このコラムでは、離婚時の財産分与の対象に不動産(持ち家)がある場合の「4つの基礎知識」と「3つの下準備」についてお伝えした後、売却・賃貸・継続居住の3つの処分方法について、住宅ローンのあるなしや名義人の別によるそれぞれのケースについて手続きの流れを記載しています。まずは、前提知識と下準備をお読みいただき、その後、ご自身に該当する箇所をご確認ください。
持ち家財産分与の4つの基礎知識
不動産の名義にかかわらず夫婦の共有財産
購入時の名義は関係ない
結婚後、夫婦が働いたお金で購入した不動産の場合、名義がどちらになっていようと、持分が何対何になっていようと、夫婦の共有財産と言えます。
そのため、「夫の名義なので、不動産は夫のものなのでしょうか。」というご心配の声や「俺の給料で住宅ローンを支払ってきたのだから、自宅は俺のものだ」といった主張が聞かれることがありますが、夫の名義になっていたとしても、妻にも分与してもらう権利があります。
住宅ローン充当分も対象
また、結婚前にどちらかが取得していた不動産であっても、婚姻後の給料で住宅ローンを返済している場合、返済した住宅ローン分が財産分与の対象になります。
財産分与の時効
離婚を先行させることも可能
離婚時に財産分与も含めた離婚条件を全て決めておけるのが理想的です。しかし、場合によって、まずは離婚を先行させ、その後に財産分与についてじっくり話し合うという方法を選択することもできます。
財産分与の時効は2年
離婚後に財産分与を協議する予定の場合、財産分与の時効は離婚から2年であることに注意が必要です。例えば、夫名義になっている持ち家があるとして、「当面、住んでてもいいよ」と言われ、安心して妻子が住み続けていたところ、協議しないまま2年が経過してしまうと、夫のものとして確定してしまうことになります。(もちろん、夫が応じる場合、2年を経過していても財産分与が可能です。)
分与自体は2年後でもOK
例えば、離婚後、不動産を売却した上で売却益を双方2分の1ずつ取得するような財産分与の内容を取り決めて離婚したとします。その上で、売却自体が2年以上後になったとしても問題はありません。ただ、「売却して半分ずつしよう」と口約束していても、どちらかが翻意した際に証明することができず、名義人のものになってしまう恐れがあります。そのため、取り決めた内容を離婚協議書や公正証書で残しておきましょう。
夫婦の共有財産以外は差し引く
差し引く財産の例
売却して売却益を分配する場合も、継続してどちらかが居住する場合も、不動産取得のために夫婦の共有財産以外の財産が投入されているとすると、その金額をある一定の計算のもと、差し引くことになります。例えば、頭金として夫婦のどちらかの独身時代の預貯金を使ったとか、どちかの両親が資金援助してくれたような場合がこれにあたります。
差し引く際の計算方法
例えば、夫が独身時代の預貯金から頭金を支出している場合、売却時の頭金評価額を求めた上で、その金額を先に夫が取得し、残りの売却益を双方で半分ずつ取得します。
分与割合
基本は2分の1
原則、財産分与は2分の1ずつになりますが、双方が合意していれば、どのような割合で解決しても問題はありません。
例外
例えば、離婚したい夫が離婚に消極的な妻に対し、「将来が不安で離婚に応じられないのであれば、家を全部あげるから離婚してほしい」と持ち掛けることも可能です。
持ち家の財産分与を進めるための3つの下準備
査定を取る
実際に売却する場合もそうでない場合も、まずは不動産の価値を知るために査定が必須です。特に、実際は売却しない場合、より現実に近い不動産価値を知るため、不動産鑑定士に依頼する方法もありますし、複数の会社に査定を依頼し、極端な金額を排除した上で(もしくは全てを足した上で)平均値を取るという方法もあります。
住宅ローンを確認する
契約者
まずは、誰が契約者になっているのかを確認しましょう。夫婦が住宅ローンを組むとき、単独ローン、ペアローン、連帯保証型、連帯債務型の4種類に分けられます。夫が契約者だと思っていたら、意外と妻も連帯保証人になっていたり、といったこともありますので、銀行との契約書等を見て把握しておくことが大切です。
残高
まずは、住宅ローン残高を正確に把握しておきましょう。なぜなら、アンダーローンかオーバーローンかによって、分与の方法が変わってくるからです(オーバーローンだと、任意売却でもしない限り、売却はできない等)。
持分を確認する
確認の方法
意外と持分を正しく把握していないご夫婦が多くいます。そんな場合は、法務局で登記簿謄本を取得し、確認してみましょう。
抵当権の確認
