I 目的
この解説は、ADR調停を始めるにあたり、離婚に関する主な制度および実務上の一般的な考慮要素について、あらかじめ共通理解を持っていただくことを目的としています。
本解説により、事前に一般的な制度概要をご確認ください。
Ⅱ 離婚に関する手続の種類
はじめに、離婚に関する手続きとして、1 協議離婚、2 ADRを利用した離婚、3 調停離婚(審判離婚)、4 裁判離婚について、説明します。
1 協議離婚
当事者双方の合意により成立する離婚です。離婚届を市区町村へ提出することで成立します。日本における離婚の約9割が協議離婚です。
<協議離婚の流れ>
夫婦の離婚意思の合致→未成年の子がいる場合、親権者の合意が必須(なお、2026年4月以降の離婚では、親権者の指定を求める家事審判又は家事調停の申立てがされていれば親権者の合意なくとも離婚届出を受理できます)→離婚届の提出
協議離婚において、養育費、親子交流、財産分与、年金分割、慰謝料等の合意内容を合意書にするかは任意ですが、あとから認識のずれが生じないよう、合意書にしておくことをおすすめします。
2 ADRを利用した離婚
ADR(裁判外紛争解決手続)は、協議離婚の一種です。
専門家である調停人が、公正中立の立場で夫婦の合意形成をサポートします。調停人の役割は、双方の意見の調整役であり、なんらかの判断をしたり、どちらが正しいかなどの意見を述べたりする役割ではありません
<ADRを利用した離婚の流れ>
ADR機関に対する申立て→調停人のサポートのもと夫婦の合意形成(親権者、養育費、親子交流、財産分与、年金分割、慰謝料等)→ADR合意書の作成(必要に応じて、特定和解の合意を含む)→必要に応じて、公正証書の作成→離婚届の提出
*公正証書作成前に離婚届をご提出になりたい場合、必ず調停人にご相談ください。
(1) ADR合意書の法的性質
ADR合意書は、当事者間の和解契約(民法上の和解)として扱われます。通常のADR合意書には、不払い時に相手方の財産(預貯金、給与など)を差し押さえることができる執行力はありませんが、例外的に養育費と婚姻費用については一人あたり上限8万円まで民事執行が可能です。さらに、執行合意を含む特定和解の合意書(その和解に基づいて民事執行をすることができる旨の合意がされたもの)を作成することにより、裁判所に対し執行決定を求める申立てを経ることで、8万円以上についても、執行力を付与することができます。特定和解により執行力が付与される対象は、当センターでは、養育費及び婚姻費用であり、財産分与や慰謝料等の不払い時について執行力を付与したい場合は、公正証書の作成をおすすめしています。どの種類の書面を作成することが最適かは、事案ごとに異なりますので、調停人にお尋ねください。
差押え全般については、「Ⅲ 7差押えの方法」を、養育費の差押えについては、「Ⅵ (8)差押えについて」をご覧ください。
(2) ADRの法的効果(調停前置)
後述する「3 調停離婚」と同様に、当センターの調停については裁判離婚の前置手続とされています。ADRによる調停が不成立となった場合に、家庭裁判所での「3 調停離婚」を経ずに、そのまま裁判離婚に進みたいという場合には、ADRが不調になった証明書のほか(お申し出があれば発行いたします。)、さらに調停をしても成立の見込みがないことの説明を訴状(裁判離婚を申し立てるときに提出する書類です。)に記載し、裁判所がそのまま訴訟として進めることを認めれば、裁判離婚に移行できます。
(3) ADRを利用した調停と家庭裁判所における調停との違い
どちらも協議の場であることに変わりはありません。費用面においては、ADRでは回数ごとに利用料がかかり(当センターの運用)、家庭裁判所は回数にかかわらず収入印紙代等のみがかかります。調停を実施する時間帯については、ADRでは夜間・土日でも実施が可能ですが、家庭裁判所では日中・平日に限られます。そのため、期日は1か月~2か月に1回の頻度で行われることが通常です。調停者については、ADRでは各ADR機関が定めている資格を持つ者が務め、家庭裁判所では裁判所の審査において認められた者が務めます。なお、家庭裁判所での調停に際しては、お子様の状況や心情等について、家庭裁判所の調査官による調査を行い、その調査結果の報告を受けて、さらに協議をすることがありますが、ADRではそのような調査をすることはできませんので、ご注意ください。
3 調停離婚(審判離婚)
調停離婚は、家庭裁判所において、調停委員が関与し、話し合いによる合意を目指す手続きです。日本における離婚の約1割が家庭裁判所を利用した離婚で、その大半が調停離婚です。
なお、審判離婚とは、調停不成立時に、ほぼ離婚合意があるものの、裁判所が当事者の意思を直接確認できない場合や条件のわずかな違いがある場合などに、迅速に事案を解決するため、裁判所が決定する手続きです。決定後、双方当事者から異議がなければ、そのまま内容が確定します。
<調停の流れ>
家庭裁判所に対する申立て→調停委員の関与のもと夫婦の合意形成(親権者、養育費、親子交流、財産分与、年金分割、慰謝料等)→調停調書の作成→調停調書に基づく、一方当事者による離婚届の提出
(1) 調停調書の法的性質
債務名義の一種であり、執行力があります。債務名義とは、債務者が支払いを怠った場合、具体的には、養育費の不払いがあった場合などに、強制執行(差押え)を申し立てるために必要な、法律上の権利(請求権)の存在を公的に証明する文書です。詳細は、「Ⅲ 7 差押えの方法」をご覧ください。
(2) 調停の法的効果
裁判離婚の前置手続とされています。家庭裁判所あるいはADRによる調停が不成立となった場合に、調停不成立の証明書を提出するだけで、裁判離婚に進むことができます。
(3) 調停委員とは
調停委員は、男女1名ずつの2名が務め、ここに裁判官が加わり調停委員会を構成しています。調停委員は、裁判官ではなく、主に民間からの公募で選任されています。豊かな人生経験がある、有資格者であるなど、さまざまな経歴をお持ちの方が選任されています。
4 裁判離婚
