別居(婚姻費用)

子連れ別居で違法な連れ去りと言われないために

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子どもがいる夫婦が別居する際、どちらが子どもと暮らすかを決めなければなりません。多くの場合、夫がひとりで子どもの面倒を見るのは難しいことから、妻が子どもを連れて実家に戻ったり、妻子が自宅に残り夫が家を出る形で別居が開始します。

しかし、昨今のリモートワークの促進もあり、積極的に育児にかかわる男性が増えた結果、簡単には子どもを渡してくれないということが増えてきました。

このコラムでは、別居の際、どちらが子どもを連れていくかで争った際、「子どもを連れ去った」と言われないための知識をお伝えしたいと思います。

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違法な連れ去りとは

では、いったいどんな風に子どもを連れて別居すれば違法な連れ去りになるのでしょうか。

未成年者略取罪

まず、連れ去ったその行為が刑法224条で定める未成年者略取罪にあたるかどうかです。これにあたるとなれば、連れ去った親は刑事事件の被疑者として身柄を拘束されることもあります。

この点、同法の保護法益は「被拐取者の自由及び監護権である」と言われていることから、まだ離婚していない別居親が連れ去っても構成要件に該当しないという見解もあります。

平たく言うと、まだ離婚していない夫婦であれば、父母どちらにも監護権があるので、監護権のある親が子どもを連れ去っても罪にならないはず、という考え方です。

しかし、やはりそうは言っても連れ去りの態様等によっては、罪になるというのが裁判所の考え方です(親権者だからといって違法性は阻却されない、ということです。)。

ただ、連れ去った親を逮捕・勾留するには様々なハードルがあり、「こっそり保育園に迎えに行って実家に連れて帰った」程度では無理だと思われます。 また、いくら嫌いになった相手であっても、子どもの親を前科者にするというのは相当の覚悟がいるものです。

そのため、現実的な問題として、別居の際に子どもを連れて出たとしても、未成年者略取罪に当たるとして罪に問われることは極めてまれであると考えてよいでしょう。

一般的な意味で主張される違法な連れ去りとは

先ほど、未成年者略取罪の話をしましたが、実は、そこまで考えて「違法」を主張する人は多くはありません。多くは、未成年者略取罪に該当するとまでは言わないけれど、一方の親の同意を得ずに子ども連れて別居した際、その連れて行き方が不適切・不当であるとして違法な連れ去りだと主張されます。

以下では、どんな連れて行き方が問題視されるかについてお伝えします。

過去の裁判例

連れ去りが違法(問題あり)と判断されたケース
  • 無断で幼稚園より連れ出したケース(大阪高決平成12年4月19日) 
  • 子どもを無理矢理奪い去り、泣き叫ぶ子どもを抱きかかえたまま警察官の説得にも応じなかったケース(札幌高決平成17年6月3日)
  • 子どもが母親と通園バスを待っていたところ、父親が両親とともに車で待ち伏せし、強引に抱きかかえて車に乗せ、走り去ったケース(東京高決平成17年6月28日) 
  • 保育士のすきをついて保育園内に侵入し連れ去ったケース(東京高決平成20年12月18日) 
  • 夫婦不和による別居後、連絡を断ち、連れ去り後の子育ての状態について、近隣住民から児相に通告されていたケース(東京高決平成29年2月21日) 
連れ去りが適法と判断されたケース
  • 強制的(無理やり)な奪取ではなかったケース(京都家裁決定平成30年3月28日) 
  • 相手が留守の間に転居先を明らかにせず子どもを連れて別居したケース(東京高決令和元年12月10日) 

違法あるいは問題ありとされる行為

以上の裁判例から、少なくとも次のような行為は違法あるいは問題ありと判断されるリスクがあります。

幼稚園・保育園・学校等からの無断の連れ出し

一方の親に無断であるだけでなく、園や学校の許可もなく一方的に連れ出す行為は問題があると判断される可能性が高くなります。

実力行使による連れ去り

一方が監護している状態から、無理やりに奪い取るなどの実力行使を行った場合は問題ありとされる可能性があります。そもそも、子どもにとっても、このような連れ去りの仕方は大変問題があると言えます。

関係を遮断

住所を教えなかったり、まったく連絡も絶ち、面会交流もさせていないような場合は違法性ありと判断される可能性があります。

例えば、DVがあり、住所を秘匿せざるを得ないケースもありますので、それだけで違法性ありとはなりませんが、正当な理由もないのに連絡を絶ち、子どもと別居親が会えない状況を作っているとなると問題ありです。

それに加えて、連れ去った後の子どもの育て方も問題です。子どもを孤立させた上、適切に育てられていないとなると、子どもにとってもリスクの大きい連れ去りとなってしまいます。

問題はなくても連れ去りと主張されるケース

相手が別居や離婚に同意していない場合

相手が別居や離婚に同意していない場合、単に子どもを連れて別居しただけで「連れ去り」と主張されてしまうことがあります。

夫の同意なく妻が別居する場合にこのような主張が多いのですが、夫としては、妻が家を出ていくことを実力行使で阻止するのは難しいため「子どもを連れていくことは違法だ」と主張することで、妻が別居するのを思いとどまらせたいという気持ちがあります。

