離婚一般

子連れ別居と違法な連れ去りの違い&子どもの取り戻し方

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家庭裁判所調査官時代もそうでしたが、今でも男性からの相談でよく聞かれるのが、「母親が子どもを連れて勝手に家を出るのは許されて、父親がそこから子どもを取り戻そうとすると『やめなさい。』とアドバイスされたり『違法性があるかも。』なんて言われるのはなぜですか?母親の子連れ別居は父親の許可がなくても違法にならないのですか。」ということです。今回は、子連れ別居と違法な連れ去りの違いや、その後、子どもを連れ戻す方法について考えてみたいと思います。

   1 問題の背景

夫婦が離婚する場合、まずは別居はという選択肢を選ぶ人は少なくありません。少しでも早く離れたい、心情的に一緒にいるのがつらい、同居のまま離婚協議をするのがしんどい、といった気持ちになるからです。そして、その夫婦に子どもがいる場合、どちらかが子どもを連れて行くことになり、大抵は妻が子どもを連れて家を出る(もしくは夫が一人で家を出る)ことになります。これは今も昔も変わりません。しかし、最近、父親からの「子連れ別居」に対する不満の声が前より大きくなっているように思います。まずはその問題から考えていきたいと思います。

1-1 情報の増加 

ひと昔前は、「父母が離婚したら一方が子ども引き取る、引き取るのはこれまで子どもを育ててきた母親」というセオリーが定着していて、それに疑問を感じる人が少なかったように思います。しかし、現在は、情報網の発達により、諸外国では「離婚後も共同親権」であることや、それを望む父親を支援する団体があることなどを簡単に知ることができます。そのため、これまで何となく「子どもはかわいいけど、離婚したら諦めざるを得ないのかな・・。」ともやもや考えていた父親たちが、声を上げるようになってきているように思います。

1-2 中途半端イクメンの増加

女性の社会進出が進み、「イクメン」という言葉ができるほど家事・育児を分担する男性が増えました。しかし、現在でも、男性が子どもを連れて別居する例はあまり見られません(以前よりは増えていると思いますが)。というのも、父親が多少家事・育児を分担したとしても、普通の民間企業で働く一般のサラリーマンである限り、妻と同等程度分担することは難しいからです。しかし、「育児に関わっている」という意識は高くなり、「育児ができる」という自信にもつながります。そのため、妻が子どもを連れて出て行ったり、それ取り戻そうとする自分の行為を咎められると、理不尽に感じるのだと思います。そして、従来から「子連れ別居」とされていた行為を「妻による子の連れ去り」と表現するのです。

これは、家事・育児を完全には分担しない夫が悪いのではなく、社会の構造上、仕方がない部分もあると思います。妻が専業主婦の場合、そもそも家事・育児を半分ずつ分担する発想はありません。妻が仕事をしていたとしても、夫と同等の収入を得ていることは少ないでしょう。そうなると、妻が時短勤務で家事・育児の全般を担い、夫は外で全力で稼いできた余力で家事・育児をするという構造になるのです。

そもそも、夫婦共働きであったとしても、育児休暇をどちらが取るかという議論はほとんどされません。本来ならば、授乳が必要な最初の半年は妻が、離乳食が始まる残りの半年は夫が育児休暇を取得する、という方法だって可能なのです。しかし、男性が育児休暇を取ることのハードルは、依然として大変高いと言わざるを得ません。そうすると、一番大切で大変な最初の一年を妻がメインで育児を行うことになり、妻が仕事に復帰した後も、「育児は母親中心」という考え方が変わらないのです。

   2 違法性とは

次は、「妻の連れ去り(子連れ別居)は違法ではないのですか?」かと聞かれた場合の「違法性」に着目したいと思います。

2-1 未成年者略取罪

まず、連れ去ったその行為が刑法224条で定める未成年者略取罪にあたるかどうかです。これにあたるとなれば、連れ去った親は刑事事件の被疑者として身柄を拘束されることもあります。 この点、同法の保護法益は「被拐取者の自由及び監護権である」と言われていることから、まだ離婚していない別居親が連れ去っても構成要件に該当しないという見解もあります。 平たく言うと、まだ離婚していない夫婦であれば、父母どちらにも監護権があるので、監護権のある親が子どもを連れ去っても罪にならないはず、という考え方です。

しかし、やはりそうは言っても連れ去りの態様等によっては、罪になるというのが裁判所の考え方です(親権者だからといって違法性は阻却されない、ということです。)。 ただ、連れ去った親を逮捕・勾留するには様々なハードルがあり、「こっそり保育園に迎えに行って実家に連れて帰った」程度では無理だと思われます。 また、いくら嫌いになった相手であっても、子どもの親を前科者にするというのは相当の覚悟がいるものです。

