離婚時の年金分割制度ができたこともあり、熟年離婚の数が増加しています。
そして、その熟年離婚の原因の一つでもあるのが、「介護離婚」です。
超高齢化が進む現代、介護はとても身近な問題です。今回は、介護離婚の原因、そして、介護離婚を防ぐにはどうしたらよいのか、さらには残念ながら離婚に至った際の注意点などを考えてみたいと思います。
義両親の介護による離婚
介護離婚とは
介護離婚とは、一般的に、義両親の介護により生じた不満やストレスを原因として離婚することをいいます。
多くは、夫の両親を介護している妻が、その介護の過酷さや夫の無理解や非協力的な態度に不満を抱くことが発端となっています。
また、もう少し見方を広げると、妻が実の両親を介護するためにたびたび帰省したり、長期的な別居をしたなど、実の親の介護をきっかけとして離婚に至るケースも介護離婚となるようです。
介護離婚の原因
介護離婚の主な原因には、次のものが挙げられます。
もともと義両親と仲がよくなかった
自分の親であっても、介護は大変なものです。しかし、血のつながった家族としての情や育ててもらった恩があるからこそ、子は介護に向き合います。しかし、そういったものがない義両親を介護することに対して、正直、抵抗があるという方も多いのではないでしょうか。
さらに、普段から義両親と折り合いが悪かったとしたら、なおさらです。
あれやこれやと文句を言ってきたり、偉そうな態度ばかり取っていた義両親に対し、年老いたからといって、温かい気持ちで介護ができるとは思えません。
子育てで大変だった時期、口ばかり出してきて、ちっとも手伝ってくれなかった義両親に対し、進んでお世話ができるでしょうか。
きっと、多くの人の答えは「ノー」だと思います。
夫が協力してくれない、感謝がない
親の介護が必要になるような世代の男性の中には、妻が自分の親の介護をすることを当たり前だと思っている方がまだまだ少なくないようです。
しかし、当然のように介護を押し付けられれば、妻の負担は増すばかりです。
また、夫が仕事を理由に介護に協力的でなかったとしたらどうでしょうか。
「一体、だれの親だと思っているのか。」
「仕事さえしていれば、介護をしなくていいと思っているのか。」
こんな風に不満に感じることでしょう。
さらに、協力しないばかりか、妻が介護をしていることに対し、感謝の言葉もない夫がいます。
妻としては、「もう、やってられない。」そんな気持ちになってしまうのです。
夫の兄弟姉妹の協力がない、感謝がない
夫の親は、当然に夫の兄弟姉妹の親でもあります。
それにもかかわらず、長男の嫁だから、同居している嫁だからと、妻に介護を押し付け、協力がないケースも多いようです。
さらに、自分の親を介護してもらっていることへの感謝の意がないばかりでなく、介護の仕方に文句をつけるようなことがあれば、妻のストレスは肥大してしまいます。
親の介護やその結果の離婚は、夫婦間のみの問題のようにも思えるのですが、意外と大きいのが周囲の親族の存在です。
妻は、お礼を言ってほしくて介護をしているわけではありません。しかし、労いの一言もなければやっていけないのが義両親の介護なのです。
実両親の介護に夫の理解がない
妻が実の両親を介護することでさえ、離婚の原因になることがあります。
妻としては、離れて暮らす両親の身を案じ、最後まで親孝行したいという気持ちで介護に通います。
しかし、理解のない夫から、「実家のことばかり気にして、こちらの家庭をおろそかにするな」とか、「交通費だけでもばかにならない」などと言われたらどうでしょうか。
通いの介護は、それでなくても疲れるものです。そんな状況の中、協力をしてくれないばかりか、責め立てるような言動ばかりの夫だとしたら、もはや離婚しか選択肢がないかもしれません。
妻が義両親の介護を毛嫌いする
少数ではありますが、妻が義両親の介護に協力してくれないことに対し、夫から不満が出たり、その結果、離婚に至ることがあります。
例えば、孫の面倒をよく見てくれていたり、マイホーム購入時などに金銭的な援助を受けていたりと、義両親に大変お世話になっていたとします。
しかし、いざ介護となったら、非協力的で、知らん顔をする妻がいます。
特に、夫が長男でなかったりすると、「長男がめんどうをみるべき」と言ってみたり、仕事や子育てを理由に「できない」の一点張りだったりするのです。
実際、どれだけ介護に協力できるかは、状況によって異なってきます。しかし、介護に協力しようという気持ちや姿勢が見られないことが夫を残念な気持ちにさせるのです。
介護離婚を防ぐには
離婚は、トラブルやストレスからの解放であり、自由を得ることができます。しかし、同時に、家族や財産の問題など、さまざまなリスクを伴います。
もちろん、ケースバイケースではありますが、長年連れ添った相手と穏やかな老後を迎えられるに越したことはない、そう考える人が多いのではないでしょうか。
次は、介護離婚を防ぐための工夫をいくつかご紹介したいと思います。
役割分担を決める
介護離婚を防ぐためには、まず、夫婦でよく話すことが大切です。
よく話し合う中で、誰が何をするのか、役割分担を決めるのです。
