DV・モラハラ

DVは病気か?そしてDVは治るのか?

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モラハラ

夫や妻からDVを受けている人のお悩みのひとつに「この人が暴力を振るうのは単なる性格の問題なのか、それとも心の病なのか」という問いがあります。

この問いの裏側には、「性格なら何ともできない。でも病気なら治るかもしれない」という期待が隠されていたり、DVが治るものなら治療や関係修復に励みたいけれど、それが難しいようなら離婚を考えたいという判断が待っています。

結論を先に書きます。

DVの原因の1つに人格障害や精神病が背景にある場合もあるが、それだけではない
DVが治ることもあるが、非常に難しい

このコラムでは、こうした結論に至る過程をお伝えしたいと思いますので、ぜひご覧ください。

DVの原因は何か

DVの原因はひとつではありませんが大きな要因のひとつに「認知知のゆがみ」があります。では、その認知の歪みはなぜ発生するのでしょうか。以下で主なものをご紹介します。

生育環境

自分が育った家庭において、父親から母親に対するDVがある場合(もしくはかなりの亭主関白等)、男は女より偉いというような価値観(認知のゆがみ)が身につけてしまいます。また、自分がきょうだいから暴力を受けていたような場合も力によって支配する行動様式を学んでしまいます。

加えて、虐待等が理由で愛着形成がうまくできていない場合も同様です。愛することや愛されることの体験がないと、愛情表現が独りよがりだったり歪んでいたり、自己愛的な愛を他者への愛だと勘違いしてしまうことがあります。

粗野な周囲の環境

家庭だけではなく、友人関係や職場関係も性格形成や認知に影響を及ぼします。例えば、体罰が許されるような運動部に所属していたり、気性の荒い人が集まる職場だったりすると、乱暴な言動が当たり前になってしまいます。

DVの中でも、特に暴力を伴うDVについては、こうした粗野な環境に慣れ親しんでいると、怒鳴ったり、小突いたりすることが日常茶飯事で、悪いことをしているという認識がなくなってしまったりします。

人格障害・精神病

DV(特に暴力を伴うDV)は夫(妻)が悪いのではなく、精神的な病が原因ではないかと考える人もいると思います。

この問いに対するヒントとして、精神鑑定について少しお伝えしたいと思います。例えば、犯罪に結びつくような暴力の場合、裁判の過程で「精神鑑定」を行うことがあります。

刑事事件における精神鑑定とは、犯罪者の犯罪行為時の精神状態を精神医学的に調べることです。なぜこのようなことをするのかというと、日本の法律には、責任能力のない人は罰さないという決まりがあるからです。

この責任能力と精神状態ですが、大きく分けると「心身喪失」と「心神耗弱」の二つに分類されます。心身喪失の場合、完全に責任能力が欠けており、無罪となります。心身耗弱は、責任能力が著しく限定されている状態であり、刑が軽減もしくは免除されます。

猟奇的な犯罪の際には、精神鑑定を行うことが多く、佐世保の高1女子殺人事件などが例として挙げられます。

ちなみに、「あいつを殺してやりたいけど、捕まりたくもない。よし、お酒をたくさん飲んで酔っ払おう。そうすれば、心神喪失で無罪だ。」なんていう場合はどうなるでしょう。ご想像のとおり、そんなに簡単に人殺しが無罪になったりはしません。 これは、「原因において自由な行為」という理論なのですが、心神喪失に陥った原因となる行為の際の精神状態を採用するのです。 つまり、お酒を飲もうと決めた時点の精神状態は正常なわけなので、その後、心神喪失の状態で殺人を犯したとしても無罪になることはありません。

そして、精神鑑定を行っているある医師は、「精神鑑定の依頼を受ける事件の大部分が暴力性を帯びたものである。」と述べています。

このように、犯罪に結びつくような暴力や、猟奇的な暴力というのは、精神的な問題と関係していることが多く、精神的な問題を「病気」とするならば暴力の原因として病気が大きくかかわっていると言えます。

また、人格障害も病気に含めるのであれば、自己愛性人格障害や反社会性人格障害といった人格障害がDVに結びつくこともあります。

不全感や劣等感

DV加害者は偉そうで乱暴で、一見すると自分にとても自信があるように見えます。しかし、内心はそうでないことが多いようです。

不全感や劣等感が強いと、ささいなことから嫉妬や見捨てられ不安を強く感じるようになります。そして、自らの存在が否定されたような恐れから自分を守ろうとし、他者への攻撃や支配に変わります。

DVを治すための4条件

上述のように、DVの背景には多様な問題があるとして、その問題を解決し、DVを治すことができるのでしょうか。

その答えをもっているのは、DV加害者更生プログラムを実施している団体です。日本は諸外国に比べ、DV加害者の更生に消極的な国ではありますが、国内にもDVを治すための治療機関や団体がいくつかあります。

そうした団体の代表や講師が「DVを治すための条件」として掲げているのが以下の条件です。

  • 自分のDVを認める
  • DVを治す動機(目的)が自分勝手でない
  • 継続的に回復の努力をしている
  • ひとりではなく、複数人のプログラムを受けている

