2021年1月、法務省が「未成年時に親の別居・離婚を経験した子に対する調査」を実施しました。
この調査は、令和3年1月20日から21日にかけて、 WEB モニターアンケートを利用し、未成年時に父母の別居・離婚を経験した20代及び30代の男女それぞれ250名、合計1000名に達するまで回答を募集する方法により行われたものです。
これまで、日本では未成年時に親の離婚を経験した子どもの声を聞く大型の調査が実施されたことはありません。
そのため、この調査は、離婚前後の子の福祉を考える上で、とても大きなヒントが隠されていると言えます。
気になる内容をピックアップしてみましたので、是非、一緒に元子どもたちの声に耳を傾けてみましょう。(以下に引用するグラフは全て「未成年時に親の別居・離婚を経験した子に対する調査」より引用しています。)
別居親と子どもの関係
親の不仲と親子関係は別物
親が不仲になる前、子どもは別居親とどんな関係だったのかを問う質問ですが、約半数が「まあまあ良い」以上の回答をしています。
しかし、以下の表によると、父母の別居直後、「まあまあ良い」以上の回答をした割合は約35%に減少し、「関係は非常に悪い」という回答が倍増しています。
これは一体、どういうことなのでしょうか。
夫婦関係が悪化し、別居に至る過程で、子どもと別居親の関係まで悪化してしまっているのです。
別居の原因が専ら別居親にあり、子どもが自然と別居親に対する感情を悪化させることもあるかもしれません。しかし、同居親の感情に同調したり、もしくは同居親から別居親の悪口を聞くなどした結果、子どもが別居親を嫌いになってしまっていることはないでしょうか。
当たり前ですが、夫婦関係と親子関係は別物です。そのため、親が不仲であることを親子関係に投影するようなことがあってはいけないのです。親同士がいくら不仲であっても、子どもは両方の親を好きでいられるようにしてあげたいものです。
別居に至る経過が重要
では、次に、以下の2つの統計を見てみましょう。別居から2、3年後の別居親との関係と、現在における別居親との関係です。
この2つの統計を見比べてみると、別居直後から2、3年後、そして2、3年後から現在に至るまで、大きく変化をしていないことが分かります。
現在の関係において、「とても悪い関係」という回答が激減しているのは、そういった親とは既に音信不通となっており、「全く関りがない」という回答になっていることが予想されます。
そのため、子どもと別居親の関係が大きく変化するのは、夫婦の不和や別居に至る過程ということになります。別居直後、よい関係を保つことできていれば、それが将来にわたってある程度継続される可能性が高いのです。
家族の関係が大きく変わりゆくその過程で、子どもと別居親の関係が崩れない工夫が必要です。
子どもと別居親の別れの意味
夫婦にとっての別居は、少なくとも一方は望んでいるわけですし、既に関係が相当程度悪化していることも多いのが現状です。
しかし、子どもにとっての別居はどうでしょうか。上述のように、別居親に対する感情は時期によって変化します。しかし、過半数の子どもにとって、親の別居は、大好きな親、まあまあ好きな親、少なくとも嫌いではない親との別離を意味します。
親は、このことを忘れてはいけません。親の離婚による影響を少なくするため、別居親との良好な関係を継続させてあげられるような工夫が求められるのではないでしょうか。
子どもの気持ちは総じて複雑
親の不仲に対する複雑な感情
仲直りしてほしい
回答を見ていただくと分かる通り、子どもの反応は本当に千差万別です。
しかし、一番多いのは、「仲直りしてほしい」という回答で、約3割です。親の不和を目の当たりしても、やはり子どもは親が仲直りして、元通りの家庭に戻ってほしいという気持ちを持っています。
子どもがいる夫婦が離婚を躊躇する理由のひとつもここにあります。直接、子どもから「離婚しないで」と言われる方もいますし、そういった子どもの気持ちを察する方もいます。
そんな子どものために別居や離婚を思いとどまるのも一つの選択肢ですし、やむを得ず、別居や離婚という選択をする場合でも、子どもの根底にあるこの気持ちを忘れないようにしていただければと思います。
ネガティブな感情
その他、信じたくない、家族がバラバラになる不安、経済状況も含めた生活環境の変化への心配等、ネガティブな感情が約5割です。
ただ、中には軽減してあげられる項目もあります。なるべく転居や転校を伴わない工夫をしてあげられるかもしれませんし、別居しても別居親に会えることを伝えることもできます。
