「夫が定年を迎えたら、この家を出よう」
「退職金が出るまでは、なんとか我慢しなくては」
長年、家族のために自分を後回しにしてきた女性にとって、熟年離婚は人生の再スタートをかけた大きな決断です。
しかし、その「タイミング」について悩む方は少なくありません。
多くの人が「退職金というまとまったお金が入る定年後まで待つのが正解」と考えがちです。
しかし、実はその「待ち」の姿勢が、かえってあなたの将来のリスクを広げている可能性があることをご存知でしょうか。
本コラムでは、専門的な法律知識や実際のトラブル事例を踏まえ、なぜ「定年前」の決断があなたの未来を救う「吉」となり得るのか、その7つの理由を解説します。

理由1:就労の可能性
熟年離婚を考える際、最大の不安は「一人で食べていけるか」という経済的な自立でしょう。
この不安から「定年まで我慢して、少しでも多くの退職金や年金を……」と考えがちですが、実は「年齢」こそが最大の資産です。
50代のうちに動くことは、その後の生活の安定感を大きく左右します。
もちろん、50代でも既に厳しいですが、正社員でなかったとしても、パート等で足りない部分を補うという方法もあります。
理由2:住まい
意外と見落としがちなのが、離婚後の「住まい」の問題です。
新しく賃貸物件を借りる際や、コンパクトなマンションを購入しようとする場合、「現役で働いている(収入がある)」というステータスは非常に強力な審査基準になります。
定年退職し、年金生活に入ってからでは、たとえ預貯金があっても保証会社の審査が通りにくくなるケースが少なくありません。
「まだ働けるうち」に生活の拠点を確保しておくことは、賢い出口戦略の基本です。
夫にとっても同様のことが言えます。
離婚時の財産分与で自宅を売却したら住む家がなくなってしまう…
こうした不安を抱えていると、離婚に応じられなくなってしまいます。
理由3:健康寿命を自分のために使う
熟年離婚後に後悔する人の多くは、「もっと早く決断すればよかった」と口にします。
60代後半から70代にかけては、健康問題が顕在化しやすい時期です。
まだ体が自由に動き、新しい環境に適応できる体力があるうちにリスタートを切ることで、新しい趣味やコミュニティ、あるいは新しいパートナーとの出会いなど、自由な時間を最大限に享受できる期間を長く確保できます。
理由4:退職金・資産の「使い込み」と「目減り」を回避
「定年まで待てば、まとまった退職金が手に入る」——そう信じて我慢を続ける方は多いですが、ここには大きな落とし穴があります。
実は、定年を待つことには経済的な「リスク」も伴うのです。
退職金は「もらう前」でも分与の対象になる
多くの方が誤解していますが、退職金は必ずしも「支給された後」でなければ分けられないわけではありません。
今の時点で「自己都合退職したと仮定した場合の退職金」などを算定の基礎として、財産分与を求めることが可能です。
「もらえるまで別れられない」という思い込みを外すことが、賢い選択への第一歩となります。
夫による「退職金の使い込み」リスク
もし定年まで待ったとしても、退職金が全額あなたの目の前に現れるとは限りません。
残念ながら、長年の抑圧から解放された(あるいは仕事のストレスから解放された)夫が、趣味や投資、あるいは別の女性やギャンブルなどで、退職金を一気に使い込んでしまうトラブルは後を絶ちません。
一度使われてしまったお金を取り戻すのは至難の業です。

理由5:婚姻費用
もし、夫が離婚に応じてくれない場合、あなたが取りうる可能性の高い選択肢が「別居」です。
別居すると、婚姻費用を夫に請求することが可能ですが、この婚姻費用は収入によって決められています。
夫が現役で働いている場合、「妻が家を出て行った」という状態において、籍が入っているというだけで高額な婚姻費用を支払うのは嫌なものです。
そのため、婚姻費用の支払が離婚への動機づけになることがあります。
一方、再雇用で年収が半減している、もしくは年金生活になっているといった場合、婚姻費用の金額はぐっと下がり、別居中のあなたの生活が苦しくなるリスクがあります。
理由6:夫の「定年後」というストレスフルな日常
夫が定年を迎えると、それまでの生活リズムは激変します。
一日中夫が家にいる、いわゆる「濡れ落ち葉」状態や、食事の支度に追われる日々。
これまで仕事で外にいた時間が「監視」や「依存」に変わることで、精神的に追い詰められてしまう女性は少なくありません。
心が摩耗しきってしまうと、離婚に向けた複雑な話し合いや手続きを行うエネルギーさえ奪われてしまいます。まだ気力と判断力が充実している50代のうちに、冷静に交渉を進めることは、自分自身を守るための「先行投資」なのです。
理由7:夫の執着
もし、夫が離婚を拒否しそうなら、なおさら定年前の別居と離婚がお勧めです。
夫にとって、定年は「仕事の喪失」でもあります。
友人付き合いや趣味が多い夫ならまだしも、仕事人間だった夫にとって、定年後は家族が全てになります。
その家族から見放されることは耐えがたく、どんなに関係が悪かったとしても、形だけは保っていたいと籍を抜いてくれないことがあります。
また、精神的・体力的な問題においても、希望しない離婚を受け入れ、リスタートする気になれません。
第三の離婚協議の方法-ADR
長く連れ添ったからこそ、どのように離婚するかで次の人生が変わってきます。
すなわち、これまでの自分を否定するような離婚ではなく、「大変なこともあったけど、自分なりによく頑張った。」と思えるような離婚が理想的です。
そのためにも、夫とどう話し合っていくのかが大きなポイントになります。
本来であれば、二人でじっくりと話し合い、必要なことを取り決めていくのが理想的です。
しかし、相手が話し合いに応じてくれない、応じてくれても喧嘩になる、「離婚しない」の一点張りで話にならない…
そんな方も多いのではないでしょうか。
ましてや、長く一緒にいた分、財産分与は複雑になり、専門家なしでは難しい場合も少なくありません。
そんな時にお勧めなのが民間調停のADRです。
ADRは民間の調停機関ではありますが、いわゆるADR法に基づき、法務省が管轄している事業です。
夫婦では話し合いができない、だからといって弁護士に依頼して裁判所で争いたいわけではない…
そんな方はぜひADRの利用を検討してみてください。
さいごに
熟年離婚という言葉から想像されるのは「余生」ですが、人生100時代の今、これまで生きてきた長さと同じくらいの年数が残されている可能性があります。
これは、もはや「余生」として過ごすのはもったい長さです。
ただ、もちろんリスクもあります。例えば、分与対象となる退職金は減額されますし、状況に応じて検討しておくべきことは様々です。
離婚すれば幸せになるというわけではありません。大切なのは、あなたらしく過ごせるかどうか、ではないでしょうか。
ぜひ、お一人で悩まず、ご相談ください。
あなたがあなたらしく生きていくためのお手伝いをさせていただければと思います。