという行為自体が、婚姻関係にある者にとって大きな傷になります。その精神的苦痛に対し、配偶者はもちろん、不貞相手である第三者にも慰謝料を請求できるのが原則です。

他方、「離婚慰謝料」は、不貞行為によって夫婦関係が破綻し、最終的に離婚に至ったこと自体によって生じた精神的苦痛に対する慰謝料です。

つまり、離婚という結果そのものに対する苦痛が賠償の対象となるのです。

この2つは似ているようで、法律上は異なる扱いを受けます。特に重要なのが、①請求できる相手、②消滅時効の起算点が異なるという点です。

是非、以下の動画より詳細をご覧ください。

不貞慰謝料、誰に請求する?知っておきたい請求相手とその考え方

次に、慰謝料は誰に請求できるのでしょうか? 配偶者だけでしょうか? それとも不貞の相手にも可能なのでしょうか?

不貞は通常、配偶者とその相手が共同して行うものであるため、法律上は両者が連帯して責任を負うと考えられています。

したがって、慰謝料は配偶者に対しても、不貞相手の第三者に対しても、いずれか一方にでも、または両方に対しても請求することが可能です。

ただし、ここで注意したいのは、請求先が2人であっても、慰謝料の金額が2倍になるわけではないという点です。

また、不貞相手にのみ請求した場合、「なぜ自分だけが支払うのか」と感じ、後から配偶者に対して求償する可能性があるという点には注意が必要です。

一方で、離婚せずに夫婦関係を修復したいと考えている場合、不貞をした側が相手に対し謝罪の意味を込めて慰謝料を支払うこともあります。こうした場合の注意点も含め、ぜひ、以下の動画をご覧ください。

慰謝料請求の相場と増減の要素

不貞慰謝料の相場はおおよそ50万円から300万円程度です(ケースによっては800万円といった高額な判決もありますが、多くの場合は50万円から300万円の範囲に収まると考えられます。)。

この金額の幅には理由があります。まず、最も大きな判断材料となるのが「不貞が原因で離婚や別居に至ったかどうか」です。

離婚や別居に至った場合は精神的苦痛が大きいと評価され、100万円から300万円程度の慰謝料が認められる傾向にあります。

一方で、離婚せずに夫婦関係を継続している場合は、50万円から100万円程度にとどまるケースが多く見られます。

そのほかにも慰謝料額を左右する事情は複数あります。

  • 不貞の期間が長い
  • 回数が多い
  • 未成年の子どもがいる
  • 不貞相手との間に子どもができた
  • 家庭内(自宅)で不貞行為が行われた

こうした場合は、精神的打撃が大きいと判断され、増額の可能性が高くなります。

逆に、減額される事情も存在します。

不貞の期間が短い、回数が少ない、あるいはすでに夫婦関係が破綻していた、長年性的関係がなかったなどの事情がある場合、精神的損害が小さいと判断されることがあります。

また、不貞をした側に支払い能力が乏しい(収入が少ない・資産がない)といった事情も、裁判所が慰謝料を減額する理由の一つとなることがあります。

不貞慰謝料の時効とは?知っておきたい期限と注意点

いざ請求しようとしたときに「時効です」と言われてしまえば、どんなに深い傷を負っていたとしても請求が通らないことがあります。不貞慰謝料における「時効」は、想像以上に複雑で注意が必要です。

まず、不貞による慰謝料には大きく分けて二種類あります。一つは「不貞慰謝料」、もう一つは「離婚慰謝料」です。この二つは似ているようで、請求できる相手や時効の考え方が異なります。

「不貞慰謝料」の時効は、「不貞の事実および相手を知ったとき」から3年、または不貞行為が行われた時から20年のいずれか早い方とされています。

つまり、不貞の事実を知った時点で時効が進み始め、3年以内に請求しなければならないということになります。

一方で、「離婚慰謝料」は、原則として不貞をした配偶者にのみ請求することができ、時効は「離婚が成立した日」から3年とされています。

不貞を知ってから時間が経っていても、離婚したばかりであれば、離婚慰謝料は請求可能というケースもあるのです。

また、不貞相手に対しては、発覚時点では氏名しか分かっておらず、請求先として特定できなかった事情があります。

このような場合、住所や素性を特定できるようになった時点が「時効の起算点」として扱われます。したがって、離婚の話し合いを通じて初めて不貞相手の情報が判明したのであれば、その時点から3年間は不貞慰謝料を請求できる可能性があるのです。