どうしたってネガティブな感情が伴うものですが、それを軽減してあげることもできるのです。
親の不仲は自分のせい
離婚ともなれば、大人はどうしても相手のせいにしがちで、他罰的なところが目立ったりしますが、子どもはそうではありません。自分の身近で起こっている問題について、自分のせいではないかと自罰的に考えてしまうのです。
16%という数字をどのように感じるかは人それぞれですが、決して小さな数字ではありません。これだけの割合の子どもが親の不和は自分のせいだという自責の念を抱えながら生きていくのです。
そんな悲劇を避けるためにも、別居や離婚の際、子どものせいではないことをしっかりと説明してあげましょう。
冷静に観察
一方で、親が不仲な様子を見て、早く離婚や別居をした方がいいと考えたり、もしくは、親の問題に自分を巻き込まないでほしい、といった風に冷静に観察している子どもいます。
特に、子どもの年齢が上がってくると、親と自分を切り離して考えられるようになり、こういった意見が増えてくるように思います。
また、親が子どもの前でけんかをしていたり、他方の親の悪口を聞かされたりしていると、巻き込まれそうな不安感やそんな親に対する反感も出てくるのではないでしょうか。
父母が別居をしたときの気持ち
ショックが大きい
この調査の中には、夫婦の不和を知っていたか、という質問があるのですが、その解答によると、8割強が「知っていた」もしくは「薄々感じていた」という回答でした。
しかし、両親の別居に関し、4割弱の子どもがショックだったと回答しています。子どもにとっては、いくら夫婦の不和を実感していたとしても、「仲直りしてほしい」との気持ちもあり、別居や離婚に繋がることを必ずしも予感しているわけではないことが分かります。
そのため、別居や離婚に際しては、「きっと分かっているだろう」という認識ではなく、きちんと説明することが必要です。
将来の生活への不安
経済的な不安や将来への不安を感じるといった回答が3割弱あります。実際の別居によって、住環境のレベルが下がったり、同居親が働きに出たりする様子を見て、より現実的に経済的不安を感じているのではないでしょうか。
生活が安定することへの安堵感
4人に1人が「ほっとした」、「状況が変わることが嬉しかった」と回答しており、別居を前向きに捉えています。
同居中、激しい夫婦喧嘩を目の当たりにしていたり、お互いに無視しあっているようなとげとげした雰囲気の中で生活していると、子どもにとってもストレスが大きいものです。別居によって親の笑顔が増えたり、喧嘩を見なくて済むようになれば、子どもにとってはプラスの要素として働くことが分かります。
体調不良として現れることも
こうした気持ちの不安が体調面に現れる子どももいます。精神的不安定も含めると、不調があった割合は4割に上ります。そのうち、何割の親が子どもの不調に気付き、ケアしてあげられたでしょうか。
「うちの子に限って」と考えがちですが、日頃から様子をよく観察することが大切です。
正しい説明の大切さ
別居前の不和に関する説明
両親が揃った状況で説明を受けたのは15%に過ぎず、どちらの親からも説明がなかったとの回答が35%にのぼっています。
この35%の元子どもたちは、当時、どのような気持ちになったのでしょうか。別居前に不仲の説明がなかったということは、薄々気付いていた子どもたちも多かったと予想されるものの、突然に別居の話を聞かされたことになります。
別居に至る過程にもよりますが、計画的に行う別居であるならば、子どもたちにも事前に情報を教えてあげてほしいと思います。
不仲の原因に対する説明
不仲の原因については、夫婦それぞれで感じていることが異なったりします。そのため、両親そろっての説明が難しく、上述の「不仲であること」そのものの説明よりも、3分の2に減っています。
一方で、父母のそれぞれから説明があった、もしくはどちらかから説明があったという割合は、「不仲であること」の説明と同程度です。
どちらからも説明がないよりは、一方の親からであっても何等かの説明があった方がいいようにも思います。しかし、次の表を見ていただくと分かるのですが、それぞれの説明の内容が相違していたり、事実と異なっていたりすると、子どもを余計に混乱させてしまうかもしれませんし、大人への不信感へとつながってしまうかもしれません。
説明の内容は真実だったか
