コロナ禍において、ADRによる離婚調停はどのような影響を受け、どのような変化があったのでしょうか。令和2年の統計から考察してみました。
月別新受件数から見える変化
4月に申立件数が激減
4月は緊急事態宣言が出されたため、申立件数が激減しました。
東日本大震災があった年、離婚の数が減ったと言われています。やはり、命にかかわる事態という緊張感から、「離婚などしている場合ではない」という感覚になるのではないしょうか。
また、単純に、外出が規制されたことから、申立手続きができなかった方もおられるのではないかと思います。
5月及び6月に申立激増
5月もGWが明けるまでは申立てが0件でした。まだ緊急事態宣言が出されていたことから、おそらく4月同様の状況になるかと想像していたところ、GW明けから申立が激増しました。
激増の理由として以下の4つを挙げたいと思います。
家庭裁判所の機能がストップ
4月及び5月、家庭裁判所の調停機能がほとんどストップしました。新件の受付や緊急性の高い案件は継続されていましたが、多くの調停がキャンセルとなりました。
6月には家裁の調停も再開となりましたが、滞っていた継続案件の日程も入れる必要があります。
そのため、申立てをしようとしても「今申し立てても、初回期日は3カ月後になります」と案内されることもあり、早期解決がのぞめるADRの利用者が増えたものと思われます。
自粛生活による家庭内別居の限界
みなさんが思っている以上に家庭内別居状態で生活している夫婦は多かったりします。
「夫が帰ってきたら、妻は何気なくリビングから自室に」
「休日、妻が家にいると夫は自室、妻が外出したら、夫はようやくリビングに」
といった具合です。
そんな夫婦にとって、四六時中生活を共にする自粛生活はつらいものです。
自粛生活による妻の不満が爆発
自粛生活により、家事・育児のタスクが確実に増えました。
毎日、家族全員分の食事を3回作る必要があります。全員が家にいるので家は散らかり掃除の回数も増えます。加えて、子どもの遊び相手、慣れないオンライン授業のサポートなど、育児のタスクも増えます。
そんな増加した家事や育児をうまく分担できればいいのですが、そもそも夫婦関係が対等でなかったり、話し合う基盤がない場合、増加した負担は妻が負うことになります。
そんな生活に耐え兼ねた妻からの申立てが増加したように思います。
4月の反動
単純に4月の申立てが激減した反動で、5月以降が増加したことも考えられます。
9月以降の申立件数の減少
9月以降、申立件数がやや低い水準で推移しています。明確な理由は分かりませんが、以下のような推測をしています。
妻の経済力の低下
妻が離婚を考える際、一番問題となるのが経済力です。そのため、離婚に踏み切る前に、無職の人はパートを探し、パートの人は正社員になれるよう頑張るのです。
しかし、コロナ禍により、経済的基盤を築くどころか、事実上無職になってしまう人が増えました。特に、飲食店等でパートタイムで働いていた人は、無給の自宅待機を命じられ、自粛期間が明けても失業状態が続いていました。
経済的な不安が払しょくされないままでは、なかなか離婚に踏み切ることができません。
夫の収入減
妻だけではありません。夫も収入が下がる不安を抱えています。
家族は、一緒に生活しているからこそスケールメリットがありますが、別居となれば、それなりのお金がかかります。そのため、別居したくても一緒にいるしかない、そんな理由で別居や離婚に踏み切る人が減ったのではないでしょうか。
別居が困難に
一部の相談者の方から聞かれたのが「実家に帰れない」という悩みです。十分な収入がなく、夫が別居に応じてくれない場合、妻は実家に帰るしか手段がありません。
しかし、コロナ禍の感染防止の観点から他県の実家に帰れなくなり、別居や離婚に進めなくなったのではないでしょうか。
対面調停とオンライン調停の比率(前年比)
注:夫婦1組を1件とし、複数回の調停のうち、一度でもオンライン調停であった場合、オンライン調停として数えています。
対面調停の減少
令和元年は対面調停のみであったケースが67件でした。一方、令和2年は30件に半減しています。申立総件数に占める割合ですと、令和元年は約60%が対面だったのに対し、令和2年は24%にとどまっています。
オンライン調停の増加
令和元年、オンライン調停を利用したことがあるケースは13件でした。一方、令和2年は68件です。全体に占める割合としましては、令和元年が約12%なのに対し、令和2年は55%のケースがオンライン調停を利用しました。
変化の原因
令和2年にオンライン調停が増加した理由として、以下の3つを挙げてみました。
コロナ禍による外出自粛
これまで、オンライン調停を利用されるのは国内外を問わず遠方に住んでいる方々でした。しかし、コロナ禍により、できるなら外出したくないという考え方が広まり、東京近辺に在住している方もオンライン調停を利用するようになりました。
オンラインに対する慣れ