裁判離婚は、家庭裁判所あるいはADRによる調停が不成立となったことを前提に、裁判官が法定離婚事由の有無を判断する手続きです。日本では、判断が判決として示される前に、当事者双方が和解して離婚が成立する、和解離婚となる場合もあるので、離婚のうち裁判の判決で離婚するのはわずか1%未満です。調停が非公開の手続きであるのに対し、裁判は、原則、法廷において公開で行われます。なお、主張の整理や和解の相談をするときは、公開の場を使わないこともあります。
<裁判の流れ>
(前提)調停の不成立→家庭裁判所に対する訴訟提起→第1回口頭弁論の開催→書面・証拠の提出を繰り返す→→和解の余地が生じれば和解協議→和解が成立していなければ、必要に応じて、尋問の実施→判決(場合によっては判決前に和解)→判決書(場合によっては和解調書)に基づく、一方当事者による離婚届の提出
(1) 判決書(和解調書)の法的性質
判決書だけでなく、和解離婚の場合の和解調書も、債務名義の一種であり、執行力があります。債務名義とは、債務者が支払いを怠った場合、具体的には、養育費の不払いがあった場合などに、強制執行(差押え)を申し立てるために必要な、法律上の権利(請求権)の存在を公的に証明する文書です。詳細は、「Ⅲ 7 差押えの方法」をご覧ください。
(2) 弁護士の役割
弁護士は、一方当事者の代理人となり、訴訟手続きを進めます。訴訟は、主張を書面にしたり様々な証拠を提出したりするなど専門的な知識が必要となるので、弁護士に依頼するケースが圧倒的に多いです。
(3) 裁判になってからも話し合うことはできるか
裁判は、書面・証拠の提出により進める手続きであり、調停のように協議(話し合い)の場として機能するわけではありません。弁護士に依頼している場合、通常は弁護士を通して相手方とコンタクトをとるため、裁判外においても直接話し合う機会が失われる可能性が高いです。訴訟を提起する前に調停を申し立てることを前提としている(調停前置主義)のは、まず話し合う場(調停)を設け、それでもまとまらなかった場合に裁判へ進むことがふさわしいと考えられているからです。それでも、書面・証拠の提出を終えて、ある程度判決の見通しが立った、と裁判官が考え、その見通しを踏まえた話し合いの余地があるのでは、と考えた場合には、和解による離婚ができないか、再度話し合いの場が持たれることもあります。ただ、多くの場合、その話し合いは当事者双方が依頼した弁護士を通して行われるので、本人同士がその気持ちをお互いに伝えて直接話し合うことは難しくなります。
Ⅲ 離婚合意後の主な手続き
次に、離婚合意後の主な手続きについて、ご質問の多い項目を中心に説明します。
1 離婚条件の合意
離婚そのものには合意がなされても、財産分与や慰謝料、お子さんがおられる場合は親権や養育費、親子交流といった離婚条件について取り決めることが必要です。夫婦二人で話し合うことが難しい場合は、ADRや裁判所で話し合ったり、弁護士に依頼したりすることが可能です。
2 離婚届の提出
どの種類の離婚によっても離婚届の提出は必要です。
協議離婚(ADRによる離婚を含む)の場合、双方が離婚届に署名することが必要です。
調停離婚及び裁判離婚の場合、一方当事者が離婚届を記載し、必要書類を添付することで、離婚届が受理されます。
3 離婚後の戸籍
婚姻前の氏にもどる者(戸籍を抜ける者)は、もとの戸籍にもどるか新しい戸籍をつくるか選択し、離婚届の該当蘭にチェックします。
戸籍が同一である者は同じ氏(姓)となるので、もとの戸籍にもどる場合、旧姓にもどります。新しい戸籍をつくる場合は、婚姻時の姓も旧姓も選択することができます(次の項目も参照してください)。
4 婚姻時の姓を維持したいときは
離婚届を提出すると、原則、旧姓に戻ります、
婚姻時の姓を維持したい場合は、離婚届を提出してから3か月以内に、「離婚の際に称していた氏を称する届」を提出してください。離婚届と同時に提出することも可能です。3か月を過ぎると家庭裁判所における手続きが必要になります。
5 子の氏の変更
離婚届を提出しただけでは、子の戸籍は変わりません。
親と子の氏が異なり、親の戸籍へ子を移したい場合、まず、家庭裁判所へ「子の氏の変更許可」を申し立てます。そして、この許可後に市区町村へ「入籍届」を出すことで、子を親の戸籍へ移すことができます。
お子さんの年齢によっては、お子さんの気持ちも聞いた上で決定しましょう。
6 年金分割手続
まず、お近くの年金事務所へ「年金分割のための情報提供請求書」を提出し、「年金分割のための情報通知書」を取得します。情報通知書は、離婚合意の前から取得できます。
離婚が成立したら、必要書類を添えて、年金事務所へ「標準報酬改定請求書」を提出します。
詳細は、「Ⅸ 年金分割」の章を参照ください。
7 差押えの方法
養育費の不払い等、相手方(債務者)が金銭の支払いを怠っている場合、債務名義があれば、地方裁判所へ差押命令の申立てをすることができます。
債務名義とは、債務者が支払いを怠った際に、強制執行(差押え)を申し立てるために必要な、法律上の権利(請求権)の存在を公的に証明する文書です。確定判決、和解調書、調停調書、執行認諾文言付公正証書などが代表例です。
差し押さえる財産は、申立てをする側が特定することが必要です。たとえば、預貯金であれば、債務者の銀行口座(銀行名、支店名)を、給与であれば、勤務先(会社名、住所)を特定する必要があります。
債務者の財産が不明な場合、裁判所に財産開示を求める手続きもあります。
Ⅳ 離婚事由について
裁判離婚において、離婚判決を得るためには、民法に定める法定離婚事由が必要とされます。民法770条1項には、法定離婚事由が規定されており、①不貞行為、②悪意の遺棄、③生死不明、④婚姻を継続し難い重大な事由があるときが挙げられています。
協議離婚、調停離婚、そして、裁判離婚においても和解する場合には、必ずしもこれらの事由は必要ではありません。離婚することに争いがないときも、離婚事由の検討は不要です。
当事者が合意していないにもかかわらず、離婚を命じることができるのは、この離婚判決のみです。
1 不貞行為とは
「不貞行為」とは、基本的には、既婚者が配偶者以外の第三者と自由な意思に基づいて、肉体関係(性行為・性交類似行為)を持つことです。
2 婚姻を継続しがたい重大な事由とは