登記簿謄本を確認しておけば、住宅ローン以外の第2抵当、第3抵当がついていないかなども確認することができます。例えば、配偶者に借金癖があるような場合は要注意です。
売却か継続居住か賃貸か
以上のような知識を持って下準備が完了したとして、まず決めなければいけないのが分与の方向性(方法)です。以下では、売却か、継続してどちらかが住むのか、それとも賃貸に出すのか、それぞれの分与方法のメリット・デメリットをお伝えします。
売却のメリット・デメリット
メリット
売却の一番のメリットは、「清算」です。例えば、売却せずにどちらかが所有する場合、離婚後も連帯保証人から抜けられなかったり、共有名義のままだったりと、離婚後も利害関係が続いてしまうことがあります。気持ちの上でも、双方が心機一転、新しい環境で生活をスタートさせられるというメリットがありますし、売却益で生活の再スタートを安定させることもできます。
また、実際に売却し、その売却益を分配する方法を取りますので、売却せずに査定額だけ出して計算する方法に比べ、公平感があります。
デメリット
一方、デメリットとしては、住み慣れた家を手放さなくてはならないことです。特に子どもがいる場合、ほとんどの子どもは愛着のある家から転居することを嫌がりますし、転校を伴う場合はなおさらです。
また、離婚時の売却は時期を選ぶことができませんので、売り時でないときに少々割安で処分せざるをえないこともあります。
加えて、賃貸アパートに転居し、住居の質がぐんと下がったけれど、家賃と一か月の住宅ローンの金額がそれほど変わらないという場合もあります。
継続居住のメリット・デメリット
メリット
メリットは何といっても住み慣れた家に継続して住めることで、離婚時の変化を最小に抑えることができます。加えて、賃貸に住むより将来が安定します。
デメリット
一方、デメリットとしては、必要以上に広すぎたり、固定資産税や管理費等がかさむ場合があります。また、離婚後の経済力が十分でない場合、住環境を重視したばかりに、その他の面で経済的に苦しくなってしまう場合もあります。
例えば、妻子が夫名義の家に住み続けるとして、住宅ローン分を養育費と相殺するような場合、家は広くて快適だけれど、教育費が足りなくて塾に通えない、といったようなことが起こったりします。
賃貸のメリット・デメリット
メリット
オーバーローン(売却価格より住宅ローン残高の方が高い場合)の場合、今すぐ売却することができませんが、月額の住宅ローン額より高い賃料を設定することができれば、毎月収益をあげつつ、住宅ローン残高を売却できる金額まで下げることができます。双方が実家に帰れるような場合に特に有効です。
また、収入が低い方が自宅を取得して賃貸に出すことができれば、家賃収入で離婚後の生活費を安定させることができます。
デメリット
一方、デメリットは、家賃収入をどのように分配するかとか、不動産のメンテナンスはどうするかなど、離婚後も利害関係が継続してしまうことです。
また、共有名義のまま賃貸に出している場合、売却のタイミングについて意見が食い違うこともあり、自分がもう一本住宅ローンを組みたいと思っていたとしても、好きな時期に売却できないこともデメリットです。
売却の場合の具体的な流れ
売却の場合、売却益がある場合とそうでない場合(いわゆるオーバーローン)があります。ご自身のケースに当てはまる分与方法をクリックしていただくと、該当箇所に飛ぶことができます。賃貸の場合はこちら、どちらかが継続して居住する場合はこちらをクリックしてください。
売却(売却益が出る場合)
まずは、自宅の査定を取り、売却益より住宅ローン残高の方が高くなってしまわないか(オーバーローンにならないか)を確認します。そして、売却益の方が上回ることをざっくりと把握した後、売却活動を開始します。
また、家を売却してから離婚するか、それとも、離婚した後に家を売却をするのかも決めておきましょう。
結論としては、どちらが先でも構わないのですが、お勧めは、離婚をした後に売却を進める方法です。なぜなら、その方が時間をかけてじっくりと良い条件で売却ができるからです。
一方で、既に別居が実現していて、戸籍上の離婚は特に急がないという場合は、自宅の売却が完了した後に離婚届の提出という順番でも問題はありません。
売却(オーバーローン)
オーバーローンであっても、共有名義の財産を残しておきたくないとか、月々の住宅ローンや固定資産税など維持費を払えないという理由で売却することがあります。
その場合、住宅ローンが完済できないということは、不動産に抵当がついたままということになりますので、基本的には売却ができませんが、いくつか売却のための方法を以下にご紹介したいと思います。
他の財産から充当
