離婚一般

配偶者がうつ病になったら。

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夫婦不和とうつ病

家庭の問題は、心の病と切っても切り離せない関係にあります。離婚問題も、様々な場面で心の病が関係してきます。今日は、その中でも特に多い「うつ病」と夫婦の問題についていろいろな角度から考えてみたいと思います。

   1 結婚とうつ病

まずは離婚の前に、「結婚とうつ病」について架空のA夫婦を参考に考えてみましょう。

A夫婦

夫:49歳 会社員
妻:40歳 専業主婦
子:    3歳 女児

夫の主張:妻とは7年前に知り合った。交際を始めてから少したった頃、実はうつ病で服薬していると打ち明けられた。詳しく聞いてみると、過去にもうつ病になったことがあり、一度は完治したが、最近再発したとのことであった。 当時、同棲をしていたわけでもなく、言われるまでうつ病だと気付かなかった。少し気分が落ち込みがちな時があったり、そんなときはすぐに泣いたり食欲がなくなったりしていたが、「繊細で気持ちの優しい子なんだなぁ。」ぐらいに思っていた。なので、うつ病だと言われても、特に気にならなかったし、随分年下ということもあり、「自分が守ってやらねば。」と思っていた。
結婚生活は順調だったが、出産を機に妻がおかしくなった。子どもがかわいく思えないと言い出し、すぐ泣いたり落ち込んだりするようになった。病院に行ったところ、産後うつと診断された。医師は、子どもの安全のため、母子分離を提案した。なので、妻は実家に帰って休養し、子どもは私の両親がみることになった。妻はその後、数週間実家で療養し、戻ってきたが、すっかり様子が変わっていた。 ちょっと子育てに息詰まるとすぐ泣くし、家の掃除や食事の準備もあまりしてくれなくなった。子育てで精一杯という感じだった。以前からうつっぽいとは聞いていたが、これほど生活がおかしくなったのは初めてだ。何だか騙された気がする。医者に一緒に行ってくれと言われたが、あまり協力する気にもなれなかった。

妻の主張:うつ病であることは交際中に既に打ち明けている。それを分かった上で結婚しているんだから、今さら「騙された」と言われても困る。そもそも、妻の病気を理解しようとせず、できないことを責めるだけの夫に問題があるのではないか。

1-1 交際相手がうつ病だったら?

今やうつ病と言えば、その患者数が100万人を超えるとも言われており、一番身近な精神障害(気分障害)ともいえます。ですので、交際相手がうつ病だということも十分にあり得るわけです。

うつ病と家庭問題を考える前に、結婚前に「うつ病の人と交際するかどうか。」という問題があるわけですが、みなさんはどうでしょうか。 「やっかいなことはしょい込みたくない。」という人もいるかもしれません。はたまた、「うつ病なんて風邪みたいなものだから気にしない。」という人もいるかもしれません。しかし、そもそも、出会った瞬間に「私はうつ病です。」と自己紹介するなんてことはなく、どちらかというと、関係を重ねていく中で、「実はうつ病なんだけど・・・。」と打ち明けられることの方が多いのではないでしょうか。そして、既にその段階では相手のことが好きになっていて、やっかいなことはしょい込みたくないと思っていた人が「そんなこと気にしなくていいよ。」なんて答えてしまったりするのかもしれません。

1-2 「昔うつだった」はどうすればいい?

Aさん夫婦はまさに妻がうつ病のときに交際していますが、既にうつ病が治った後に交際を開始することもあります。そして、「今は治っているけど、以前うつ病だった。」と言われることもあるかもしれません。こんな時はどうすればいいのでしょうか。うつ病の再発率から考えると、「以前うつだった」=「今後もうつ病になる可能性があり、生活をする上で色々と気遣う必要がある。」と思った方がよいでしょう。 しかし、驚くほど「以前うつだった。」という配偶者の言葉を軽く考えている人が多いのが実感です。

離婚の現場でも、次のような会話がよく交わされています。(「カ」はカウンセラーです。)

「あいつ、精神的に不安定になりやすいんですよ。」
「これまでもそういうことがあったんですか?」
「交際しているときからそうでした。」
「通院をされていたり、何か診断名が付いたことはありますか?」
「病院に行ってたような気もしますが、詳しい病名までは分かりません。」

うつ病がけして珍しい病気ではなくなった現代、このような反応も仕方がないのかもしれません。しかし、もう少し相手のメンタルヘルスに関心を持ってもらいたいと思います。うつ病は、もちろん不治の病ではありませんし、適切に治療すれば十分に完治するものです。しかし、一方では、再発率が高く、性格傾向等も関係する病気なのですから、理解や気遣いのない結婚生活にはA夫婦のような問題が生じるのは必然とも思われます。