「婚姻を継続し難い重大な事由」とは、夫婦関係が修復不可能なほど破綻し、共同生活の継続が著しく困難な状態を指します。たとえば、暴力(DV)、モラハラ、長期間の別居、不貞行為に近い不誠実な行為、性的異常・性交不能、過度な宗教活動、重大な犯罪行為、ギャンブル・アルコール・薬物依存、性格の不一致の深刻化、金銭問題などが考慮され、裁判所で総合的に判断されます。
3 裁判ではどんな証拠が必要か
裁判離婚において離婚判決を得るためには、法定離婚事由が存在すると立証できる証拠が必要となります。たとえば、配偶者の不貞行為や暴力(DV)、モラハラがあったという行為などの証拠が必要です。
ただし、このような証拠は、裁判離婚において離婚事由を立証するために必要なものなので、協議離婚や調停離婚において、必ずしも必要というわけではないです。
4 一方がどうしても離婚したくないと言うときはどうすればいいか
離婚を望む当事者は、離婚したくないと言う当事者の理由について、耳を傾けてください。経済的な不安であるのか、感情的な戸惑いであるのか、社会的な懸念であるのか。今まで築いた生活を振り返り、その理由に基づいて、これからお互いに幸せになる道はなにか、考えてみてください。
また、離婚したくない当事者は、離婚を望む当事者の理由について、耳を傾けてください。その理由に基づいて、これからも共に居続ける場合に必要なことは何なのか、これからの生活がどのようなものになっていくか、想像してみてください。
ADR調停では、どちらのお気持ちも大切に扱わせていただきます。
V 親権・監護権
1 親権
親権とは、未成年の子どもの養育・教育や財産管理を行う権利であり、同時に義務でもあります。離婚後、従前は父母の一方を親権者と定めることとされていましたが、2026年4月施行の改正民法により、父母の合意または裁判所の判断によって父母の双方が親権者となる「共同親権」も選択できるようになりました。親権者は、子どもの進学・医療・転居など重要事項を決定する権限を持ち、共同親権にする場合は、原則として双方の同意が必要となります。
(1) 共同親権か単独親権か
2026年4月施行の改正民法により、離婚後も父母双方が共同で親権者とする「共同親権」が選択できるようになりました。共同親権にするか単独親権にするかは離婚時の話し合いで決めますが、協議がまとまらない場合は裁判所で決めることになります。共同親権にするかどうかは、子の利益のために決めることとされており、親同士の離婚の条件や交渉材料のように扱うことは避けるべきです。
共同親権では、子どもに関する重要な決定を父母が協議して合意することが原則となります。父又は母が子の心身に害悪を及ぼすおそれがある場合や、父母が共同して親権を行うことが困難である場合など、父母双方を親権者とすることが子の利益を害すると認められるときは、裁判所は必ず単独親権を定めることとされました。話し合いの中でも、これらの点について慎重に検討する必要があります。そのため、特に、DVや虐待のおそれがある場合や、父母が協力することが困難な場合は、裁判所においても単独親権としなければならないとされており、話し合いの中でもこの点は慎重に検討する必要があります。後述「1(3) 共同親権で、子の重要な事項を話し合いで決められないとき」もあわせてご覧ください。
(2) 共同親権で、共同すべきことと単独でできること
共同親権を選択したとしても、すべての行為を共同でしないといけないわけではありません。もう一方が親権を行使することができないときは、単独で親権行使ができる(相手親の同意がいらない)とともに、①監護教育に関する日常の行為、②子どもの利益のために急迫の事情があるときは、単独で行使できます。
下の表のように、子どもに重大な影響を与えないものが日常の行為とされています。
〈出典:法務省『父母の離婚後の子の養育に関するルールが改正されました~親権・養育費・親子交流などに関する民法等改正の解説~』>
また、②急迫の事情とは、父母の協議や家庭裁判所の手続を経ていては親権の行使が間に合わず、子どもの利益を害するおそれがある場合をいいます。DVや虐待からの避難(子どもの転居を含む)をする必要がある場合(被害直後に限らないとされています)、子どもに緊急の医療行為を受けさせる必要がある場合、子の入学試験の結果発表後に入学手続の期限が迫っているような場合が典型例です。
(3) 共同親権で、子の重要な事項を話し合いで決められないとき
共同親権で離婚したものの、父母が共同して親権を行うべき場合(子の重要な事項で急迫の事情がない場合)について意見が合わず、双方の話し合いでまとまらないときは、裁判所で「親権行使者の指定」の手続を取ることになります。裁判所は、個別の事項について、どちらの親が親権を行使すべきかを指定します。
2 監護
監護とは、子どもを日常的に養育し身の回りの世話を行うことをいいます。ADRでの話し合いでも「子の利益」を軸に考えていきましょう。
(1) 監護の分掌(役割分担)
監護の分掌とは、子の監護を父母が分担することであり、例えば、子の監護を担当する期間を分担することや、監護に関する事項の一部(例えば教育に関する事項など)を父母の一方に委ねることがこれに該当します。新民法第766条第1項は、離婚時に父母の協議により養育計画の作成ができることを明らかにするため、離婚時に父母の協議により定める事項として監護の分掌を明記しています。
(2) 裁判所で考慮される要素
監護者をどちらにするか当事者で合意できない場合は、裁判所に調停や審判を申立てることになります。裁判所では、子の利益のために何が適切かを審理しますが、その際には、「現状の監護態勢」「従前の監護態勢」「子どもとの関係性」「子ども自身の意思」「別居親と子どもとの関係性に対する姿勢」などが考慮されます。
Ⅵ 養育費
養育費とは、子どもが自立するまでの生活費・教育費など、子どもの健全な成長に必要な費用のことです。離婚後に子どもと離れて暮らす親(義務者)が、子どもと一緒に暮らす親(権利者)に支払います。金額は双方の収入・子どもの人数・年齢などをもとに算定され、裁判所の「養育費算定表」が目安となります。話し合いで決めるからこそ、双方が納得できる金額・条件を丁寧に確認していきましょう。