預貯金などの夫婦の共有財産を充当することで、ローンを完済することが考えられます。また、株式を売却したり、積立型の保険や財形を解約して資金を捻出することもできます。可能であれば親族に借りるという方法もあります。
任意売却
任意売却とは、住宅ローン等の借入金が返済できなくなった場合、売却後も住宅ローンが残ってしまう不動産を金融機関の合意を得て売却する方法です。
通常、住宅ローンが残ったままでは銀行は抵当権を抹消してくれませんが、任意売却の場合、住宅ローンが残った状態で抵当権を抹消し、残りの住宅ローンは無担保債務として返済していくことになります。
任意売却という選択肢は様々なデメリットやリスクもあるため、「競売にかけられるよりまし」程度に考え、どうしても住宅ローンが返せない場合の苦渋の選択肢として理解してください。
賃貸
売却せず、だからといってどちらも住まずに賃貸に出すという方法があります。例えば、住宅ローンを継続して支払っていくのが難しいけれど、オーバーローンで売るに売れないといった場合です。このような場合、双方が実家に戻ることができたり、家賃を抑えた場所に住むことで、自分たちの居住費を抑え、一方で、得た賃料で住宅ローンを返しながらローンの残高を減らし、オーバーローンが解消された段階で売却する、という方法を取ることができます。
ただ、この場合、財産分与の時効が離婚後2年であることを前提に、賃貸に出している間の持分、売却した際の売却益の分与の方法等について、あらかじめ協議の上定めておくことが必要です。
また、どちらかに分与した上で賃貸に出すこともありますが、この場合、以下の継続居住の場合と大きく異なりません。
継続居住
継続居住に共通する4つのステップ
どちらかが住み続ける場合、共通して必要になるのが以下の4つのステップです。
査定を取る
どちらか一方が住み続ける場合、実際に売却はしませんが、住宅の価値を知るために査定が必要です。より現実に近い不動産価値を知るため、不動産鑑定士に依頼する方法もありますし、複数の会社に査定を依頼し、極端な金額を排除した上で(もしくは全てを足した上で)平均値を取るという方法もあります。
どのような方法を取るにしても、双方が納得のいく方法を採用することと、実際に売却するわけではないので、あくまで「机上の数値」との割切りが必要です。
査定額から住宅ローン残高をひく
次に、住宅ローンが残っている場合、不動産の査定価格から住宅ローンの残高を引き、仮想の売却益を算出します。実際に売る場合、仲介手数料や登記費用等、売却のための諸々の諸経費も併せて引きますが、実際に売らない場合は、住宅ローン残高のみを引きます。
分与の割合や方法を決める
このようにして出てきた平均値を不動産の現価値とし、不動産を取得する方が取得しない方に半額を現金で支払うことになります。
ただ、不動産の半分といえば高額になるのが通常です。不動産の他にもたくさん共有財産があり、「妻(夫)が不動産で夫(妻)がその他の財産」という財産分与の形を取れればよいのですが、財産のほとんどが不動産という場合、その半額を現金で分与することが難しくなってしまいます。
そのため、分割払いのような形をとる方法もあります。
加えて、夫婦の合意があれば、分与の割合は半分でなくても問題はありません。例えば、離婚をしぶる妻に対し、離婚希望の夫が「不動産の名義は妻でよい、半額の現金も求めないから離婚してほしい」と主張することも可能です。
名義変更
不動産の名義が継続して住むことになった方とは異なる場合、例えば、購入の際は夫名義もしくは夫と妻の共有名義だったけれど、財産分与時に妻が取得する場合、夫の持分を妻に譲渡する必要があります。
不動産の持分譲渡の登記は、司法書士に依頼するのが一般的ですが、自分で手続きすることも可能です。
これらの4つのステップの後、それぞれの状況によって、必要な手続きの内容が異なってきます。以下に、よくあるパターンを記載していますので、該当の箇所をクリックしてご参照ください。なお、以下では、便宜上、分与の割合が2分の1ずつで統一しています。
夫居住・夫単独(夫婦共有)名義・住宅ローンなし
妻居住・夫単独(夫婦共有)名義・住宅ローンなし
夫居住・夫単独(共有)名義・夫単独ローン
夫(妻)居住・夫婦共有名義・ペアローン
妻居住・夫単独(共有)名義・夫単独ローン
夫居住・夫単独(夫婦共有)名義・住宅ローンなし
査定を取った上で、査定額の半額を夫から妻に支払います。妻にも持分があった場合、妻から夫への持分移転登記が必要です。他の財産と相殺したり、一括での支払が難しい場合、分割払いにする方法もあります。
妻居住・夫単独(夫婦共有)名義・住宅ローンなし
