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離婚問題で悩む社員に企業ができること

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今日は、離婚をはじめとする夫婦問題がいかに会社でのパフォーマンスに影響を及ぼすかという話をしたいと思います。

職場で起こるメンタル不調の原因

メンタル不調の原因は、複数の原因が複雑に絡み合っていたり、特定がしにくいことから、統計的な資料が少ないのが現実です。

今回は、少ない情報の中から、JILP(独立法人 労働政策研究・研修機構)が行った調査結果ご紹介します。

メンタル不調者が現れる原因

この調査は、メンタル不調者本人ではなく、その本人を周囲から見ていた人からの意見を集計したものですので、やや見方が偏っているのではという指摘があるかもしれません。

ただ、そのような偏りがあるとしても、職場でのメンタル不調の原因の三分の一近くは家庭の問題であるというのは、大変興味深いのではないでしょうか。

家庭問題が職場のメンタルヘルスに影響する理由

一番身近な相談相手に相談できない

みなさんは、何か悩みごとがあったとき、誰に相談するでしょうか。

「今日、仕事で上司でこんなことを言われて腹が立った」

「ママ友から陰口を言われているようで心配だ」

など、毎日積み重なっていく愚痴を最初に吐き出す相手は誰でしょうか。次の統計を見ていただきましょう。

ストレスを相談できる相手別労働者数
(厚生労働省 労働安全衛生調査より)

これを見ていただければ分かりますが、相談相手として一番多いのが家族と友人です。

しかし、夫婦仲が悪くなってしまうと、その最大の相談相手を失うことになります。

また、問題が問題ですので、友人や会社の上司や同僚にも相談しづらく、「相談相手がいないのも同然」という状況に陥ってしまうのです。

離婚問題はストレスフル

そもそも、離婚に代表される夫婦問題を抱える人のストレスはどの程度なのでしょうか。

次は、以下の図を見てみてください。

勤労者のストレスランキング
出典:夏目誠(大阪樟蔭女子大学大学院)

順位 ストレッサー 全平均 順位 ストレッサー 全平均
1 配偶者の死 83 11 転職 61
2 会社の倒産 74 12 単身赴任 60
3 親族の死 73 13 左遷 60
4 離婚 73 14 家族の健康など 59
5 夫婦の別居 67 15 会社の立て直し 59
6 会社を変わる 64 16 友人の死 59
7 自分の病気や怪我 62 17 会社が吸収合併される 59
8 多忙による心身の過労 62 18 収入の減少 58
9 300万円以上の借金 61 19 人事異動 55
10 仕事上のミス 61 20 労働条件の大きな変化 54

ライフイベントとストレスの関係を調べた有名な研究にホームズ(Thomas H. HOLMES)とレイ(Richard H. RAHE)が1967年に書いた論文があります。この人たちの研究はとても有名で、日本でもいろんな書物に引用されていますが、この表は、ホームズらの研究の日本版といえます。

この表から分かるように、離婚や別居といった問題は、4位と5位に位置しており、過労や仕事上のミス、左遷などの職場で起こるできごとよりも上位です。

当たり前のことですが、いくら会社でバリバリ働いていたとしても、家庭内のストレスとは無関係ではいられないのです。

企業のメンタルヘルス対策に家族問題が取り上げられない理由

このように、家庭の問題は、本人に与えるダメージが大きく、会社でのパフォーマンスに影響を与えそうなことは、誰しも予想ができそうなものです。

しかし、現在、企業のメンタルヘルスといえば、うつ病者への対応など、「何かが起こってから」の対応が中心です。

また、予防的な対策としてストレスチェックが広まっていますが、義務付けられているからと形式的に行っている企業が多いのではないでしょうか。

なぜ、企業のメンタルヘルス対策に家族の問題が取り上げられないのか、その理由を考えていきましょう。

家庭のことには首を突っ込みたくない

企業としては、それぞれの社員のプライベートである家族内の問題にまで付き合っていられないという感覚があるのではないでしょうか。

そのため、職場で実施されるセミナーと言えば、「上司と上手に付き合う方法」、「部下の上手な育て方」といった、職場内での人間関係や対人コミュニケーションを中心とした内容になっています。