1 養育費・法定養育費
養育費は、子どもが健やかに育つ生活を維持するための費用を父母が分担するものです。離婚後に子どもと離れて暮らす親も養育費を支払う義務があります。
養育費は、法定養育費(子1人につき月2万円)と、協議や裁判所で決める通常の養育費に分けられます。法定養育費は、通常の養育費を取り決めるまでの暫定的なもので、取り決めていなくても請求できるものです。
2 算定表の見方と含まれる費用
裁判所が使用している「養育費算定表」は、父母それぞれの年収と子どもの人数・年齢から標準的な金額を示す目安です。日常の生活費・公立学校(小学校から高校まで)を前提とした教育費や通常の医療費などが含まれています。算定表はあくまで目安であり、話し合いによって個別事情に応じた金額を定めることもできますが、広く浸透している算定表を参考にすることで双方の納得が得られやすいことも多いです。
3 始期(いつから)と終期(いつまで)
法定養育費は離婚時点から、通常の養育費は原則として請求した時点から支払義務が生じます。終期は「子どもが20歳の誕生月まで」や「大学等を卒業するまで」など、話し合いによって自由に定めることができます。ただし、進学状況によって必要な費用は変わり得ますので、現時点で最も可能性が高い進路を想定したうえで終期を決めておくとよいでしょう。
4 特別出費への対応(教育費・医療費)
算定表に含まれない高額な教育費(大学進学等・特殊な習い事など)や入院・手術などの高額の医療費については、別途話し合って負担割合を決める必要があります。負担割合は、2分の1ずつ、あるいは、収入での按分とすることが多いです。別途協議の場合でも、合意書に「特別出費が生じた場合は協議のうえ負担割合を決める」と明記しておくと、将来の対応がスムーズです。
5 私立学校への進学(私学加算)
子どもが私立学校に通う場合、算定表に加味されている公立学校との費用の差額部分を「私学加算」として養育費に上乗せできることがあります。ただし、支払う側(義務者)の同意が前提となるため、話し合いの中で進学の見通しと費用負担についてあらかじめ確認しておきましょう。
6 大学への進学
大学の学費についても、高額な教育費として事前に取り決めておくことが望ましい事項のひとつです。算定表は大学進学を前提としていないため、大学費用は別途、父母間で負担割合や支払方法を話し合って定めておきましょう。奨学金の利用や子ども本人のアルバイト収入なども視野に入れつつ、進学の可能性が高い場合は離婚時点でできる限り合意しておくと、後々のトラブルを防ぎやすくなります。
7 収入に変動がある場合
養育費を定める場合、収入の認定は原則として直近の源泉徴収票をもとに行います。ただし、転職や育休などで収入が大きく変動している場合は、直近3か月分の給与明細など実態を示す資料をもとに話し合います。
また、一度決めた養育費も、権利者や義務者の収入に大きな変動があった場合や、家族形態(再婚、子の出生等)に変動がある場合などは、増額または減額の請求をすることができます。
8 差押えについて
すでに取り決めた養育費がある場合は、強制的に差し押さえることができます。債務名義(確定判決、和解調書、調停調書、執行合意を含む特定和解の合意書、執行認諾文言付公正証書など)がある場合は養育費の全額の差押えができますが、個人間で作った合意書などでは上限が子一人につき1か月8万円とされています(先取特権)。給与所得者の給与債権の差押えが一般的ですが、自営業者など給与債権がない場合は取引先への報酬債権などへの差押えで回収できることもあります。ただし、対応が複雑になることが多いため、弁護士などに相談することをおすすめします。
Ⅶ 婚姻費用
婚姻費用とは、別居中に夫婦が互いの生活水準を維持し合う義務(生活保持義務)に基づき、収入の多い側が少ない側に支払う生活費のことです。再び同居に戻るか、離婚が成立するまでの間、この義務は続きます。金額は双方の収入・子どもの有無などをもとに算定表が目安となります。別居後はできるだけ早く話し合いを始め、支払条件を取り決めておくことが大切です。
1 婚姻費用の基本的な考え方
婚姻費用には、配偶者の生活費に加え、子どもの養育費相当額も含まれます。別居の原因(DVや不貞など)を作った側から請求する場合、養育費相当額程度まで減額されることがあります。合意が難しい場合は家庭裁判所への調停申立ても可能ですが、まずはADRでの話し合いで解決を目指しましょう。
2 算定表の見方と含まれる費用
「婚姻費用算定表」は、養育費と同様に、双方の年収と子どもの人数・年齢から標準的な金額を算出する目安です。日常の生活費・子どもの養育費・通常の医療費などが含まれます。算定表の住居費はそれぞれが自分で暮らす住居の費用を支払っている前提のため、実際の住居状況によって調整が必要な場合があります(後述(7)が典型例です)。
3 始期(いつから)と終期(いつまで)
婚姻費用は請求した時点(調停申立月、ADR申立月、もしくはメールやLINE等で請求した月など)からが一般的で、原則として別居日には遡りません。そのため、早期の請求・話し合いが重要です。終期は離婚成立時または再び同居に戻った日(別居解消日)となります。
4 特別出費への対応(教育費・医療費)
算定表に含まれない高額な教育費や医療費が生じた場合は、追加の費用負担について別途話し合います。典型例は、公立学校(小学校~高校まで)の標準的な費用を超える高額な教育費、保険の自己負担を超える高額な医療費などです。
5 私立学校への進学(私学加算)
子どもが私立学校に通う場合、算定表に加味されている公立学校との費用の差額部分を「私学加算」として養育費に上乗せできることがあります。ただし、支払う側(義務者)の同意が前提となるため、話し合いの中で進学の見通しと費用負担についてあらかじめ確認しておきましょう。
6 大学への進学
大学の学費についても、高額な教育費として事前に取り決めておくことが望ましい事項のひとつです。算定表は大学進学を前提としていないため、大学費用は別途、父母間で負担割合や支払方法を話し合って定めておきましょう。奨学金の利用や子ども本人のアルバイト収入なども視野に入れつつ、進学の可能性が高い場合は離婚時点でできる限り合意しておくと、後々のトラブルを防ぎやすくなります。