2-2 一般的な意味で主張される「違法な連れ去り」の違法とは

先ほど、未成年者略取罪の話をしましたが、実は、そこまで考えて「違法」を主張する人は多くはありません。多くは、未成年者略取罪に該当するとまでは言わないけれど、片方の親の了解を得ずにこっそり子連れ別居をした場合に、その行為の不当性を主張するために使われます。では、連れ去った行為を法的に罰するのが現実的ではないとすると、次の段階として、実際に子の引渡しを求めるには、どのような法律的方法があるのでしょうか。

   3 実際に子どもを取り戻すための法的手段

実際に子どもを取り戻す法的手段として、次の4つが考えられます。

①家事審判ないし調停 
②親権・監護権妨害排除請求訴訟
③人事訴訟
④人身保護請求

があります。この4つは根拠とする法律も異なり、請求の要件やその効果も違います。これを細かく説明すると立派な論文ができてしまいますので、今回は別居中の夫婦という前提で①について考えてみましょう。

    4 家裁での手続き

4-1 子連れ別居が問題にされる実際の場面

 

再婚家庭と面会交流

夫 35歳 会社員
妻 34歳 専業主婦
長女 4歳

夫婦間で離婚話を進めていましたが、親権で話し合いがつかずにいたある日、妻が子どもを連れて家を出ました。 残された夫は慌てて弁護士に相談に行きました。弁護士は、①~④の方法のうち、一番オーソドックスで実際的な①の方法をとることにしました。

4-2 子どもの連れさりが「不当」とされる基準 

数日後、家裁に申し立てられた事件名は、「監護者の指定審判事件」、「子の引渡し審判事件」及びその「審判前の保全処分」でした。 この「審判前の保全処分」というのは、「本案(ここでは監護者指定の審判及び子の引渡しの審判を指します。)の結論を待っていられない!」という緊急性があるときに申し立てられます。保全が申し立てられると裁判所は審問を開いて、裁判官が当事者双方から事情を聞きます。子どもの連れ去りが問題になる場合、大抵、この「審判前の保全処分」が申し立てられますので、保全事件における判断を考えてみたいと思います。

その判断基準はそう単純ではありませんが、一つ参考となる高裁判決があります。そこでは次のように判断されました。

「従前監護していた親権者の監護の下に戻すと未成年者の健康が著しく損なわれたり、必要な養育監護が施されないかったりするなど、未成年者の福祉に反し、親権行使の態様として認容することができない状態となることが見込まれる特段の事情がない限り、その申立てを認め、しかる後に監護者の指定等の本案の審判において、いずれの親が未成年者を監護することがその福祉にかなうかを判断することとするのが相当である。」(東京高平成20年12月18日) 

長々と引用しましたが、簡単に言うと「子どもに害がない限り、前にお世話していた親のもとに戻し、その後でゆっくりどちらが監護者として適切か判断しましょう。」ということです。

また一方では、次のような判断もあります。

「子の福祉が害されているため、早急にその状態を解消する必要があるときや、本案の審判を待っていては、仮に本案で子の引渡しを命じる審判がされてもその目的を達することができないような場合がこれに当たり、具体的には、子に対する虐待、放任等が現になされている場合、子が相手方の監護が原因で発達遅滞や情緒不安を起こしている場合など」(東京高等裁判所平成15年1月20日決定)

ごく簡単にいうと、「虐待等の深刻な問題のために緊急に判断しないと大変なことになる」場合に保全事件を認容しようという考え方です。

この判断基準が機械的にあてはめられるわけではありませんが、実務上の感覚としては、連れ去りの態様、過去の主たる監護者がどちらであったか、本案はどうなりそうか、子どもの状況はどうかといったことが総合的に判断されていたように思います。

では、先に挙げた夫婦の場合はどうでしょうか。主たる監護者であった妻が子どもを連れて実家に戻り、フルタイムで働く夫が保全を申し立てているわけですから、後者になるでしょう。保全事件自体を取り下げるよう裁判官から勧告されるかもしれません。特段緊急性が認められないので、本案でしっかりどちらが監護権者として適切か判断しましょう、ということになりそうです。

では逆に、うつ病を発症し、ろくに家事や育児ができなかった妻が子連れで家を出て、しかも実家にも帰らず、得体のしれない友人宅で寝泊まりしている、なんていう場合は保全事件を受理し、早急に子どもの監護状況を調査することになります。また、妻が自分ひとりで別居した後、夫のもとで安定的に暮らしている子どもを通園の途中にこっそり連れ去ったという場合なんかも厳しく判断されるでしょう。