このように、慰謝料の時効には「いつから進行するのか」「誰に請求するのか」によって判断が分かれます。知らずに放置してしまうと、本来請求できたはずの慰謝料が時効により失われてしまうこともあります。

不貞行為が発覚したとき、すぐに行動に移すことが難しい状況もあるでしょう。

しかし、いつか気持ちの整理がつき、慰謝料請求を考えるときが来たときのために、まずは自分の置かれた状況と時効の関係を把握しておくことが大切です。

離婚せず、相手から費用をもらい続ける罠は??

配偶者の不貞が発覚した際、離婚を決意する方もいれば、子どもや生活のことを考え、関係の修復を望む方も少なくありません。そのような中で、「慰謝料は配偶者ではなく、不貞相手に請求したい」と考えるケースも多く見受けられます。

法律上、不貞による精神的損害に対しては、配偶者と不貞相手の両方に請求することが可能です。どちらか一方に対してのみ請求することも認められています。

しかし、配偶者に請求せず不貞相手だけに慰謝料を求める場合、注意すべきなのが「求償(きゅうしょう)」の問題です。

求償とは、共同で責任を負うべき者の一方が損害をすべて賠償した場合、他方に対して自分の負担すべき分を請求することを言います。

たとえば、妻が不貞相手の女性に対して100万円の慰謝料を請求し、それを相手が支払ったとします。

すると、その女性は「不貞の責任は自分だけではない」として、不倫相手である夫に対し、自分が支払った金額の一部を求償することができるのです。

求償に関しては、「責任割合」等、重要な話題もありますので、ぜひ動画で確認してみてください。

仕事を辞めて等、金銭以外の要求はできるか??

中には「お金だけでは気持ちが収まらない」と感じる方もおられると思います。実際に寄せられる相談の中には、「二度と会わないでほしい」「連絡を取らないでほしい」といった、金銭以外の要求をしたいという声も少なくありません。

このような希望に対して、法的にどこまで実現可能なのかを知っておくことは、感情的な対立を避け、現実的な解決に向けた第一歩になります。

まず、金銭の支払いと同時に「今後一切連絡を取らない」「二度と会わない」といった内容を不貞相手と合意し、示談書や誓約書に明記することは可能です。

さらに、「この約束に違反した場合は○万円の違約金を支払う」といった条項を設けることで、心理的な抑止効果を高める方法も取られています。

このような合意は、双方が納得しサインすれば、民事上の拘束力を持つことになります。

一方で、「仕事を辞めてほしい」といった要求については、現実的にも法律的にもかなり難しいと考えられます。

不貞の当事者が職場で関係していた場合、「顔を合わせたくない」「職場で再接触するのが耐えられない」という気持ちは理解できますが、職業選択の自由がある以上、法的に一方の退職を強制することは認められていません。

どちらが辞めるかという問題は、当事者間の話し合いや職場内での配置転換、異動などで折り合いをつけるほかないのが現実です。

また、注意が必要なのは「相手の家族や職場に伝える」という行為です。

不貞相手に対して「慰謝料を支払わなければ、あなたの会社に話す」「家族にバラす」といった言動をとると、たとえ事実であっても、名誉毀損や脅迫と受け取られ、逆に損害賠償請求や刑事告訴の対象になる可能性があります。

このように、不貞相手に対して金銭以外の要求をすることは一定の範囲で可能ですが、過剰な要求や強い言い方はかえってトラブルを招くおそれがあります。

金銭だけではなく、社会的制裁を受けてほしい、不貞が悪いことだと気付いてほしい等、様々な感情が生まれるのは自然なことだと思います。

ただ、その感情にどういう形で折り合いをつけるのが良いのか、その点も重要なポイントです。

慰謝料の具体的な請求方法

いざ慰謝料を請求しようとしても、「裁判を起こすのは大変そう」「どうやって請求すればいいの?」と迷うこともあるかもしれません。そこでここでは、不貞相手に対して慰謝料を請求するための方法と、それぞれの特徴についてご紹介します。