双方が子育てに参加している場合

冒頭にも書きましたが、昨今、子育てに積極的な男性も増え、「別居するなら妻が子どもを連れて」という流れに納得できない夫が増えています。

夫の育児参加が進むこと自体は大変望ましいことで、子どもにとってのメリットも大きいと言えます。ただ、当たり前ですが、子育てをすればするほど子どもへの愛情も増え、そばで成長を見守りたいと考えるようになります。

そのため、妻が子どもを連れて別居を希望した場合、共同親権下にある子どもを自分の許可なく連れ出すことが違法だと言われてしまうのです。

子どもを連れて別居した後に待っていること

以上のように、多くの場合、相手の許可を得ずに別居をしたとしても、違法性や問題があると判断されるわけではありません。

ただ、そうは言っても、相手の同意なく子連れ別居をした場合、その後どのように進んでいく可能性があるのか知っておかないと不安です。

そのため、以下では、子どもを連れて別居した後、それを不服に思った相手が取る可能性がある手段についてご説明します。

実力行使

別居先が実家であったり、どこに住んでいるのかを相手が知っている場合、子どもを連れ戻しにくる可能性があります。多くの場合、気持ちの上では取り戻したくても、現実的には難しいことがほとんどです。例えば、子ども自身が嫌がることもありますし、仕事の関係で、連れ戻したとしても面倒をみることができない場合もあります。

そのため、実際のリスクは大きくはありません。ただ、感情的になりやすい相手で、子どもの年齢も小さく、連れ去った後も面倒が見れてしまったり、仕事のしがらみがなくどこでも身を隠して生活ができてしまうような相手であれば要注意です。

実力行使での取り戻しが予想されるのであれば、まずは、別居先の最寄りの警察に事前に相談し、相手が暴力的に訪問した場合は駆けつけてくれるよう段取りをしておきましょう。

家庭裁判所で取れる手続き

実際に子どもを取り戻す法的手段として、人身保護請求などもありますが、ここでは、家庭裁判所で行う審判や調停手続きを典型事例を通してご紹介します。

子連れ別居が問題にされる典型事例

子連れ別居までの経過

<夫:35歳(会社員)、妻:34歳(専業主婦)、長女:4歳>

妻は、夫の日々のモラハラ的な言動が嫌になり、子どもを連れて実家に戻りたいと伝えました。しかし、子どものことは好きだった夫は、出ていくなら子どもを置いていけの一点ばりで話になりませんでした。

しかし、妻にしてみれば、夫が働きながら長女の世話をするのは現実的でなく、長女も自分の方に懐いていると感じていました。そのため、夫の合意を得てから別居するのをあきらめ、ある日、夫が仕事で不在の間に荷造りをして実家に戻りました。

別居直後の流れ

妻は、実家に戻る途中、夫にメールで長女を連れて家を出た旨をメールしました。そうしたところ、夫からは一言「君がその気なら、法的な手続きを取ります。」とのメールが返ってきました。

夫は、すぐに弁護士に依頼したようで、数日後には、代理人弁護士から受任通知が届きました。

そして、またその2週間後、家庭裁判所から「監護者の指定審判」と「子の引渡し審判」及びその「審判前の保全処分」の通知が届きました。

この「審判前の保全処分」というのは、「本案(ここでは監護者指定の審判及び子の引渡しの審判を指します。)の結論を待っていられない!」という緊急性があるときに申し立てられます。保全が申し立てられると裁判所は審問を開いて、裁判官が当事者双方から事情を聞きます。子どもの連れ去りが問題になる場合、大抵、この「審判前の保全処分」が申し立てられますので、保全事件における判断を考えてみたいと思います。

通知を受け取った妻は、無料の法律相談に行きました。そこで同居当時の生活状況を踏まえて相談したところ、弁護士は「そのような場合であれば、あなたが監護権や親権を取られる危険性はありません。しっかりと、現状の生活に何ら問題がないことと、同居期間中も主に面倒をみていたのは自分であることを主張してください。」とのことでした。

それを聞いて妻は安心し、自分は弁護士に依頼せず調停に臨むことにしました。

裁判所の手続きの流れ

一回目の審問期日にて、妻は、これまで自分が主体となって子どもの面倒を見てきたことを述べ、その証拠として幼稚園の連絡帳や母子手帳、そして日ごろの家事・育児の分担についても詳細に記載した書面を提出しました。

一方、夫側は、自分が反対しているのに妻が子どもを連れ去ったこと、子どもの生活環境を変えるべきでないことなどを主張しました。

そして、期日間に家庭裁判所調査官が妻の実家での子どもの生活状況を確認する調査が実施され、結果として急いで戻さなければならないほどの問題性はないとのことで、審判ではなく調停に戻してしっかりと話し合うことになりました。

