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これからの家族―大切な個人としての尊重ー

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2019年の日本は、元号も新しくなり、新しい時代の幕開けをしました。新しい時代、これからの日本の家族はどんな風に変化していくのでしょうか。

 今回は、立命館大学法学部教授二宮周平先生のご著書「多様化する家族と法Ⅰ個人の尊重から考えるー」をレビューし、これからの家族について考えたいと思います。

 まずは、家族について定めている法、現在の民法の特徴から、確認してみましょう。

 現行民法

 19471222日、旧民法が改正され、翌年11日から施行されたのが現行民法です。そして、その現行民法の特徴は以下の通りです。 

  •  家族制度を廃止し、男女平等とする
  •  家族全体をひとまとまりとするのではなく、「夫と妻」や「親と子」といった個人と個人の権利義務関係として規定した
  •  配偶者相続権や財産分与請求権を創設し、夫婦財産の形成に対する妻の寄与を評価した
  •  家族に関する様々な事柄を当事者の協議と合意によって決めることを基本とし、協議が整わないときは家庭裁判所が援助することとした

戦前は、祖父母やきょうだいなども含めた大家族が標準的な家族像でした。しかし、現行民法のこれらの4つの特徴により、「夫婦と子ども」からなるいわゆる核家族が「標準的家族像」となっていきました。

また、この時代、女性は、家事・出産・育児・看病・介護を担うとされ、性別分業が前提にありました。まさに、「男は外で仕事、女は家で家事・育児」のイメージです。

そのため、民法が新しくなっても、個人の尊重や男女平等の方向に作用するのでなく、女性が「下支え」となる社会を作り上げていったのです。

女性の下支えとは

それでは、二宮先生が考える「女性の下支えの役割」とは、どんなことなのでしょうか。以下でみていきましょう。

男女平等の不徹底

婚姻最低年齢の格差にみられるように、女性は出産・育児が出来ればよいとされ、自分の生き方よりも子どもの母になることが重視されました。

個人の尊重の不徹底

法律婚の尊重と夫婦の一体感が重視されました。夫の氏による夫婦同氏が当然とされ、そこに主従関係が生まれました。一方で、不貞の相手方の不法行為責任、婚外子の法的差別、有責配偶者からの離婚請求の制限といった制度が妻の座を保障しました。

家族モデルの創出

稼ぎ主である夫の氏を夫婦の氏に選択し、夫を戸籍筆頭者とすることで、「性別役割分業型家族が標準」という意識が浸透しました。

以上のような特徴を持つのが現行の民法の考え方です。しかし、果たして今の日本の家族の現実に、そして、将来の日本社会の在り方に、現行民法は適応しているのでしょうか。

日本の変化

 実は、日本社会も少しずつではありますが、男女平等・家族の多様化の承認・個人の尊重の方向に動き出しています。

 次はそんな動きを追っていきたいと思います。

国連女性差別撤廃条約批准

1985年、日本は国連女性差別撤廃条約を批准しました。この条約では、伝統的な性別役割の克服が課題だとされています。また、女性の社会進出が進むとともに、日本社会が変化していきました。

そして、家族の多様性、個の尊重が意識され、生き方の選択肢が広がったのもこの時期です。

・夫婦別姓の実践
・夫婦別姓・同姓選択制度・婚外子差別の廃止を求める市民運動
・同性愛・性別違和の当事者も主張を始める

民法一部改正法律案要綱

19962月、民法の一部を改正する法律案要綱ができました。二宮先生によりますと、個人の尊重と両性の本質的な平等にできるだけ近づこうとしたのがこの改正とのことです。

・婚姻最低年齢男女とも18歳に統一
・女性のみの再婚禁止期間を100日に短縮
・選択的夫婦別姓制度の導入
・5年程度の婚姻本旨に反する別居を裁判離婚の原因とする
・婚外子の相続分差別の廃止

男女共同参画者間基本法

1999年、男女共同参画社会基本法が成立しました。この法律では、男女が互いにその人権を尊重しつつ責任を分かち合い、性別にかかわりなく、個性や能力を十分に発揮することが出来る社会の実現を目指しています。 

成年後見制度開始

2000年、成年後見制度が導入されました。これにより、判断能力の低下した知的障がい者や高齢者の権利擁護や財産管理が保障されました。

 介護保険法の成立

2000年、介護保険法が成立しました。要介護高齢者が住み慣れた地域でいつまでも暮らすことを目指し、介護の社会化を制度化したのです。

家庭内の問題をオープンに

そのほか、以下のような法律も成立しています。

2000年 児童虐待防止法の成立
2006年 高齢者虐待防止法の成立
2001年 DV防止法の成立 

 これらの「家庭内の人権保障としての法」が整備されることで、家庭内は閉ざされた空間ではなくなっていったのです。

 拡大家族と融合家族

家族の捉え方は、時代・社会・人によって異なり、多様です。そのため、大きな家族から核家族に変化してきた日本の現状とは異なる家族観を持つ国もあります。そこで、ご著書内で紹介されているのがカナダの2つの家族観です。