まず、大きな分け方としては「自分で請求するか」「弁護士に依頼するか」、そして「裁判など法的手続きを使うか」「使わないか」という二つの軸で整理できます。

もっとも手軽な方法は、自分で法的手続きを使わずに請求することです。

LINEやメール、手紙、あるいは内容証明郵便を使って、不貞の事実や慰謝料の金額、支払期限、振込口座などを明記し、請求の意思を伝えます。

直接顔を合わせずに済み、費用もかからないため、精神的・経済的負担が少ないというメリットがあります。

一方で、連絡しても無視されたり、話が進まなかったりする場合は、弁護士に依頼する方法もあります。

弁護士が代理人として相手に連絡することで、当事者間では進まなかった交渉が前進することも少なくありません。通常はまず示談交渉を行い、それでも解決しない場合は、裁判手続きに移る流れとなります。

ただし、弁護士に依頼するには一定の費用がかかります。事案や慰謝料の額にもよりますが、着手金や報酬を含めて数十万円〜百万円以上になることもあります。

また、訴訟に進めば、半年〜1年程度の期間がかかることもあり、さらに上訴まで発展すれば、数年単位の長期戦になる可能性もあります。

その中間的な手段として、ADR(裁判外紛争解決手続)を利用するという選択肢もあります。ADRでは、弁護士などの専門家が中立的な調停人となり、当事者の間に入って話し合いを進めてくれます。

オンラインで参加できる形式もあり、直接顔を合わせる必要がないため、心理的な負担も軽く済みます。費用も比較的安価で、1人あたり5万円前後で利用できるケースもあります。

さらに、ADRでは「金銭よりも謝罪が欲しい」「もう二度と会わないと約束してほしい」「自分の気持ちを相手に伝えたい」といった、慰謝料請求にとどまらない多様なニーズに対応することができます。

感情の整理や、納得のいく終わり方を目指す方には特に向いている方法といえるでしょう。

不貞による慰謝料請求には、感情的な部分と法的な手続きの両面があります。請求の目的等、よく考えた上で請求方法を決めましょう。

不貞でも関係修復を選んだ場合は絶対これ!

不貞が発覚しても、すぐに離婚を決断することは簡単ではありません。

子どものことや経済的事情、まだ愛情が残っているという思いなど、様々な理由から関係修復を選ぶ方も多くいらっしゃいます。しかし、だからといって何事もなかったように元の生活に戻ることに不安や不満を抱く方も少なくありません。

そんなときに有効な手段の一つとして、「夫婦間契約公正証書」の作成があります。

これは、夫婦の間で合意した内容を文書にし、公正証書として残すものです。

不貞をした側が謝罪の意思を示し、再発防止の誓約を行い、万が一再度不貞があった場合には離婚に応じることや、その際の慰謝料の金額などをあらかじめ定めておくことができます。

たとえば、「再度不貞があった場合には500万円の慰謝料を支払う」といった条項を入れることで、一定のけじめや抑止力を持たせることができます。

そうした内容を明文化することで、「ただ許す」という形よりも、安心感と納得感が得られるという声も多く聞かれます。

公正証書の内容をめぐっては、当事者間で意見が対立することもあるかもしれません。

不貞をした側は謝罪の気持ちがあっても、時間の経過とともに立場の偏りに疲れたり、不貞をされた側も「なぜこちらが我慢しなければならないのか」と思い悩んだりすることがあります。

こうした状況の中で、話し合いを円滑に進めたい場合には、ADR(裁判外紛争解決手続)の利用も有効です。

第三者である調停人が話し合いをサポートすることで、感情的になりすぎることなく、お互いに納得のいく合意を目指すことができます。さらに、ADRで成立した合意内容を、そのまま公正証書として作成することも可能です。

不貞という大きな問題を経て、なお関係修復を選ぶという決断は、並大抵のことではありません。

だからこそ、「もう一度、きちんとやり直すために必要な約束を形にする」ことは、とても重要です。

口約束ではなく、しっかりと文書にすることで、今後の夫婦関係に安心と信頼を取り戻す一歩となるでしょう。

ここまで読み進めていただきありがとうございます。

不貞には様々な問題が絡み合い、簡単に結論を出すことはできません。ぜひ、おひとりで悩まず、専門家に相談してみてください。