このコラムでは、家裁の離婚調停の基本をお伝えした後、離婚調停を申し立てる際に提出が必要な申立書及びその他の付随書類の書き方について、早期解決・円満解決のために押さえておきたいポイントをお伝えします。
離婚調停の3つの基本知識
離婚の種類は4つ
協議離婚
4つある離婚の形式の中で一番多いのが協議離婚で、離婚全体の10分の9を占めます。協議離婚は、家庭裁判所を利用せず、離婚届を役所に提出する形で行う離婚を言います。夫婦二人で話し合って合意する場合もありますが、弁護士に依頼した上で協議離婚する人たちもいます。
調停離婚・審判離婚
家庭裁判所の離婚調停を利用して協議し、合意成立の上離婚することを調停離婚と言います。調停離婚の場合、離婚届の提出は必要ありません。
審判離婚は、数としてはかなり少ない例外的な離婚の方法です。例えば、離婚調停でほとんど合意していたのに、何らかの事情で急に相手が調停に出てこなくなったような場合に審判にて離婚を決定することもあります。
裁判離婚
調停で合意できなかった場合に次の方法として選択するのが離婚の裁判です。離婚全体の中で裁判離婚が占める割合はわずか1%ですので、かなり紛争性が高いケースということになります。
ちなみに、「調停前置」という制度があり、必ず調停を経た後でなければ裁判をできないという約束事がありますので、「とにかく早く離婚をしたい!」という場合でも調停から始める必要があります。
離婚調停での話合いの構造
調停委員を介した話合い
離婚調停は、夫婦だけの話合いとは異なり、男女ペアの調停委員を介した話合いとなる点が特徴です。全ての案件に担当の裁判官が一人割り当てられますが、裁判官は調停室にはいません(裁判官は、同時間帯に行われる複数の調停を担当しており、必要がある場合のみ調停室に現れます。中には、裁判官の顔を見たのは最後の成立時のみ、という場合もあります。)。
別席調停
約30分ごとの交代制で、調停委員のいる部屋に夫婦それぞれが交代で入室し、調停委員に対して話をします。そのため、相手と顔を合わせることはありません。
この点については、相手の顔を見なくてすむというメリットとも思われますが、話が伝達形式となり、自分の主張が相手に正しく伝わらなかったり、相手の気持ちがよく分からなかったりと齟齬につながる要素でもあります。
調停委員は中立の立場
よくある勘違いとして、調停委員を見方につけようと考えたり、もしくは味方になってくれない調停委員に腹を立てたりする人がいます。しかし、調停委員はあくまで中立の立場であり、どちらの味方でもありません。
調停委員は法律の専門家ではない
調停委員の多くは、普通の会社員や教育や福祉関係の活動をしていた人、または、社会貢献に興味がある人や地域の名士のような人など、バックグラウンドは多岐にわたります。調停委員になった後、研修を受ける機会もありますし、自己研鑽に励まれる方もいますが、弁護士や裁判官と同じ法律の知識を持っているわけではありません。
また、多くは(特に男性調停委員は)、仕事で一線を退いた後、つまりは退職後の社会貢献として調停委員をされますので、必然的に高齢です。
そのため、知っている法律の知識は当事者のみなさんがインターネットで調べて得られる情報と大きく変わりません。また、意思疎通の能力や調整の能力も、その年齢も加味すると、個人差がとても大きいと言えます。
調停委員に委ねすぎず、あくまで自己決定のお手伝いをしてもらうような感覚で調停に臨むようにしましょう。また、相手に伝えてほしいことや、裁判官の意見を聞いてもらいたいことは明確に意思表示が必要です。
不成立になったらどうなる
離婚調停は、婚姻費用や面会交流の調停と異なり、調停が不成立になったからといって、自動的に審判に移行するわけではありません。また、相手方が調停に応じなかったときも同様です。
そのため、相手方が不出頭だったり、応じてはくれたけれど、調停の結果不成立で終了した場合、離婚訴訟を提訴するのか、するとしてその時期はどうするのか、といった判断が必要になります。
費用
調停をするには高額な費用がかかると思われるかもしれませんが、弁護士に依頼せず、自分で調停をした場合、費用はかなり安価です。詳細は以下にご紹介します。
印紙代
印紙代1200円が必要になります。比較的大きな裁判所であれば、裁判所の地下などに郵便局や司法協会が入っており、その場で購入することができます。
ただ、離婚調停のほかにも同時に婚姻費用請求調停も申し立てる場合、別途1200円が必要となります。
切手代(予納)
