
出典:「弁護士JPニュース」(2026年3月31日付)
弁護士JPニュースの記事(2026年3月31日付)にて、「一般社団法人 家事ADR・ODR調停人育成機構」が3月30日(月)の午後に都内で開いた会見の内容が紹介され、家族のためのADRセンター代表・小泉道子のコメントが掲載されました。
ADRが果たす役割、家族の対話を支える現場から見える課題や、調停人育成の重要性について語っています。
小泉のコメント(全文)は以下となります。
小泉道子のコメント(全文)
私は家庭裁判所調査官として、多くのご夫婦やご家族の紛争に関わってまいりました。その仕事には大きなやりがいを感じておりましたが、一方で、紛争性の高い案件において、子どもが大人の争いに巻き込まれてしまう現実を、数多く目の当たりにしてきました。
そのような経験の中で、「家庭裁判所に至る前の段階で、何かできることはないのか」と強く感じるようになりました。
そして、夫婦間の話し合いを支援する場としてADR機関を立ち上げました。
現在、立ち上げから9年目を迎え、年間およそ100件から150件の案件を取り扱っています。
その中で実感してきたのは、ADRによる解決は、家庭裁判所での解決と似ているようで、実は大きく異なるということです。
私たちのもとに来られるご夫婦は、「当事者だけでは話し合いができない」という点では共通しています。
中には、DVや不貞といった、紛争性の高い案件も少なくありません。
そのようなケースでは、家庭裁判所に至る前の制度としてADRが活用されることもあります。
一方で、そもそも家庭裁判所や弁護士といった選択肢が念頭になく、ADRを利用しなければ、十分な話し合いがなされないまま、養育費や親子交流の取り決めも行わずに離婚していたであろうご夫婦も、多くいらっしゃいます。
さらに、離婚の合意がまだできていない段階での話し合いや、別居中ではあるものの、子どものために同居を目指し、そのルールを整えるための話し合いなど、扱う内容は非常に多岐にわたります。
このように、「夫婦問題」「離婚問題」と一言で言っても、その実態は極めて多様です。
その中でも、私たちのセンターでは、お子さんのいるご夫婦の離婚協議が多く、養育費や親子交流といった、離婚後の子どもの生活と幸せを支えるための取り決めを行っています。
こうした話し合いにおいて、特に重要だと感じているのが、「プロセスへの納得感」です。ある時、成立で終了した当事者の方から、一通のメールをいただきました。そのメールには、「結果は思った通りにはいかなかったが、経過(プロセス)には納得できた。」という言葉がありました。その際、これこそがADRの価値ではないかと気付きました。
養育費の金額や、親子交流の方法については、相手の意向もあり、また法律的な枠組みもあります。
そのため、必ずしも自分の希望どおりの結果になるとは限りません。
しかし、話し合いの過程で、自分の思いを十分に言葉にし、相手の考えにも耳を傾け、専門家とともに解決策を模索する――
そのプロセスを経ることで、最終的な結論に対する納得感が生まれます。
そして、この納得感こそが、合意内容の履行、すなわち養育費の支払いや親子交流の継続につながっていくと感じています。実際に、過去に行った利用者アンケートでは、離婚後2~3年程度経過した方々が対象の中心ではありましたが、9割近い履行率が確認できました。
今後、民法改正により、離婚時には、より具体的に離婚後の子育てについて取り決めることが求められるようになります。
また、離婚後においても、父母が協力して話し合いを続けていく場面が増えていきます。
そのような中で、当事者が納得しながら合意形成を行う場として、ADRの役割はますます重要になると考えています。
しかし、そのような納得感のある話し合いを実現することは、決して簡単ではありません。
当事者の状況は多様であり、扱う問題も複雑です。
そのため、法律の知識だけでは十分ではなく、「調停技法」と呼ばれる専門的なスキル、そして家事事件特有の知識が不可欠となります。
私たちのセンターでは、これまで弁護士を中心とした調停人に対し、こうした研修を行ってきました。
その中で、研修の有用性を強く実感するとともに、継続的な実施の必要性、そしてより効果的な学びの仕組みを構築することの重要性を感じてきました。
そうした経験から、調停人育成機構の必要性を強く認識し、このたび理事をお引き受けすることとなりました。
今後は、より多くの調停人が質の高い支援を提供できるよう、実務に根ざした育成に取り組んでまいりたいと考えております。