離婚を「争い」から「話し合い」へ ― その先の家族の未来を支えるために

家族のためのADRセンターでは、離婚を「争い」ではなく「話し合い」で乗り越える支援を行っています。

本コラムでは、なぜ当センターが家事分野に特化したADRに取り組んでいるのか、そして、4月の民法改正を前に、子どもがいる離婚において何を大切にすべきかについて、代表の小泉の「想い」を記載しています。

少し長いですが、ぜひご覧ください。

家裁にいたからこそ見えた「大多数の協議離婚層」への支援の必要性

私は以前、家庭裁判所調査官として、離婚や親子関係をめぐる紛争に関わってきました。当事者の声に丁寧に耳を傾け、子どもの福祉という観点から家族の問題を考える、非常にやりがいのある仕事です。

今でも、あの経験は自分の原点だと思っています。

一方で、現場にいればいるほど、ある種の限界も感じるようになりました。
家庭裁判所に来られる方は、離婚全体の一割程度です。そして、その多くは、すでに葛藤が非常に高まった状態にあります。互いに傷つき、怒り、疑い、長い時間をかけて関係が悪化してきた方々です。

そのような中で支援することの難しさ、そして「もう少し早く関わることができていたら」という思いを、何度も感じてきました。特にお子さんがいる夫婦の場合、葛藤が高まれば高まるほど、子どもへの影響も大きくなります。

家裁調査官の仕事のひとつは、子どもに直接会い、気持ちを聞かせてもらうことでした。子どもは、親の争いの中に巻き込まれ、深く傷つきながらも必死に話してくれます。しかし、その声がまっすぐに親に届かない場面も少なくありませんでした。

そうした中で出会ったのが、ADRという仕組みでした。

高葛藤の方々の支援ももちろん大切です。しかし、離婚全体の10分の9を占める大多数の夫婦は、専門家による話し合いの支援を受けず、何とか夫婦だけで話し合ったり、もしくは話し合いすらせずに、離婚届を一枚提出することで離婚を成立させています。

もしそこに支援が届いていれば、「離婚前後の子どもの幸せ」に大きな違いが生まれるのではないか。そう考えるようになりました。

高葛藤支援中心の構造では支えきれない離婚の現実を知り、家事分野に特化したADR機関を立ち上げました。

納得して決める「プロセス」が離婚後の人生を支える

私がADRにおいて最も大切にしているのは、「納得のプロセス」を経ることです。

夫婦の話し合いは、相手がいますし、法律や制度という枠組みも存在します。そのため、結果が必ずしも自分の思い通りになるとは限りません。

しかし、自分の意見を相手に伝え、また、相手の考えや法律を理解した上で結論に至る。このプロセスへの満足感や納得度は、その後の人生に大きく影響します。

まだADRを立ち上げて間もない頃、印象深い経験を2度しました。

夫婦2人で来所し、理性的で穏やかな話し合いを3度ほど重ねた後、円満に離婚した夫婦がいました。「第三者の支援が必要なかったのでは?」と思わせる夫婦でした。しかし、終了後、その夫婦の一方から「本当につらい結婚生活だった。でも、子どものためにも話し合いを諦めたくなかった。ADRがそれを可能にしてくれた。」とのアンケート結果が届きました。また、ある利用者より、「結果には満足していない。でも、経過には満足している。今はまだ笑顔で喜べないが、きっと数年後には前を向いているだろう」という内容のメールをもらいました。

この2つの経験から私が感じたのは、「離婚はきれいごとではない。我慢できない辛さがあるからこそ離婚に至るし、離婚協議も簡単ではない。でも、少しの支援が支えになり、離婚後の人生を明るくするかもしれない。」ということです。

離婚は、人生の一つの節目です。その節目をどのように越えるかによって、次の人生に前向きに進めるかどうかが変わってきます。

特にお子さんがいる場合、丁寧に話し合い、養育費や親子交流を取り決めることは、その後の履行率にもつながり、結果として子どもの福祉を守ることにつながります。

離婚における専門的合意形成支援が社会実装されていない現実

私は、日本で初めて、個人としてADRにおける法務大臣認証を取得しました。また、家族のためのADRセンターは、家事分野に特化したADR機関としてはトップランナーであると自負しています。

しかし残念ながら、ADRという制度は、まだ社会に十分浸透しているとは言えません。

そのため、「夫婦で話し合えない場合」は、弁護士に依頼して裁判所で争うか、あるいは、何も取り決めをしないまま離婚するかという、極端な二択になってしまうことも少なくありません。

本来は、その間に、「専門家の関与のもとで話し合う」という選択肢があってよいはずです。

私は、ADRの実務を行うだけでなく、この制度を社会の中に広げ、離婚における選択肢を増やしていきたいと考えています。

民法改正前夜の今だからこそ、一緒に考えたい「離婚しても親としてできること」

そして、今年4月からの民法改正は、大きな転換点になります。

共同親権や法定養育費といった言葉が注目されていますが、今回の改正の本質は、「親の責務」にあると私は感じています。

離婚を子どもに説明し、また、子どもの気持ちも聞くこと。そして、養育費や親子交流を取り決め、履行すること。こうした「親の責任を果たすプロセス」を丁寧に積み重ねることが、子どもの幸せを守ることにつながります。

一方で、多くの親は、夫婦関係を続ける中で、心身ともに疲弊し、自分のことすらケアできない状態に陥っています。そんなときに「親の責務」を押し付けられても潰れてしまいます。

そこで必要になるのが寄り添いであり、話し合いの支援です。

親も子も争いから解放するー離婚後も争わないための話し合い支援を

今回の法改正により、共同親権が選択できるようになり、養育費も強化されます。すなわち、離婚後も両方の親が子どもに関わり続ける社会へと制度は変化していきます。

これは子どもの利益を守るための重要な変化です。

ただ一方で、離婚後も紛争が続き、子どもが長期間その渦中に置かれるのであれば、本来の目的は果たされません。だからこそ、離婚の段階で、できる限り納得度の高い話し合いを行うことが、これまで以上に重要になります。

私たちは、これからも、養育費や親子交流の取り決めにおいて、納得のプロセスを支援していきたいと考えています。

離婚は、夫婦の問題であると同時に、家族の再編成でもあります。

その過程で、できる限り子どもの幸せを守ること。そして、両方の親が次の人生に前向きに進めること。そのための支援を、これからも続けていきたいと考えています。