7 別居した側が、持ち家のローンを払っている場合
一方が自宅に住み続け、家を出た側が住宅ローンを支払い続けているケースでは、ローン負担分を婚姻費用から一定程度差し引く形で調整することがあります。ただし、婚姻費用からローン返済額全額の減額が認められるわけではなく、算定表の中に含まれている住居費を除くなど、双方の状況をふまえたうえで、公平な金額を一緒に検討します。
Ⅷ 財産分与
財産分与とは、婚姻期間中に夫婦が協力して築いた財産を、離婚の際に公平に分け合う制度です。原則として共有財産を2分の1ずつ分けるのが基本(2分の1ルール)ですが、話し合いによって割合を変えることもできます。対象財産の範囲や評価額をめぐって争いになりやすいため、ADRでは財産の全体像をまず整理することから始めましょう。
1 財産分与とは
財産分与は、婚姻中に共同で形成した財産を清算するものであり、慰謝料・養育費とは別の制度です。例えば、専業主婦(夫)であっても、家事育児などの分担を通じて夫婦として共同で財産形成してきたと捉え、財産分与を受ける権利があります。財産の名義(夫名義・妻名義)にかかわらず2分の1とするのが原則です。
2 何を分けるのか(対象財産)
代表的な共有財産は、預貯金・不動産・有価証券・保険解約返戻金・退職金(見込み含む)・自動車・私的年金(企業年金)などです。財産の全体像を把握するために、話し合いの前にお互いの財産リストを作成し、双方に開示することをおすすめします。別居後に形成した財産は原則として対象外です。
3 特有財産と共有財産
夫婦共同で築いたといえない財産は「特有財産」として原則分与の対象外です。代表例は婚姻前から持っていた財産や、婚姻中に親族から相続・贈与で得た財産です。それ以外の婚姻中に共同で形成した財産が「共有財産」として分与の対象となります。両者が混在する場合(例:婚前の貯蓄を頭金に充てた不動産)は、特有財産部分を計算して分離することになります。
4 対象財産・資産評価の基準時
分与対象財産の範囲を確定する「基準時」は、別居時点とするのが一般的です。夫婦の家計が分かれた時点が別居日だからです。別居時点の財産の評価額が算定できない場合(典型例は不動産評価)は、離婚合意時点の金額をもとにするのが通常です。不動産・株式など価値が変動する財産については、どの基準日の評価を基礎にするかを合意してから計算する必要があります。
5 プラス財産がない場合
分与できるプラスの財産がほとんどない場合でも、「財産がないことを双方で確認した」という合意を残しておくことが後のトラブル防止につながります。債務(借金)がある場合は後述の項目も合わせてご確認ください。
6 不動産の分与
不動産の分与方法は、主に①売却して代金を清算する、②一方が取得してもう一方に代償金を支払う、の2通りです。いずれの場合も、住宅ローンの返済や借り換え、頭金の特有財産を控除する計算、所有権移転登記(名義変更)の手続きが必要となります。特に、夫婦で自宅のペアローン(共同債務)を組んでいる場合、離婚時の処理は複雑になります。売却して清算するのが最もシンプルですが、一方が取得する場合は単独ローンへの借換えと名義変更、相手方への代償金の支払いにより清算するのが通常です。しかし、単独ローンへの借換えや代償金の調達が難しい場合もあり得るので、清算方法を含めて話し合いで決めていきましょう。ローンの借り換えをする場合には金融機関の審査が必要となるため、早めに金融機関へ相談しながら話し合いを進めましょう。
7 株式の分与
株式は、①売却して現金化し分配する方法(換価)と、②株式そのものを移転する方法(現物分与)があります。上場株式は時価評価が容易ですが、非上場株式は評価方法が複雑です。いずれの方法にするか、基準日をいつにするかを話し合いの中で明確にしておきましょう。
8 保険・学資保険の扱い
生命保険や学資保険に解約返戻金がある場合、基準日(多くは別居日)におけるその金額が分与の対象となります。株式と同様に、①解約して返戻金を現金化し分配する方法と、②保険を名義変更する方法があります。②の保険を継続する場合は基準日時点の解約返戻金相当額を評価して清算します。離婚後の保険料負担・受取人の変更についても、協議します。
9 退職金の計算方法
将来の退職金も、婚姻期間に対応する部分は分与の対象となります。計算の目安は「退職金見込み額 × 婚姻期間 ÷ 勤務期間」です。退職金見込み額は、基準日時点で自己都合退職する場合の退職金額が目安となります。計算した金額を他の財産から分与できる場合と、将来受給する退職金で支払う場合もあります。将来の支払いになる場合は、支払時期(退職時に一括払いなど)についても話し合って決めておきましょう。
10 個人年金の扱いと計算方法
婚姻中に積み立てた個人年金保険や確定拠出年金などは分与の対象となります。解約返戻金や基準日の評価が出る場合はその金額を基準に、受取開始後の場合は将来の受取額の現在価値をもとに算定します。公的年金(厚生年金)については別途「年金分割」の制度がありますので、合わせて確認しておきましょう。
11 借金がある場合・共同債務の扱い
婚姻中に共同で負担した借金(住宅ローンなど)は、財産分与の中で考慮されることがあります。ただし第三者(金融機関など)との契約は、夫婦間の合意だけでは変更できないため、金融機関への別途手続きが必要です。ギャンブル・浪費などによる個人的な借金は分与の対象外となるのが原則です。
12 財産分与の時効
財産分与の請求権の時効は、2026年4月施行の改正民法により5年となりました(従来は2年)。離婚後に時間が経つほど財産の状況把握が難しくなるため、できるだけ早期に話し合い・合意を進めることをおすすめします。
13 離婚を先行させ、財産分与を後から協議する方法
財産分与の話し合いがまとまらない場合でも、先に離婚を成立させ、財産分与だけを後からADRか、家庭裁判所の調停・審判で解決することができます。財産分与のみを家裁で申し立てれば、離婚訴訟を経ずに済むことがメリットです。ADRの中でこの方法の選択肢も含めて話し合うことができます。