以下で、ひとつひとつ見ていきましょう。

自分のDVを認める

DVから更生する大前提として、自分が行っていることがDVであることを認める必要があります。

例えば、力を伴う暴力ではなく、精神的DVや性的DV、経済的DVの場合、自分の言動がDVにあたることに気付いていない人がいます。

また、力を伴う暴力であっても、暴力を振るうのは悪いが、自分にそうさせる相手の言動が理由であり、悪いのは自分ではなく相手だ、と考えている人もいます。

この場合、配偶者から促されて更生プログラムなどに参加したとしても、効果は上がりません。

DVを治す動機(目的)が自分勝手でない

DV加害者の中には治療や更生プログラムにつながる理由が「自分のメリット」にある人も少なくありません。

例えば、妻から離婚を言い渡され、自分が反省していることを示すために治療につながる人もいます。こうした動機は、「本当に相手に悪いことをした。だから自分は変わらなければならない」という動機とは異なります。

自分よがりで勝手な動機で治療を始めた人は、その動機がなくなると元に戻ってしまいます。

例えば、「離婚したくないから反省をみせる」という理由で治療を行っている人は、妻と復縁ができた、もしくは結果的に離婚してしまった、そんな状況が出てくれば、もう治療を続ける必要はないのです。

継続的に回復の努力をしている

DVの原因は認知のゆがみ、幼少期の養育環境、その他人格障害や精神病・依存症などが絡み合っていることもあり、原因は何か一つに絞られるものではありません。

また、その原因のどれひとつとして、簡単に変えられるものではありません。

DV加害者更生プログラムを実施している団体では、少なくとも2~3年は継続的かつ頻繁(週に1回程度)にプログラムに通い、その後も定期的にフォローを受けることが必要だとしています。

そのため、数か月プログラムに参加し、終了したからといって、DVが治るものではありません。

ひとりではなく、複数人のプログラムを受けている

「DVからの真の回復」はDVを我慢するのではなく、DVをしたくなくなることだと言われています。

そうした認知の変容は、ひとりで何冊も専門書を読んだからといって、得られるものではありません。

DV大国のアメリカでは、DV加害者の更生プログラムに関して様々な研究がなされており、その研究の中で、グループでの治療がより効果的であるとされています。

同じ問題を抱える仲間に指摘されたり、逆に自分が相手の言動に対して意見を述べたり、そうしたやり取りの中で気づきが得られるのです。

DV被害者にならないために

ここまで読んでくださったみなさまは、DVの原因は単純に病気や人格障害によるものではなく、更生への道のりも険しいことをお分かりいただけたと思います。

そのため、相手に何かを期待するのではなく、自分自身がDV被害者にならないためにできることを見つける必要があります。

DV被害者にならないためにできることはたくさんありますが、ここでは、その大前提として、自分がDV被害者であることに気付くこと、そして気付いたら早期に行動することの必要性をお伝えします。

「支配-被支配」の関係に敏感になる

有名な心理学者のフロイトは、あらゆる人間関係には「支配-被支配」の関係が含まれており、それは常に暴力の芽生えたりうると指摘しています。

例えば、学校における先生と生徒の関係で考えてみましょう。

「指導する先生と指導を受ける生徒」という支配関係で暴力が芽生えると「体罰」になり、「モンスターペアレントが怖くて怒れない先生と、それをいいことに調子に乗っている生徒」という支配関係になると校内暴力になりえるわけです。

その他にも、友人同士でも「いじりキャラといじられキャラ」というゆるい支配関係から、「いじめ」に発展するほどの明確な支配関係もあるでしょう。

はたまた、上司と部下の関係も同じようなことが言え、確かに人間関係には支配関係がつきもののようにも思われます。

そして、夫婦間に生じた支配関係が暴力になったものがDVだということができます。

では、完全に対等な関係というのはないのでしょうか。たとえば、「僕とあいつはいつも仲良しで、対等な関係である。」という主張もありえそうです。これに関しても、おそらく厳密に言えば支配関係が成立しているのだと思います。

例えば、スポーツをしているときは得意な方が、食事をしている場合はご馳走してあげた方が、悩み相談をしているときは聞いてあげている方が若干強いでしょう。

ですので、健全な人間関係にも支配関係は存在するけれども、その支配関係は時と場合によって入れ替わり、またその支配の程度も強くないということが言えるのではないでしょうか。

DV被害者にならないためには、この「支配-被支配関係」に敏感になり、うまくコントロールする必要があります。

「支配―被支配」の関係が固定化する前に行動を

これまで見てきたDV被害者の方たちの多くは、婚姻前に既にDVの予感がしているのに、それに気づかないふりをしたり、「結婚すれば変わってくれるかもしれない」と淡い期待を抱き、婚姻に至ってしまっています。

また、「結婚して同居するまで分からなかった」というパターンもありますが、その場合も「結婚したからには、そう簡単に離婚はできない」と婚姻生活を継続させる選択をしてしまいがちです。

しかし、「支配-被支配」の関係が生じ、それが固定化もしくは暴力を生みかねないほど強くなると、その関係から抜け出せなくなってしまいます。

そのため、配偶者と自分との関係性をよく見つめ、「おかしい」と感じたら、改善を図る、それが無理ならいつでも関係を終了させる心の準備をしておくことが大切です。

一度、学習的無力化の状態に陥ると、正常な判断や思考は難しくなり、逃げられなくなりますので、初期段階での対処が重要です。あなたを守れるのはあなた自身しかいません。

配偶者のDVにお悩みの方は、ぜひ一度ご相談ください。

離婚カウンセリング

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