現在、法務省民事局では、父母の離婚後の子育てに関する法制度の調査・検討を行っており、そのひとつに養育費の支払確保のための調査・検討があります。
そして、令和2年5月、同年1月より7回にわたって行われた法務大臣養育費勉強会の取りまとめが法務省より発表されました。
内容は、養育費を確保するためのアプローチを段階に分けて検討しているもので、以下にその段階別の検討点をご紹介したいと思います。
勉強会取りまとめの内容
離婚時における養育費の取決めの確保
養育費支払の大前提として、まずは離婚時に取決めておく必要があります。しかしながら、厚生労働省の「平成28年度 全国ひとり親世帯等調査結果報告」 の統計によると、そもそも取決めていない人が半数以上にも上り、その層への手当が必要です。そして、その手当の内容として、以下の内容が盛り込まれています。
・法律相談や公正証書作成支援の充実
・簡単に利用できる養育費算定表の作成や養育費のルール明確化
・離婚届に養育費の金額や支払方法を記載する欄を設ける
・養育費の取決めがなければ離婚できないような法改正
養育費が不払いとなった場合の支援・相談
養育費が不払いになった際、どこに相談に行けばいいか分からない、そんな人への手当の充実が必要です。例えば、養育費の相談窓口として、養育費支援センターの活用や行政の相談窓口へのアクセスの改善(託児、土日相談など)が提案されています。また、弁護士の活用として、専門弁護士認定制度などが言及されています。
裁判手続・ADR
改正民事執行法によって、養育費が不払いになった場合の履行確保が改善されました。しかし、まだまだハードルが高いのが現状です。例えば、不払いに陥ったとして、そこから裁判所に調停を申し立て、債務名義を獲得した上で強制執行の手続きを取ったとして、お金を手にするのはいつのことでしょうか。
また、家裁の履行勧告や履行命令についての問題点も指摘され、併せて民間ADRの活用についても言及されています。
サービサーの活用
債権回収のための民間のサービスの活用について言及されています。まさに「総合保証株式会社イントラスト」の養育費保証や前澤社長の「株式会社小さな一歩」がそういったサービスです。この報告では、こういったサービスを行政が委託する形での活用やこういったサービスがより実効性をもつための法改正の必要についても検討されています。
公的な取立て支援
取りまとめでは、行政による履行の見守りや、不払いが発生した場合に公的機関が回収する制度について言及しています。例えば、源泉徴収に似たようなイメージで、養育費の不払いが発生したら、当事者による強制執行ではなく国が給与天引きするような形です。
悪質な不払いに対する制裁
不払いが悪質な場合、罰則を設けたり、海外さながらに運転免許証やパスポートを無効にするような制度も検討されています。「不払いは許さない!」という強いメッセージになるのがよいとのことです。
公的立替払
そして最後に法律制定の上での国による立替払いです。諸外国には、国が立替払いする制度を採用している国もあり、また、その方法も様々なので、そういった諸外国の制度も検討されています。
その他(面会交流との兼ね合いなど)
そのほかには、養育費とは基本的に関連性はないとした上で、面会交流の実施が養育費の円滑な支払につながるのではといったことや、養育費を取り扱う専門的な施設や機関の設置についても言及されていました。
勉強会の検討結果に対する私見
一番大切なのは「取決めの確保・支援」
段階的な支援として提案された取組のうち、一番最初の段階である「取決めの確保」が最重要課題です。なぜなら、先の厚労省の統計からみても、養育費を受け取っていない人のうち、「そもそも取り決めていない」という層の割合が一番大きいからです。また、既に取り決めたけれど意図的に支払わない人に対する働きかけより、養育費確保の労力も小さいと思われます。
取決めの確保に必要なことは何か
勉強会では、取決めの確保の方法として、取決めていなければ離婚できないような法改正や算定表の簡易化が提案されています。確かに、そのような法改正があれば効果てきめんですが、果たして、なんでもかんでも強制的な方向に進むのがいいのでしょうか。また、算定表は既に簡易で、取決めのルールもある程度浸透していると言えます。
そこで取決め促進のために提案したいのは「取り決める意義」を両親に気付いてもらうための講座の実施です。例えば、アメリカでは、子どものいる親が離婚する場合、離婚講座(親教育プログラム)のようなものを受講しなければ離婚が認められません。そして、その講座の中では、離婚と子どもの福祉に関する事項として、もちろん養育費や面会交流の意義についても取り上げられます。
厚労省の統計で「相手と一切かかわりたくない」と思っている人たちに、「子どものために、ある程度はかかわらざるをえない。」、「養育費をもらうのは子どもの権利」だと感じてもらうことが必要なのです。
ただ、離婚前後の大変なときに、そんな講座なんて受けていられない、そんな気持ちもよく分かります。そのため、離婚届を取りに来た人に対し、自治体がそのような講座を案内したり、受講の特典として地域の商品券を渡すなど、様々な工夫が求められるのだと思います。
ADRの活用場所
勉強会の取りまとめでは、ADRの活用場所として、不払いになった場合の話合いの場所として位置付けられていました。しかし、ADRは、どちらかというと葛藤が低い場合にその効果を発揮します。そのため、不払いが発生するもっと前、すなわち、取決めの際に活用してもらうのが理想だと考えています。
夫婦では適切な養育費が決められない、でも裁判所まではいきたくない、そういった人の養育費取決めの場としてADRを活用してもらえればと思います。
公的組織・施設の創設の是非
勉強会では、養育費を総合的に取り扱える公的な組織や施設の要否が検討されています。「養育費庁」的な感じです。確かに、諸外国に目を向けてみると同様の例がたくさんあります。
ただ、養育費の継続的な支払の根本には支払う側の「納得」がとても大切だと感じています。家裁と似たような制度や雰囲気の中で養育費を無理やり取り決めても、遅かれ早かれ不払いが発生します。
例えば、民間のADRを活用するにしても、公的なものにしてしまうと良さが半減です。民間のADRでは、様々な点で民間ならではの柔らかさを出し、支払う側の納得を引き出しています。そんな良さがなくなってしまうような巨大な組織はあまり意味がないようにも思います。
一方で、既に取り決めたのに支払わない人や、その態様が悪質な人に対しては、国としてある程度強制的な対応が可能な法整備が必要なようにも思います。
そのため、養育費確保の手前のフェーズでは自主的・緩い制度を、最終段階のフェーズでは公的・強制的な制度を構築する必要があるのではないでしょうか。
養育費確保はだれのためか
養育費確保のための制度を考える上でぶれてはいけない視点は、「養育費は子どものため」であるということです。例えば、養育費をもらう親に対する支援だと考えた場合、「お金なんてもらわなくてもいいから、相手と金輪際かかわりたくない」と考えている人は対象外になってしまいます。
しかし、子どものための制度だと考えた場合、そのような人にも養育費をもらうためのお手伝いをすることになります。
また、面会交流も含め、いかに質のいい取決めが離婚時に行えるかがその後を左右します。他人に決められた養育費や面会交流ではなく、自分も納得のいく結果だからこそ受け入れ、継続するのです。
現在、養育費確保のための検討やサービスがドラスティックな動きを見せています。また、共同親権をはじめとする離婚後の親子のかかわりについても以前から継続的に検討されています。
ひと昔前まで、離婚はタブーな話題であり、こんな風に連日ニュースに上がってくることはありませんでした。これを機に必要な議論が進み、やむなく離婚したとしても、親子ともどもその後の人生を輝かせられるような制度が整うことを願っています。