査定を取った上で、査定額の半額を妻から夫に支払います。また、夫の持分を妻に移転する登記が必要です。他の財産と相殺したり、一括での支払が難しい場合、分割払いにする方法もあります。
夫居住・夫単独(夫婦共有)名義・夫単独ローン
査定額から住宅ローン残高を引いた金額の半分を妻に支払います。他の共有財産と相殺したり、一括での支払が難しい場合、分割払いにする方法もあります。また、不動産が共有名義の場合、妻から夫へ持分移転登記が必要です。
夫(妻)居住・夫婦共有名義・ペアローン
夫(妻)が継続して住み続けるけれど、不動産は共有名義で住宅ローンがペアローンの場合、少し手間がかかります。まず、査定額から住宅ローン残高を引いた金額の半分を妻(夫)に分与するところまでは同じです。問題は、妻(夫)名義の住宅ローンです。
妻(夫)名義の住宅ローンがなければ、妻(夫)の持分を夫に分与することは難しいことではありません。しかし、妻(夫)名義の住宅ローンがありますので、これを何とかしなければなりません。そのため、通常は、夫(妻)が住宅ローンの借換を行い、妻(夫)の住宅ローンも含めた金額を借り換えた上で、妻(夫)の住宅ローンを完済するという流れになります。
この際、夫(妻)1人の収入では妻(夫)の住宅ローンも併せた合計残額を借りられない場合、夫(妻)の両親等に収入合算や連帯保証人を依頼する方法もあります。
また、銀行は、離婚を原因とする住宅ローン契約にとても消極的です。収入が十分であっても借換が難しい場合等は、専門の不動産業者に依頼しましょう。
妻居住・夫単独(共有)名義・夫単独ローン
次に、よくあるけれど注意が必要な場合として、妻と子どもが継続して自宅に住み続けるけれど、不動産の名義も住宅ローンの契約者も夫というケースをご紹介したいと思います。
この場合も通常通り考えると、査定を取った上で、住宅ローン残高を引いた金額の2分の1を妻から夫に現金で支払うことになります。また、不動産の名義を妻に変更するためには、妻が住宅ローンを組んだ上で、夫の住宅ローンを完済し、その上で名義変更となります。
しかし、売却益の2分の1を現金で支払い、また、夫の住宅ローンを完済するだけの住宅ローンを組める妻は多くはありません。
そのため、よくあるのが、妻と子どもが住むけれど、夫の名義のまま、住宅ローンも夫が支払うという場合です。以下では、その場合の注意点についてお伝えしたいと思います。
夫名義の家に妻子が居住する際に考えておきたいこと
リスク
夫から退去を求められる
例えば、夫が再婚し、その再婚相手と住む住居を購入したい(住宅ローンを組みたい)という理由で、元妻子が住んでいる家を売却したいと考えることがあります。
また、再婚等の事情がなかったとしても、住宅ローン支払期間が長期間であればあるほど、段々と住んでもいない家のローンを払い続けるのは嫌になってしまうこともあります。
夫の住宅ローンの支払いが滞る
また、夫の経済状況が悪くなり、住宅ローンの支払いが滞ったりするリスクもあります。銀行が返済計画の変更に応じてくれる場合もありますが、期限の利益を喪失したということで、一括返済を求められ、返済できなければ競売にかけられることになります。
どちらの場合も、継続して住み続けることが困難になり、妻と子どもの生活は不安定になってしまいます。
転居が制限される
自宅に住ませてもらう代わりに養育費が減額されたり、住ませてもらうことが養育費替わりになっていることがあります。
離婚当時は引き続き同じ家に住めることのメリットが大きく、養育費が減額されたりもらえなかったりしても構わないと思うかもしれません。しかし、子どもの成長とともに、変化は避けられません。
例えば、子どもが近隣の公立学校ではなく、少し離れた私立学校に通うようになったため、より通学の便がいい場所に転居したいと思うかもしれません。
また、子どもが大きくなるにつれて、家が手狭になってしまい転居が必要ということもあります。
そんな場合でも、自由に転居することができないというデメリットがあります。
何かともめる
例えば、固定資産済はどちらが払うのか、給湯器やクーラーが壊れた場合はどちらが費用を出して修復するのか、そういった諸々のもめごとが予想されます。
リスクを避けるためにできること
公正証書を作成する
上述のような様々なリスクが考えられるのですが、公正証書を作成することで、幾分そのリスクを減らすことができます。以下では、公正証書に記載しておいた方がいいことをご紹介します。
住宅ローンについて
住宅ローンについて、夫が継続して支払うことを約束するような内容を記載することも可能です。しかし、この場合、万が一、夫が返済を滞らせたとしても、強制執行をすることができませんので、その点は注意が必要です。