調停でも、夫側は一貫して子どもを戻すことを主張しましたが、裁判官から、このまま合意できなければ、審判に移行することになるけれど、その際、どちらが子どもの監護者として適切か、次のような項目について考えることになると言われました。

  • 過去の主たる監護者はだれか
  • 子どもとの愛着関係はどうか(子どもの気持ちはどうか)
  • 現在及び将来の養育環境はどうか

そして、「審判に移行しても、子どもを連れ戻すのは難しい」旨の説明をされ、最終的には取り下げで終了しました。

法的な手続きへ進むことを恐れる必要はない

相手の同居なく子どもを連れて別居する際、裁判所に訴えられたどうしよう、と不安になるかもしれません。しかし、むやみに怖がる必要はありません。

紹介した事例のように、諸々の手続きに応じる必要はありますが、裁判所に間に入ってもらい、子どもにとって何が幸せなのかを考える機会だと捉えてはどうでしょうか。

何もしない

別居前は反対していたとしても、その反対を押し切って子どもを連れて別居した結果、相手は何も行動に移さなかったということもよくあります。

なぜなら、少し調べれば、先ほどの事例のように裁判所で争ったとしても自分に勝ち目はないと分かるケースがほとんどだからです。

円満に子連れ別居するためのポイント

面会交流を実施する

子連れ別居に反対する気持ちは様々で、時に相手を引き留めるために「子どもは置いていけ」と発言する人もいます。

しかし、純粋に子どもと離れたくない、子どものそばで成長を見守りたいという人も少なからずいます。そのような人に対しては、しっかりと面会交流を保証することが大切です。

別居の始まりは相手の同意を得ない不穏な始まりだったとしても、面会交流に応じることで、誠実さを相手に伝えることができます。

また、子どもにとっても、別々に暮らすことになっても、両方の親から愛情をかけてもらえることは大きなプラスになります。

「きれいごと」でも大切なこと

同意なく子連れ別居をせざるを得ないような状況は、夫婦間の葛藤や紛争性が高い状態だと想像できます。しかし、そんなときこそ、子どもの幸せ別居親も子どもの大切な親であること等、本質を大切にした話合いをしていただければと思います。

一緒に暮らさなくても親であることを認める

監護者や親権者にならなかったとしても、子どもの大切な親であることには変わらりません。そのため、あなたは子どもにとってかけがえのない親であることを相手に伝えましょう。

その言葉によって、相手は自分が親として尊重されていることを実感できます。

子どもの幸せを中心に置いて話し合う

親が子どもと住みたい気持ちで議論するのではなく、別居後の子どもの幸せを考えることが第一です。

夫婦円満で子育てができるのが一番ですが、それができないとすれば、どちらがどのような環境で子どもを育てるのがいいか、そして、もう一方はどんな協力ができるのか、そういった視点で話し合うことが大切です。

民間の調停機関(ADR)を利用する

先ほど、相手の同意を得ずに子連れ別居した場合、相手がどのような手続きを取り得るかという点について、家庭裁判所での手続きを紹介しました。家裁での手続きは、むやみに恐れる必要はないとお伝えしたものの、やはり長期間にわたって相手と争うことになり、心身ともに疲弊しがちです。

そのため、民間の調停機関であるADRを利用して別居について話し合うという方法をご紹介します。

ADRは、いわゆるADR法に基づいて、法務省が管轄している制度です。管轄は法務省ですが、調停の実施機関自体は民間の機関になりますので、家裁で争うより円満な別居協議が期待できます。

ADRを利用するメリット

利便性が高い

民間ならではの利便性があり、土日や平日の夜間の利用が可能だったり、オンライン調停が可能な機関も増えています。

紛争性が高まりにくい

民間の機関ですので、裁判所や弁護士に比べて、相手の受け止めもソフトな側面があり、紛争性が高まりにくいというメリットもあります。

迅速性

何より大きなメリットは迅速性です。婚姻費用は日々の生活費ですので、既に別居を始めている場合、1日でも早く婚姻費用を払ってもらいたいという状況になるものです。この点、ADRは家裁の調停より解決までの時間が随分と短い(法務省の統計によると家裁の約半分以下)のがメリットです。

ADRを利用するデメリット

費用がかかる

家裁と異なり、一定の利用料がかかる点がデメリットと言えます。弁護士に依頼する費用の10分の1程度ですむ機関が多いと思いますが、それでもやはり家庭裁判所を利用するより割高ですので、その点はデメリットと言えます。

まとめ

別居は、大きな生活の変化を伴い、相手の同意なく進めることは心身ともに大きな負担となります。ただ、夫婦の好ましくない姿(喧嘩をしたり、互いに無視したり)を子どもに見せてしまっていたり、相手との同居生活がしんどく、自分らしくいられないような状況なのであれば、次の一歩を踏み出す必要があります。

ぜひ、自分と子どもが笑顔で過ごせる方法で、かつ最終的には相手の納得も得られるような方法を探していただければと思います。

当センターでは、ご夫婦問題に関するご相談やお話合いの仲介をお受けしております。おひとりでなやまず、まずは、カウンセリングをご利用ください。

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