Ⅸ 年金分割
年金分割とは、離婚した場合に、夫婦の婚姻期間中の保険料納付額に対応する厚生年金を分割して、それぞれ自分の年金とすることができる制度です。具体的には,離婚時の年金分割が行われると,婚姻期間中について、厚生年金の支給額の計算の基となる報酬額(標準報酬)の記録が分割されることになり、年金額を夫婦で分割できます。対象は会社員・公務員で、国民年金(基礎年金)は対象外です。将来の年金額が単純に2分の1になるわけでなく、婚姻期間中に納付した保険料に応じた金額が分割されるものです。
1 年金分割の方法
年金分割の方法は、2種類あります。
(1) 合意分割
夫婦からの請求により、年金を分割する方法です。
分割の割合は、夫婦の合意、または、裁判所手続きによって決まった割合(上限は2分の1です。ただし、後述するように裁判所手続きでは2分の1となることがほとんどです。)となります。
(2) 3号分割
2008年4月以降、国民年金の第3号被保険者(専業主婦・主夫、非課税のパート就労者)であった方からの請求により、年金を分割する方法です。
合意は不要で、単独で請求ができます。
分割の割合は、2分の1ずつとなります。
2 年金分割手続きの流れ
⑴ 「年金分割のための情報通知書」の取得
お近くの年金事務所へ「年金分割のための情報提供請求書」を提出し、「年金分割のための情報通知書」を取得します。3号分割の場合は任意ですが、確認することをおすすめします。
⑵ 分割割合の話合い・合意(合意分割のみ)
合意分割の場合、情報通知書に基づいて、夫婦で分割割合(按分割合)を話し合います。
夫婦間の話し合いで合意できた場合は、その内容を明らかにすることができる書類を作成します。代表的なものとして、公正証書あるいは離婚協議書(年金分割の合意書)が挙げられます。離婚協議書(年金分割の合意書)の場合、夫婦そろって年金事務所への手続きをする必要があります。
⑶ 年金分割の請求
必要書類(戸籍謄本、合意分割の場合は合意書・公正証書など)を添えて、年金事務所へ「標準報酬改定請求書」を提出します。
⑷ 「標準報酬改定通知書」の受け取り
手続き完了後、日本年金機構から通知が届き、記録が改定されます。
3 年金分割の期限
年金分割の手続きは、離婚をした日の翌日から5年を経過すると、請求できなくなります。
4 合意できない場合の裁判所での手続き
合意分割において、夫婦での話し合いが進まない場合、家庭裁判所へ「年金分割の按分割合を定める調停」または「審判」を申し立てて、割合を決定します。原則として2分の1と決められることがほとんどです。
Ⅹ 慰謝料
離婚における慰謝料とは、不貞行為や暴力(DV)、モラハラなどの違法行為によって受けた精神的苦痛を金銭に換算したものです。
主な考慮要素は、有責性の程度(悪質性)、婚姻期間、子どもの有無・年齢、夫婦の経済状況などです。
これらを総合的に評価し、通常は、数十万円〜300万円程度が相場となります。悪質な場合は500万円以上に達することもありますが、極めて稀なケースです。
1 慰謝料の原因
不貞行為、暴力(DV)、モラハラ(言葉の暴力、精神的虐待、無視など)、悪意の遺棄(正当な理由なく同居・協力・扶養の義務を放棄する行為:生活費を渡さない、一方的に家を出ていく等)などが挙げられます。
ただし、必ずしもすべての離婚で慰謝料が認められるものではありません。また、裁判では慰謝料の原因を立証する証拠が必要になります。
2 話し合い(協議離婚)で慰謝料の合意ができるか
話し合いで慰謝料を請求し、受け取ることは十分に可能です。双方が金額や条件に納得すれば、相場に縛られず、自由な金額を設定できます。
ADR調停においても、慰謝料について話し合うことができます。
3 時効(消滅時効)
離婚に伴う慰謝料は、離婚が成立した日から3年で時効(消滅時効)が完成し、請求できなくなります。不貞行為が原因の場合は、不貞行為の事実と相手を知った時から3年、または不貞行為から20年経過したときに時効が完成します。
なお、婚姻を継続した状態であっても、慰謝料を請求することは可能です。
4 不貞相手への慰謝料請求
不貞行為があった場合、配偶者だけではなく、不貞相手へも慰謝料請求は可能です。
不貞行為は、配偶者と不貞相手が共同して婚姻生活の平穏を害する「共同不法行為(民法719条)」にあたります。そのため、被害を受けた側は、配偶者と不貞相手の双方、または一方に対して、慰謝料全額を連帯して支払うよう請求できます。このとき、どちらか一方から慰謝料全額を受け取った場合、もう一方に対しては、請求できないことにご留意ください。また、一方の当事者が、自分の責任分担(負担割合)を超えて慰謝料を支払った場合、他方の当事者に対して、その超えた分を請求できます(求償権)。
Ⅺ 親子交流
親子交流(面会交流)は、離婚や別居により離れて暮らす親と子のかかわりのことを指します。回数や時間にこだわるのではなく、離れて暮らす親子がどのような関係を築いていくことができるか、子どもの利益を最優先に話し合いましょう。また、親子交流は単に「遊ぶ」だけではなく、育児分担の意味合いを持たせることもできます。子どもにとって有益で、父母の負担が少ない方法を考えましょう。
1 子どもにとっての意義
(1) 愛情の確認
両親の離婚によって、子どもは少なからず傷付きます。しかし、親子交流を行うことで、離れて暮らす親からも愛情を受け取ることがで、寂しさや傷付きが癒されます。
(2) 親子関係の形成
親子交流を通して、自分の親がどんな人かを知ります。親を知ることなくして自分を知ることもできません。思春期の「アイデンティティの確立」のためにも親子交流が重要です。
(3) 子の自立
親同士が親子交流を円滑に行える関係性を再構築することで、子どもは親の葛藤から解放され、自立が促されます。一方で、親がいつまでも葛藤の中にいると、子どもは親を心配し、自立が疎外されます。
2 基本的なルール
〇相手の悪口を言わない
〇相手の許可なく面会の方法を変えたり、子どもと約束したりしない
〇同居親の許可なく高額なプレゼントや金銭を渡さない