コロナ禍により、様々なものがオンライン化されました。仕事のみではなく、「オンライン飲み会」という言葉がはやるなど、オンラインでコミュニケーションをとることに慣れていきました。
もともと、離婚協議はセンシティブなもので、相手の顔を見ながら、温度を感じながら、といった考え方から、「離婚協議をオンラインでするなんて」という抵抗を感じる方が多かったように思います。
しかし、日々の生活のオンライン化により、リアル対面へのこだわりが少なくなりました。顔を見ながら話ができるのであれば、リアルでなくてもオンラインでもいい、という感覚が広がったように思います。
隠れたニーズの顕在化
コロナによる外出自粛以外にも、オンライン調停へのニーズがあったことが分かりました。
例えば、子どもを預ける場所がないママです。外出を伴う調停の場合、どんなに短くても2,3時間はかかります。その間、子どもを自宅に一人にしておくことはできません。
ただ、ADRによるオンライン調停なら所要時間は1時間程度です。年齢にもよりますが、子どもは別室でDVDを見せながら、自分はオンライン調停に参加する、ということもできるのです。
また、昼休み休憩+1時間休暇程度で参加できるのもオンライン調停の強みです。休みを取りにくいサラリーマンの方が昼休みに話合う、というケースもありました。
対面調停とオンライン調停の実施回数(月別)
3月を境目にオンラインと対面が逆転
3月を境目に、対面調停とオンライン調停の実施回数の比率が逆転しました。特に、4月及び5月は緊急事態宣言による外出自粛期間でしたので、対面調停は月に1回のみでした。
6月及び7月は、感染者数が減ったこともあり、対面での調停も復活の兆しが見えました。
ただ、オンラインの便利さが浸透し、また、コロナ禍の再燃につれて、再びオンライン調停の割合が増加しました。
遠方からの申立ての増加
このグラフからは分からないのですが、実は、8月以降、オンラインを前提とした遠方からの申立てが増加しました。
対面を前提とした考え方ではなく、オンラインへの抵抗感がなくなってきた結果だと考えられます。
申立人の男女比率(月別)
5月に女性の申立比率が激増
5月は、女性による申立てが激増しました。これは、自粛生活によって増加した家事・育児の負担を妻が負うことになり、不満が増加したことが考えられます。
また、夫の在宅時間が少ないからこそもちこたえていた夫婦が、夫の在宅時間の急激な増加により、妻からの離婚という形で破綻したことが考えられます。
7月以降は例年の水準に
例年、当センターでは、女性からの申立件数がやや多い程度で推移しています。そして、令和2年も7月から11月は同様でした。
女性の不満の増加、でも経済的に離婚できないという「+」と「-」が相殺された結果、例年通りの推移だったのではないかと推測します。
コロナ禍においてADR調停を実施した雑感
コロナ禍はあくまで付随理由
離婚理由として「自宅で一緒にいる時間が多くなり、耐えられなくなった」と語る人も多かったように思います。ただ、コロナ禍で仲が悪くなったというより、これまで蓋をしていた問題が顕在化したという印象を持ちました。
また、自粛生活による妻の負担増加、その結果としての離婚という形も、普段から健全なコミュニケーションが取れていなかったという背景があります。
当たり前ですが、仲の良かった夫婦がコロナ禍によって離婚に至ったということではないのでしょう。
意外とオンライン調停もあり
離婚をしたくない人は、オンライン調停に抵抗を感じることが多いようです。相手の温度感を感じながら話がしたい、離婚するかもしれない大切な局面でオンラインでは伝えきれない、そういった気持ちからだと思います。
また、相手方となる方も同様にオンライン調停に抵抗感があったりします。相手方は、話合いのステージに引っ張り出されるようなものです。ADRセンターがどんなものかもよく分かりません。そのため、より一層オンラインに不安を感じるようです。
ただ、こういった方々も、初回は対面でやってみて、そして次にオンラインに移行する形をとると、それ以降はずっとオンラインでの実施を選択されることが多いのです。体験してみると、意外とオンラインでも安心して話ができるし、利便性も高いということではないでしょうか。
コロナ禍でも変わらないこと
この一年、一番強く感じたことは、コロナ禍でも大切なことは変わらないということです。
ADRでの解決を選択する人の多くは、「きちんと話し合って解決したい」という気持ちを持ってくれています。
離婚は本当に一大事で、心身ともに疲れ切ります。諸々のことに目をつぶって通り過ぎたい、そんな気持ちにもなります。
しかし、利用者のみなさんは、自分なりに問題に向き合い、解決に向けて誠実に話合いを進めてくれました。そんな皆さんに対し、伴走者として、いつも敬意を感じています。
どんな世の中になるのか不確かなことばかりですが、人生の大切な節目に立ち会わせてもらう者として、誠実さを大切にしたいと思う令和3年の年初でした。