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書籍紹介 Q&A 離婚・再婚家族と子どもを知るための基礎知識

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今回は、立正大学社会福祉学部教授の村尾泰弘先生が編著者としてご出版された「Q&A 離婚・再婚家族と子どもを知るための基礎知識(明石書店)」のご紹介です(大変盛沢山の内容ですので、以下にご紹介するのは一部をピックアップした内容です)。

結婚と離婚をめぐる問題

結婚とは何か

結婚の法律的な意味合いや内縁の法的性格の説明、そして同性カップルなど多様化が進む現在の結婚や家族の形について記載されています。

また、結婚観や家族観についての統計もとても興味深く、時代の共に変わってきたことや未だ変わらないこと(例えば、依然として、家事育児の分担は女性が多く負担するものという認識が多数派)などが紹介されています。

別居の際に生じる課題

婚姻費用や面会交流だけではなく、住宅ローンがある場合の問題(婚姻費用の支払能力に影響)や社会福祉制度との関係(外見上は離婚後に近いが、制度上はまだ婚姻関係にあるため、児童扶養手当等、ひとり親が受けられる手当や助成の対象とならない)にも触れられています。

また、別居を同居から離婚に至る「移行期」と捉え、次のように表現されています。

親が抱える課題、夫婦間紛争が子どもに与える影響などに留意し、子どもの幸せに必要な複数の要素をまんべんなく目を配りながら、その家族が落ち着いていく場所を模索していく時期とも言えよう。

この記載には、本当に共感します。当センターでADRをされるみなさんも、やはりお互いの「感情」というソフト面、そして婚姻費用という経済面、そして、面会交流や子どもへの説明など、いかに子どもへの影響を少なくするかといった福祉面、そういった複数のことを同時に考え、ひとつひとつ答えを出していく作業をされているように思います。

離婚とはどのようなことか

第三節では、まずは、統計からみた離婚について触れられたいます。例えば、未成年の子がいて離婚した件数は11万8664組となっていて、離婚全体の56,9%にあたるそうです。また、母子家庭の平均年収は243万円となっていて、親の離婚が子どもの貧困につながっていることが分かります。

また、離婚を妨げる理由として、経済的な不安や子どもへの心配が挙げられていて、まさに現場で語られる葛藤の声と同じです。

そして、興味深いのは、心理的な対話の拒否が離婚できなくなる理由として紹介されている点です。すなわち、「喧嘩を避けたい」、「もう顔も見たくない」という拒否の感情が先立ち、離婚に必要な対話ができなくなってしまうということだそうです。

確かに、離婚協議は精神的な負担が大きく、なるべくなら避けたいという心理が働きます。その結果、夫婦不和が長年にわたっているにもかかわらず、仮面夫婦を継続することになるのかもしれません。

次にいわゆる不貞に関する有責主義と破綻主義の転換の話がでてきます。ごくごく簡単に言いますと、これまで、浮気をした人は悪いことをしたのだから、自分からは離婚できないという考え方が有責主義です。一方、有責性があったとしても、夫婦が破綻している(別居期間が長い等)場合、離婚を認めるのが破綻主義です。

有責主義から破綻主義への転換と聞くと、何となく不貞が許される世の中になったのかと思いがちですが、そうではありません。ここでは、「家」感覚が薄まったことや倫理観に長く拘束されるよりも、現実を受け入れ、新しい自分の生き方を見出す方がよい場合もあるといったことが紹介されています。

離婚に伴う複雑な問題

第4節では、離婚に伴う諸問題として、まずは親権をめぐる争いが紹介されています。具体的な調停の進行や家裁調査官の役割が説明されると共に、親権を判断する際の判断材料も紹介されています。今後、親権を争う予定のある人には、かなり具体的で参考になるのではないでしょうか。

また、養育費や財産分与、慰謝料や年金分割といったその他の離婚条件についても具体的に記載されていて、第4節を読むことで、離婚条件の基礎知識を得ることができる内容となっています。

家族をめぐる心理学と社会学

家族を理解するための心理学理論

第一節では、結婚や離婚から少し離れて、心理学的な側面からアプローチしています。これが本書の面白いところ言いますか、法律的なことだけではなく、心理学的な観点からも理解を進めることができます。

まずは、精神分析やユング心理学の中で家族に関する基本的な知識が記載されています。そして、家族間がうまくいかない場合の家族療法についてやジェノグラムの書き方や活用について、また、ナラティヴ・セラピーやブリーフセラピーについても概要が説明されています。夫婦間の問題だけではなく、その問題に子どもが絡んでいることや巻き込まれていることも多々あるかと思いますので、少し専門的な観点からご自分の家族を考えてみたい方の参考になるかもしれません。