1-3 子育てとうつ病

子育てとうつ病と言えば、まず初めに訪れる危機は産後うつです。産後うつは、出産後の母親がかかりやすいうつ病で、ホルモンのバランスが崩れることや慣れない育児による心理的負担等が原因とされています(最近は、父親も産後うつになると言われていますが。)。 産後うつは、比較的軽い症状も含めると、出産後の女性の10%がかかるとも言われています。つまり、10人に1人の割合で産後うつになるということです。それだけ、出産・育児は女性の心身にかかる負担が大きいということですが、あまりその認識が広まっておらず、「子どもの世話ができないダメ母」のレッテルを貼られてしまうことがあります。A夫婦にしても、もし夫に妻のうつ病に対する正しい認識があれば、産後うつを回避できたかもしれませんし、その後の対応も違っていたかもしれません。 この産後うつですが、家裁調査官時代にもよく耳にしていました。産後うつは、症状の重さにもよりますが、急性期の治療として一定期間の母子分離が指示されることもあります。ですので、母親が子どもの乳児期に不在ということになり、親権や監護権の争いの際に主張されることが多いのです。 ただ、産後うつで子どもの世話ができていなかったから、即監護者や親権者として失格という訳ではありません。その後の回復の度合いや子育ての実績ももちろん重要です。「産後うつ」自体が問題なのでうはなく、産後うつによって、子どもの監護にどのような具体的な問題が生じているか、なのです。

   2 配偶者がうつ病になったら

交際中は何ともなかったけれど、結婚後、配偶者がうつ病になるということも十分に考えられます。というより、うつ病の発症年齢や生活状況を考えると、若くて楽しい恋愛時代より、婚姻後、ある程度の年齢になったときに、家庭や仕事のストレスからうつ病を発症することの方が確率的には高いでしょう。次はうつ病と離婚の問題に関して架空のB夫婦を参考に考えてみましょう。

B夫婦

夫:42歳 フリーのプログラマー(うつ病にて休業中)
妻:42歳 大手企業の正社員
子:9歳 男児

妻の主張:夫は、2年ほど前から調子がおかしくなった。不眠や頭痛を訴えるようになり、仕事も休みがちになった。もともと、フリーランスのため収入が安定しなかったが、新しい仕事を受けなくなったので、収入が激減した。当時から、夫婦仲が悪く、会話もほとんどしなかったが、夫が変な病気にでもなったのではないかと心配していた。しかし、そのうち夫は、ほとんど仕事をしなくなり、日中は家でごろごろとしていて夜はパソコンでオンラインゲームをしているようだった。ここまでくると、心配よりも腹立ちが強くなり、ますます夫婦関係は悪化した。夫は、働かないし、子どもの世話もしないため、お荷物的な存在になってきた。
ついに我慢ができなくなり、離婚を切り出した途端、夫が「自分はうつ病だ。」と言い出した。これまで一度も病院に行った様子もなく、薬も飲んでいないくせにそんなことを言われてもにわかには信じがたい。うつだと主張する割には、食欲も旺盛だし、今まで通りパソコンの前に座っている。うつ病になると食欲が減退し、今まで好きだったことに興味がなくなると聞いていたが、そんな症状はない。ただ、今となっては、夫がうつ病かどうかはどちらでもよい。既に夫婦関係は破たんしていて離婚したい。

夫の主張:妻は一流の会社でバリバリ働いていて、ずっと頭が上がらなかった。その反面自分は、ここ1,2年、仕事が思ったように受注できなくなり、肩身の狭い立場だった。そうするうちに、夜寝付けなくなり、気を紛らすために一晩中パソコンに向かっているようになった。そうすると、さすがに日中は眠たくなり、心配なことや嫌なことを忘れて眠れるようになる。自分でもこのままではいけないと思い病院に行ったところ、うつ病であると診断された。ただ、当時、それを妻に打ち明けることができず隠していた。離婚すれば子どももとられそうで不安だ。もしそうなったら生きていく自信がない。

2-1 切っても切れない離婚とうつ病の関係

家庭生活はストレスフルでうつ病になる要素がたくさんあると書いてきましたが、一番のストレスとなりうるのが夫婦不和です。信じていた相手の不倫が発覚してショックのあまり無気力状態になり、うつ病を発症することもあります。また、日々のモラハラやDVでうつ病を発症することもあります。また、離婚を決意した後でも、調停や裁判で相手と罵りあうことで心が疲弊し、うつ病になることもあります。逆にうつ病が先でその結果、夫婦不和に発展することもあります。はたまた、B夫婦のように、夫婦不和がうつ病を誘発し、そのうつ病が更に夫婦関係を悪化させるというようなパターンもあります。 うつ病が先か夫婦不和が先かは別にして、夫婦不和が深刻化してきたときにまず気にすることは、メンタルヘルスです。夫婦関係を改善するにせよ、離婚に踏み切るにしろ、心の健康を保ってこそです。 まずは、適切な相談相手を確保することが一番大切です。友人、両親、カウンセラー、心療内科等、自分の気持ちを語れる相手を持ちましょう。