裁判所から当事者への連絡方法のほとんどが郵送です。そのため、切手が必要となりますので、申立ての段階であらかじめ予納を求められます。現金ではなく、指定の金額と枚数の切手で予納します。金額にすると1000円程度です。
切手の予納については、各裁判所で若干異なりますので、管轄の裁判所に電話で確認するか、窓口で直接申し立てる際に確認しましょう。
その他
その他の費用としては、提出を求められる戸籍謄本の取得費用等が挙げられます。大方の書類の取得費用は、書類1通あたり500円未満です。
申立て書類の書き方
申立書
申立書の取得方法
申立書は裁判所に直接出向いて入手することもできますし、裁判所のHPに記載してある申立書の書式をダウンロードする方法でも可能です。
申立書の書き方
書き方についても、裁判所のHPの記載例を参考にすれば、それほど難しくはありません。記載例を見ていただければわかりますが、ほとんど自由記載欄はありません。
財産分与や養育費の金額について、いくらにすればよいか分からない、まずは相手の金額を聞いてみたいというときは、「相当額」と記載することも可能です。
事情説明書
事情説明書の取得方法
多くの裁判所では、申立書のほかに「事情説明書」の提出を求められます。申立書と同じく、裁判所に直接出向いて入手することもできますし、裁判所のHPに記載してある事情説明書の書式をダウンロードする方法でも可能です。
事情説明書の書き方
事情説明書は、夫婦の実態についてや調停に役立つ情報など大切な項目が多く、実は申立書よりも内容が濃い書類と言えます。
過去の係属歴
「1 この問題でこれまでに家庭裁判所で調停や審判を受けたことがありますか」という質問は、過去に同様の問題で係属歴があるか否かを問うものです。この質問がイエスであれば、担当の書記官が過去の調停や審判の記録を探し、今回の調停の書類と併せて担当の調停委員や裁判官が見られるようにします。
こうしておけば、過去の話合いの経緯や結果が分かり、今回の調停の進行に役立てることができるからです。
調停で対立が予想される点
担当の書記官・調停委員・裁判官があらかじめ、争点を把握しておくための項目です。こうすることで、担当者は十分な準備をすることができますので、できるだけ正確に記載しましょう。
同居関係
現在の当事者の生活状況を把握するためには、正確に親族の同居関係を知っておくことが必要です。子どもだけではなく、両親や兄弟姉妹にも同居者がいる場合、もれなく記載しておきましょう。
収入
本来、養育費や婚姻費用の算定表を使用する場合、必要な情報は税込みの年収です。しかし、実際の生活実態を把握するため、この項目では、手取りの月収と賞与を質問しています。
財産
財産分与の基礎となるような情報を求められています。実際に調停で財産分与の協議が始まると、もっと詳細に〇〇銀行にいくら、といった形で詳細につめていきますが、ここでは、「ざっとした」財産の把握を目的にしています。
そのため、分かる範囲で記載すれば大丈夫です。
夫婦の不和のいきさつ
唯一、この項目だけが自由記載です。これまでの夫婦の不和の経緯をこの欄内に事情を書ききるのは難しいと思いますので、できれば、別紙記載と記入した上で、A4一枚程度の別紙を作成するのがいいでしょう。記載内容はみなさんそれぞれ異なると思いますが、できれば以下のような内容を含んでいるといいのではないでしょうか。
- 夫婦のなれそめ
- 夫婦不和に至った原因(いつ頃から、何が原因で)
- 申立ての直接的な原因(引き金になった出来事等)
- 離婚条件に関する主張
- 予想される相手の反論
例文:私と夫は大学時代のサークルが一緒だったことがきっかけで、大学時代からお付き合いを始めました。お互い就職し、付き合いも長くなってきたことから、社会人3年目になるころ結婚しました。結婚当初は楽しくやっていたのですが、結婚2年目で私が第一子を出産したころから関係がおかしくなってきました。
私は、出産を機に仕事を辞めましたが、夫の稼ぎが十分ではなかったことから、生活が苦しくなり、口論が増えました。特に、昨年8月頃から、生活費として渡される金額が10万円から8万円に減額され、子どもの必需品を買うのも大変になりました。どうして渡される生活費が減ったのか疑問に思っていたところ、夫が出張と称して家を空けることが多くなってきました。
私は、夫の浮気を疑い、いけないと思いながらも夫の携帯電話をチェックしました。すると、案の定、女性との甘いメールのやりとりが残されていました。夫を問い詰めたところ、夫は、謝るどころか私が勝手に携帯電話を見たことに怒り出しました。私は、夫が信じられなくなり、その件をきっかけに、昨年12月から現在に至るまで、私と子どもが家を出る形で別居生活を送っています。過大な要求をするつもりはないですが、相場通りの養育費、慰謝料、財産分与を求めたいと考えています。
