離婚一般

離婚後の氏(名字)のはなし

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今回は、離婚の際の「氏(名字)」の話です。

氏は、その人の「顔」ともいえる大切なものです。また、女性は、結婚や離婚の際に「氏の変更」による様々な影響を受けることになります。

カウンセリングの際にも、よく「氏(名字)」に関する質問を受けますが、その質問にお答えする形で氏に関する話題に触れていきたいと思います。

よくある質問とその回答

Q 離婚後も同じ名字を使うことは可能ですか
A 離婚後も、旧姓に戻さず、婚姻当時の名字を使うことができます。ただ、普通に離婚届を出しただけでは、旧姓に戻ってしまいます。そのため、「離婚の際に称していた氏を称する届」という書類を市区町村の戸籍課に出す必要があります。

Q 妻は、離婚後も同じ名字を使うと言っています。それを阻止することはできますか?
A できません。ただ、どうしてもそれが気になるようであれば、離婚協議の際に、名字を旧姓に戻してくれるよう交渉してはどうでしょうか。また、奥様が旧姓に戻さないのは、何か事情があるのだと思います。その事情も併せてうかがってみてはどうでしょうか。

Q 離婚後も旧姓に戻さない場合、ずっと夫と同じ戸籍のままなのでしょうか?
A 戸籍自体は別になります。離婚しても氏を変更しない場合、呼び方は同じでも違う氏になると考えます。例えば、ご主人を筆頭者とする「田中〇〇」という戸籍から出て、あなたを筆頭者とする「田中△△」という戸籍を作成した場合、二つの「田中」は呼び方は同じでも、違う「田中」として扱われます。そのため、同じ氏のままでも、戸籍は異なります。

Q 離婚により旧姓に戻りましたが、仕事上の問題などがあり、婚姻当時の名字をそのまま名乗っていた方がよかったのではと後悔しています。今からでも婚姻当時の名字に戻すことができますか?
A 基本的には、離婚から3か月以内であれば、「離婚の際に称していた氏を称する届」を出すことができます。3か月を過ぎると、裁判をしなければならなくなりますので、期限には注意が必要です。

Q 私(親権者)が旧姓に戻った場合、子どもの名字も当然に変わるのですか。
A 親権者であるあなたが旧姓に戻っても、お子さんの名字も当然に変わるわけではありません。離婚により、あなたが家族の戸籍から出たとしても、何も手続をしない限り、お子さんは、もとの家族の戸籍に入ったままです。親権者であることと、戸籍や名字は関係がありません。

Q 私(親権者)が旧姓に戻り、子どもの名字はそのまま、ということはできますか。
A 理論上は可能です。しかし、親権者であるあなたとお子さんの名字が違う場合、同じ戸籍には入れません。また、通常の場合、親権者は監護者でもあるわけですので、生活のいろいろな場面で、親と子の名字が違うということで不便を感じるかもしれません。

Q 私は旧姓に戻りたいのですが、子どもの世間体などを考えると迷ってしまいます。普通はどうなのでしょうか?
A 特に「普通」というのはありませんが、旧姓に戻すことによるお子さんへの影響を心配される方は多いように思います。お子さんの年齢が比較的低い場合は、旧姓に戻される方が多いかもしれません。また、お子さんの年齢が高い場合、進学や進級のタイミングで変更したり、お子さんの考えも取り入れながら決めている方もおられるようです。

Q 子どもの氏を変えるにはどのような手続きが必要ですか?
A 管轄の家庭裁判所に「子の氏の変更許可」の申立てをすることになります。お子さんが15歳未満の場合は親権者が申立人になり、お子さんが15歳以上であれば、お子さんが申立人になります。費用は、1000円程度ですし、母の旧姓になるということであれば、ほぼ確実に認められるようです。

複雑な事情が絡み合う「離婚後の氏」

気持ちの整理と生活上の都合のはざま

気持ちの上では、過去を断ち切るためにも旧姓に戻したいと思うものです。しかし、仕事上の都合や世間体を考え、婚姻当時の名字を継続使用する方もいます。

例えば、婚姻期間が長く、同じく長いキャリアを持っている女性の場合、離婚によって氏を変更してしまうと、仕事上の不都合が出てくるようです。また、婚姻時は、「旧姓使用」という制度を利用できるけれど、離婚時に旧姓に戻した場合、婚姻当時の名字を仕事上で使う制度がないという声も聞かれました。

仕事はしていないけれど、世間体のために旧姓に戻したくないという方もいます。例えば、既に別居期間が長く、近隣の人には国内外の単身赴任だと言っているような場合もあります。そのような場合に、「実は不仲だったの。」、「結局、離婚したの。」などと説明するのが体裁が悪いということで、名字を変えられないという人もいます。

子どもとの関係

先ほどの質問にもありましたが、子どもの気持ちを考え、婚姻時の氏を継続使用する方もおられます。

例えば、「名字が変われば、学校でいじめられるのではないか。」と世間体を気にする人もいます。

また、「父親と名字が変わることにより、父親を失ったという喪失感が増すのではないか」とか、「親の離婚による傷付きを少しでも少なくしてやりたい。」というお子さんの心情に配慮した声も聞かれます。

「子どものためにはどっちがいいのですか?」というご相談を受けることもあります。その場合、お子さんの年齢がある程度大きければ、「お子さんに聞いてみてはどうでしょうか。」とお答えしています。もちろん、名字が変わることの意味やその影響を説明してあげる必要はありますが、意外と親が思っているのとは違う答えが返ってくることもあります。

あるお母さんは、「学校でいじめられるのでは?」と心配していたのですが、中学生の息子さんに聞いてみたところ、「クラスの中に、ほかに名字が変わったやつもいるよ。そいつも何も気にしてないし、周りも何も言わない。俺だって別に気にしないから好きにしてもいいよ。」と言われたそうです。

元夫との関係

元配偶者との関係で氏の問題に悩む人がいます。

例えば、仕事上は、婚姻当時の名字を継続使用した方が楽だけれど、元夫に未練があると思われたくないから旧姓に戻すという人もいます。

また、逆に、一人息子の名字を変えないことが離婚の条件だったという人もいます。元配偶者やその両親にとって、親権者とはまた別に「跡取り」とか「〇〇家の名字を継ぐ」という考え方があったりします。特に、田舎に住んでいる場合、「本家」、「分家」といった考え方があり、本家筋の息子が名字を変えるなんてとんでもないと言われることもあるようです。

「氏」はあくまで形

日々、みなさんのご相談を受けていると、「氏」というものがとても大切なことが分かります。心情的にもそうですし、生活上の問題にしてもそうです。

しかし、あくまで「名字」であって、形式的なものに過ぎません。あまりこだわらず、柔軟な姿勢でいた方が、楽かもしれません。

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