家庭のことは知られたくない社員

夫婦間の問題は、究極にプライベートな話題だからこそ、周囲は興味津々です。

気安く同僚に相談でもしようものなら、あっという間に社内に噂が広がり、針の筵になってしまうかもしれません。

また、職場は、いわば、戦いの場でもあります。

出世争いを繰り広げている同僚に弱みを見せることはできません。

夫婦関係に問題があるというのは、格好のスキャンダルとなり、出世の足かせとなってしまうからです。 

夫婦不和が勤務態度に影響を及ぼす過程

家裁調査官をしていたときも、また、現在も、離婚問題のストレスが原因でうつ病になってしまったり、その結果、休職せざるを得なくなった人たちをたくさん見てきました。

多くは、適切な相談相手もおらず、もんもんと一人で考えたあげく、問題の複雑化・高葛藤化を招いてしまい、最終的には、心身の健康バランスを崩してしまうというパターンです。

次は、よくある経過をまとめてみました。

夫婦不和の始まり

実は、夫婦不和は、いろんな瞬間にいろんな形で外に現われてきます。

例えば、男性の場合、ワイシャツにアイロンがかかっていなかったり、ネクタイの色が合っていなかったりと、身だしなみに変化が出てきます。

また、女性の場合も、おしゃれにまで気が回らず、同じ服を着ることが増えたり、お化粧や髪型が乱れてきたりします。

また、これまで持ってきていたお弁当を持ってこなくなったり、やけに飲みに誘うようになったりする場合もあります。

精神面の変化

見た目の変化と共に、精神的な変化も起こります。

例えば、気持ちの浮き沈みが激しくなり、ずっとふさぎ込んでいたと思えば、些細なことで怒り出したりします。

職場で涙を見せたりと、感情のコントロールが難しくなっている状態が見られることもあります。

また、家庭内に問題を抱えていると、何をしていてもそのことが頭を離れないという時期があります。

そんな時期は、集中力がなくなり、いつもはしないような単純なミスをしたり、仕事の効率が極端に落ちてしまったりします。

最終段階

その後、夫婦のみでの問題解決が難しくなると、家庭裁判所での調停が始まります。

そうなれば、定期的に休暇を取って、調停に出席する必要が出てきます。また、相手との争いが本格化し、精神的にもきつくなってきます。そのため、社会人としては最低の約束事である「連絡」ができず、無断欠勤になってしまったり、大事なアポをドタキャンするなど、いよいよ仕事に影響を及ぼすことになります。中には、うつ症状で病院に通う人が出てきたり、休業や退職に追い込まれる人も出てきます。

企業にできること

家庭問題という視点を持つ

職場のメンタルヘルスというと、残業時間の長さや職場での人間関係など、職場の内部で起こっていることのみに焦点を当ててしまいがちです。しかし、その人の家庭や友人関係など、職場以外の要素もたくさんあることを認識し、それらがうまく回っているか、それとなく観察しておくことも大切です。

ただ、家庭内の問題に直接的に介入されることを嫌がる人も多いのが現状です。そのため、「困っていることがあれば、人生の先輩として相談にのるよ。」といった姿勢で臨むのがいいと思います。

福利厚生という視点

企業のメンタルヘルスというと、どうしても堅苦しい感じがしたり、従来のうつ病者対応やストレスチェックといった既定路線を脱線することが難しくなってきます。そのため、メンタルヘルスというよりは、社員の福利厚生として取り入れる方法もあります。

以前、「失恋休暇」という新しい感覚の福利厚生の制度を考えた女性社長が話題になりました。実は、この失恋休暇、話題性だけでなく、本当に有効な休暇なのです。失恋して心身ともに疲弊しているときは、集中力を欠き、仕事でもミスが多発します。

また、きちんと食べたり睡眠をとったりするのが難しいこともあり、失恋はへたをするとうつ的にもなりかねない一大事です。そのため、一日や二日仕事ができなかったとしても、しっかりと休養し、気持ちを入れ替えて出社してもらった方が効率が上がるのです。

そのため、家庭の事情による休暇を有給休暇の他に設定したり、また、カウンセリング費用を補助するなどして、早期に相談機関につながれる仕組みを福利厚生の一環として作っておくのも有用です。

まとめ

企業が社員の家庭内の問題にかかわるのはとても難しいことです。

しかし、家庭問題と職場でのパフォーマンスは切っても切れない関係であり、是非、積極的に取り組んでいただければと思います。

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