それぞれの親から別々に不仲の説明を聞くことの弊害が「子どもの混乱」です。この質問への回答を見ていただくと分かりますが、親からの説明が双方とも真実だった割合は9%に満たない結果になっています。
それに比べて、25%強の回答がどちらかの親の言っていることが真実でなかったとなっています。
このように、どちらかの親からしか説明がなかったり、その説明が真実でなかったりすると、子どもは混乱します。また、大人への不信感にもつながります。
DV等の理由があるときは難しいですが、できれば、説明の内容を双方で協議し、両親そろって子どもに説明できるのがベストです。
子どもは簡単には気持ちを言えない
別居に関する自分の気持ち
別居に際し、約2割の子どもが自分の気持ちを親に伝えられていません。また、18%の子どもは、どちらかの親のみに伝え、もう一方の親には伝えていません。
子どもにとって、別居に関して自分の意見を自由に表明することは、大人が考えている以上にハードルが高いということではないでしょうか。
どちらの親と一緒に住むか
意見や希望を言うのは意外とハードルが高い
意見があったのに伝えられなかったのが18%です。また、約30%は「意見・希望はなかった」と回答しています。
子どもにとって、「誰と住むか」という問題は、生活の根底にかかわる重要な問題です。そんな大切な問題に関し、意見を伝えられなかったり、そもそも意見や希望がないとの回答が過半数近くあるのです。
これは、親の不和や別居・離婚という話題に対し、子どもにも情報提供したり、その情報をもとに意見を表明する権利があるという認識を親子ともに持てていない結果なのではないでしょうか。
親への配慮から本心ではないことを伝える子どもたち
単に気持ちや希望を言えないだけではなく、本当の気持ちではなく、偽りの気持ちを伝えている割合が10%近くもあります。
では、なぜ、本心ではないことを伝えたのでしょうか。その解答が以下になります。
子どもたちは、両親もしくは同居親に配慮し、本音を胸の内にしまったのです。子どもは、どうしたって自分の生命線である同居親の顔色をうかがうと言われていますが、まさにその通りの結果だと言えます。
面会交流に関する意見
面会交流に関して、本音を伝えられたのは37.7%です。「どちらと一緒に住むか」についての意見よりは、約10%アップしていますが、本音を伝えられたのが4割を切っているのです。そして、本心を伝えられなかった理由は、両親双方や同居親への配慮です。
子どもたちは、親の離婚に際し、誰と一緒に住むか、離れて暮らす親とどんな風に会うのか、そういった自分の人生や生活に大きく関係するでき事に対し、意見を言えない、本音を言えない、意見がない、そんな状況になっているのです。
この結果をどう受け止めるのか。親である当時者はもちろんのこと、社会のおとな全体に問われる問題なのではないでしょうか。
面会交流の実態
子どもの希望
毎日会いたい
この質問の結果を見ると、子どもの率直な気持ちがよく表れているように思うのですが、まず目につくのが、毎日会いたいという子どもの声です。
「毎日会いたい」と回答したのは7%ですので、と決して高い割合とは言えません。しかし、親の別居や離婚は、子どもにとっては「毎日会いたいくらい大切な親」との別居を意味することを示唆してくれていると思います。
気が向いたときに会いたい
これも子どもの率直な気持ちが表れていると思うのですが、週に何回、月に何回、という決め方ではなく、自分の気が向いたときに会いたいとの回答が17.9%と比較的高い割合になっています。
おそらく、年齢の高めの子どもがこのように回答する傾向が多かったのではないかと予想するのですが、子どもにとって、親は親、自分は自分です。
年齢が高くなるにつれ、子どもは自分の世界を作り上げていきます。学校生活や友人との時間、勉強や部活動にさく時間、そういった時間が増えていきます。
そのため、機械的に回数を決められるのではなく、自分が会いたいと思ったときに会いたい、とういう自然な回答になったのだと思います。
みなさんも自分事として考えていただきたいのですが、プライベートで人と会うとき、嫌々約束する人はいますでしょうか。もしくは、何年も先の未来も含めて、定期的に会うことを約束することがあるでしょうか。
子どもが自分の意見を正確に伝えられないくらい小さかったり、同居親への遠慮や配慮から本音を言えなかったりする場合は仕方がありません。
また、多少無理やりにでも、親子のパイプを繋いでおくことが、将来的に子どものためになることもあります。