昔に比べ、働く妻が増えた現代、介護に対する考え方も変わりつつあります。「妻は〇〇すべき」というべき論ではなく、現状の生活を踏まえ、夫婦で協力しあいましょう。
専門家の力を借りる
夫婦自らが当事者意識を持ち、色々と調べることも大切です。しかし、ときに、夫婦だけでは問題が解決しないこともあります。
そんなときは、両親が住む地域包括支援センターや入院先の医療ソーシャルワーカーなど、専門家に相談することがお勧めです。
専門的な知識で手助けしてもらえるだけでなく、相談相手がいて、話を聞いてもらえるということだけで、気持ちが随分楽になったりするものです。
外部資源を活用する
在宅での介護サービスを利用するのも有効です。
介護は、体に負担になる動作や、腕力が必要な作業が多かったりします。
そんなときは、高齢の夫婦だけで介護するには限界があり、介護ヘルパーの活用が有効です。
また、在宅での介護に限界がきたら、施設への入居を検討することも必要です。
「施設入所」というと、何だか後ろめたい響きを感じるかもしれません。
しかし、夜中の介護は、介護をする者の心身の健康を奪っていきます。
妻が遠慮して言い出せないときは、夫自ら、「そろそろ施設かな」と切り出してあげましょう。
夫婦間介護による離婚
介護離婚といえば、ほとんどの人は上述の「親の介護が原因の離婚」を思い浮かべることと思います。
しかし、ときに、介護の対象が夫や妻になることもあり、中には、それが原因で離婚に至ることもあるのです。
以下で、夫婦間介護による離婚について考えてみましょう。
夫婦間介護の実状
介護の対象となるのは、親だけではありません。
夫婦のどちらかが先に要介護者になるケースは決してまれではなく、近年増えている若年性アルツハイマーや、血管の病気などによって、若いうちから介護が必要になるケースもあります。
しかし、そんなとき、必ずしも「夫婦だから介護するのは当たり前」とはいかないようです。
ある調査では、「配偶者の介護をしたいか」という質問に対し、「したい」と答えた人の割合は男性が約8割であるのに対し、女性は約6割であったという結果が出ています。
そもそも、愛情がきちんと通っている夫婦であっても、介護は簡単なものではありませんが、女性の方が配偶者の介護に対し積極的でない理由には、それまでに積み重なってきた夫婦関係の不満が関係しているようです(もちろん、妻から夫に対してだけでなく、その逆も同じことがいえますが。)。
夫婦間介護による離婚例
夫婦間の介護を理由にした離婚には、次のようなケースがあります。
長年の不満がたまっていた
「稼いでいるのは自分だからと、ずっと偉そうにされてきた」、「子育てが大変な時期も知らんぷりで、いたわってもくれなかった」など、夫に対する長年の不満がたまっている場合があります。そんな場合、妻の夫の介護への抵抗感は強く、離婚を決意する結果になります。
また、日頃から大切にされてこなかった夫が、「これまで、家族のために馬車馬のように働かされてきた。年老いてまで、妻の介護に縛られたくない」と離婚を決意するパターンもあります。
介護に疲れ切ってしまう
はじめは、認知症になった配偶者を自宅で介護する人も多かったりします。しかし、自分だって、体に不調を感じたり、体力がなくなっているわけです。
そうすると、介護に疲れ切り、この介護生活から逃れられるならと離婚を選ぶことになるのです。
自分を認識してくれない
認知症になると、配偶者が自分のことをすっかり分からなくなってしまうことがあります。肉体的な介護の辛さはもちろんですが、自分のことを認識してくれない相手に尽くすのは、並大抵のことではありません。その辛さに愕然とし、離婚に至ることもあります。
離婚に至らないためには
長年連れ添った夫婦がどちらかの介護をきっかけに離婚するというのは、ちょっと寂しい話です。
そのような事態を避けるためにできることを考えてみましょう。
日ごろから夫婦間でよく話をする
会話がなかったり、行き違いが多かったりすれば、当然夫婦間の信頼関係は崩れてしまいます。日ごろからよく話をして、お互いをいたわり合う関係の構築を目指しましょう。
何気ない会話とともに、「ありがとう」、「いつも感謝しているよ」、そんな言葉がけも大切なのではないでしょうか。
体調管理を心がける
そもそも、介護が必要にならないよう健康を気遣うことも重要です。食事や睡眠、運動など、意識して気にかけ合いましょう。
介護が必要になったら相談する
介護が必要になったとき、一人で抱え込むのは危険です。
一人での介護は、いずれ疲弊してしまいます。可能であれば、配偶者の家族に助けを求めたり、地域包括支援センターのケアマネージャーに相談したりしましょう。
介護離婚の注意点
努力はしたけれど、やはり離婚しか選択肢はないという方もおられることと思います。
次は、介護離婚の注意点についてお伝えしたいと思います。
金銭面
離婚原因となった介護の対象者が義両親であれ、夫婦のどちらかであれ、どちらにしてもある程度「熟年」であることが想定されます。
その場合、夫婦の共有財産の中身も複雑になっていたりと、金銭面の離婚条件でもめることがあります。
