当センターに相談に来られる中で、一番多い相談が「夫(妻)が離婚に応じてくれません」という相談です。今日は、そんなときの選択肢のひとつとして、「別居」についてお伝えしたいと思います。
なぜ別居が有効か
離れることで楽になる
別居の何よりのメリットは、心身ともに相手から離れることで、気持ちが楽になることです。例えば、相手が家事・育児を手伝ってくれないという理由で喧嘩が絶えない方でも、「離れて暮らすと、家事・育児の負担は増えるけれど、相手に期待し、それを裏切られて喧嘩になるという負のループに陥らないだけで、気持ちは随分と楽です。」と仰います。
ましてや、モラハラやDVで日々辛い思いをしている方にとっては、相手の顔色をうかがわなくていい生活というのは、とても気持ちが楽になり、本来の自分を取り戻す機会になるのです。
相手に覚悟が伝わる
同居のまま、「離婚したい」と言い続けていたとしても、本気度が相手に伝わらないことがあります。しかし、実際に家を出るという行為は、家探しから始まって、大変に労力がいることです。その労力をかけてまで別居を実行したという事実は、相手に「本当に離婚したい」という気持ちを伝える一つの手段になります。
相手の諦めや安心につながる
実際に離れて生活を始めることは、離婚のシュミレーションのような役割もあります。離れて暮らす日々を重ねる中で、「これでは離婚と何も変わらないのではないか」という諦めや、「離れて暮らしていても、子どもとつながっていられることが分かった」とい安心など、相手の気付きにつながることもあります。
婚姻費用が離婚を促す
妻が離婚を求めて別居する場合、ほとんどの場合、別居期間中の婚姻費用と、離婚後の養育費では、婚姻費用の方が高額になります(妻分の扶養も入っているため。妻の方が夫より収入が高い場合はこの限りではありません。)。そのため、離婚と何ら変わらない生活をしているのに、妻の扶養分も上乗せされた婚姻費用を払い続けるのがばからしい、という気持ちになり、離婚への決意が固まることがあります。
婚姻費用については、以下をご参考ください。
別居時婚姻費用のいろは
裁判離婚が可能になる
離婚裁判までしたくない、という人がほとんどだと思いますが、時に裁判離婚しか方法がない場合もあります。そんな場合、どちらにも有責性(不貞やDV等)がないとなると、ある一定の別居期間を経過していないと、離婚判決をもらうことができません。
実際、離婚に必要な別居期間を満了した後に離婚裁判をするかどうかは別にして、「そろそろ裁判をすれば、離婚が認められる時期になってきた」という認識を相手に持ってもらうことで、任意に応じてもらえる可能性も高くなってきます。
そのような事態を想定すると、やはり「別居をしないことには何も始まらない」ということになります。
別居の5つの手順(妻バージョン)
別居先の確定
まず一番にすることは別居先の確保です。実家に帰れる場合はいいのですが、そうでない場合、賃貸契約が必要になってきます。今後、婚姻費用を請求していくことになるわけですが、夫が離婚や別居に反対している場合、別居前に婚姻費用について合意しておくことは難しいのがほとんどです。そのため、以下の3つのことを念頭において、別居先を確保しましょう。
婚姻費用の目安を知っておく
婚姻費用は、別居中の大切な生活の糧です。もちろん、婚姻費用だけで生活できる人は多くはありませんし、正式に決まるまでは振込もありません。しかし、家庭裁判所で請求した場合、いったいいくらくらいになりそうか、と目安を知っておくと、家賃も含め、別居後の生活の目途を立てやすくなります。
自由になる財産の確保
転居するとなると、50万~100万円近い費用が必要になってきます(引越しの費用、敷金、礼金、最初の2カ月分の家賃等)。また、その後の生活費についても、すぐには婚姻費用がもらえないことを想定した上で、計画を立てる必要があります。
そういった費用をどうやって確保するのか、とにかく家を出たけれども生活ができない、ということがないように、自由になる財産の確認をしておきましょう。
学校や保育園の確保
転校や転園を伴う場合、空きがあるかどうかの確認が必要です。公立学校で転校が難しいということはあまりありませんが、必要な手続きや時期について、予めヒアリングしておくことが必要です。幼稚園や保育園は場所によっては激戦区なので、預け先があるかどうかも含め、転居の際に確認しておきましょう。
別居時期の確定
別居先が決まったら、次に考えることは別居の時期についてです。別居時期はいつがベストか、というご質問が多く、ケースバイケースとしか言いようがないのですが、いくつか例を挙げたいと思います。
長期休暇中
学齢期のお子さんがいる場合、学期中に転居や転校を伴うとなると、心身ともに負担が大きかったりします。ですので、夏休みや冬休みなど、長期休暇に転居するという方法があります。