〇同居親の許可なく第三者を同席させない
〇受け渡しの時間を守る
〇子どもに親同士がやり取りすべき内容(例:養育費の支払い)やり取りを伝言しない
〇面会の費用は原則として面会する側の親が負担しますが、協議によって分担することも可能です。
3 決めておくといいこと
⑴ 回数・頻度
回数に相場はありません。婚姻当時の関係性や、今後、どのような親子関係を築いていきたいかを考えて決めましょう。「親がどうしたいか」ではなく、「子どもにとって、どのような会い方が負担にならず、別居親と良い関係が築けるか」という観点が必要です。また、回数はあくまで目安です。面会する親は、お子さんの体調や予定を考慮し、柔軟に対応しましょう。一方で、面会はお子さんにとって大切な時間です。面会させる親は、親の都合で回数が減らないよう心掛けましょう。例えば、隔週末の面会を取り決めた場合、年間で24回となりますが、「子どもの都合により20回くらいになることは十分あり得るけれど、10回や15回になってしまうことはないようにしよう」という感覚です。
⑵ 宿泊
単に日中遊ぶだけではなく、寝食を共にすることで、離れて暮らす親との日常生活を感じることができます。また、育児分担という意味でも有効です。一方で、お子さんに無理を強いたり日常生活に支障が出たりすることがないよう、年齢や発達状況に応じて、段階的な実施が必要な場合もあります。
⑶ イベントへの参加
授業参観日や運動会、習い事の発表会などの参加について取り決めておくこともできます。お子さんにとっては、成長を見てもらえる嬉しい機会となります。また、忙しいお子さんの時間を改めて取ってもらうことなく面会できるというメリットもあります。一方で、父母が顔を合わせられない等の事情がある場合には、実施方法について配慮が必要となります。
⑷ 長期休暇の追加面会
夏休みや冬休みなどの長期休暇に、宿泊付き面会をしたり普段より回数を増やしたりすることを取り決めることも可能です。年齢が高いお子さんや遠方に住んでいる場合に特に有効です。旅行やキャンプなどを楽しむのもありですし、1週間程度、離れてくらす親と日常生活を送るのもお子さんにとって良い経験です。逆に、忙しいお子さんの場合、長期や頻繁な面会が負担になることもあるので注意が必要です。
⑸ 祖父母等親族の同席
お子さんがより多くの大人から愛情を受け取ることができるのは良いことです。一方で、まだ同居親から離れられないお子さんを遠方に住む祖父母に会わせに行くなど、無理を強いる面会は好ましくありません。あくまで、お子さんのためになるかどうかを基準に決定しましょう。
⑹ 時間や場所
「面会の日時は都度協議する」とざっくりと決めることもできますし、「第3土曜日の10時~16時」と細かく決めておくこともできます。その他、待ち合わせや面会の場所等、必要に応じて決めることも可能です。あまり細かく決めすぎてもやりづらくなってしまいますが、もめそうなポイントをあらかじめ決めておくことで、将来のストレスを減らすことができます。
⑺ キャンセルの場合のルール
面会予定日の都合が悪くなった際のルールを決めておくことができます。例えば、「変更の必要が生じた場合、代替日を提示した上で速やかに連絡する」等です。
⑻ 再協議時期
親子交流は、お子さんの成長によって変化していくものです。例えば、小学校や中学校の入学のタイミングで、お子さんの生活は大きく変化し、これまでの会い方が負担になることもあります。逆に、お子さんの成長に伴い、宿泊での面会が可能になったり、面会時間を長くできる場合もあります。そのため、取り決めから2~3年後に再協議時期を定めておくこともできます。お子さんの成長に伴い、柔軟に変化させる姿勢が求められます。一方の親が再婚した場合、原則的にはこれまでどおりの面会を行うことになりますが、お子さんの負担になっている様子が見受けられる場合、決め直しも必要です。
4 知っておくといいこと
⑴ 会い方
親子交流は、単に直接会うだけでなく、電話やオンラインでも可能です。遠方に住んでいる場合や、お子さんが忙しいなどの理由で頻繁に直接会うことが難しい場合に有効です。また、習い事の送迎や保育園のお迎えなど、「遊び型」ではなく「お世話型」の面会を取り入れるなど、育児分担を取り決めることも可能です。
⑷ 第三者支援機関
父母が直接顔を合わせられない(連絡を取れない)、面会中の見守りが必要等の事情がある場合、親子交流支援機関を利用することも可能です。支援機関の利用料は原則折半ですが、話し合いで取り決めることもできます。支援機関については、法務省のHPに支援機関一覧が掲載されています。
Ⅻ 子どもへの説明
離婚や別居に際し、年齢に応じた説明を子どもに行いましょう。説明にあたっては、以下のようなことを検討しましょう。
1 誰が説明するか
できれば父母が揃って説明しましょう。それぞれが違うことを伝えると、「どちらが言っていることが本当なの?」、「お父さん(お母さん)が言っていたことはお母さん(お父さん)に秘密なの?」と子どもが混乱してしまうからです。何となく相手と一緒だと伝えづらいと感じるかもしれませんが、逆に言うと、父母が揃って話せる範囲で結構です。互いにとってフェアな内容にしましょう。
ただし、DVがあるなど、一緒に説明することで心身に危険が及ぶ方はもちろん例外です。無理をせず、それぞれの親から説明しましょう。
2 説明の内容
(1) なぜ離婚するか(離婚理由)
原則として、あまり詳しく説明する必要はありません。年齢が幼い子どもの場合、「ママとパパは一緒にいるとけんかが多くなってしまうから、けんかしないために別々に暮らすことにしたよ」といった程度で構いません。しかし、年齢が上がってくると、子どもはこのような説明では納得しません。もう少し具体的な説明が求められます。例えば、離婚理由が不貞や借金などの場合、伝えるかどうか、伝えるとして「どう伝えるか」が問題になります。子どもの性格や状況によって答えは異なります。また、必ずしも父母で「正解」が一致しない場合もあります。大人の感情やエゴではなく、理由を聞く子どもの気持ちになって話し合いましょう。
(2) 今後の生活の見通し