更に、子連れ別居した後に、連れ去られた方の親が再度連れ去った場合の判断も、「自力救済の抑制」という観点や「子どもの安定した生活の混乱」という観点からより厳しく前者の判断基準が採用されると思われます。

4-3 小括

そもそも、家裁は、連れ去りが違法かどうかを争う場所ではなく、「子どもを引き渡せ」といえるかどうかを判断する場所ということになります。そして、引渡しを認めるかどうかの判断は、別居や連れ去りが不当であるかどうかのみで決めるのではなく、子どもの福祉を総合的に判断してということになります。 「子どもの福祉を総合的に判断して」という言い回しに不満な方もおられると思いますが、家裁の事件では、二つとして同じ事件はありません。 子どもの年齢、性別や性格、親の監護実績や監護補助者の有無、親の経済状況や精神的安定度等、それぞれに異なるわけです。ですので、簡単に「こういう場合は不当な連れ去り、こういう場合は単なる子連れ別居」と明確に例示することは不可能ですし、それのみで引渡しが判断されるわけではありません。

   5 円満別居のポイント

先ほど、「中途半端イクメン」の話をしましたが、今後、家事・育児を完璧に妻と半分ずつ分担する「完璧イクメン」も増えてくると思われますし、そうなれば、ますます簡単には別居ができなくなります。夫婦の仲がこじれ、離婚を前提に別居をしようという場合、どちらが子ども連れていくかという問題があるからです。別居中の監護者の問題は、離婚時の親権に直結する問題ですので、親権争いが予定されている場合、円満な別居が考えにくく、最終的にはどちらかが許可なく子どもを連れて家を出るという結果になってしまうのかもしれません。

そうなると、上述したような泥沼の戦いが家庭裁判所で始まることになります。しかし、かといって、同居のまま離婚協議を進めるのもしんどいものです。そのため、円満に子連れ別居をするポイントについて提案したいと思います。

5-1 子どもの利益を判断基準にする

まずは、別居後のお子さんの生活を考えることが一番最初に行われるべきです。例えば、お子さんは今の家にいた方がいいのか、転居してもそれほど影響はなさそうなのか、また、転居するにしても、父母のどちらがそれに対応できそうなのかといったことや、監護補助者(お手伝いをしてくれる祖父母など)の手助けを得られやすいのはどの場合か、などを考えていきます。

例えば、まだ1,2歳の小さいお子さんであれば、多少転居したとしても、監護補助者の手助けが得られた方がいいとか、ある程度年齢が高くなれば、何より転校しなくていいことを最優先で考えるべきだとか、色々な判断があり得ます。父母それぞれの利益を全面に押し出すと答えが出なくても、「子どもにとってはどうするのがいいのか。」ということを多方面から考えてみると、自ずと答えが出てくるのではないでしょうか。

5-2 面会交流の充実

別居する方の親に充実した面会交流を認めるのも一つの方法です。別居したとしても、子どもと頻繁に会えるという安心感があれば、監護者の問題だけではなく、親権者を指定する際にも円滑に協議が進められるかもしれません。面会交流といっても、必ずしも遊ぶ必要はなく、平日も何日かは別居している親の家で一緒に夕飯を食べるとか、週一回の習いごとの送迎を担当してもらうといった方法もあります。

頻繁な面会交流による子どもの負担をなくすためには、父母が近くに住む必要があります。中には、「顔も見たくないから別居するのに!」という方もおられると思います。しかし、お子さんも同じように思っているでしょうか?また、だからといって勝手に子連れ別居を敢行し、裁判所で争うことを考えたらどちらが家族にとって負担が少ないでしょうか。さっさと別居できないもどかしさやしんどさがあるかと思いますが、充実した面会交流による解決方法も検討してみてください。

5-3 まとめ

子どもは物ではありませんし、安定的な生活環境を整えることが何よりも大切です。別居の際、衝動的にどちらかが連れ去り、その後、家裁で争った上に子どもが行ったりきたりする、という事態は一番避けなければいけません。かと言って、離婚したくない夫が、子どもを育てられるはずもないのに、「別居するなら子どもを置いていけ」と主張した場合、妻ができることはこっそり子どもを連れて行方をくらますことだけです。お互いが目の前の感情に左右されず、「こうすれば、こうなる。」「ああした場合はこうなる。」という将来予測をしっかりと行い、理性的な判断してほしいと思います。

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