 融合家族

融合家族とは、両親が離婚や再婚を繰り返し、家族メンバーに入れ替わりがある家族のことをいいます。家族の変化によって、以前のメンバーとは異なるメンバーで「時間、愛情、お金」をシェアすることになりますが、それでも子どもの両親はいつまでも両親であるという考え方です。

拡大家族

拡大家族は、親が病気のため子の養育が出来ず、親に代わって祖父母が子の養育を行う家族や、里親や訓練を受けたスタッフが子どもの世話をする家族のことをいいます。

カナダの家族観の根底には、家族の形は多様であり、子どもがこの事実を受け止め、両親との絆を保ちながら、社会の援助を受けて成長できることを保障しようとする考え方があるようです。

カナダの考え方に比べると、日本は戸籍上の家族を基準にして色々な事が決まっていくので、個人の考え方や生まれついた環境によって平等が守られない、不自由な感じがしますね。

家族の多様化のために

 では、日本は、個人を尊重し、家族の多様化に適応するために、まず何をすべきなのでしょうか。二宮先生は次のようにお考えです。

個人尊厳のための法整備

まず、個人の尊厳を守るため、以下のような法整備をすることが必要です。

  • 選択制夫婦別氏制度の導入
  • 戸籍の個人単位化
  • 同性婚の導入
  • 性別違和当事者の性別取り扱い変更要件の緩和など

婚姻への誘導をやめる

日本は、諸外国に比べて婚姻制度が強く、籍を入れずに事実婚を選択する夫婦が少ないのが特徴です。法律婚は事実婚より様々な点で優遇されていたりと、法律婚への誘導をやめなければ、夫婦の多様性は実現できないのです。

社会保障税制上における優遇

社会保障税制において、法律婚の夫婦が優先されていたり、専業主婦家庭を原則とする考え方があります。このような法律婚優遇を廃止することが必要です。

婚姻と親子関係の分離

婚姻関係と親子関係を切り離して考えることも必要です。父子関係の成立・否定について、婚内子・婚外子の区別をなくしたり、婚姻・離婚・非婚を問わず父母の親責任を原則化するといったことです。

また、特別養子縁組・生殖補助医療の利用を事実婚や同性カップルに拡大していくことも求められています。

血のつながりより子を養育する意思を重視

血縁と法的親子関係の枠を超えて、子の養育を保障するすることが大切です。血がつながっているから親子なのではなく、子を養育する中で親子になっていくのです。

複数の大人たちが自分の意思に基づいて子の養育に関わる。そういった意思が基本であるという考え方に転換をする必要があります。 

具体的にできること

こまで、二宮先生が記載された内容をご紹介してきましたが、どうやら、社会の変化のスピードに法、制度、慣行が追いついていないのが日本の現状のようです。

そこで、私たちがちょっとした心配りでできる「個人の尊重」について考えてみました。

性差に関する意識改革

言動はもちろんのこと、思考から変えていくことが必要です。「女のくせに」とか、「男なのだから」と心の中で思うこともやめ、対等な関係の中で考えを伝えあうのはどうでしょうか。

違いを埋める(認める)

ADRの話合いの中でも、双方の考えが異なることがよくあります。そんなとき、自分の意見が通れば勝ち、相手の意見が通れば負け、と考えるのではなく、双方の溝を埋めるような案はないかと考えることが必要になってきます。

これは、日常の家庭生活の中でも言えることではないでしょうか。相手との考えの違いを勝ち負けでとらえるのではなく、溝を埋めるにはどうすればよいか(もしくは「溝」があることを認める。)。そんな視点を持っていただければと思います。

できることから

家族の多様化といっても、ちょっとテーマが大きすぎます。そのため、多様化のために何をすればよいか、戸惑ってしまう人もいるのではないでしょうか。

まずは、今、目の前にいる人が暮らしやすくなるために、自分にできることは何かと考えてみることから始めてみてはどうでしょうか。

子どもの価値観を尊重する

私たち大人は、子どもの保護という名目で、子どもの権利を阻害してしまうことがあります。相手が子どもであっても、自分の価値観をを押し付け過ぎず、子どもが自分の考えを話しやすい環境づくりに努めましょう。

さいごに

家族のためのADRセンターも今年たくさんの家族のみなさんにお越しいただきました。

初めて出会う一人一人の方々の事情・家族内の問題・将来に向けての考え方はまさに多様でした。それぞれの皆さんが、自分の家族の将来の幸せを願い真剣に考える姿に心打たれました。

そして、スタッフとして共に考えさせていただける光栄に感謝しております。

どうか、辛い時は、ひとりで抱え込まずご相談いただけますことを願ってやみません。

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