そのため、ある一定の頻度や約束事を作って面会交流を実施することはどうしても必要になってくるのですが、そもそも、面会交流の取り決め自体が子どもにとっては不自然なこともある、という事実を忘れないようにしたいものです。
全く会いたくない
別居親に全く会いたくないとの回答が20.1%にも上っていることをどのように考えればいいのでしょうか。
別居直後の別居親に対する感情として、「関係が悪い」もしくは「関係が非常に悪い」との回答が20%強だったことから予想できる数字ではあります。
しかし、自分の親に全く会いたくなかったと答えた子どもが5人に1人いるのです。これは、実はとても悲しい事実なのではないでしょうか。
自分の親を嫌い、全く会いたくないと思う子どもは幸せでしょうか。子どもが親を好きでいられるよう、父母双方の努力が求められるのだと思います。
実際の面会交流
現実的な回数に
では、実際の面会交流の頻度はどうだったのでしょうか。週に1回以上会いたいと思っていた子どもが18.4%いたのに対し、実際に週1以上のペースで面会交流を行っていたのは9.7%にとどまっています。
一方、月に2回もしくは1回会いたいと答えていた子どもが7.7%なのに対し、実際に月に1回もしくは月に2回実施していたのが17.7%となっています。
この数字からはどのようなことが考えられるでしょうか。
面会交流は、別居親の住まいとの距離や、子どもの生活状況(多忙さ)、そして同居親の状況によっても実施の可否が変わってきます。
いくら子どもが毎日会いたいと思っていても、別居親が遠くに住んでいれば実現しません。また、子どもが幼い場合、親同士の受渡しが必要になりますので、同居親が就労していると、休日に会わせざるを得ません。
また、習い事や塾など、子ども自身が忙しいため、本人が希望する頻度での面会交流が難しいこともあります。
そのため、実際の面会交流の頻度は、子どもの希望より抑えられてしまい、以下のように27.9%の子どもは、面会交流が自分の希望通りでなかったと感じているようです。
取決め後の面会交流の継続性
せっかく取り決めた面会交流ですが、継続的に実施されたのは58.2%にとどまっています。
では、なぜ、取決め通りに実施されなかったのか、その理由が以下です。
取り決めた通りに実施できなかったほとんどの理由は、親側の理由です。面会交流は第一義的には子どものために実施するものですが、それを親が実現できていないのは悲しい限りです。
そして、注目すべきは「同居親の時間がなかった」という回答がほかの回答の約2倍になっていることです。
面会交流は子どもと別居親の交流なのですが、なぜ、同居親の多忙が関係しているのでしょうか。
想像するに、「会わせたくない」もしくは「あまり気が進まない」という気持ちが「時間がないから会わせられない」という子どもへの説明につながったのではないかと思います。
確かに、子どもの年齢が小さい場合、同居親の協力なしには受渡しができません。しかし、本当に多忙が原因なのであれば、仕事や用事に出かける前に子どもを迎えに来てもらえばいいわけですし、多忙であればあるほど、本来面会交流は助かるはずです。
もちろん、何等かの事情で自宅での受け渡しが難しかったりと、本当に多忙が理由で実施できないこともあるとは思いますが、会いたい子どもにとっては、残念な数字だと言わざるを得ません。
現在の面会交流に対する気持ち
ちょうどよかったという回答が24.6%、少し交流が多すぎたという回答が5.7%ある一方、もっと交流したかったという回答が18.6%あります。
子どもにとって、親の離婚はたくさんの喪失が伴います。そのため、事情が許す限り、せめて別居親に会いたいだけ会える状況が実現できればと思います。
子どもの気持ちを知ることから
未成年の子どもがいるご夫婦が離婚する場合、少なからず子どものことが気になります。
子どものためには離婚しない方がいいのかしら、子どもの人生に何かマイナスがあるのではないか、子どもの将来の選択肢を狭めてしまうのではないか・・・、きりがないほど心配事が浮かんでくることと思います。
しかし、子どものことが心配であるならば、大人だけで抱え込まない方がいいかもしれません。
決して子どもを相談相手にしてはいけませんが、その心配事を解決するヒントは子ども自身が持っているかもしれないからです。
まずは子どもへの適切な情報提供と、その情報を受け取った子どもの気持ちを知るところから始めてはどうでしょうか。