2-2 うつ病の配偶者と離婚できるか

法律では、いくつかの離婚事由が挙げられていますが、その一つに「回復の見込みのない強度の精神病」が挙げられます。強度の精神病とは、仕事や家事ができなかったり、夫婦間の基本的な義務が果たせない場合です。 そして、うつ病の場合は、よほどのことがない限り、「回復の見込みがない」とは診断されないと思われますので、基本的には離婚原因として認められにくいと思われます。 また、実際の裁判では、それだけが判断材料ではないようで、①どれだけ誠意を持って看病したか、②離婚後の配偶者の生活が確保されているか(経済的な面や治療面において)等が考慮されるようです。 このあたりのことは、弁護士ではないので詳しいことは分かりませんが、実際に家裁での離婚で語られるうつ病としては、「うつ病だから離婚したい。」という主張は少ないように思います。それよりも、生活上の様々なこと、例えば、B夫婦のように「昼夜の生活が逆転していて、夜は寝られないと言ってゲームをしている。昼は眠くなってしまって働けないという。でもそれじゃあ子どもを育てられない。」とか、「うつ病なのはわかるけど、一日中寝ていて子どもの世話もできない。通院や服薬も拒否していて、治療をして回復しようという姿勢がないから未来が見えない。」といった具合に生活の中で婚姻生活を継続できなくなるような状況が生じていることが多いように思います。

2-3 心情として離婚できるか

法律上の問題は別として、心情的にうつ病である配偶者を見捨てて離婚してよいのかどうかと悩む人たちがいます。また、うつ病である本人が、「うつ病の状態で離婚という重大な決断をしていいのか。」と思い悩むこともあります。

残念ながら、これらの問いに決まった答えはありません。一般的には、うつ病発症時は重大な決断をしてはいけないと言われていますし、配偶者がつらい状況の時には支えるべきでしょう。しかし、うつ病の軽重やそれぞれの事情もあるでしょうし、子どもがいるかどうかでも優先順位が異なってくると思います。 B夫婦にしても、夫の「妻も子どももいなくなったら生きていく自信がない。」という言葉を妻が聞いたとして、妻は離婚に踏み切ることができるでしょうか。うつ病には自殺が付きまとうため、離婚を迫る相手にも覚悟が必要です。

ただ、離婚の現場で一番多く聞かれる主張は、「一旦は頑張ってみたけどダメだった。」というパターンです。配偶者のうつ病と夫婦不和が同時に発生している場合、一度は何とかしようと配偶者のうつ病に理解を示したり、治療に協力したり、はたまた夫婦関係の改善に努力をしてみたが、やはりうつ病も夫婦不和もなくならず、耐えきれずに離婚に踏み切るというパターンです。やはり、皆さん、簡単にはうつ病である配偶者との離婚に踏み切れないようです。

   3 まとめ

今回皆さんに伝えたかったことは、まずは、交際相手や配偶者がうつ病の場合に起こりうる問題についてです。 加えて、うつ病を軽く見てはいけないことや、理解と協力が必要なことも分かってもらえたらという思いもあります。これは、うつ病にレッテルを貼っているわけではく、しっかりと理解と覚悟を持って交際や結婚に踏み切ってほしいということです。例えば、出産というライフイベントに対し、「おめでたいね。子育てがんばってね。」という態度でいるのと、「子育ては産後うつの危険がある。頑張りすぎないようアドバイスしよう。」と考えているのでは、その後の結果が大きく違ってきます。

また、婚姻生活中に配偶者がうつ病を発症した場合も同じです。うつ病を理解する努力をし、家庭生活が円滑に回るよう、そして配偶者のうつ病が回復するよう努力をして欲しいのです。 もちろん、うつ病である本人にもやるべきことがあります。例えば、通院や服薬を怠らない、とか、配偶者の理解を得るために病院に付き添いを依頼する等の工夫です。

離婚の現場で感じるうつ病の難しさはその「曖昧さ」です。体の病気であれば、検査結果や見た目の怪我等ではっきり分かります。しかし、うつ病は「怠けている。」といった批判につながったりします。うつ病に関する知識がある程度広まり、以前に比べると「うつ病だから仕方がない。」という一種の諦めを感じることはありますが、親身になって心配したり、一緒にうつ病を治していくという積極的な協力を惜しまない配偶者はやはり少数なように思います。

うつ病を「心の風邪」と表現するような時代になりました。「誰でもかかりうる病気」という認識を持ちつつも、単なる風邪と甘く見ることなく、適切な理解と協力で問題を解決していってほしいと思います。

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