年度末
進学や進級のタイミングで別居するという方法もあります。学校が変わったり、クラス替えの心機一転のタイミングだと、友人への説明が楽だったり、子ども自身の気持ちの切り替えがしやすかったりします。
連休や週末
次の長期休暇まで待てないというほど事態が緊迫している場合、直近の連休や週末を利用して別居することも可能です。ただ、子連れ別居の場合、子どもへの説明や心の準備が必要です。そのため、DVやひどいモラハラでやむを得ない場合以外、十分に準備した上で進めましょう。
具体的な引越しの段取り
転居先や時期が決まったとして、後は具体的な転居の段取りです。別居の際、二度と家に戻れない覚悟で転居準備を進めるのがベストです。なぜなら、別居後は、相手の同意なく家に入ることができなくなりますし、同意なく家を出た場合、好意的に「必要なものはいつでも取りに来てもいいよ」と言ってもらえる可能性は極めて低いからです。
特に、子どもがいる場合、学業に必要なものや学習机やベッドなど、大型家具も含めて検討が必要です。家具や家電に関しては、争いになりそうなものはとりあえずは持ち出しを避け、自分だけが使っているものや、自分が持ち込んだものを中心に荷造りをしましょう。
いつも夫が在宅で引越し業者を頼めないとか、見積もりさえ取れないという場合は、大型家具は諦め、段ボール数箱にとどめ、宅配で送る程度にとどめるしかないこともあります。
また、DVがある場合で、転居の際に夫の在宅の可能性がある場合、地域の警察に事前に連絡し、立ち合いをお願いするという方法もあります。
夫に別居を教えるかどうかの決定
転居の段取りが整ったところで、次に待っている選択肢が「事前に別居の意思を伝えるのか」それとも「相手がいない間にこっそりと家を出るのか」という選択肢です。
まず、離婚をしたくない相手に別居の許可を得るのは難しいので、相手の同意なく別居に進むことになるわけですが、そうだったとしても、一応報告だけはしておくのか、それとも報告すらせずにこっそりと家を出るのか、というのは大きな違いがあります。
この点、当センターでは、「可能であれば、いつ頃家を出る」程度のことはあらかじめ相手に伝えておきましょう、とアドバイスしています。なぜなら、家に帰ったら妻子がいないという事態はとても衝撃が大きいですし、その後の話合いをスムーズに行うためにも、よくありません。
ただ、DVがある場合や、別居の予定を告げると妨害行為がありそうな場合は例外です。このような場合は、身の安全を確保するのが優先ですので、無理をして相手に事前に伝える必要はありません。
別居条件を話し合う
以上のような段取りを踏んで別居が完了したとして、次は、必要なことを協議する段階に入っていきます。一般的には、別居時に以下のようなことを決めておく必要があります。
婚姻費用
婚姻費用は、まだ離婚はしていないけれど、夫婦が別居している際に支払われるお金です。離婚が希望だったとしても、すぐに離婚が成立するとは限りませんし、婚姻費用を請求することで、夫が離婚に応じてくれることも考えられます。そのため、まずは、離婚が成立するまでの婚姻費用を決めておきましょう。
面会交流
夫側のニーズにもよりますが、お子さんがおられる場合、面会交流についても取り決めておきましょう。別居に関しての夫の合意がないままに面会交流をさせると、子どもを連れ去られるのではと不安な場合、家庭裁判所に「子の監護者の指定」という申立てをすることも可能です。
同意なく家を出た手前、お子さんに会わせるのが難しいと感じる方もおられるかもしれませんが、お子さんにとっては大きな環境の変化になりますので、せめて、父親との関係まで断ってしまわないようにしましょう。
離婚意思
当面の生活費として婚姻費用を決定した上で、夫に離婚意思があるかどうかを確認してみましょう。別居前は、離婚したくないと言っていた夫でも、実際に別居生活が開始し、月々支払うべき婚姻費用が決まったところで、こんな状況なら離婚でいいかも、と思う人もいます。
そして、相手に離婚意思があるということが分かれば、離婚条件の話合いに入りましょう。
別居(離婚)条件の協議の方法
そういった話合いをどのように進めるか、4つの方法をお伝えしたいと思います。
夫婦で話合い
基本はやはり夫婦での話し合いです。ただ、相手が別居に同意していない場合、そもそも話合いに応じてくれないことも多かったりしますので、その場合は、後述の第三者を介しての話合いに進む必要があります。
また、DVやひどいモラハラがある場合、別居の話合いを持ちかけること自体にリスクがありますので、あまり無理をせず、同じく第三者を介した話合いを検討していただければと思います。
家庭裁判所の調停