これまでの協議の経過からすると、夫も離婚自体には応じると思いますが、金銭面でもめると思います。
上述の例では、夫婦のなれそめから書いていますが、必ずしも必要な記載事項ではありません。ただ、大切にしてほしいのは夫婦の「ストーリー」です。読み手である調停委員に夫婦のことをよく理解してもらうことが、より良い調停に繋がります。そのため、ぶつぶつと切れた端切れのような主張を羅列するよりも、頭にすっと入ってくるストーリー性のある記述を簡潔に記載することを心がけましょう。
進行に関する照会回答書
進行に関する照会回答書の取得方法
申立書と同じく、裁判所に直接出向いて入手することもできますし、裁判所のHPに記載してある書式をダウンロードする方法でも可能です。
進行に関する照会回答書の書き方
進行に関する照会回答書は、調停の進行を予測するための情報を得るのもので、多くは相手の反応を予測して回答するような内容になっています。
特に、危険性の有無の判断はとても重要ですので、相手にDVがあり、絶対に顔を合わせたくない等の希望があれば、「7」の自由記載欄に記載しておきましょう。
また、初回の調停日の希望については、6の欄に記載しておくことが可能です。
子についての事情説明書
子についての事情説明書の取得方法
申立書と同じく、裁判所に直接出向いて入手することもできますし、裁判所のHPに記載してある書式をダウンロードする方法でも可能です。
子についての事情説明書の書き方
質問項目は、全て子どもに関するものです。子どもと別居親との関係(会っているか否か)やそこに至る事情、また、父母の紛争について子どもがどのような説明を受けていて、何か意見があるのか、また、親として何か子どものことで裁判所に言っておきたいことがあるのか、そういった項目になっています。
これらの項目は、多少面会交流に関係があるくらいで、財産分与や養育費といったその他の離婚条件の取決めにはあまり関係がないようにも思われます。
しかし、家庭裁判所は子どもの福祉を何よりも優先します。そのため、直接的には関係がなかったとしても、子どもの事情を正確に把握した上で進行します。親の離婚に関し、子どものことで何か心配事があれば(例えば、親の不和により不登校になっている等)、しっかりと記載しておきましょう。
非開示の希望に関する申出書
そして、全事件共通の書式として、非開示の希望に関する申出書というものがあります。
これは、見ていただくと一目瞭然ですが、住所をはじめとして、提出書類の中に相手に知らせてほしくない秘匿情報がある場合に使用するものです。
全員提出が必須ではなく、秘匿したい情報がある方のみが提出する書類です。例えば、DV被害者の方が住所を相手に知られたくないという場合に使用します。
申立書や付随書類を記載する目的
このように様々な書類を提出する目的は、裁判官、調停委員、書記官、家裁調査官といった調停に関わる人たちに、事前に事情を知ってもらうためです。
通常、第一回目の調停で、調停委員から、申立てに至った理由(過去の婚姻生活を含む)や、主張したい内容について聞かれますが、とても多岐にわたるため、どうしても時間がかかってしまいます。
話す方にも聞く方にも整理して話す力量が求められますが、そう簡単ではありません。事前に書面を出しておくと、調停委員も裁判官も事前に読んだ上で調停にのぞみますので、話がスムーズです。
なお、これらの申立書類は、自動的にもしくは相手方の希望により写しが相手方にも渡されます。ですので、相手に知られたくない情報は書かないか、非開示希望を出した上で提出するのがいいでしょう。また、あまりに主観的な記述は相手の反感を買うだけですので、できるだけ客観的に記載することも大切です。
まとめ
何だか難しそうな家裁への申立て手続きですが、順を追って必要書類を記載していけば、けして専門家でなくても記載できることが分かっていただけたと思います。
ただ、家庭裁判所の離婚調停は、「専門家ではない調停委員に複雑な話合いの仲介を依頼する」ものであり、また、長期間の争いになることは避けられませんので、自分の力で粘り強く取り組むことが求められます。
そのため、自分たちだけでは解決ができないけれど、家裁で長期間にわたって争いたいわけではないという方は、是非、民間の調停機関であるADRをご検討いただければと思います。
ADRについては以下をご参照ください。
また、ADRの前に事前に離婚カウンセリングをお受けになりたい方やADRをお申込みは以下よりお願いいたします。