加えて、うつ病、統合失調症、パニック障害や不安症、そして人格障害など、夫婦不和の一つの要素になりえる精神疾患等について、その特徴が説明されています。ご自分の配偶者の言動に「何かおかしい」と感じている方や配偶者の精神疾患に悩んでいる方には入り口の情報として役に立つのではと感じました。

再婚・離婚を理解するための社会学的視点

ここでは、離婚や再婚の変遷を明治時代まで遡り、統計を手掛かりにこれまでの変遷を考察しています。紹介される統計の中には、イメージとは真逆の統計もあり、なかなか興味深いです。例えば、明治時代はとても離婚が多かったことや、江戸時代の女性は意外と経済的に自立していて、離婚後の再婚も多かったことなどが紹介されています。

また、再婚家庭をいくつかの「型」に分類し、離婚や再婚によって家族が連鎖したり拡張したりするネットワーク的な家族モデルが理想的な形ではないかという記載もあり、初婚で両親が揃っている家庭を「ふつうの家族」とし、その普通の家族を理想形として目指そうとしなくていいという一環したメッセージが受け取れます。

離婚と再婚をめぐる社会制度

まず、離婚と生活保護について詳しく書かれています。生活保護という言葉はよく聞きますが、保護基準や給付の詳細、そして離婚時の課題など、とても詳しく記載されているので、離婚業務を行う周辺専門家が読んでもとても参考になる内容が多いように思います。

また、DV被害者やDV被害者を支援する立場の方々に役立つ内容として、母子生活支援施設やシェルターについても詳しく記載されています。生活保護と同じく、耳にしたことはあるけれど、曖昧にしか理解していない人も多いかと思いますので、どういった人が入所できて、その生活にはどんな制限がかかるのか、また、それぞれの施設の役割分担など、是非ご参考いただければと思います。

離婚・再婚家族と子どもを知るためのQ&A

このQ&Aが本書の特徴と言ってもいいかもしれません。とてもシンプルに、「そう、それ知りたかった!」というような内容が記載されています。以下にいくつかご紹介したいと思います。

DV関連

DVを受けています。どこに相談に行けばよいでしょうか。

DV関連の相談窓口はたくさんありますが、当のDV被害者は案外情報の外にいたり、混乱の中でどこに相談にいけばよいか分からない、という状況に陥っていたりします。また、関連業種の方も意外と即答できない人もいるのではないでしょうか。

ここでは、まずは配偶者暴力支援センターと警察が相談先として挙げられていて、その後の支援機関なども紹介されています。

仕事をしておらず経済的に自立していません。別居することはできるでしょうか。

離婚や別居に際し、経済的な不安が頭をよぎるのはDV被害者に限ったことではありませんが、DV被害者は就労に制限がかかる場合も多く、より一層生活が困窮することがあります。

ここでは、離婚が成立していなくても生活保護が受けられることや、住民票とは異なる場所に住んでいたとしても居住地での申請が可能なことなど、DV被害者ならではの心配事を解消できる情報が記載されています。

養育費と面会交流

「養育費の決め方について教えてください」、「家庭裁判所で養育費を決めたのですが、相手が支払ってくれません」、「面会交流とはなんですか」といったような基本的な質問から、「ゲートキーピングという考え方を教えてください」といったやや専門的な質問まで、色々な角度から質問と回答が設定されています。

中でも、「面会交流とはなんですか」という質問に対しては、子どもにとってどんな意義があるのかについて、諸外国の研究結果もふまえ、とても分かりやすく簡潔に記載されています。面会交流が子どもに及ぼす影響について、研究者の立場などによって様々な結果がでていますが、かなりコンパクトに必要十分な内容がまとめられていますので、面会交流に前向きになれない同居親の立場の方や、関連業種の方は是非ご一読いただければと思います。

ステップファミリー

ステップファミリーに関するQ&Aでは、「継父や継母は実父母ではない」というメッセージが発信されています。これは、「実母(実父)のように振舞わなくてもいいよ」、「親だと思わなくていいよ。」というメッセージです。子どもにとって、あくまで実父母はふたりだけであり、継母や継父は「新しいパパ/ママ」ではないのです。

読後感

この本を読み終えた後の一番の感想は「盛沢山だったなぁ。」です。とにかく、結婚・離婚・再婚という家族の始まりから終わり、そして再形成の過程について、法的・心理学的・社会学的な側面から網羅されていて、情報がてんこ盛りでした。

ここで紹介しきれなかった項目もたくさんあり(パートナーが外国人の場合など)、離婚に悩む当事者のみなさんから専門家まで参考になる内容でした。一言で言うと、「専門書とハウツー本の間のような立ち位置の本」です。

昨今、何でもネット検索で済ませてしまいがちですが、ネット情報は玉石混合です。やはり、このような確かな情報が網羅された書籍での情報収集も大切だと感じた次第です。

 

 

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