退職金
夫が定年間近だったりすると、問題になるのが退職金です。
通常、50代後半で数年後には退職することが想定される場合、離婚時に退職をしたとしたら、という仮定で退職金を算定し、妻に分与すべき退職金の金額を決めます。
多くの人は、一つの会社で勤め上げているので、退職金はとても大きな金額となります。
離婚を考える際、退職金との兼ね合いも含め、離婚時期をよく考えるようにしましょう。
自宅不動産
持ち家を持っている方も多いのですが、その持ち家の分与の方法でもめることがあります。
子育てにかかる教育費も一段落し、住宅ローンも払い終わったけれど、これといった財産が不動産しかないという場合があるからです。
この場合、不動産を売却し、現金化した上で夫婦で半分ずつするという方法がオーソドックスなのですが、老後のことを考えると、なかなか持ち家を手放すことができません。
この先、年金暮らしになったら、再び住宅ローンを組むことはできません。だからといって、年金暮らしの身では、賃貸マンションの契約すらしてもらえないのではという不安が残ります。
そうすると、何とか不動産は手元に残しておきたいという考え方になるのですが、そうした場合、相手に現金で不動産の価値相当分の半額を分与しなければならなくなります。
しかし、そんな現金などありませんから、もめることになります。
残念ながら、家族で暮らした自宅に一人で住み続けるのは不経済と言わざるを得ないことが多く、気持ちの切り替えが求められます。
保険
離婚時の保険の問題は、①積立型と②掛捨て型の2種類に分けて考える必要があります。
まず、積立型の保険については、現時点で解約したらという前提で、解約返戻金を計算し、財産分与に組み込んでいくことになります。
実際に解約しない場合は、想定される解約返戻金の半額を相手に分与することになりますが、加入年数が長くなっていることがほとんどですので、相応の現金があるかどうかの確認が必要です。
また、掛捨て型のものも、契約者はだれか、受取人はだれか、実際に保険料はどこから引き落とされているかなどの確認が必要です。
長年婚姻生活を続けていると、それぞれの保険のこともすっかり覚えていないなんていことがあるのですが、新しく保険に加入することが難しい年代でもあるので、日頃から整理しておくことをお勧めします。
心情面
子どもへの負担
夫婦が離婚し、介護から解放される者がいる一方で、その介護を負担する者が出てきます。
妻が夫の両親の介護から解放されるというパターンの場合、夫がその分の介護を負担できるのならいいのですが、子どもたちに頼らざるを得ないこともあります。
また、夫婦間の介護が問題で離婚した場合も同様の問題が出てきます。
しかし、子どもたちの世代は、ちょうど子育ての真っただ中で、金銭的にも時間的にも余裕がなかったりします。
そのため、子どもたちに迷惑がかからないよう、外部の力を借りる算段を整えておきましょう。
良心の呵責
介護離婚に限らず、熟年離婚に多いのが「我慢に我慢を重ねた上での離婚」です。
決して満足のいく婚姻生活ではなかったけれど、子どものため、生活のため、何とか我慢してやってきたという人が多いのです。
そんな人が離婚を決意するのは容易ではありません。
婚姻期間が長くなればなるほど、相手への情がわいてきます。
また、大抵は自分より年齢が上で、家事も不慣れな夫を一人にすることに良心の呵責を感じたりするのです。
しかし、余生を自分らしく過ごすことも大切です。
残りの人生をどんな風に過ごしたいのか、夫(妻)と同じお墓に入ることに抵抗感はないのか。
そんなことをじっくりと考えていただければと思います。
まとめ
最後に、最近のあたらしい形の介護離婚をご紹介したいと思います。
それは、「介護予備軍離婚」です。
多くは、夫が定年退職した後、妻から離婚を切り出されることになるのですが、その理由として語られるのが「将来の介護が想像できない。」という言葉です。
これまで、妻は、子育てに非協力的で昭和の亭主関白を絵にかいたような夫に不満を抱きながら生活をしてきました。
しかし、夫の定年退職により、二人で過ごす時間が多くなると、何とか持ちこたえてきた夫婦関係が一気に崩れ始めます。
そして、何もしないで家で偉そうにしている夫を見て、「こんなに思いやりのない夫が自分の介護をしてくれるはずがない」、「自分だって、夫の介護を全うする自信がない」と離婚を考えるようになるのです。
一方、夫にしてみたら、こんな妻の言い分は身勝手にしか感じられません。
これまで、身を粉にして家族のために働いてきたのに、退職したとたん、手の平を返したように離婚を言い出すなんて、ということになります。
挙句の果ては、年金まで分割させられるなんて、踏んだり蹴ったりです。
そんなこんなで、離婚協議はマイナスの感情のぶつかり合いになるのです。
色々なパターンの介護離婚を通じて見えてくるのは、何も介護に特化したことではなく、日頃からのコミュニケーションや相手を思いやる気持ちの大切さです。
介護というもはや日常でありながら、大変な課題に直面したとき、夫婦としての本質が問われるのではないでしょうか。