離婚一般

NG?OK?財産分与を後回しにして離婚を先行させることの是非

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小泉:今日は、当センターの調停人をしてくださっている弁護士の白井先生に先に離婚をして、その後で財産分与の協議をする、ということの是非についてお話を聞きたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

白井:よろしくお願いいたします。

小泉:ADRでも財産分与でもめているという場合、離婚を先行させて、財産分与のみ離婚後に協議してもいいのか、というご質問があったりします。例えば、各種ひとり親手当を受給するためには既に離婚が成立していることが必要ですし、都営住宅・県営住宅などのひとり親枠も同様です。

もしくは、お子さんの進学までには離婚を成立させて名字を変更したいとか、様々な事情で早く離婚をしてしまいたい、でも財産分与が合意できない、なんていう状況をお聞きすることがあります。

そんな場合に離婚を先行させて、後から財産分与についてじっくり話し合うという方法があることまでは知っている人も多いのですが、そうすることで何かデメリットがないかを不安に感じる方もおられるようです。

また、もし逆にメリットがあるのであればそういったことも教えていただければと思うのですが、いかがでしょうか。

財産分与の請求における審判と裁判の違い

白井:そのご質問については、ケースバイケースの側面が大きいのですが、一点、覚えておいていただきたいのが審判と裁判の違いです。少し紛争性の高いケースで、財産分与について、夫婦だけでは合意ができず、家庭裁判所を利用することになったとします。こうした場合に手続きの流れに大きな差が出てきますので、それをお伝えしたいと思います。

離婚調停が不成立になった場合

まず、夫婦二人では財産分与が合意できず、離婚調停を申し立てたとします。しかし、調停でも残念ながら合意ができず、不成立にて終了になったら次はどうなるでしょうか。

小泉:離婚調停が不成立になると、次は裁判だと思いますが、自然に裁判に移行するわけではないので、どちらか一方が申し立てる必要があるんですよね。

白井:はい、そうですね。しかも、裁判ともなれば、さすがに自分だけでは難しいので、弁護士に依頼することになるかと思います。そうなるとある程度の費用がかかりますし、時間的にも、裁判であれば、1年はかかると思っていただいた方がいいかもしれません。

小泉:確かに、離婚裁判と言えば、お金と時間がかかって、結果的に精神的な負担もかかる、そんなイメージがあります。

財産分与の調停が不成立になった場合

白井:ですよね。一方で、離婚を先行させた場合は、財産分与のみを調停で協議することになりますが、財産分与の調停が不成立になるとどうなるがご存知ですか。

小泉:財産分与の調停の場合は、不成立になると審判移行することになりますよね。

白井:そうなんです。調停が不成立になった後、自動的に審判に移行しますので、どちらか一方が審判を申し立てる必要はありません。

また、審判の手続きにうつった後、新たに書面を出したり、主張を行うことも可能なのですが、内容的には調停で主張していたことの繰り返しになりますので、あまり大きな負担にはなりません。裁判のような複雑な手続きでもないので、弁護士に依頼せずに自分で対応することも可能です。

小泉:ちょっとお話を整理しますと、離婚調停は不成立になるとそこで終了で、その後はどちらかが裁判を提訴する必要があるけれど、財産分与の調停は不成立になった後、自動的に審判に移行するという違いあるということですね。同じ調停でも、申立ての種類によって、不成立になった場合に進む道が違う、とうことですね。

白井:そうなんです。そして、その進む道の違いによって、手続きの手軽さみたいなのが大きく変わってくるんですよね。

離婚を先行させない方がいいケース

小泉:ここまでお聞きしますと、大変な裁判をしなくてすむよう、まずは離婚を成立させて、財産分与だけ残して調停そして審判と進む法が正解なような気がするのですが。

白井:そういう考え方もありますが、先ほどご説明したように、周辺の事情によっては、離婚を成立させてしまわない方がいいケースもあります。

婚姻費用と養育費の差額に意味がある

例えば、婚姻費用と養育費の金額を比べた場合、通常は婚姻費用の方が高額であることが多いと思います。ですので、婚姻費用の義務者としては、早く離婚を成立させた方が得です。

一方、受け取る側は特に離婚を急ぐ理由がなければ、婚姻費用を受け取りながら、じっくり財産分与を含む離婚条件について話し合えばいいということになります。

こういう関係にありますので、婚姻費用を受け取る側にとっては、離婚合意せず、婚姻が継続した状態で財産分与の協議をした方が、有利な条件を引き出しやすいということはあるかと思います。

婚姻費用を受け取るのは妻が多いと思いますが、こんな状況であったとしても、妻の方が強く離婚を望んでいるとか、婚姻費用と養育費の差額を比べると受給できる手当の方が大きいとか、本当に状況は様々なので、妻の方が離婚を先行させることを希望するということもありえます。

小泉:なるほど、確かにそうですね。紛争性の低いケースですと、そういった多少の金額の差にはこだわらず、早く婚姻関係を清算することを優先させたいとか、子どもさんが受験期になる前に解決したいとか、色々事情がありますものね。

離婚意思に差がある

白井:そういうことになります。他にも、財産分与を先行させない方がいいケースをいくつかご紹介できればと思うのですが、例えば、離婚意思に差があるケースではどうでしょうか。

一方は積極的に離婚を望んでいて、もう一方は渋々それに応じているようなケースです。このようなケースの場合、渋々応じている方としては、離婚を先行させず、「早く離婚したいなら財産分与を少しは譲歩しなさい。」という交渉が可能ですが、先に離婚を先行させてしまっては、そういった優位性がなくなってしまいます。

中には、もっと明確に「財産分与が明確にならなければ、将来のことが心配で離婚できない」という人もいるかと思います。

財産分与が他の離婚条件と関連している

また、財産分与が養育費等の他の離婚条件と関連していて、財産分与だけを切り離して合意するのが難しいケースもあります。

例えば、教育費が高額になるので、財産分与の中から出すといった場合です。お子さんが既に大きくて、大学の学費が必要だったとします。家裁でもめているようなケースだと、養育費は財産ではなくその年の収入から支出するという考え方をします。しかし、現実的には、多くのご夫婦は、その年の収入だけでまかなうというより、以前から積み立てていた学資保険を使ったり、預貯金から出したりといったことが行われていますよね。ですので、財産分与だけを切り離して考えることが難しい場合もあります。

離婚を先行させてもいいケース

 小泉:確かに、お聞きしていると、財産分与を合意しないまま離婚を先行させることのリスクが高いケースが割と多いように思いました。逆に、離婚を先行させて、後からじっくり財産分与について協議すればいいというのはどのようなケースでしょうか。

 白井:まず、双方が早期離婚にメリットを感じているということが大前提となります。例えば、先ほどのようにひとり親の支援制度を使いたいとか、早く再婚をしたいという積極的な理由でもいいですし、漠然といつまでももめているのは嫌だから早くすっきりしたいというような理由でもいいと思います。

その上で、先ほどご説明したような離婚を先行すべきでない理由がなければ、先に離婚をしても問題がない、ということになるかと思います。

財産分与の時効

また、ひとつ注意が必要なのが時効です。財産分与は、離婚から2年が経過すると求められなくなります。協議を始めていれば、その協議中に2年が経過しても問題ないのですが、協議をしないままに2年が経過してしまうと求めることができなくなります。

離婚後の生活って本当にあわただしいと思いますし、残された財産分与の問題って何だか面倒な気がして後回しにしているうちに気が付いたら2年が経過してしまったなんてこともあったりします。

 小泉:今日は、白井先生に財産分与を後回しにして、離婚を先行させることについて教えていただきました。ありがとうございました。

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