誰と住むのか、転居や転校はあるのか、離れて暮らす親とは会えるのか、習い事は続けられるのか、お友達とは会えるのか、そういった別居・離婚後の生活の見通しを伝えましょう。子どもの不安の大部分は「分からなさ」から生じます。
(3) 子どもへの愛情
夫婦関係と親子関係は別であることを伝えましょう。子どもは、父母が愛し合わなくなると、自分まで愛してもらえないと感じることがあります。残念ながら両親は関係が悪化して離れるけれど、子どもへの愛情はこれまでと何ら変わらず「大好きだよ」と伝えましょう。
(4) あなたのせいじゃない
年齢が小さいお子さんは、周囲で起こっていることを自分と結び付けて考える傾向があります。そのため、「パパとママがけんかするのは自分が言うことを聞かないからだ」等と自分のせいだと感じてしまう子どもがいます。特に、夫婦げんかの理由が育児分担や育児方針のぶつかり合いの場合、まさに子どもが原因でけんかをしているように聞こえます。そのため、「あなたのせいじゃないよ」と伝えましょう。
(5) 前向きな選択であること
離婚は「今よりよくなるための選択」のはずです(少なくとも一方の親はそう考えているからこそ別居や離婚になるはずです。)。少なくとも相手の親のせいにしたり、親同士の対立をなるべく見せないようにしましょう。
(6) 何でも聞いていい
別居や離婚といった親の不和に関する話題はタブー視されがちです。そのため、子どもは疑問があっても「聞いていいのだろうか」と躊躇します。聞きたいことがあれば、いつでも何でも聞いていいことを伝えましょう。
3 子どもの意見をきく
親が説明するだけではなく、できれば子どもの気持ちも聞きましょう。ただし、「パパとママ、どっちがいいの!」といった親を選ばせるような聞き方をすると子どもが傷付いてしまいます。せっかく気持ちを聞かせてもらっても、その通りにしてあげられない場合もあることを説明した上で「パパと一緒に暮らすとどんな生活になりそう?」「ママと一緒に住んで、パパとはお外で会うのはどう?」といった風に和らげて聞きましょう。一方で、子どもの年齢が大きくなると、自分なりの生活の利便性を基準に明確な意見を持つようになってきます。そんな場合は、ストレートにどちらの親と暮らしたいかを聞いても問題ありません。いずれの場合も「最後に決める責任は親にあり、子どもは無責任に言いっぱなしでいい」ことを前提として伝えましょう。
ⅩⅢ 別居
別居とは、夫婦が同居を解消し、それぞれ別々に生活する状態をいいます。
夫婦関係が悪化している場合には、一定期間距離を置くことで、感情的な対立を避け、今後について冷静に考える時間を持つことができますし、子どもが親の日常的な争いを見ずに済むというメリットもあります。
また、離婚について相手の合意が得られない場合、関係性を一度整理し、話し合いを進めるための一つの方法として、別居が選択されることもあります。
一方で、子どもの生活環境が変わることによる影響もあるため、子どもの状況に十分な配慮が必要です。
子どもを伴う別居については、離婚前の共同親権の状態においては、「子どもの転居」が原則として親権の共同行使が必要とされている事項であることに注意が必要です(詳細は「V親権・監護権の1親権⑵共同親権で、共同すべきことと単独でできること」を参照ください)。いずれにしても、子どもの監護や費用負担などについて十分に検討したうえで判断しましょう。
1 別居時に決めておくこと
(1) 子の監護者
別居する場合には、どちらか一方の親が日常的に養育するかを決めておくことをおすすめします。どちらが監護するかを決めるにあたっては、これまでの養育状況、子どもの生活環境や学校、子ども自身の意思などを踏まえ、「子どもの利益」を最優先に考えることが重要です。夫婦間で合意ができない場合、ADRや家庭裁判所で話し合うことができます。裁判所で監護者について話し合った場合の考慮要素については「V 親権・監護権 2監護権 (2) 裁判所で考慮される要素」を参照ください。
(2) 婚姻費用(生活費)の分担
別居に関する合意の有無にかかわらず、別居状態に至った際には婚姻費用について取り決めることができます。詳細は「Ⅶ 婚姻費用」を参照ください。
(3) 親子交流
離婚前であっても、子どもと離れて暮らす親の会い方を決めておくことができます。「離婚するまでは会わせない」という気持ちになるかもしれませんが、継続的に親に会えることは子どもにとっても大きなメリットがあります。詳細は「Ⅺ 親子交流」をご覧ください。
ⅩⅣ さいごに
離婚という大きな人生の節目において、ADR(裁判外紛争解決手続)という「対話」の道を選ばれたことを、私たちは心から尊重します。ADRは、単に条件を確定させるだけの場ではありません。これからの新しい人生を、できる限り納得感を持って踏み出すための準備期間でもあります。
話し合いを実りあるものにするために、心に留めておいていただきたいポイントをお伝えします。
過去より未来
過去への評価はそれぞれで、一致させるのが難しいことがあります。過去を変えることはできませんが、未来のルールは今から作ることができます。お互いのこれからの生活がどうすれば安定するか、という視点を大切にしてください。
「子の利益」を共通のゴールに
夫婦としては別々の道を歩むことになっても、お子さんにとっては、お二人はかけがえのない「父」と「母」であり続けます。意見が対立したときは、一度立ち止まり、「子どもにとって何が一番幸せか」という共通の土台に立ち返ってみましょう。
感情の揺れを否定しない
話し合いの最中、怒りや悲しみ、不安を感じることは自然なことです。ADRでは、調停人が皆さんのペースに寄り添います。感情的になってはいけないと無理をする必要はありません。まずは今の素直なお気持ちを、言葉にすることから始めてください。
「小さな合意」を積み重ねる
すべての問題を一度に解決しようとすると、気が遠くなるかもしれません。まずは一つ、小さな合意(例えば次回の期日を決める、一部の資料を出し合うなど)を積み重ねていきましょう。その積み重ねが、最終的な納得感へとつながります。
このパンフレットが、皆さんの新しい第一歩を支える一助となることを願っています。
*無断転載禁止/無断使用禁止
*家族のためのADRセンター編集