居住許可について
「夫は、〇年〇月まで、妻子が継続して居住することを認める」といったような内容を記載することができます。多くの場合、子どもが高校や大学を卒業するまで、といった決め方をします。また、有償で居住する場合、賃貸借に関する条項を記載することもできます。
ただ、実際に夫が事情を知らない第三者に売却してしまった場合にまで居住権が認められるわけではありませんので、あくまで抑止的な条項として考えた方がいいでしょう。
持分の一部分与
上述したように、夫が住宅ローンの契約者である以上、不動産の名義を夫から妻に書き換えることを禁止する銀行がほとんどです。ただ、ほんの一部であれば、場合によって許可する金融機関もあります。
そのため、持分の10分の1でもいいので、夫から妻に財産分与として不動産の持分譲渡をするという方法があります。このような記載をする理由は、夫が不動産を勝手に売却してしまうことを防ぐためです。
不動産は、所有者全員の合意がなければ売却することができません。その持分がほんの一部であっても同様です。そのため、夫が知らない間に売却してしまうリスクを回避するため、可能であれば持分を分与する旨を公正証書に記載しておきましょう。
不動産の最終帰属
意外と忘れがちなのが、「結局、その不動産をどうするか」という記載です。妻子の居住期間が終了した後、そのまま夫の所有でいいのでしょうか。もしくは、離婚時の価値分(例えば、当時の査定額が2000万円、残ローンが1000万円の場合、売却していたら500万円ずつ取得していることになります。)を妻に分与するのでしょうか。
特に、居住させてもらう代わりに養育費を減額している場合等は居住後の不動産の帰属について、しっかりと話合っておきましょう。
夫側のメリット
実は、きちんと公正証書で取り決めておくことは、夫側にもメリットがあります。なぜなら、「子どもが独立しても、妻が家を出ていってくれない」という事態が起こりうるからです。
居住年数が長い場合、ずっと住んでいた人の権利が守られる法律があり、妻を無理やり家から出て行かせることは困難です。
そのため、夫にとっても、口約束ではなく、「居住していいのはいつまで」という内容の公正証書を作成しておくことは、とてもメリットがあるのです。
妻が住宅ローンを組めるよう収入アップを目指す
先ほど、リスクを低減するための公正証書の作成についてご紹介しました。しかし、ご覧いただいた通り、強制執行ができるような性質の取決めではないため、夫が不動産を売却してしまったら、もしくは住宅ローンの支払が滞ってしまったら、妻は何もできないことがほとんどです。
そのため、本質的なリスク低減のためには、居住者である妻自身の名義に変更するため、妻が住宅ローンを組める程度の収入を確保することが大切です。
離婚後の生活の安定のためにも就労は欠かせません。まずは、正社員として一定年数勤続することを目指しましょう。
なお、この場合、「夫が住宅ローンを支払っている間は養育費○○万円、妻が夫の住宅ローンを完済した場合は、養育費△△万円」とあらかじめ決めておくことも可能です。
まとめ
離婚業務に携わっていると、離婚と自宅の問題は本当に難しいと感じます。
家は、家族が一緒に暮らした歴史を持っています。それだけに、思い入れも強く、離れがたかったりもしますし、逆に、嫌な思い出がつまった空間にはいたくないという人もいます。
また、女性の場合、離婚後の不安を解消するためにも、持ち家へのこだわりが強かったりもします。夫婦それぞれの思惑が絡み合い、協議が困難になっていくのです。
不動産は、金額が大きいだけでなく、生活の基盤ともなる大切な存在です。離婚の際には、不動産についてどのように取り決めるか、ぜひ専門家に相談し、しっかりとした公正証書を残しておくことをお勧めします。
そして、迷った場合は売却をお勧めします。なぜなら、家族で住むために購入した家は、離婚後の住宅としてサイズ感が合わなくなっていることが考えられますし、子どもの養育費(特に教育費)に売却益を充てられるというメリットもあります。
いずれにしましても、自宅不動産の財産分与について、しっかしりと専門家に相談しておくことをお勧めします。
当センターでは、離婚公正証書の作成をサポートしております。不動産に関する記載についても是非ご相談ください。
離婚公正証書の作成不動産に関する分与方法で合意ができない場合は、ADRによる調停のご利用もお勧めです。
ADRによる調停(仲裁・仲介)まずは、離婚の進め方など、全体的に相談したいという場合は離婚カウンセリングがお勧めです。
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