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書籍紹介「ステップファミリー」

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離婚問題に直面しているとき、多くの方は、「再婚なんて今は考えられない」と言います。しかし、一方で、子どもの年齢が低い場合など、「子どものためにも再婚してあげたい」と考える方もおられます。

ただ、子どもがいる場合の再婚は、特有の難しさも伴うようです。

今日は、ステップファミリー研究の第一人者である野沢慎司先生(明治学院大学社会学部教授)のご著書「ステップファミリー」(角川新書:野沢慎司、菊地真理)をご紹介します。

「ステップファミリー 子どもから見た離婚・再婚」
(野沢慎司・菊地真理 角川新書)

 

第1章 家族の悲劇をどう読むか

第1章では、2018年3月に目黒区で起こった船戸結愛ちゃん虐待死事件を取り上げています。

この事件の加害者である「親」が継父であること、そして、その継父が語った「親になろうとしてごめんなさい」という言葉に注目し、痛ましい事件の背景を紐解いていきます。

著者は、結愛ちゃんの継父は、周囲から「親になること」を求められ、自分でもそうあるべきだと追い込まれていく過程の中で、結愛ちゃんを死に至らしめるほどの虐待へと発展していったと指摘しています。

もちろん、「親になろうとした」ことが虐待の言い訳にはなりません。そもそも、毎朝4時に起床し、ひらがなの練習をさせたり、食事制限を強いるなど、命を奪う結果につながる言動は、親の愛情からもっとも遠いところに位置する言動とも思われます。

しかし、「血縁がなくても、愛情さえあれば親子のようになれる」という呪縛と継父の支配的な性格、そして転居やDV等、様々な負の要素が相まって、結愛ちゃんの虐待死という悲劇につながっているように感じました。

そして、著者は、千葉県野田市の栗原心愛ちゃん虐待死事件にも言及し、「再婚したら、再婚相手が新しいお父さん(お母さん)になるという社会全体の常識が悲劇を生む原因の一つになっていると指摘します。

このように、第1章では、虐待死事件を題材に、ステップファミリーの「落とし穴」を指摘しています。いたいけな子どもの死亡事件につながる「落とし穴」だとすると、それを社会が放置してはいけないのではないか、そんな気持ちにさせられました。

第2章 離婚・再婚の変化と「ふつうの家族」

第2章では、日本の歴史を遡って、前近代から現在に至る離婚・再婚の制度の実態と変遷が紹介されています。

興味深い指標がいくつか示されるのですが、戦前の離婚の実態(特に明治以前)は特に面白く、みなさんが抱いている既存のイメージが覆されるのではないでしょうか。また、「普通の家庭」、「一般的な家庭」が作り上げられていく過程も詳細に記述されており、それが再婚家庭の落とし穴に繋がっていくことも示唆されます。

そして本章の最後では「子どもの権利条約」について記述され、重要なポイントとして「親が子どもを所有するのではなく、子どもが親を失わない権利を持つ」という発想の転換が紹介されています。

離婚業務をしていると、本当に大切な視点だと実感するのですが、本書を読み進めていくうちに、再婚においても、「子が親を失う」という事態が蔓延していることに気付かされました。

第3章 「ふたり親家族」を再建する罠、第4章 世帯を超えるネットワーク家族へ

そして、第3章及び第4章は、ステップファミリーの具体的な事例紹介です。特に、第4章では、新しい形のステップファミリーとして、実父母との関係を継続しながら、継親と新たな関係を築いていく事例がその過程も含めて紹介されています。

私が特に印象に残ったのは恵さんの事例です。恵さんは、自分にも相手にも子どもがいる状態で再婚しました。カオスで難しい家庭状況が目に浮かんできますが、同居生活は特に子どもたちに負の影響をもたらしたようでした。

そんな状況を打開するために、恵さんは「二世帯住宅的に生活空間を分ける」というウルトラCとも思えるような生活様式を実現します。

「再婚したら、継子と実子を同じように扱い、同じように愛さなければならない」という呪縛から見事に逃れたように思われ、とても思考が柔軟で素晴らしい解決方法だと思いました。

第3章と第4章では、海外の事例や子どもの視点から語られた事例も含め、豊富な実例が紹介されています。これから再婚する方、離婚・再婚家庭を支援する方にとっては、具体的なイメージを持てる必読箇所のように思われました。

第5章 ステップファミリーの未来へ

第5章では、「ステップファミリーの未来へ」と題して、諸外国の制度や研究も踏まえつつ、日本におけるステップファミリーのあるべき姿を提案しています。

特に印象に残ったのが、「ステップファミリーは、普通の家族とは違うけれど、普通の家族より劣った家族ではない」という記述です。本書をここまで読み進めていくと、本当にその言葉に納得できます。

実親と継親の違いを理解し、その双方が揃っていることのメリットをうまく利用することができれば、ステップファミリーならではの強みが享受できるのではないかと感じました。

この本の一番のメッセージは、継親に対する「親を目指さないで!」というものです。そして、もちろん、子どもにも継親の子どもになることを強いてはいけないわけですし、ステップファミリーをとりまく専門家も学ばなくてはいけません。

離婚後、ついつい親は再婚によって失ったものを取り戻そうとしてしまうわけですが、社会の概念がそうさせてしまっている部分もあるようです。

実父母が揃っている家庭が「最良」とは限らず、色々なパターンの家庭があり、それぞれの良さや特徴があることを認識できる社会になれば、多様性ある家庭で育つ子どもの生きやすさも増すのではないかと感じました。


お勧め情報

ステップファミリーに関する情報を発信しているサイトや団体はいまだ少ないのが現状ですが、以下の団体のサイトは専門的な内容のみではなく、実際のステップファミリーの声に触れることもできる貴重なサイトです。

SAJ(ステップファミリー アソシエーション オブ ジャパン)

特に、こちらのHPに掲載されている以下のコラムは、ステップファミリーの落とし穴が分かりやすくまとまっていてお勧めです。

「まちがった思いこみ」

また、日本離婚・再婚家族と子ども研究学会という学会もあります。こちらは、どちらかというと専門家や研究者が参加する学会ですが、HPに掲載されている以下の本はとてもお勧めです。

離婚した両親への手紙

こちらで紹介されているのは、シンガポールで出版された本を野沢先生が翻訳されたものです。子ども目線のことばが心に刺さります。シンプルでかわいいイラストにも目を引かれます。再婚がテーマではありませんが、離婚後の両親に子どもが何を望んでいるかが端的に描かれています。短時間で読めますので、是非、ご覧になってみてください。

そして、以下の書籍もお勧めです。専門的で読みやすいステップファミリーの書籍の代表格です。

「ステップファミリーのきほんをまなぶ」
緒倉珠巳・野沢慎司・菊地真理 金剛出版)

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