家庭裁判所で婚姻費用分担請求(裁判所のHPに移動します)や離婚調停を行うことが考えられます。申立ての手続きはさほど煩雑ではありませんし、費用も安価です。また、婚姻費用の調停に関しては、調停で合意できない場合、審判という手続きに移行し、裁判官が適切な金額を決めてくれます。
そのため、紛争性が高く、任意の合意が難しいような場合に利用がお勧めです。
弁護士に依頼する
弁護士という法律の専門家に依頼し、婚姻費用の請求やその後の離婚について代理してもらうこともできます。
弁護士に依頼するメリットは、何と言っても専門性の高さと自分の味方として代理に交渉してもらえるという安心感です。一方で、依頼料が数100万円前後と高額になる点や、弁護士が間に入ることによって紛争性が高まり、かえって相手の怒りを買うというリスクがあります。
ADR(裁判外紛争解決手続き)を利用する
ADRは、民間の調停機関です。民間であるが故の利便性(土日利用可・オンライン調停等)があります。また、裁判所や弁護士に比べて、相手の受け止めもソフトな側面があり、紛争性が高まりにくいというメリットもあります。
そして、何より大きなメリットは迅速性です。例えば、婚姻費用は日々の生活費ですので、既に別居を始めている場合、1日でも早く婚姻費用を払ってもらいたいという状況になるものです。この点、ADRは家裁の調停より解決までの時間が随分と短いですので、利用する際の大きなメリットと言えます。
一方で、家裁と異なり、一定の利用料がかかる点がデメリットと言えます。弁護士に依頼する費用の10分の1程度ですむ機関が多いと思いますが、それでもやはり家庭裁判所を利用するより割高ですので、その点はデメリットと言えます。
具体的な別居の手順(夫バージョン)
大まかな流れは妻バージョンと同じですが、多くは男性の方が生活の糧を得ていることが多いので、いくつかの点で注意が必要です。
例えば、予め別居を妻に告げるかどうかですが、DVがない限り、できる限り妻には事前に話しておきましょう。なぜなら、妻にとっては、大黒柱である夫がある日突然居なくなってしまうのは、かなりな衝撃ですし、不安も大きいものです。
また、婚姻費用についても、妻との合理的な話合いが難しかったとしても、予め算定表を示すなどして、目安の金額を伝えておきましょう。別居をしたとしても、夫婦間の扶養義務はあるわけですので、生活費をまったく支払わないというのは許されませんし、その後の離婚協議で不利になることもあります。
一方で、離婚したくない妻に対し、婚姻費用を払いすぎると、離婚のメリットを示しにくく、離婚が遠のくということも考えられます。以下のコラムの婚姻費用に関する記述をご参考ください。
おまけ
離婚してほしいと伝えても、それに応じてくれない相手に対し、相当の時間と労力をかけて説得を試みる方がいます。しかし、これは残念ながら、あまり功を奏しないことがほとんどです。
通常、相手から離婚を迫られら場合、「拒否されている相手と一緒に生活するのは苦痛」と考えるのが当たり前です。例えば、結婚前の交際相手との関係を考えてみてください。一方が別れを切り出したとして、もう一方の反応はどうでしょうか。きっと、始めは「別れたくない」という反応があり得ると思いますが、そのうち離れていきます。
しかし、結婚は別です。交際当時の同棲とは異なり、結婚は法的な契約であり、生活のすべてに影響を及ぼします。そのため、例え相手から嫌われても、そして自分も相手のことをもう好きではなかったとしても、そう簡単に生活を変える決断はできないのです。ましてや、子どもがいるとなおさらです。
そんな相手に対し、いくら「もう好きではない」「こんなところが苦痛だ」と伝えてみても、効果はありません。なぜなら、それを分かった上で、「離婚しない」という選択肢を選んでいるのですから。
そんなとき、みなさんが取る選択肢は大きく分けて2つあります。まずは、我慢して同居を続けるという方法です。今回のコラムでは、別居の具体的な進め方をお伝えしましたが、けして、別居を手放しでお勧めしているのではなく、あくまで、選択肢の1つとしてお伝えしたいと思っています。
というのも、当たり前ですが、別居は転居を伴いますので、生活に大きな影響があります。安易な別居は、経済的な困窮を招きかねないリスクもあります。加えて、離婚も別居もしたくない相手の気持ちに反して行動するわけですから、それなりの反応が返ってくることも予想されます。
そうだとしても、自分が自分らしく生活していくために、もしくは、自分や子どもの幸せのために必要なことであるならば、後悔のないよう、しっかりと準備をした上で進めていただきたいと考えています。
当センターでは、そういったご相談や、別居後の協議の仲介(ADR)についてもお手伝いしています。まずは、一度、離婚カウンセリングをご検討いただければと思います。